イングランド南部、ウィンチェスター。かつてはイングランドの首都として栄え、かの有名なキャメロットの円卓が保管されている街だ。
そんなウィンチェスターの郊外にある丘の上に、一つの屋敷が佇んでいる。歴史は古く、少なくとも五百年前には存在しウィンチェスターの街を見守り続けているという。
それが僕、リベルタ・ベディヴィエル・アンブロシウス・メルリヌスの家さ。
「おはようノーズワイズ」
八月上旬、夏季休暇が半分程過ぎた頃。いつもの様に自室のベッドで目を覚ますと、こちらを覗き込む大きな目が視界に広がる。ニーズルのノーズワイズだ。少し癖のある真っ白な長毛に、吸い込まれる様な青い瞳。貴婦人という言葉が良く似合う、美しい猫だ。オスだけども。
ノーズワイズを連れ立って自室を出る、屋敷しもべ妖精のヴィンターが朝食の用意をしているのだろう、トーストの焼ける良い匂いが鼻をくすぐる。
「おはようございます、高祖父様方」
「おはよう、可愛いリベルタ。ヴィンターが探していたよ、ホグワーツから手紙が届いた様だ」
「朝食はトーストらしいぞ、私は女の子の方が良いと言ったんじゃがあの妖精は聞く耳を持たん。さっさと解雇して人間のメイドを雇いなさい」
食堂へ向かう為、二階の自室からホールへ降りると、壁に飾られている僕の先祖でありホグワーツ魔法魔術学校の元校長である、ライムバード・ウィンギル・アンブロシウス・メルリヌスの肖像画と、我がメルリヌス家の始祖であるアンブロシウス・メルリヌス、或いはアンブローズ・マーリンの肖像画が目に入る。
「何を言いますか、高祖父様。リベルタは貴方と違い真面目な子なのですからちゃんと栄養を考えられた人の食事を取るべきです!」
「かーッ!喧しいわ小童が、ホグワーツの校長だか何だか知らんが偉そうに!リベルタは貴様等と違って私の血が濃いんだ、それならインキュバスらしく女を喰らって何が悪い!!寧ろ健全じゃ!!」
「リベルタは人間です!インキュバスの血が入ってるとはいえ・・・」
二人の肖像画はホールを挟み向かい合う様に掛けられており、そのせいで暇さえあれば喧嘩をしている。ホールの喧騒から流れる様に食堂の扉を潜ると予想通り用意されていた朝食と、ホールの喧嘩が耳障りなのだろう、不快そうな顔をした屋敷しもべ妖精のヴィンターが出迎えてくれる。
「おはようヴィンター、ホグワーツから手紙が届いたそうだね」
「おはようございます、リベルタ様。ええ、ええ、早朝に小汚いフクロウが届けに参りました。先日このヴィンターめが掃除したばかりの窓とリベルタ様への大事な手紙を汚して」
文句を言いながら手紙を手渡してくる。おそらくはヴィンターが綺麗にしてくれたのだろう、一切の汚れがないそれは、やはりホグワーツからの新学期に必要な物のリストだ。
「ありがとう。朝食を食べたら混まない内にダイアゴン横丁に向かうことにするよ、用意しといてくれるかい」
「かしこまりました、リベルタ様」
ヴィンターが仰々しく頭を下げ、ホールへと続く扉に向かう。ダイアゴン横丁に向かう為の服や鞄を用意しに行くのだろう。
「リベルタ様がお食事中ですのでお黙り下さい、お二方。それ以上騒ぐのであれば暖炉の燃料に致しますよ!」
うん、やはり彼女は優秀だ。これで落ち着いて食事が出来る。
「それじゃあ頂こうか、ノーズワイズ」
「にゃん」
ふふ、可愛い。
外行き用の服に着替え、ヴィンターが用意したウェストポーチ型のサッチェルバックを身に付け、ノーズワイズと共に煙突飛行でダイアゴン横丁に飛ぶ。
ちなみにこのサッチェルバッグは検知不可能拡大呪文が掛かっていない通常の物だ、ダイアゴン横丁の様な人で溢れかえっている場所であれを使えば直ぐにバレてしまうからね。
「まだ午前中とはいえ、流石に人が多いね」
ダイアゴン横丁の中心にある煙突飛行用の建物を出ると、まだ早い時間にも関わらず人混みが出来ている。その殆どが僕と同じく新学期を迎える為の買い出しなのだろう、家族連れが割合多く見える。
「さて、まずはグリンゴッツか。逸れない様にね、ノーズワイズ」
「にゃ」
様々な店舗が建ち並び、多くの魔法使いや魔女が行き交うダイアゴン横丁でも、グリンゴッツ魔法銀行に向かうのは容易だ。伝説に聞くキャメロット城を思わせる白亜の建造物、高く聳え立つそれは、イギリス魔法界においてホグワーツと並び称される程の堅牢さを誇る。そして我が始祖アンブローズ・マーリン曰く、面倒臭い奴等である小鬼の巣窟。
輝くブロンズの大扉を抜けると、そこには数十の小鬼と、それを優に越える魔法使いや魔女で溢れかえっている。ダイアゴン横丁が特に忙しくなるこの時期であれば、本来なら手続きに数十分待たされるところだが、これでも我がメルリヌス家は魔法界有数の名家だ、わざわざ列に並ぶ必要もないだろう。
「これはこれは、メルリヌス様。ようこそグリンゴッツ魔法銀行へ、本日はどの様なご用件でしょうか」
大扉をくぐり抜け数秒も立たない内に一匹の小鬼が声を掛けてくる。聖二十八一族を筆頭とする名家を担当する小鬼だろう、名前は確か・・・、
「やぁグリウス、久しぶりだね。お金を下ろしに来ただけだよ」
「グストゥスです、メルリヌス様。鍵はお持ちでしょうか」
「勿論、はいこれ」
「・・・確かに。それでは金庫へご案内いたします」
グストゥスに先導され、出入り口とは真反対にある扉を抜ける。そこは先程までの白く整備された役所染みた空間と違い、岩が剥き出しとなった通路になっている。その通路を更に進み漸く地下へと向かうトロッコ乗り場へと辿り着くのだ。
「にしてもいつまでトロッコなんていう時代遅れな乗り物を使ってるんだい?通路も汚らしいし」
「警備の関係上、簡単に変えるわけにはいかないのです。通路も、乗り物も」
金庫内の物も別の場所に移した方が良いだろうか。魔法による障壁は定期的に新しくはしているんだろうけど、通路や乗り物は今の形になってから百年や二百年じゃ効かないだろうに。グリンゴッツ魔法銀行における金城鉄壁の伝説も、そう長くは続かなそうだ。停滞とは衰退と同義なのだから。
そんなくだらない事を考えながらトロッコに揺られる事、数分。
「到着致しました。足元にお気を付けてお降り下さい」
トロッコが止まった先にあったのは酷く平凡な扉だ、そのとても貴重品がしまってある様には見えない扉をグストゥスが鍵を差し込み開け放つ。瞬間緑色の煙が吹き出し視界を遮る、がそれも直ぐに霧散し奥から山の様な金銀財宝がその姿を表す。
何度見ても壮観だね。マーリンやベディヴィエルの血を引く一族は僕達だけでは無いとはいえ、その両血脈の本家である我が家の資産は、イギリスのみならず全世界の魔法界を探しても、比肩する家は数少ない。それこそイギリス魔法界に限って言えば、衰退の一途を辿るブラック家を除くと、マルフォイ家位のものだろう。
「とはいえ、二年生で必要なのは教科書だけだし、このくらいで良いか。・・・いや、念の為新しく大きめのローブも見繕ってもらうべきか・・・」
ふぅむ、今のローブでも次学年中は持ちそうな気もするけど・・・。まぁ、作ってもらおうか。呪文を掛けた方のサッチェルバッグに入れれば荷物にもならない。
財宝の山を掻き分け、ガリオン金貨をサッチェルバッグに詰め込む。これだから普通のバッグは嫌なんだ、金貨を入れただけでパンパンになってしまう。これじゃあこれから買う物が入りやしない。
「戻るよ、ノーズワイズ。ローブは早めに買いたいんだ」
かつて何処ぞの英雄が振るったという宝剣にじゃれ付いていたノーズワイズを呼び戻す。それを視界に収めた瞬間グストゥスの視線が鋭くなる。
「勘違いしないでくれよ?あれは君達が作った物じゃ無い。ギリシャから流れ着いた物だ」
「・・・その様ですね。失礼、あまりにも素晴らしい逸品だった物で、見惚れてしまいました」
全く、小鬼の巣窟であるグリンゴッツに小鬼製の品物を保管する訳無いじゃないか。マーリンが君達に造らせた物はちゃんと別の場所に隠してあるよ。
名残惜しそうに宝剣を見つめるグストゥスを横目に、僕とノーズワイズはこの息苦しい地下を出ようとトロッコに乗り込む。
そこからまた数分、トロッコに揺られ地上へと戻る。初めて乗った時はあれほど感動したのに、今となっては退屈でしか無い。爆弾の一つでも持ってくるべきだったかな。
「それではメルリヌス様、またのご来訪お待ちしております」
「うん、それじゃあまたね」
グリンゴッツでの用事を滞りなく済ませ、次の目的地であるマダムマルキンの洋装店に向かうべく、グリンゴッツの銀の大扉に視線を向ける。するとそこには、見覚えのある異様に大きい図体と、聞き覚えのあるやけに大きな声を発する男がいた。珍しいね、彼がグリンゴッツに来るなんて。
「やぁ、ハグリッド。奇遇だね、こんな所で会うなんて」
「・・・メ、メルリヌス。あぁ奇遇だな。お前さんがダイアゴン横丁に来るなんて珍しいこともあるもんだ!じゃあ俺達は用事があるんで失礼するぞ。ほれ、行くぞハリー」
「ふぅん、君よりはここに来る頻度は多いと思うけど。まぁ、用事があるならしょうがない。またホグワーツで」
「・・・君も、ホグワーツに入学するの?」
挙動不審を極めたかの様なハグリッドを横目にグリンゴッツを出ようとしたところ、隣に居たやけに体の細い少年が声を掛けてきた。メルリヌスの名前を聞いて無反応なところを見るに、マグル生まれの子かな?
「こ、こらハリー!」
「いや僕は既に在校生だよ、来月から二年生さ」
「そうなんだ、じゃあ先輩だ。僕はハリー、ハリー・ポッター。今年入学するんだ、よろしくね」
「ハリー・ポッター・・・。うん、よろしくね。僕はリベルタ。リベルタ・ベディヴィエル・アンブロシウス・メルリヌス」
これは驚いた。今年ハリー・ポッターが入学するのは知っていたけど、まさかこんな所で会うなんてね。それに、その引率をルビウス・ハグリッドにやらせるとは・・・、随分と人手不足みたいだね、今のホグワーツは。
「ベディヴィエル・・・?って何処かで聞いた事がある様な・・・」
「あー、アーサー王伝説は知っているだろう?そこに登場する騎士の一人だよ。僕のご先祖様なんだ」
「アーサー王伝説の!?凄いや、あれってただのお伽話だと思ってたよ!」
うんうん、魔法界の知識を持たない子に自己紹介するのは楽しいね。こっちの世界の子だとマーリンの方にしか反応しないんだもの。
「でも、今の魔法界にとって伝説といえば君の事だろう?生き残った男の子。色々な人に話しかけられなかったかい?」
「あー、うん。話しかけられたよ、でも正直実感が無いんだ。ついこの前まで自分が魔法使いだった事も知らなかったんだから。いきなり君は凄い人だって言われてもよく分からないよ」
魔法使いである事を知らなかった?ハリー・ポッターが?・・・ふぅん、知らない事が条件の保護魔法とかかな?そんなの聞いた事ないけど。
「それは大変だったね、でも大丈夫さ。ホグワーツにはマグル生まれもたくさんいるからね、別にそれで授業についていけないなんて事は無いよ」
「なら良いんだけど・・・、やっぱり不安だなぁ。授業だってクィレル先生が教えてるっていう、闇の魔術に対する防衛術以外名前もわからないんだもん」
「クィレル・・・?新しい闇の魔術に対する防衛術の教師かい?」
聞き馴染みのない名前に、所在無さげにしているハグリッドへ視線を向ける。そんなに怖がらなくても良いのに、別にとって食べたりしないよ。
「ん?あ、ああ。クィレル先生か。今年の闇の魔術に対する防衛術を務める事になった方だ。クィリナル・クィレル、ほれ吸血鬼に襲われた・・・」
「・・・あぁ、セドリックに聞いた覚えがある、マグル学の教授をしてた人だっけ」
確か前年度はホグワーツを休職して、黒い森に実地調査に出向いていた筈だ。
しかしマグル学から闇の魔術に対する防衛術に担当授業が変わるとは、随分と幅広い知識をお持ちの様だ。
「ほら、もう良いだろハリー。俺はダンブルドア先生から頼み事をされてんだ、メルリヌスと話したけりゃホグワーツでやったら良い」
「おや、時間切れみたいだね。確かに少し話しすぎた。それじゃあハリー、またホグワーツで」
「え、あっうん。またね、リベルタ」
逃げる様に去っていくハグリッドとそれを追いかけるハリー、それにしてもダンブルドアの頼み事ね。わざわざハグリッドを使う必要はなさそうなものだけど。
「それじゃあ僕たちも行こうか」
「・・・」
ノーズワイズに声をかけるも反応が無い。どうやら去っていくハグリッド達が気になる様だ。いや、この場合はハリーかな?
ともかく、思いの外時間を使ってしまった。早くマダムマルキンの店に行かなきゃ、僕はあまり順番を待つという行為が好きじゃ無いんだ。
新型の箒に見惚れるホグワーツ生や魔法生物店でペットを欲しがる子供、旦那の悪口で盛り上がるマダム達を尻目に足早に目的の店にに向かう。
グリンゴッツに向かう前より明らかに人が増えているけれど、マダムマルキンの洋装店にはまだそれほど人はいなかった。まぁ、ローブは後回しにされがちだからね、午前中に来て良かった。
「これはメルリヌス坊ちゃん、ようこそおいで下さいました。本日はホグワーツ用のローブですか?それとも日常使いでしょうか」
「やぁ、マダム・マルキン。ホグワーツ用のローブを頼むよ、少し大きめでね」
「かしこまりました。ささ、此方へ。坊ちゃん位の年頃は直ぐに大きくなってしまいますからね、サイズの大きなものを用意しとくのは良い判断ですよ」
言われるがまま、マダム・マルキンに連れられ鏡の前の踏み台に立たせられる。ノーズワイズが店の直ぐ外で退屈そうに欠伸をする。毛が付いたら申し訳ないからね、彼は外で待機だ。
「聞きましたよ、メルリヌス坊ちゃん。ハッフルパフ寮になったそうで、てっきり坊ちゃんはスリザリンかレイブンクローに取られると思ってましたから、ハッフルパフの卒業生として鼻が高いですよ」
マダム・マルキンが長いローブを着せ掛け、サイズを測りながら語りかけてくる。どうやら僕がハッフルパフに入寮したという話はダイアゴン横丁にまだ轟いているらしい。
「あぁ、会う人会う人皆んな驚くよ。そんなに意外かな?僕がハッフルパフに入るのは。アナグマのタペストリーとか結構気に入っているんだけど」
「まさか!名家の生まれに驕らない謙虚さ、悪意を持った嘘をつかない誠実さ、悪戯に用いる為の勤勉さ!正しくハッフルパフの鏡です!・・・まぁ、少し悪戯が過ぎるのはグリフィンドール的かと思いますけどね」
「ははははは!グリフィンドールと同じ括りにされたら堪らない、少し悪戯は控えた方が良さそうだね」
「ええ、ええ、そうなさって下さい。将来史上最も有名なハッフルパフ生になるんですから、悪名を轟かせるのは控えておきませんと」
随分とご機嫌らしいマダム・マルキンが鼻歌混じりで仕事を進める。サイズを測り終えた様で、着せ掛けたローブにピンを打つ。仕事が早いね、これならノーズワイズが不機嫌にならなくて済む。
「あ、やっぱりリベルタさんでしたか、ノーズワイズがいたので、そうじゃ無いかと思ったんですよ」
「・・・おや、ドラコ。奇遇だね君もホグワーツ用のローブを見繕いに来たのかい?」
マダム・マルキンがピンを打ったローブを手に店の裏に引っ込んだのと入れ替わる様に入ってきた、見知った少年に声を掛けられる。
ドラコ・マルフォイ、聖二十八一族の一つ、マルフォイ家の長男だ。お互いに名家の嫡男という立場上、そこそこ以上の交友があるんだ。
「ええ、ホグワーツの手紙自体は先週届いてはいたのですが、予定が今日しか空いていなかったもので」
「あぁ、マルフォイ家は忙しいからね。・・・それにしても君が一人なんて珍しいね、お父上は?」
「父上は予定が合わなかったので今日は母上と来てます。今頃は教科書を買っていると思いますよ」
あぁ、ブラック家の。彼女はあまり得意じゃ無いんだ、前に何処かのパーティーでドラコに除草効果と騙って庭小人を集める魔法道具を渡して以来、警戒されている気がする。マルフォイ氏は笑っていたんだけどね。
「リベルタさんは確かハッフルパフに入寮されてましたよね?残念です、同じ寮に信頼できる先輩がいて欲しかったのですが」
「君なら大丈夫だろうさ、僕の見る限り君程スリザリン的な人間はそう居ないよ」
「ええ、僕はマルフォイ家の人間ですから。スリザリンに相応しいという点でいえば誰にも負けるつもりはありません」
スリザリン的である、というのが誇りなのだろう。ドラコ・マルフォイは胸を張り、鼻高々に、その尖り切った顎を更に尖らせて、自慢気に言う。何故皆んな寮の所属にそこまで拘るのだろうか、あまり理解出来ないね。
「ローブが用意出来ましたよ、メルリヌス坊ちゃん。ちゃんと大きめにしてありますからね」
「あぁ、ありがとう。マダム・マルキン」
ローブの調整が終わったらしく、マダム・マルキンが現れる。うん、ノーズワイズもまだご機嫌そうだ。
「それじゃあ、ドラコ。またホグワーツで会おう」
「はい、またホグワーツで」
料金を支払い、ドラコに挨拶をし店を出る。やっぱり午前中に来ていて正解だった、昼時だというのに外は人が更に増えている。これ以上増えると、ノーズワイズと逸れかねない。早いところフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に行かないと、あぁノクターン横丁にも寄らなきゃか。
「にゃぁ」
勿論。君のおやつも買っとかなきゃね。
「ただいま、ヴィンター」
「おかえりなさいませ、リベルタ様」
ダイアゴン横丁での買い物を終え、帰宅した僕をヴィンターがホールの暖炉前で出迎えてくれる。
今朝の早い時間に出たというのに家に着く頃には結局夕暮れになってしまった。ノクターン横丁に時間を使い過ぎたみたいだ。
「ところで、ヴィンター。高祖父様方の肖像画が見当たらないんだけど何か知らないかい?」
煙突飛行で帰宅すればいの一番に目に入る筈の、口煩い肖像画達が見当たらない。当然知っているであろうヴィンターに尋ねれば、何も言わずに窓を指さす。あらら。
「じゃから女は顔とスタイルだと何遍言えばわかる!!?!見た目が良ければ気分も良い!!貴様それでも私の子孫かこのクソガキャァア!?!?!!」
「えぇ!!子孫ですとも恥ずかしながらねぇ!!?!貴方こそ何度言わせるのか!!人は中身だと!これだから時代遅れの老害は困る!!」
「もういっぺん言ってみろ!!この恥晒しがァア!!!」
「何度でも言ってあげますよ!!!恥そのものがぁ!!!!」
窓の外では焚き火の上に吊るされた肖像画二人が、それでも尚喧嘩を続けていた。
まぁ・・・・・、楽しそうでなによりだ。
ルシウス「いいかいドラコ、メルリヌスの人間の頼みは出来るだけ聞いてあげなさい。ただし、決して見返りを求めてはいけないよ。彼らの悪戯の標的にされない、これ以上の見返りは無いのだから」