今の俺が、自信を持って武器と言えるもの。
それはジャブのみだ。
フックやアッパー、右ストレートも使える事は使える、だが使えるだけでジャブ程練習していない。
顔を引き締めて、ジワリジワリと迫ってくる伊達さんに対して覚悟を決める。
見せてやるぜ俺のジャブ・・・そして
みさらせこれが『ジャブのバリエーション』だ!!!
再びドキュンという音を立てて撃ちだす俺のジャブに、即座に対応して正面から受けるのではなく横に弾いた。
そのまま懐に来ようとする伊達さんだが
戻し切らず、途中で止めて滞空させていた左拳を横っ面に叩き込む
つもりだったのに、どういうカンをしているのかガードされた。
だが、ガードさせて出来た時間にもう一度拳を構え、再び『偽・弾丸』を伊達さんのガードに撃ち込んで後退させる。
後退させられた伊達さんを見て、また周りがざわついているが俺にしてみれば説明は一言で済む。
そう、『偽・飛燕』である。
遠距離から『偽・弾丸』、中距離から『偽・飛燕』からの変化。
それが今、俺に出来る全力だ。
当然これだけで伊達さんをどうにか出来るなんて思っちゃいない。
適応され対応され、対処されてすぐにぶっ倒されるだろう。
だが、根性には自信がある。
何度ぶっ倒されようと3ラウンドやり切ってやるよ!
それから3度同じような事を繰り返し、1ラウンドが終わるゴングが鳴り響く。
コーナーに戻りながら
「ぶへぁ~~・・・」
と大きく息を吐く。
無理無理無理。何あの人、『偽・飛燕』をもう見切ってるんだけど!?
鴨川会長も言ってたが、『必ずストライクゾーンに来る』をもう理解して読み始めてるんだけど・・・!
最後のほうじゃもう、ガードじゃなくて抑えこんで来たし・・・
階級差があろうとも、『偽・飛燕』は手打ちの、無理やり手を止めて滞空させてから放つパンチだ、威力を補う技がまだ俺にはない。それもバレてる。
「凄いよ梅沢君!左手一本であのチャンピオンを封じ込めてる!」
「す、凄いっす!何やってるのか全然わからなかったけど!」
と、言ってくれる二人だが
「山田君はともかく一歩はわかってんだろ、このままじゃ無理だ」
「・・・そうだね、あの変則ジャブの軌道がほぼ見切られてる」
「ああ、小細工じゃあもう限界だ・・・でも俺には今、この左しかねぇ」
だから
「見せてやるよ・・・俺の根性ってやつをな」
カァン!
ゴングが鳴り2ラウンドが始まる。
立ち上がりはさっきと同じだ、伊達さんの顔つきが違う。
そして俺も違う顔つきをしているのだろう。
両者ともじわりじわりと距離を縮め、射程距離に入った瞬間に俺がジャブを撃つ。
それを今度はヘッドスリップで完全に躱され、懐に潜り込もうとしてきた。
当然予想していた俺は『偽・飛燕』の準備のために戻し切らずに滞空させていた拳を撃つ・・・が今度は違う。
身体を捻じり全力で踏み込み、右足の親指にあらんかぎりの力を籠め
「お・・・あ・・・がああああああ!」
全身を伊達さんに叩きつけるつもりで、伊達さんがパーリングしようとしていたグローブにねじ込んだ。
技が無いなら力で突破してやんよ!
そのまま足を滑らせ横のロープまで吹っ飛ばし、何も考えず追撃する。
とは言え、俺に出来るのはこのジャブのみ。
渾身の力を籠め、貯め、引き絞る。
腰を落とし体を崩し後ろに体重がかかっている今がチャンスだ!
俺が一番信頼している左ジャブを全力で叩き込む。
一瞬ギラついた伊達さんの目が見えたが、それでも止まらない!
ロープ際の伊達さんに『偽・弾丸』を放った次の瞬間
俺がマットに沈んでいた。
マットに沈み、地面が目の前にあるのを確認して俺は・・・
(何があった・・・!右は使わないと決めて右手でアゴはガードしていた、ボディだってカバーしていたはずだ!あの態勢から何を撃ってきた!?)
いや、腰を落としてたように見えていたが・・・まさか
(コークスクリューのタメを作ってたのか!それをジャブのカウンターになる形で、がら空きの心臓にハートブレイクショット・・・そこからの右か!?)
顔に痛み、脳に響く衝撃を今更感じた。
ああ、ああ。それでこそだ・・・
これでこそ日本王者伊達英二!
こんなポッと出の若造にいいようにやられる訳が無いよな!
コーナーに悠然と背中を預け、こちらを見下す伊達さんを視界に入れ。
「フォー!」
カウントが耳に入り、立ち上がろうとするが
「もう少し、もう少し休んで!」
「梅沢さんしっかりー!」
カウントと共に声援が聞こえる。
「すぅーーーーーーーーーーーはぁーーーーーーーーーーー」
深く、深く息を吸い、また深く息を吐く。
「エイト!」
カウントを確認して立ち上がる。
「大丈夫です、やれます」
ファイティングポーズを取り、アピールする。
まだ、こんな所で終われねぇよなぁ。
根性を見せる為、一歩と肩を並べて歩く為。
この王者に・・・一泡吹かせてやるよ!