伊達さんとのスパーが終わり、また時間が経った。
一歩が1ラウンドKOをさらに積み上げ。
いくつかの出来事があったのだがそれはいいだろう。
この夏、合宿が近くなった今。俺にとって最も注意したい事がある。
それは『おふくろさん』だ。
『山田直道が居る時期、スパーをした後、合宿の話をしていた頃におふくろさんがぶっ倒れる』。
そんな原作のようにおふくろさんが倒れ、一歩が引退を決意してしまうなんて事には絶対にさせない。
その為に俺は、事情はぼかして合宿には行かない、と会長と一歩達ジムメイト達に報告した。
本当ならその前に操縦士免許を取得したかったんだが・・・
「それもお主の『目的』のためか?」
会長に鋭い目つきで質問される。
「はい」
「プロテストが近い今、合宿で一皮剥けるのも大事じゃないのか?」
「それは勿論です、合宿を軽視してるわけじゃありません。ですが、今の俺にとって最優先は釣り船屋幕ノ内なんです」
一歩が何の憂いも無く、安心して合宿へ行くためにも。
それに、1年ズレた事によって一歩のこれからがどうなるのか、全く予想できないのだ。
本来なら一歩vs沖田とか、一歩vs冴木とかあったのだが・・・
なら優先するべきなのは一歩の練習環境を整える事。
「はぁ~~~・・・わかったわい。お主に限って心配はしていないが・・・サボるでないぞ」
「はい!合宿組に負けないくらい濃い練習してやりますよ!」
煮詰めたい技もあったし、ある意味丁度いい。
ジムから帰ってきて夜。ジャブのフォームチェックはいつも通り。基礎トレも。
それプラス、他の基礎技術の練習も始める。
俺の目指すボクシングスタイルに足りない物は数えきれないが、その中でも早急に必要だと思っている技。
それは『右ストレート』、そして『ワン・ツー』。
俺の、左ジャブの理想がリカルド・マルチネスならば
ワン・ツーはデビッド・イーグル。
鷹村が『同じ軌道で打ってくる、避けづれぇ!』と言っていた基礎技だ。
まずはコレをモノにして、フックやショートアッパーなどの近距離技を・・・
「梅沢くーん!」
何時もの土手で練習していたら一歩が駆け寄ってきた。
「どしたー?そんな急いで。」
「さっき電話が来てね!」
そんな急ぐ電話?
なんだろう・・・なんかヤな予感がするぞ
「僕と梅沢君に取材したいって!」
・・・はい?
鴨川ジムに、じゃなくて俺と一歩に?
一歩はわかるよ、全部1ラウンドKOの新人。
伊達さんとのスパーでもダウンを奪った規格外。
なんで俺が・・・いや、またお前だな一歩ぉお!
「お・ま・え!今度はどんな話を広めやがった!」
「ちがうよぉ!メインは鷹村さん、鴨川ジムの練習風景も取材したいけど、僕達二人にも取材したいって!」
「そ、そうなのか?でも基本的に俺と一歩って同時にジムにいねぇじゃん」
「うん、だからウチに取材申し込みの電話が来たんだよ」
「え、俺の勤め先バレてんの?」
それはそれでどうなんだろう・・・
「あ、それはね。
『同級生にして親友!仕事や練習でも切磋琢磨するライバルでも師匠でもある凄い人』って会長とかみんなに・・・いたたたたた!」
問答無用。拳で頭を挟んでウメボシを食らわせる!
「やっぱりお前じゃねぇかぁ!」
どうしてくれようかこいつ・・・
いやそれよりも取材って何を取材しに来るんだよ・・・釣り船屋?