伊達英二の現役時代の時間、引退してからカムバックするまでに費やした時間。
復帰して再び日本王者に返り咲き、防衛してきた時間。
それに比べれば俺が練習してきた時間も苦労も微々たるものだ。
だが、それでも俺はトレーニングを始めてから。
寝ている時間以外の全てをこの身を鍛える事に費やしてきた。
常に重りを付け、歯を磨く時・歩く時・飯を食う時。
勉強をする時も釣り船屋で働いてる時も、全てだ。
その意地に賭けて、この3ラウンド・・・全力で戦いきる。
いや、3ラウンドだからこそスタミナを無視して戦える。
今の俺じゃあ『偽・弾丸』を撃つのに段階を踏む必要がある。
肘をロックし、肩の回転を意識し、捻じって突きこむため拳を内側に構える。
だから沢村のように連射は出来ないし、『偽・弾丸』でカウンターを取るなんて芸当も出来ない。っていうか普通にタイミングがわかんねぇ!
なので・・・基礎の基礎、そのまた基礎の上に建てたあばら屋くらいの景観は見せてやる!
再び意識を切り替える。
ここから先、伊達さんは俺の技に対して対応してくるだろう。
ならば・・・・
ダウンから立った俺に、再び圧をかけるようににじりよってくる。
余計な力を抜き、構え。
こちらから前に出て射程範囲に入れて最短距離を突っ走るジャブを放つ!
スパパパパパァン!
『偽・弾丸』では無い『リカルド・マルチネス』を模倣してひたすら練習したジャブ。
5連打のジャブを全部ガードされたが後退させた。
一拍できた時間を使って構え、拳を捻じる。
ガードの上から叩き込む・・・いや、ガードごと撃ち抜くつもりで
ズ・・・ドォオオン!
という音を響かせ・・・再び伊達さんを吹き飛ばした。
最初の連打は普通のジャブ、シメの一打だけ『偽・弾丸』
どうよ!と伊達さんを見たら
なんかすっげぇいい笑顔(怖い意味で)してるぅうう!
驚いて止まるかと思ったのに嬉々として飛び込んできた。
こっちはジャブしか撃てないんだっつうの・・・!
ショートアッパーとか近距離用の練習しとくんだった!
だからって守るつもりはさらさら無い。
そっちから来るんならこっちも
ステップインしながらさらにジャブ・ジャブ・ジャブ!
三連打した所でダッキングで躱され
連打を意識していたから『偽・飛燕』も出来ず
「ぐぼぁ・・・!」
右ボディーブロー、アゴを下げられてからアッパー・・・
だが、右手のブロックが間一髪間に合った。
間に合ったのに、そのまま立って居られなくなり膝をついてしまう。
(さっきのハートブレイクショットと右・・・それにボディが効いて足にきてやがる・・・)
「ダウーン!」
リングの外で一歩と山田君が叫んでいる。
心配すんな、何度ダウンしてもいいって言われてるんだ!
オヤッサンが寄ってきて、俺に問いかけてくる。
「まだ続けるかね?」
「当然!まだまだやれます!」
立ち上がってファイティングポーズとり、応える。
今度は初っ端に『偽・弾丸』からのジャブの連打だ!
と撃ち込んだらあっさりと躱され懐に入られた。
ジャブの種類によるモーションの違いが完全に理解されてる!
だがこっちだって何も考えていないわけじゃない。
ボディブローを食らうのを覚悟でもう一発、タメて『偽・弾丸』をぶちこむ!
その覚悟すら織り込み済みだったのだろう。
歯を食いしばった次の瞬間。左右のフックを叩きこまれ。
体が崩され、出来た隙にボディーブロー。下がったアゴに今度はまともにアッパーを食らってしまった。
そのまま膝をつき顔からマットに沈む。
(うおお・・・左右に揺らされ、さらに縦で突き上げられて頭ん中ぐっちゃぐちゃにされた気分だ・・・!)
「おい、ここまでだ!これ以上は危険だ!」
それでも立とうともがいていたらオヤッサンにそう言われた、が
「何言ってんすか・・・ダウンは何回してもいいんでしょ・・・!?」
何時の間にか近くに来ていた伊達さんが
「・・・腕が上がったらまた来い。おめぇとのスパーなら何時でも受けてやるよ。だから今は寝とけ」
認められたのか何なのか、凄みのある笑顔でそう言われたんだが・・・
これ喜んでいいのか?
そこで緊張感がキレてしまい、気が付いたら一歩と伊達さんのスパーも終わっていた。
俺ダセェ・・・!