「どうやって突破するのかのう・・・」
リベルタ
「爆弾ぽーい」
ダンブルドア
「やめて」
ホグワーツ城八階。トロールとドラゴンを象った
「『パンプキンパイ』」
合言葉を合図にガーゴイル像がその身を引き、校長室へと続く道を開け放つ。一応、警戒の為に周囲を窺いながら、僕は更に上階にある校長室へ侵入する為に、或いはその中に有る有用な魔法道具を借り受ける為に、本来なら生徒が入る事は許され無いその先に、その奥にある螺旋階段へと向かい進んで行く。
うん、どうやら今回は素直に入れてくれるらしい。螺旋階段は以前の様に本来と逆の動きをする事なく素直に、そしてごく自然に上に乗る僕を上階へと運び出す。
しかし、ノーズワイズは何をしているのだろうか。何時もならこれだけの騒ぎを起こせば、直ぐに僕の元に戻ってくるというのに・・・。まぁ大体の居場所は把握しているし、何の知らせもないということは、危険な状況では無いのだろうけど。
などという事を考えている内に足場は止まり、象徴的で、かつ特徴的な、グリフィンを象ったドアノッカーが目に入る。どうやら校長閣下のグリフィンドール贔屓は未だに治らないらしい。
「"アクシ「入りなさい」・・・ふぅん?」
今の僕では解析出来ないその扉を、その魔法の扉を力ずくでこじ開ける為、腰に付けたサッチェルバッグから爆弾を呼び寄せようとすれば、しかしそこに待ったの声が掛かる。
出所は言うまでも無く、扉に取り付けられたグリフィンのドアノッカーだ。よく見ると、既に扉は少し開いており中の光が漏れ出している。
「もう君に壊されるのは懲り懲りだ、入りなさい」
「ふぅん、僕としてはありがたい話ではあるけれど・・・。校長室の守りとして、それで良いのかい?」
まぁ、ダンブルドア先生も認知してはいるのだろう。どころか、これは彼の計らいなのかもしれ無いね。流石に校長室の守りが校長の意向を無視して侵入者を受け入れる事はない筈だ。
何処かウンザリした様相の喋るドアノッカーに知的好奇心を擽られるが、今回の目的は扉の奥だ。アレはいつか持ち帰って調べるとしよう。
「こんばんは、高祖父様」
「こんばんは、可愛いリベルタ。今回はまた随分と派手な騒動だね。トロールとドラゴンを城内に持ち込むのは流石にやりすぎじゃ無いかな?」
「トロールは僕じゃ無いですよ。それに、ドラゴンも正確には城内ではありません」
「そういう問題では無いのだけど・・・」
幾つかの魔法道具を借りる為部屋に侵入した僕に、校長室に唯一残った肖像画が、僕の先祖ライムバード・ウィンギル・アンブロシウス・メルリヌスが、語り掛けてくる。
いつもは僕のやる事を全て褒めてくれる高祖父様だけれど、一応はホグワーツを守る元校長として、或いは生徒を守る教授として、城内に魔法生物が侵入する事には不快感を感じるらしい。
けれど心配は必要ないだろう。トロールの方は知らないけれど、僕が用意したあのドラゴンは、ジャック・オー・ランタンを被ったドラゴンの人形は、誰かを傷つけるだけの力は無い。
それに、ホグワーツの先生方がたかだかトロール如きに遅れをとる事は無いとも。
そんな下らない会話を続けながら僕はフォークスをサッチェルバッグに詰め込み、今回の目的であるグリフィンドールの剣と組分け帽子に手を伸ばす。四階から続く地下の攻略なら、グリフィンドールの剣さえあれば問題ないのだけれど、物のついでだ。この機会に前々から気になっていた組分け帽子も調べさせてもらうとしよう。
「リベルタ。わかっているだろうけど、一応言っておくよ。それ等はこの世に二つと無いホグワーツの秘宝だ、決して壊したり無くしたりしてはいけない。用が済んだのなら必ず元の場所に、この校長室に戻しなさい。いいね?」
「ええ、勿論です高祖父様。僕としても製造方法が定かではない物を失いたくは無いですから。小鬼なら作り直せるであろうグリフィンドールの剣は兎も角、この組分け帽子は確実にロストテクノロジーですからね。決して無くしませんよ」
「いや、グリフィンドールの剣も無くさないでね?」
「いやたすけ・・・」
何やら宣っている高祖父様を置いておいて、グリフィンドールの剣と組分け帽子をサッチェルバッグに仕舞い込む。このバッグには検知不可能拡大呪文だけでは無く、防護呪文や錯乱呪文による迎撃機能や、防水、防火呪文の様な内容物を守る魔法も掛かっている。自慢の様になってしまうけれど、例えホグワーツの先生方であろうとこのサッチェルバッグを無傷でこじ開けるのはそれなりの手間だろう。ここにしまっておけば、大事な組分け帽子を誰かに持って行かれる心配もない。
「さて、他に目ぼしい物は・・・、憂いの篩かな?これは」
「それは家にあるだろう?リベルタ。あまり強欲になってはいけないよ」
「ふぅん・・・、それもそうですね。ぼくには人の記憶を覗き見る趣味も・・・、ノーズワイズ?」
他に興味深い物は無いかと校長室を漁っていたところ、腰に差していた杖から、プラタナスにニーズルの髭、十二インチの杖から、白い閃光が溢れ出る。
ノーズワイズの髭を芯に用いたこの杖には、幾つか他の杖には無い仕掛けが施してある。
それが、ノーズワイズとの繋がり。僕がこの杖を持っている限り、ノーズワイズが僕を見失う事はないし、この杖の導く先には必ずノーズワイズがいる。
そしてもう一つ、僕はノーズワイズに幾つかの魔法道具を持たせている。彼が一人で、或いは一匹で、何かしらの危機に直面した時、周りの手を借りずにその危機を脱せる物を、首飾りや、耳飾りにして身に付けさせている。そしてそれ等が使われた場合、僕の杖にその知らせが届く様に魔法を施してある。
その魔法が今、起動してしまった。
「"アクシオ"ッ!箒!」
間の悪い事に、今自前の箒は壊れている。けれど此処はホグワーツ魔法魔術学校だ、備品の箒であればそれこそ掃いて捨てるほどある。
何やら叫んでいる高祖父様を尻目に、校長室を飛び出し階段を駆け下りる。杖が指し示す場所は一階、恐らく地下室に現れたという例のトロールだろう。階段を使っていたのでは八階の此処からでは少し時間が掛かりすぎる、外を経由した方が早い。
ガーゴイル像の横を駆け抜けた僕は、手近な窓へ杖を向ける。緊急事態だからね、少し乱暴に行こう。
「"コンフリンゴ"ッ」
杖から迸る燃える様なオレンジの閃光が、建造物でしかない一枚の窓に周囲を巻き込む爆破という意義を与える。
飛び散る破片を無視し恐怖さえ覚えるその穴へ、しかし僕は何の躊躇いも無く飛び込める。高々数十メートル、この半身を奪われる様な恐怖に比べれば大した物では無いのだろう。平時の僕であれば嫌う無計画なその行動を、呼び寄せ呪文に応じた最低限の機能しか持たない箒は、けれどもしっかりと受け止めてくれる。
如何に僕が箒を苦手としていようとも、障害物の存在しない自由な空であれば大した時間も掛からず、杖の指し示す場所へ辿り着ける。
ホグワーツ城一階、中庭に面した大広間にほど近いその廊下に、その窓に、僕は一切の減速無く飛び込んで行く。しかし、
「・・・貴様は。そう、貴様は何をしているのかね・・・?メルリヌス」
「ええ!ええ!!貴方は何をしているのですかメルリヌス!!!?!?」
しかし、ああ。どうやら、うん。事態は既に収束していたらしい。
倒れ伏したトロールを背景に、或いは達成感に満ちた三人の一年生を背景に、疑問に苛まれた様相のスネイプ先生と怒り狂っているマクゴナガル先生、そして何故か泡を吹いているクィレル先生。三者三様な、或いは六者四様な混沌としたその様子に、それでも僕の心は、リベルタ・ベディヴィエル・アンブロシウス・メルリヌスの心は、最愛の友であるノーズワイズの無事にどうにか心の安寧を取り戻していた。
「にゃ」
ハーマイオニーの腕に抱かれていたノーズワイズが、その腕を振り解き僕の元へ駆け寄ってくる。
傷は・・・、無いか。
「彼が助けてくれたの!私がトロールの棍棒に潰されそうになった時、ノーズワイズの耳飾りが光って・・・、そう!多分あれは防護呪文よ、一撃で砕けてはいたけど、でもその一撃は防いでいたもの!ノーズワイズが賢いのは知っていたけれどまさか魔法道具を扱えるなんて!確か彼はニーズルとの
スネイプ先生の怒号で、漸くハーマイオニーの口が閉じる。どうやら彼女を守っていたらしいノーズワイズの事を褒めてくれるのは僕としても嬉しいけれど、確かに喋り過ぎだね。あまり先生方の前でノーズワイズに言及するのはやめて欲しい、基本的にホグワーツでは生徒による魔法生物の飼育は、純血のニーズルの飼育は、禁じられているのだから。
「それで、メルリヌス。貴方はどうして此処に?それも備品の箒で窓を突き破るだなんて・・・」
「・・・彼女が先程言っていた防護魔法ですよ。あれは僕が彼に持たせた魔法道具でして、発動すれば僕に知らせが届く様になっているんです。ですから僕はノーズワイズが、僕の
「・・・えぇ、そうなのでしょう。そうなのでしょうけれど・・・。いえ、そうですね。友人の危機であれば校舎の破壊は・・・、えぇ、仕方ないのでしょう」
ハリーと、・・・ウィーズリーかな?恐らくはハーマイオニーの話に出て来たロン・ウィーズリーだろう、何処となく親しい双子に似ている気がする。は、驚愕という言葉を体現するかの様に、その目を見開いている。・・・マクゴナガル先生が規則に厳しいのは事実、しかし融通が効かないわけでは無いのだけれど、まぁ一年生の彼等には理解しえないのだろう。あくまでも、彼女はグリフィンドールである事を。
「・・・そうですね、自らのペットを救う為です。
この様に、彼女の本質は実にグリフィンドール的だ。如何に校則を破ろうとも、如何に寮風に背こうとも、彼女の結論はその魔法使いの生き様に価値を見出す。例え魔法薬学という常人の一歩を大切にしている学問の教授を前にしても、けれども彼女は友人を、或いは家族を救うという行動に対して、決して怒りを向ける事はない。マクゴナガル先生程、グリフィンドールの寮監に向いている人物はいないだろうさ。
「・・・話が逸れました。ではミス・グレンジャー、野性のトロールを捕まえようとした貴方の行動について。グリフィンドールから五点減点です、貴方には失望しました。怪我がないのならグリフィンドール塔に帰りなさい、生徒達が中断したパーティーの続きを寮でやっています」
ふぅん?話を聞くに、どうやらハーマイオニーはパーティーが中断された後、寮には戻らず一人トロールに挑んでいたらしい。・・・確かに、マグル生まれの彼女にとってみれば野性のトロールを間近で見る機会は珍しいのだろうけれど、だからといって何の前準備も無しに一年生がトロールに挑むのは無謀だと理解しているだろうに・・・。
僕に、というよりは僕の腕に抱かれるノーズワイズに手を振りながら駆けていく彼女を見送り、マクゴナガル先生が再び口を開く。
「先程も言いましたが、貴方達は運が良かった。ですが友人の為とはいえ大人のトロールに挑める一年生はそうざらにはいません。二人には五点ずつあげましょう。ダンブルドア先生にご報告しておきます、寮にお戻りなさい」
彼女の言葉に元気よく返事をし、ハリーとウィーズリーらしき一年生は駆け出して行く。今度はしっかりと、ノーズワイズではなく僕に手を振りながら。
しかし、どうやら、漸く、あの三人は仲直り出来たらしい。図書館でハーマイオニーに聞かされていた話はほぼほぼ彼等に対する愚痴だった。しかし、辟易する程聞かされたそれもこれで暫くは鳴りを潜めてくれるだろう。
「"レパロ"。・・・ではメルリヌス、次は貴方についてです」
僕が壊した廊下の窓を直しながら、マクゴナガル先生は此方へと視線を向ける。
「トロールは兎も角として、外のドラゴン。いえ、
「はて?このホグワーツには
腕の中のノーズワイズを撫でながら一応、無理では有るだろうけれど一応は、とぼけてみせる。全く、決めつけは良くないな。
「下らない戯言は結構。どちらにしても貴方を校長室へ連れてくる様にとダンブルドア先生に言われています。減点をされたく無ければ素直に付いて来なさい」
「ふぅん、それならば仕方ありませんね。一生徒として先生の命令には従わざるを得ませんから、此処は素直に従いますよ」
「・・・よく言う」
先程から口を閉ざしていたスネイプ先生が漸く口を開く。けれど彼は校長室へは付いてこないらしい、何故か気絶しているクィレル先生を杖の一振りで浮かばせ、一度も此方に視線を寄越す事なく廊下の先へと消えていった。
しかし、ホグワーツの一教授がトロール如きを相手に意識を手放してしまうのはどうなのだろうか?
「・・・何故此処も壊れているのですか・・・」
「さぁ?トロールじゃないですか?」
場所は変わり僕は、僕達二人と一匹は、ホグワーツ城八階、つまりは校長室を守るガーゴイル像の前に立っていた。
しかし、歴史あるホグワーツ魔法魔術学校がこう何度も魔法生物の侵入や城の破壊を許すとは・・・、嘆かわしい物だね。
「『パンプキンパイ』」
破壊された壁を直しているマクゴナガル先生を横目に、再び校長室を守るガーゴイル像に向き合い、合言葉を唱える。
何やらマクゴナガル先生が面白い顔で此方を見ているけれど、別に校長室の合言葉を知っているのは校則違反では無いからね、小言を言われる筋合いは無いとも。
「貴方は何処まで・・・。はぁ、言っても仕方のない事ですね」
呆れた様相のマクゴナガル先生に付き従い、上階へと繋がる螺旋階段に足を置く。
まさか一日にこう何度も校長室に出向く事になるとはね。一応は、ホグワーツの校長室は世界の秘奥の一つだろうに。・・・ふぅん。まぁ、光栄と思っておこうか。
「・・・また君か。通りなさい」
「・・・・・メルリヌス、貴方前にも此処へ・・・?」
「まさか。たかだか一生徒がホグワーツの校長室に入れる訳無いでしょう?彼の、グリフィンドールを象徴するドアノッカーの勘違いですよ」
怪訝そうな顔をするマクゴナガル先生とドアノッカー。しかし、わざわざそれに付き合う必要もないだろう。これ以上余計な事を言われまいと、僕は校長室の扉を押し開く。ついでに戯言をほざいたドアノッカーに一撃を入れておく、余計な事は言わ無いで欲しいね、全く。
「メルリヌスだ」「ライムバードォォ!!!」「爆弾は?」「無い・・・か?」「グリフィンドールの剣は何処だ」「アルバスを呼べ!」「待て!ミネルバが居る!問題は・・・起こすか・・・?」「組分け帽子も無いぞ」「アバダ・ケダブラ!」
部屋に入れば魔法生物達の騒動を終え、その役目を全うしたのだろう。歴代の校長達が各々の額縁へと帰還していた。とても騒がしくはあるけれど、彼等が此処に居るという事はホグワーツに平穏が戻った証拠でもある。煩わしくはあるけれど、ホグワーツの一員としては、うん。良い事なのだろう。
「
「いや・・・、うん、久しぶりだね、可愛いリベルタ・・・。彼女は相変わらず不機嫌だよ、君が屋敷に居ないのが大層不愉快らしい。遂に先週高祖父様の肖像画が、私達の偉大な始祖様の肖像画が暖炉に焚べられてしまったよ」
「ふぅん、まぁ大した問題では無いでしょう。彼奴の肖像画であればいくらでも替えが利きますから。側の在庫であれば、五枚ほど倉庫に転がっていたでしょう?」
「・・・世界広しといえど、貴方達くらいのものでしょう。マーリンを、史上最も有名な魔法使いをそこまで軽視している存在は・・・」
なんて事を言うのだろうか。我々程、メルリヌスに紐択血族程、始祖様を敬っている存在は居ないだろうに。
・・・全く、血が繋がっていなければ誰があんな外道を敬うというのか。
「いやいや、よく来てくれた。あの人形について色々教えて欲しいと思っていたところだったんじゃ」
などという下らない問答をしていれば、いつの間にか校長室の出入り口にそのキラキラした目を携え、偉大なるホグワーツの校長が、ダンブルドア先生が立っていた。
ふぅん。試作品ではあるが、一応は
一応は、大半の魔法使いを捕らえられるようには作ったのだけれど、流石にホグワーツの先生方を相手にするには足りなかった様だね。
ふぅん、未だ僕にはアズカバンの脱獄は難しいかもしれない。
「
流石はホグワーツの校長閣下。一に目指すは安全らしい、居なくなった自らのペットを心配する。
けれども、しかし、悲しいけれど、僕も伊達や酔狂でメルリヌスをやっていない。らしい言葉は紡ぐけれども。
「嫌です」
「ではハッフルパフから千点減点とする」
ダンブルドア
「返して?」
リベルタ
「やだ」