1992年4月。
俺も一歩も象印高校を卒業した。
あれから一歩は二戦行い二戦とも1ラウンドKO。
3勝0敗3KO
応援には行ったが、聞いた事も無い対戦相手だった。
それよりも驚きな事があってそっちに意識を持って行かれた。
その日も日課のジャブのフォームチェックをしてたら、一歩が嬉しそうに駆け寄ってきて報告してきたんだが
「僕にも後輩が出来たんだよ!山田君って言ってね!」
「へぇー、良かったな。大事にしてやれよ・・・山田?」
山田・・・山田・・・山田直道じゃねぇか!?
えぇ・・・俺これから鴨川ジムに入会するんだけど、そしたら俺が山田直道の後輩になるのかぁ・・・
と思ったが先輩風を吹かせる山田直道ってのも面白そうだな。と気にしない事にした。
「また変な顔してる。試しに買ってみたイチゴ大福が思いのほか美味しかったみたいな顔」
「どんな顔だよ・・・」
聞き返したら、小さく笑い顔を作って目を輝かせた。
「こんな顔」
凄いなお前、顔芸上手すぎだろどうやった!?
「まぁいいや・・・今入会してきたって事は、俺と同じく七月のプロテスト受けるのか?」
原作じゃあ、3月にジムに入会。そこから7月にプロテスト合格、だったはずだ。
んで、そこからの転校でこの地を去り・・・今はいいか。
「どうなるかは分らないかな。運動が苦手って話だったしこれからの練習次第だと思う。でも根性が凄いんだ」
そりゃそうだろうなとしか言えないが・・・
「俺が入会したらその山田さんが先輩になるんだ、会うのを楽しみにしてるさ」
鴨川ジムに入会する為に、門を叩いたらまた会長室に連行された・・・なんでじゃ!?
「すまんな、また大仰な歓迎になってしまって」
鴨川会長と八木さんが居た。鷹村さんが居ないだけ気が楽かな・・・
「君を迎え入れるに当たって、確認しておきたい事があってね」
「はぁ・・・」
何を聞かれるのかまったくわからなくて生返事しか出来ない。
「小僧に聞いたんじゃが」
またお前かよ一歩!
「お主、ウェルター級世界王者を目指すそうじゃな?」
「あ、はい」
その通りだから何も考えず即答する。
「現在のウェルター級、過去も含めて王者になった人間を知っておるか?」
「世代・団体を問わず日本人が世界王者になった事は無い件でしょうか」
1992年現在、それどころか俺の『前の記憶』を掘り起こしても日本人がウェルター級世界王者になった事はない。
「その通り。知っているなら何故その道を選んだ?」
何故って俺のナチュラルウェイトがウェルター級だし・・・
「どうせ進むなら面白そうな道がいいかなって思いまして」
「それだけの理由で茨の道を進むと?」
「俺にとっては重要な事なんすよ。目的を果たす為にも道中は苦しくても楽しく行きたいんです」
「うん?目的を果たす為なのかい?目的そのものじゃなくて?」
「ウェルター級世界王者は全力で目指しますが、努力目標ってとこですね」
会長と八木さんが顔を見合わせて何か考えている、変な事言ったか?
「それならお主の目的はなんじゃ?」
「それを上回る困難な目的って事?」
俺も少し考えて・・・言葉を選んで言う。
原作知識の説明を省いたらどこまで出来るかわかんねぇけど・・・!
「これは、一歩には秘密にしてほしいんですが・・・俺の一番の目的は
『幕ノ内一歩が五体満足で後遺症も無く、満足してリングを降りる事』です。」
なんか二人とも『ぽかーん』って顔してる。
呆れられたかなこれ。
「一歩は・・・例えばおふくろさんに何か有ったり釣り船屋に何かあれば全てを、ボクシングも捨てて其方を優先するでしょう。であれば不安要素を排除した上で練習時間の確保をさせるために・・・」
「待て、お主・・・それを目的にする意味がわかっておるのか?」
「はい。一歩がこのジムの門を叩きに行った時、覚悟は決めているつもりです」
「そうか・・・説教が足りなかったようじゃな」
青筋をたてて睨みつけられた!
・・・・・・・また長時間説教されたよちくせう。
結局今日は入会手続きしか出来なかった。
釣り船屋に走って向かいながら考える。
原作の事を説明出来ないと、本当に困るんだよなぁ・・・
『未来に起こる可能性があるから対策してるんです!』
なんて言っても信じて貰えるかわからんし。
おふくろさんが過労で倒れるから!なんてのも、そう説明しても納得してもらえないだろう。
前の記憶でいじめられっ子だった俺が、原作一歩に感情移入してたから・・・なんてのはもっとダメだろう。
俺は今梅沢だし、一歩はいじめられてない。
まぁ、なるようになると思って頑張るか、無事入会できたし!
それはそれとして俺の情報を駄々洩れにして吹聴しまくってる一歩に文句言わないとな・・・!