「
「・・・であり、トロ火で熱することでその効果を魔法、或いは呪いに限定することが出来、多様な魔法的毒素に対する解毒剤として用いられます。また、火の通りを調整する事で、身体機能の停止という薬効を弱め、純粋な麻酔効果のみを残し鎮痛薬としても用いる事も可能です。この事から考えるに、マンド「もう結構ッ!」はい」
「・・・吾輩の質問に端的に答えられない愚鈍さは見るに耐えん。・・・しかし、的を射た答えではある。ハッフルパフに一点を与える・・・」
苦虫を噛み潰したかの様な表情で、スネイプ先生は加点を口にする。
全く、ここからが良いところだというのに。たかだか一点の加点で、僕の考察を遮らないでほしいものだ。
「それでは諸君、レポートの提出は三日後だ。ウスノロなグリフィンドールの様に下らん言い訳を聞かせないでくれたまえよ。では解散」
ふぅん。まだ少し時間はある様だけれど、今日の魔法薬学はここまでの様だ。できる事ならもう少しこの地下牢で色々と実験をしたいのだけれど、居座れば減点されてしまうからね。
何故だか知らないけれど、我がハッフルパフ寮は現在得点がマイナスになっている。此処で更に減点され、要らぬ恨みを買うのも面倒臭い、大人しく退散するとしよう。
「・・・ねぇ、リベルタ!私達この後、外でお昼にするんだけど・・・、一緒に食べない?」
「遠慮しておくよ。少し調べ物があってね、この後は図書室に行かなければならないんだ」
レイブンクローとハッフルパフの女子生徒に誘われる。今年はまだ目立つ事をしていないからだろう、時々こうして誘われる事がある。悪い気はしないけれど、今はタイミングが悪い。禁じられた廊下について調べなければならないし、何よりもうすぐハロウィーンなのだから。
「そっ・・・か、うん。ごめんね、急に誘って」
「いや、僕の方こそすまないね。今度時間が空いている時に僕の方から誘わせてほしい」
キャーキャーと騒ぎながら、女子生徒達が階段を駆け上がって行く。インキュバスの血が影響しているのだろう、メルリヌスの男は良くモテる。・・・そういえば、僕自身の血を調べた事は無かったな、今度調べてみようか。となると比較対象として純粋な人間の・・・。
「いつまで居座るつもりなのかね、メルリヌス。そんなに減点されたいのかな?」
「・・・ちょうど良かった、スネイプ先生。血を抜いても宜しいですか?」
「断る」
仕方ない、さっきの子達を追いかけるとしよう。
蛇のたてがみを持ち対象を石化させる。違う、竜の尾。持っていない、唾液にトリカブトの毒・・・、これはあり得るか。悪魔の別名・・・。
「ふぅん。ケルベロスという点は間違えていない筈だけれど・・・」
図書館の静寂に僕の声が溶け消える。午前最後の授業である魔法薬学を終えた僕は、少し早めの昼食を済まし、図書館で最近の日課になりつつあるケルベロスについての調べ物をしていた。
禁じられた廊下で行われたダンブルドア先生との取るに足らない雑談から既に一月、十月に入ったというのに未だに僕はあの犬の、三つの頭を持つ黒犬の守りを突破出来ずにいる。
「蜂蜜入りのクッキーもダメ、くすねてきた酒には目もくれず、光に驚く気配もなし。・・・太陽光は試して無かったな・・・、廊下の壁をぶち抜いてみるべきか・・・?」
既に二度、入学パーティーの日を含めれば三度。あの場所に赴き、ケルベロスに効きそうな対策を試してみてはいるものの今の所は効果はなし。碌な結果は出ていない。
あのケルベロスが何を守っているにしても、番犬を出し抜いて直ぐ解決、とはいかないだろう。僕の見立てでは、少なくとも後二、三、障壁がある筈だ。
「後は・・・、竪琴か。ふぅん、届くまで待機かな、これは」
「あら、知らなかったわ。貴方が楽器を弾けたなんて」
「・・・手慰み程度のものだけれどね、屋敷しもべ妖精に教えてもらいながら家に置いてあった物を触った程度さ」
【ヨーロッパにおける魔法生物】から顔を上げると、そこには見知った少女が立っていた。
少女、ハーマイオニーとはこの一ヶ月で友人と言っても過言ではない程度には交流があった。お互いに図書館に入り浸る性質上、顔を合わせる事も多い。そうなれば、自然と会話する事も増えるさ。
「流石はイギリス魔法界でも有数のお坊ちゃんね、知ってる?一般的なマグルの家にはハープなんて置いてないの」
「一般的な魔法使いの家にもハープは置いてないよ」
対面の席に腰掛けながら、彼女は言う。有数のお坊ちゃんと比べたいのであれば、有数のマグルを挙げなければ不公平じゃないか。
「それで、また彼等と喧嘩したのかい?」
「・・・喧嘩じゃないわ。ただ私が親切心で教えてあげてるのに、彼等は嫌味を言うの。だから・・・、ちょっと距離を置いているだけよ」
親切心で。や、あげているだけ。と言っている時点で喧嘩の理由が七割方彼女にあるんだろうとは思うけれど、まぁそんな事を言えばより機嫌が悪くなるだけか。
「良いのよ、あんな子供っぽい人達のことは。・・・それよりも何を調べていたの?これは・・・【ヨーロッパにおける魔法生物】?そういえば貴方、動物好きだったものね。おいで、ノーズワイズ」
「まぁね、知識欲が大半だけれど動物が好きと言うのも間違いじゃ無い。少なくとも人間の営みよりは面白味があるよ」
「あら、此処を撫でられるのが好きなの?・・・本当に可愛いわね」
・・・・・まぁノーズワイズが可愛いのは認めるけれど、人に話を振っておいて無視はどうなのだろうか。
「それで、魔法生物と竪琴に何の関係があるの?ノーズワイズに聴かせるとか?」
「いや、犬に聴かせようと思ってね。ノーズワイズに聴かせるなら
「またとんでもない規模感の話ね・・・、でも知らなかったわ、貴方犬も飼っていたの?なんて犬種?」
「スタッフォードシャー・ブル・テリア。乱暴な子でね、音楽で少しは落ち着いてくれれば良いんだけれど」
「普通の犬じゃない、何で魔法生物の本なんて・・・。ケルベロス?」
【ヨーロッパにおける魔法生物】の開かれたページを見たハーマイオニーが固まる。ふぅん、食い入る様に見るじゃないか、最近ケルベロスを見る機会でもあったのかな?このホグワーツで。
「・・・成程ね、三頭犬を眠らせる為に竪琴を・・・。貴方も四階の廊下に行ったのね、信じられないわ。魔法界では校則は破る様教わるの?」
「君の方こそ意外だね、規則を破る様な人間には見えなかったけれど。あの犬を知っているということは行ったんだろう?禁じられた廊下に」
ハーマイオニーは顔を顰めながら「止めようとしただけよ」などと言いはするが、ケルベロスに関する記述を読む目は止まらない。
まぁ気になるよね、わざわざホグワーツにあんな凶暴な魔法生物を持ち込んでまで守ろうとしている物が何なのか。
「・・・貴方はどうしてあの廊下に行ったの?迷って偶々、ではないんでしょう?そもそも鍵が掛かっていたもの」
「ただ気になっただけだよ、説明もなくホグワーツの一部が立ち入り禁止になった。それも死にたくなければ、なんていう脅迫じみた文言まで着飾ってね。だから調べに行った、それだけさ」
「あきれた人!そんな下らない理由で規則を破ったの!?それで今度は仕掛け扉の先が気になるからって三頭犬を出し抜く方法を調べてるってわけね!校則を何だと思っているの!?」
相変わらず感情の制御が下手な子だ。どうやら今僕たちがいる場所が何処なのか忘れているらしい、周囲の目も気にせず声を張り上げる。騒げば彼女が来るのは知っているだろうに。
「誰なの!そこで騒いでいるのはッ!?図書館で騒ぐなんて何を考えているの!!出なさい!今すぐ出て行きなさいッ!!!」
マダム・ピンスが絶叫と共に現れる。ふぅん、あの自らの絶叫を棚上げする姿勢には関心さえ覚えるね、ホグワーツ広しといえども、彼女より騒がしい人間は居ないだろうさ。
そんな彼女のヒステリーには、流石のハーマイオニーもお手上げの様だ。周囲の視線から流れる様にその赤面した顔を下げ、足早に図書館を出て行く。
しかし、これで静かに調べ物が出来る。ケルベロスに関しては、竪琴が届くまで実行はできない。とはいえ、ハロウィーンの仕込みやメルリヌスの血に関する実験などやるべき事は沢山あるんだ。あまり時間を無駄にするわけにはいかない、そういう意味ではマダム・ピンスに感謝するべきか。
「貴方もですよッ、メルリヌス!!さっさと出て行って!!!」
・・・ふぅん、僕に落ち度はなかった様な気がするけれど。どう思う?ノーズワイズ。
「にゃん」
「・・・それは災難でしたね。しかし、とは言っても、生徒が一人でこの森に入るのは褒められたことではありませんよ、メルリヌス」
「安心すると良い、別に褒められる為に生きている訳じゃ無いからね。・・・それよりロナン、何か面白い生き物は居ないかな?ハロウィーンで学校中がパニックになる様な」
「・・・近頃は火星が明るい」
鬱蒼と茂る木々に囲まれ、図書館を追い出された僕は、僕とノーズワイズの一人と一匹は、やけに遠回しな言い回しをする半人半馬と連れ立って歩いていた。
「火星は確か・・・、行動、攻撃、情熱だったかな?・・・つまり頑張れ、って事かい?」
「・・・宙はそこに、星はそこに」
「うん、取り敢えず分からないという事はわかったよ」
最早、遠回しという次元ですらない様な気がする。YESとNO位真っ直ぐいえない物だろうか。
「それにしても物騒だね。これ、ユニコーンの血だろう?」
「いつの時代も罪の無い者が真っ先に犠牲になる・・・、昔も今も、或いは未来でも・・・」
「あぁ全く、悲しい限りだよ」
ハロウィーンに使える生物を探しに禁じられた森に来てみれば、何やら物騒な事件の痕跡を見つけてしまった。
幾ら禁じられた森とはいえ、ユニコーンの様な強力な魔法生物を狩る生き物は居ないはずなんだけれど・・・。密猟者か、或いは他所から強力な魔法生物が迷い込んだのかな?
「君のお仲間に怪我人は出ていないのかい?ユニコーンを襲う様な怪物だ、ケンタウルスだって襲われかねない」
「ご心配感謝します、けれど星の導に翳りはない」
「ふぅん、それは良かった」
多分、問題は起こっていない、みたいな意味なんだろう。となるとユニコーンだけを襲っているのか・・・、密猟者っぽいね。しかしわざわざ禁じられた森のユニコーンを狙うとは、一応ダンブルドア先生に知らせておこうか。
「・・・魔法生物だったらパーティーに使えるかと思ったけど・・・。まぁ良いや、吸血鬼辺りを捕まえてハロウィーンパーティーに投げ込むとしよう。牙さえ抜いてしまえば感染する事はないだろうしね」
「やめなさい」
「そういえば、伝説に名高いギリシャのケンタウルスは竪琴が得意らしいけれど、君も出来るのかい?」
「地球と月が異なる様に、星々の数だけ輝きがあります」
「・・・・・人間に得手不得手がある様に、同じケンタウルスだからといって竪琴が得意というわけではない・・・、かな?うん、礼儀に欠ける発言だった。謝罪するよ」
「良いのです、メルリヌス。貴方の輝きはこれからなのですから」
無神経な発言だった、気を付けなければ。赤銅色の彼は気にした風も無く許してくれたけれど、これがベインやマゴリアン相手であれば矢を射られていてもおかしくなかった。魔法生物を相手に気を抜き過ぎていたみたいだね。
「こんにちは、メルリヌス。お元気ですか?」
「・・・あぁ、元気だとも。君も元気そうだね、ベイン」
噂をすれば、というやつかな。まだ昼間だというのに、闇に呑まれたような木々の隙間から、まるで闇そのものの様な黒い体毛に包まれたケンタウルスが現れた。・・・特に怒ってはいなさそうだね、さっきの発言は聞かれていない様だ。
「昨夜の火星は一際輝いていた。星の落とし子が導を見失ってしまう程に」
「・・・・・ふぅん?もしかして心配してくれているのかな、珍しい事もあるものだね」
どうやら火星は危険を指しているらしい、それも人間嫌いのベインが僕を心配する程の危険だ。・・・ユニコーンの事といい、この森で何か嫌な事が起こっているみたいだ。
・・・気になるね、調べがいがありそうだ。
「・・・とはいえ、まだ午後の授業があるからね、そんな長時間この森に入り浸る訳にもいかない」
「えぇ、星々の輝きが導を歪めてしまう前に、元の軌道に乗るべきでしょう」
「大丈夫さ、次の授業まで二時間近くある。・・・ノーズワイズ、ユニコーンの血を辿れるかい?」
「にゃん」
何やら呆れた様な顔をしている二頭は無視して、ノーズワイズを追いかける。幾ら昼間でも暗い禁じられた森とはいえ、ユニコーンの血はよく目立つ。ノーズワイズなら見失う事はないだろう。
そこから、三十分程。どうやら着いてきてくれるらしい二頭のケンタウルスを引き連れ、森の奥へと進んで行くと、漸くそれが姿を現した。
純白の毛皮に金色の蹄、とうに命は潰えているのに決して輝きを失わない一本の角。薄暗い森の中に横たわるユニコーンの死骸。
「ふぅん、手遅れだったみたいだね」
「悲しいですね」
「えぇ、悲しいですね」
感情を感じさせない表情と声色で、二頭が言う。・・・これでも一応本当に悲しんではいる筈なんだけど。
兎にも角にも、ユニコーンの死骸を調べる。前年度、百味ビーンズの新しい味を開発する過程で少しユニコーンを世話していた時期がある。専門職には及ばないけれど、そこらの魔法使いよりは詳しい。
「これは・・・、殺された後に此処まで運ばれたのかな?あの出血量で移動してる時点でおかしいとは思っていたけれど・・・」
「海王星が土星を呼んでいる様です」
「ちょっと黙っててくれるかな・・・。角も毛皮もそのままだ、密猟者ならいの一番に持って行くだろうに・・・」
密猟では無くユニコーンの殺害が目的?ありえない、仮にユニコーンに恨みがあるとしても、わざわざホグワーツに侵入する必要はないだろう。ダンブルドアの怒りを買いたがる魔法使いなんてこのイギリス魔法界にいるとは思えない。
「輝く恒星が銀の雫を奪う事はありえない」
「すまないね。今考え事をしているんだ、後にしてもら・・・、ふぅん?」
ベインのケンタウルスらしい言い回しに、少し不快感を感じたが。成程、彼等なりのヒントだったらしい。
よくよく考えてみれば、明らかに
「血を目的とした密猟?・・・それこそあり得ない、角の方が価値は高いし毛皮の方が運搬は簡単だ・・・・・」
血は確かに他の部位と比べても足がつきづらい、しかしそれを理由に血を狙ったのだとしたらホグワーツ内の個体を狙った事と矛盾する。つまり、この惨状を引き起こした存在は、急遽、誰にも知られる事無く、ユニコーンの生き血が必要になった・・・。
「つまり、ホグワーツ内に犯人がいるって事かな?」
「・・・そろそろ時間ではないでしょうか、メルリヌス」
「いつも今みたいな喋り方だと嬉しいんだけどね。・・・でも、君の言う通りだ。勤勉を寮風としているハッフルパフ生としては、授業に遅刻する訳にはいかないからね」
地面に向けて杖を振るう。デイフォディオ、掘削魔法だ。流石に死骸を放置するのは忍びないからね、簡易的な埋葬で申し訳ないが、何もしないよりはマシだろう。
穴に落としたユニコーンに土を被せてやり、集めた石で囲ってやる。うん、これは墓と言っても問題ないだろう。何の意味もない、僕のエゴだけれど、まぁ恨まれる事は無いさ。
「ありがとうございます、メルリヌス。森の一員として感謝します」
「気にする事は無い。埋葬したのは僕だけれど、ユニコーンを襲ったのもホグワーツの人間だろうしね、身内の後始末をしただけさ」
それでも、と感謝を伝えてくるロナンとベインに挟まれ、共に森の出口へと向かう。まぁ感謝されて悪い気はしないし、色々な実験や素材集めの為に森に入ることも多い。ケンタウルスとの友好関係が強まったのなら意味のある行動だったのだろう。
しかし、結局吸血鬼は捕まえられなかったね。ハロウィーンで使う物は別で用意しなきゃだ。
ーーーーーーーーーー
ユニコーンの事はロナンからも聞いたよ。
森の異変に関してはこちらでも把握している、近いうちにハグリッドに調べてもらう手筈になっているから安心しなさい。
件の犯人に関しても、先生方が対策しているからね。
それと、生徒が森に入るのは禁止されています。ユニコーンを埋葬した件を考慮してハッフルパフから減点するのはやめておくけれど、気をつける様に。
最後に。フラッフィーの突破方法は思いついただろうか、儂としてはそっちの方が気になるがね?
アルバス・ダンブルドア
ーーーーーーーーーー
その日の夜、僕はハッフルパフの談話室でダンブルドア先生からの手紙の返信を読んでいた。
どうやら学校側もちゃんと把握している様だ。それも、恐らく犯人の目星も付いているのだろう、既に対策済みとは。流石は今世紀最も偉大な魔法使い、そして偉大なホグワーツの先生方だ。
しかし、対策するだけして捕まえないのは何故なのだろうか?目星が付いているなら捕まえてしまえば良いのに・・・。ダンブルドア先生を含む先生方が能動的に動けない理由がある・・・、或いは敢えて泳がせているのか・・・。分からないね、通常通り授業が行われている事を鑑みれば、恐らく生徒に被害が出る可能性は低いのだろうけど。
「情報が足りないね、取り敢えずはフラッフィーに集中するしか無いか」
「フラッフィー?新しいペットかい?」
「あぁ、似た様なものさ。少し凶暴なケルベロスでね」
「・・・ケルベロス?何故・・・?」
宇宙の真理を語られた猫の様な顔で、セドリックが疑問を口にする。
分かるとも。名付け親のセンスを疑わざるを得ない、ケルベロスにフラッフィーだなんて、随分とミスマッチじゃないか。