ニチアサ魔法少女モノに転生したら性癖終わってる奴らしかいない件 作:レイ
―――生まれつき現代医学では治療不可能な難病を患い、短くして命を落とした前世。そして憧れであった美少女へ生まれ変われたものの、極度の虚弱体質で苦労続きである今世。どこまでも呪いとばかりに付き纏う己の弱さに今度こそ終止符を打とうと、俺は魔法少女になったのだが……今までロクに運動も行えず生きてきた身でいきなり超人的な身体能力を得てもコントロールがままならず、失敗の連続で結局3人の足手まといとなっている始末であった。『……やっぱり私なんかが魔法少女になりたいだなんて、望むべきじゃなかったんですね』。
そう自然と出てきた後悔にも近い嘆き、けれど……そんな自分の言葉を同じ魔法少女仲間でクラスメイトでもあるマジカル・ルビーこと日向葵さんは力強く否定し、そしてフォローするからこれからも一緒に頑張っていこうと優しく寄り添ってくれたのだ。まあ最も言葉の節々に多少の違和感が存在し、おまけに絶対にスルーしてはいけないと己の本能が警告を訴えていたような気もするが……まさかあの心優しい日向さんに限って危険だなんて、それこそ地球が実は球体ではなく平面であったというぐらいあり得ない話だろう。
……一部の界隈の人達からお怒りを受けそうなのでこの話題はこれ以上触れないでおくとして、もう何も怖くない―――某紅茶好きでお馴染み我らが〇ミさんの台詞を内心で引用しながら俺は弱きを助け強きを挫く、そんな頼もしい正義のヒーローな魔法少女へ成る事を誓ったのであった。
そして約1週間後―――
「……彼方さん、先ほどは助けてくださりありがとうございます。私なんてミジンコ以下のザコなのに調子乗ってすみませんでした……」
「仲間を助けるのは当然の事です、それに己を卑下するのはよくありませんよ」
「うぅ……でもホントの事ですし」
ファストフード店にて、俺の目の前に凛とした姿勢で座っているのは……魔法少女マジカル・サファイアであり同じクラスメイトの彼方沙織さんだ。腰まで伸びる艶やかな青のロングヘアを持つ文武両道の才色兼備で、部活は茶道部に入っており、聞けば彼女の家は何代にも渡って継がれ続けてきている歴史ある茶道の名家なのだとか。つまり正真正銘のお嬢様である。
そんな彼女を前に、俺は上半身を45度下げテーブルに頭をこすりつけるほどの誠意を込めた本気の謝罪を繰り出している真っ最中であった。もう何も怖くないとか言っておきながら今やこの有様、一体何が起きているのか説明させてもらうと……つい先ほど幹部ドゥームが現れて、奴は前回と同じくその場にハカイダーを生み出し街を破壊しようとしていた。覚悟ガンギマリ状態の俺はリベンジマッチだと意気込み、マジカル・パールへと変身し勢いよく足を踏み出したものの……案の定コントロールを失った俺は盛大にすっ転んでしまい、体当たりの如くハカイダーへ真正面からぶつかって見事ダウン状態に陥ってしまったのだ。そして怒るハカイダーの攻撃が直撃しそうになったその瞬間。
『させませんよ―――サファイア・フリーズ・エア』
彼方さんが瞬時に放った凍てつく氷の空気がハカイダーを瞬く間に凍結させ、そしてハカイダーの氷が溶けるまでの僅かな隙を狙い日向さんがサッと素早く俺を掴んで回収してくれたのだ。その際彼女は何故かハカイダーに猛スピードで衝突した際に生じた俺の体の傷に視線が向いており、目を限界まで見開き『……このシコさはもはや犯罪級だよぉ♡』と近距離でありながら聞き取れないほどの小声で何かを呟きつつ、まるで己の脳裏に永久に焼き付けるように見つめてくる日向さん。完全に自分の失態で負った自業自得とも言えよう傷なのに、そんな真剣に心配してくれるなんてホントに優しい人だなぁ。嬉しい。
そして戦いはというと、サファイア、ルビー、エメラルドの3人が放つ必殺技で無事決着は付いたものの……何の案も無しにただ「もしかしたら今回はイケるかもしれない」という安易な思考で失敗を招いた事を俺は心の底から後悔した。日向さんは母親から買い物を頼まれているらしく先に帰ってしまい、一人落ち込みながら帰ろうとしたそのとき彼方さんから『浅上さん、もし良ければこの後少し私に付き合ってくれませんか?』と声をかけられ……今に至るというわけだ。
「浅上さん、顔を上げてください。私にとって何よりも大切で優先順位が高いのは仲間の安全です、そしてそれは結果としてしっかり守る事が出来たのですから。怒ってなどいませんよ」
「……本当、ですか?」
「ええ」
「…………」
湖のように透き通った綺麗な声が依然として深々と頭を下げる俺の耳にゆっくりと沁み込むように伝わり、俺は恐る恐る彼女の言う通りに伏せていたその顔を上げていくと。
「―――ふふ、ようやく目が合いましたね」
「ぁ……は、はいっ」
爽やかなシーブルーの瞳を細め、嬉しそうに優しく微笑む彼方さんが視界に映った。その兼ね備えた美貌も相まって、今や女の子とはいえ心はナチュラルDTなままの俺は思わずたじろいでしまうが……それでも彼女はジッと俺の目を覗き込むように見つめてきた……そして歓喜に震えるようにゆっくりと息を吐き。
「……貴方のその宝石のように光り輝く蒼眼、何度見ても息を呑むほど美しいです」
そう、手に頬を当てうっとりとした笑みを浮かべながら告げてきた。お世辞ではなく心の底から思っている事なのだろう、彼方さんは嘘をつくような人ではないし何よりその表情と声色からして十二分に伝わるからだ。ただ、それが分かるからこそどう返していいか困ってしまう。
「そ、そんな宝石だなんて、ただ生まれつき持ったものってだけです……」
「だからこそ価値があるのですよ、計算され尽くした上に成り立つ人工物と違い何の意図や介入もない天然の輝き……それはもうこの世の宝と言っても全く過言ではありません」
「いや過言ですよ……」
真正面から自分の目は宝などと言われて反応に困らない人は恐らくいないはずだ……やっぱりお嬢様だから美術とかそういった方面に対する強いこだわりでも持っているのだろうか?まあ最も、俺には雲の上の世界だから理解は出来ないが……
彼方さんは笑みをそのままに、俺の瞳をまるで美術館で絵画を鑑賞するかのように無言で見つめてきて……こちらとしては正直友達とこんな事をするだなんて羞恥プレイでしかないけれど、でも助けてもらった恩もあるしやめさせるわけにもいかなかった。それに。
「ふふふっ」
……彼方さんがあまりにも幸せそうな笑顔を浮かべるものだから、尚の事言いづらかったのもあるのだ。
「―――満足、大変満足ですね」
「……はぁ、それなら良かったです……?」
困惑一色の俺だったが、ふと……途中から謎の鑑賞会が始まってうっかり忘れていたけれど、一つ彼方さんに聞きたかった事があるのを思い出した。それは彼女はそもそもどうして俺に『もし良ければこの後少し付き合ってくれませんか?』と声をかけてきたのかという点だ、俺はその疑問を素直に口にして尋ねると、彼方さんは穏やかな声色で答えてくれた。
「貴方が随分と落ち込んでいる様子でしたので心配になったのです……空回りは誰にだってある事、さっきも言いましたが私はそれで怒りを募らせたりなどしませんよ」
「彼方さん……」
「失敗を積み重ねて人は成長するのですから、私も日向さんと同じです。貴方は体が人より弱くありながらも魔法少女として戦うのだって、それは浅上さん自身が己と向き合った結果導き出した答え。それに貴方が良い人で、人を救いたいという素晴らしい信念を持っていると私は―――知っていますよ」
「……ありがとうございます、そう言ってもらえて何だか心がスッと楽になりました」
彼方さんは許し、そして日向さんと同様理解を示してくれた。本当に情けない失敗だけれど、でもショボくれていたって何の解決にもならないのだ。もう同じ轍は踏まない、努力して少しずつでも変化していこう―――
「ああ……本当に、貴方のその瞳を是非一度―――みたいです」
「彼方さん?どうかしましたか?」
「……いいえ、何でもありませんよ。ただの独り言です」
首を傾げつつもそう言われてはこれ以上触れようはないので気にするのはやめた、そして話も終わり外へ出ると辺りも暗くなっており……彼方さんとはお店の前で別れたのだった。途中よく分からない時間があったけれど、でもこうして彼女と話せて良かったと間違えなく断言出来る。
「……変に空回りせず、自分なりのペースで魔法少女として頑張っていくぞ」
そう、俺は改めて決意を固めた―――
浅上愛音と別れた後、彼方沙織は一人誰もいない路地裏へと行き壁へと背中をもたれかけさせ、そして。
「浅上さんっ……♡♡」
自分の頬を両手で包み込みながら、うっとりとその瞳を潤ませていた。そう、日向葵の性癖が人が傷つき苦しみ弱っている姿にあるならば、彼女……彼方沙織の内なる秘めた性癖はまた異なる歪んだ領域に属している。それは他ならぬ。
「見てるだけで思わず吸い込まれてしまうそうになるあの美しい蒼い瞳!どの美術画にも映像作品にもあそこまでのものは存在せず、人類80憶人の中でも間違えなく片手で数えられるレベルの逸材です!ああ……たまりません……」
―――眼球フェチである、彼方沙織は先ほどのファストフード店で浅上愛音の目を間近で覗き込み、その美しさだけでなく網膜の揺らぎや瞳孔の収縮までも隅々に至るまで観察出来た余韻に浸っていた。そして彼女の欲望は見るだけで留まらず……
「入学当初から生徒の間で噂になっていた浅上さん、私も一目見てすっかり虜になってしまいました。ただ中々近づく事が出来ず、そしてそれは2年でクラスメイトになっても同じ。あまりの輝きにひるんでしまい踏み出す勇気が出なかったのです、しかし……こうして同じ魔法少女になり他人とは一線を画す、秘密を共有し共に悪と戦うという関係性になる事が出来ました。これで近くからあの瞳を見る機会が増えたのです……これで満足?」
彼女は両手を大きく広げて。
「いいえまだです!何故なら私には人生を捧げても良いと思っている目標があるんですから!苦楽を共にし、仲を深め……そしていつか友情を超えた親密な関係となったとき、私は浅上さんにこう告げます!」
精一杯息を吸い込み、そして世界への宣戦布告が如く。
「―――貴方の眼球を舐めさせてくださーい!!!」
耳まで真っ赤に染めながら、両目にハートマークを宿し将来訪れるであろう(彼女の中では)未来を想像しだらしなく顔を緩ませているのであった。もう勝手にしてください、後叫ぶのは路地裏だとしても普通に迷惑なのでやめましょう。
これで2人目の性癖歪みまくり少女が判明したわけだが、物語はまだ―――始まったばかりである。