何がどうしてこうなったのか?理由はわからない。
でも自分が死んで意識が飛んで、転生あるいは憑依したのはわかる。
物心がついた日から、周囲を観察していた。
前世かどうかはわからないが、自分の記憶と照らし合わせながら高校まで生きて来た。
で・・・いくつかのキーワードを知り、調べ、足と目で確認して行きついた。
「ここってはじめの一歩の世界じゃねぇか・・・しかも俺、梅沢かよ」
いや、好きだよ。『はじめの一歩』。
ただし引退後の世界。てめーはダメだ派。
って違う違う、そこじゃない。
梅沢ってアレだろ、一歩をいじめてたやつ。
今世に置いて、俺は誰もいじめていない。勿論一歩もだ。
というか、記憶ではいじめられっ子だった俺に、誰かをいじめるなんて出来る訳もないが。
原作に置いて、梅沢は一歩との紆余曲折を経て、親友になり漫画家への道を歩みだし・・・という流れだったはず。
今、俺は自惚れじゃ無ければ一歩の友達ポジションだと思う。
きっかけは原作でも梅沢が言っていたが、本当に磯の・・・海の匂いがしたから話しかけた事だ。
馬鹿にしたわけじゃない、本当に興味を引かれた。
高校生の割に童顔で、特徴的な髪で、気弱っぽい態度だけれど筋肉質で、海の匂いを漂わせた男の子。
周囲を観察しながら生きて来た俺にとって、興味の対象になるのも当然だろう。
(海人ってやつかな、どこかの主人公か?)
と思って話しかけたのだ。
「よう!いきなりだけどお前って海行ったりしてる?」
「え・・・う、うん。いつも釣り船屋をやってる家を手伝ってて・・・」
「へぇ、だから海の匂いがしてんだな。あ、俺は梅沢ってんだ。同じクラスだしよろしくな」
と言って右手を差し出した。
そして、相手もおずおずと右手を差し出して握手して。
そこで初めて真正面からその目と顔、特徴的なツンツンヘアーを見て固まった後に
「こ、こちらこそよろしく。僕は幕之内一歩」
と自己紹介されて。
(やっちまったぁああ!)
と後悔したのも後の祭り。
原作では梅沢からのいじめを受け、自分の弱さを嘆き苦しんでいるときに鷹村と出会い。
強くなりたい、強いってどういう事なのかと思いボクシングを始め、険しい道の一歩目を歩き始めたのだ。
そのきっかけを潰したんじゃないかこれ?と一歩と友達になってから頭を抱えているわけだ。
そんな俺の葛藤はそっちのけで、一歩は俺に近づいてくる。
「梅沢君、ちょっと相談したい事があるんだ」
「おん?いいぜ言ってみな。学は無いからそっちは期待すんなよ」
「勉強じゃないんだけれど・・・昨日、凄い人に会ったんだ。その人はボクサーだと言っていたんだけれど
凄く強そうで・・・身体が大きくて、自信に満ち溢れている人だったんだ」
はい?卒業が近いこの時期で、一歩がそこまで言う人って・・・鷹村じゃね?
「へ、へぇ。その人がどうしたんだ?」
「僕にとって強いって事は、強い人は『父さん』だった。家を守り母さんを守り僕を守ってくれた、『父さん』
でも、あの人には全く違う種類の強さを感じたんだ」
「お前がそこまで言う人か」
小さい背丈ながらも、一歩は筋肉があるのがよくわかる。
学生服で隠れているが、着痩せするタイプなのかぱっと見じゃわかりづらいが。
現時点でもフィジカルの強さなら相当なもんだと思うんだが。
「うん。凄い人だった。僕は家業を継いで母さんと一緒に働いて、家を守る、守り切るのが僕が目指す強さだと思ってたんだ。だけれど・・・あの人の強さ、ボクサーの強さ・・・凄く気になったんだ」
そう言って考え込むように下を向き、血管が浮き出るほど拳を握る一歩。
ここまでの話で予想は付いているが、聞く。
「んで、俺に相談ってのは何さ?」
「僕は、プロボクサーになれると思う?」
「成れる」
俺は二つの意味で即答する。
プロボクサーに成れる。日本チャンピオンに成れる。
キョトンとしている一歩を見ながら続ける。
「俺から見れば、お前は強い。芯が通った心がある。釣り船屋で働きながら鍛えられた身体がある。
自覚が無いみたいだけどな、お前かなり良い身体してんだよ。あ、筋肉的な意味でな」
自分を・・・自分の身体を見降ろしながら拳を握ったり開いたりしながら考えている一歩。
それを見ながら、思ってしまった。思いついてしまった。
(あれ?もしかしてこれ、未来(原作)トレーニングとかコイツに教えたら・・・引退ルート潰せるんじゃね?)
「なぁ・・・一歩。俺も・・・・・・」
そして共に歩み始める。
俺は納得行かなかった未来を覆すために。
一歩は強さとは何か、それを知る為に。