衝撃の事実を知ってから2カ月たった。
あれからもボクシング誌を中心に情報を集めたり、月に2回お邪魔させて貰っている鴨川ジムで聞いたり、ジムの人たちと交流を深めたり。
その結果、分かった事。
『東日本新人王優勝者は宮田一郎』
だが、父親曰くすでに
『フェザー級に留まれる体格では無い。全日本新人王にフェザー級で出場するのはまだいい、だがその後の事を考えれば階級を上げるべきだ』
そして、日本にもフェザー級にも拘る理由が無い宮田は思い切って鴨川ジムを辞めて海外へと行ったとの事。
ジェイソン・速水・冴木等の原作で当たるはずだった面々は今もフェザー級でやっているらしい。
間柴は・・・わからない。
新人王トーナメントで宮田に敗れてからの情報が無い。
そしてそういった事をを全て吹っ飛ばす驚愕の事実。
今月・・・一月に行われる一歩のデビュー戦、その対戦相手がなんと
『小田裕介』だと言うのだ・・・!
・・・・・・誰?ってなるよね。
小田裕介とは、原作でも一歩のデビュー戦の相手だった。
己に才があると溺れ、周りを蔑ろにした男。一歩に敗れその後再起ロードを歩む、という描写はあったがその後の登場は肥満体になり、ボクサーとしてではなくトレーナーになったとか言う話だったはずだが・・・
何か転機でもあって鍛えなおしてきたんだろうか?
これも因縁なのかも知れないが、この先が不安だ・・・
俺は、釣り船屋での仕事に慣れてきたのか時間に余裕をもってやれるようになってきた。
肉体労働は相変わらずキツいが書類・事務仕事を早くこなせるように。
船舶免許も取ろうかと思案中である。
作れた時間でパンチのフォームやシャドー、ステップの練習。
一番力を入れているのはジャブのフォーム。
イメージはリカルド・マルチネスと沢村のジャブだ。
肩口から相手の視線を真っすぐに突き抜ける、当時の一歩をしてこれは躱せないと言わせたジャブ。
そして威力を補う為最初から拳を内側に捻って構え、打つ時に回転が付くように。
タイヤ打ちトレーニングで握力と手首の強さには自信があるから実戦でも使えるように鍛えたい。
飛燕・燕返し等、高等技は師匠が居ない状態では身に付かないだろうと今は諦めた。
高校を卒業し、一歩にも時間が出来たらすぐに鴨川ジムの門を叩くつもりだが・・・
そんな事をつらつらと考えながら夜。帳簿を付け終え、社長に確認をお願いした後にジャージに着替えてランニング前のストレッチをしていると後ろから声をかけられた。
「梅沢君、お疲れ様。今日もありがとう」
「おう、そっちも練習お疲れ様」
見れば一歩もジャージを着ており、ストレッチを始めている。
「お前、ジムの練習の後にまだ走るつもりかよ」
「うん、もうすぐデビュー戦だからかな。じっとしていられないんだ」
「いや疲労を抜けよ・・・本当に頑丈だなあ。でも無理はすんなよ?」
「会長にも言われたよ」
座り込んで、足首を回しながら
「『小僧の身体は確かに他に類を見ないほど頑健じゃ。だが過信するなよ、休むべき時は休め』って」
じゃあ休めよ!なんて言って聞くやつじゃないからなぁ
「会長にも言われたんなら、気を付けろよ?デビュー戦は応援しに行くから調整失敗してへろへろになった、なんてならないでくれよな」
「うん、ありがとう。・・・大丈夫だよ」
ストレッチを終えて立ち上がる一歩の背中が揺らいで見え。
一歩の身体が大きくなった気がした。
「応援してくれている梅沢君と母さんに恥じない・・・今できる僕の全力を見せる」