ニチアサ魔法少女モノに転生したら性癖終わってる奴らしかいない件 作:レイ
「―――ね、ねぇ見て!あの子めちゃくちゃ可愛くない!?」
「ホントだー! まるでお人形さんみたい!」
「うぁぁぁ、び…美少女が本屋を練り歩いている」
「あの子を私の家にお持ち帰りして本ならぬオホンッ♡って喘がせたいわー!」
「お客様、店内で大きな声を上げるのはおやめください」
「アッすみません……」
何かTOUGHな人やお持ち帰り系女子が混ざっていたように聞こえたのは気のせいとして……今日は夏休み真っ只中な8月上旬の金曜日、ここは街でも屈指の大型書店でいつでも老若男女問わず多くの人が足を運んでいる場所だ。ただそれ故に人混みを好まない俺は、普段別の小さな書店を利用しておりここへは滅多に来ない。まあ今回わざわざ訪れた理由というのも、こういった大きい本屋にしか販売してないであろうとある専門書がお目当てなのだが……それにしても、虚弱体質なこの身に真夏の暑さはもはやしんどいどころの話ではなく家からここへ辿り着くまで己の持ちうる全体力を消費してしまった感覚である。これは言わば俺が魔法少女として成長する為の体力作りの一環で、本当なら行き帰りと徒歩のつもりだったのだけれど、変に無理してぶっ倒れてしまっては元も子もない。俺は数日前の彼方さんとの一件で、自分なりのペースで頑張っていくと誓ったのだ。なので素直に帰りはバスを使うとしよう……話を戻すが、目的の本というのは―――
「……ん?あの人って……」
「―――愛音?」
説明を行おうとしたその瞬間、俺の視界に見覚えのある人影が映り……そして向こうもこちらが目に入ったのか反応しているのが確認出来た。彼女は仲間の魔法少女であるマジカル・エメラルドこと長崎文香さんだ、俺より僅かに高いといった小柄な体型に豊かな草原を彷彿とさせる澄んだ緑色のポニーテールで、顔立ちは可愛いけれど性格は大人しく基本いつも無表情で何を考えてるのかよく分からない事が多い。でも他の2人と同様正義の心を持ち、人々を助ける彼女に俺は尊敬の念を抱いている。
俺は駆け足で長崎さんの元へ近づき。
「長崎さん、こんにちは。こんな所で会うなんて奇遇ですね」
「うん……」
そう、声をかけたのだが、正直に言うと……長崎さんとは同じクラスでありながら魔法少女になるまで交流等は一切無かった。いやそれは他の2人も一緒なのだが違う点は……仲間となった後も帰り道が一緒の日向さんや、リーダーである彼方さんとは違って2人きりになった事すら今回が初めてなぐらいだ。
……決して関わりたくないというわけではない、尊敬はもちろんとして長崎さんとも純粋に仲良くなりたいと思っている。ただ―――
「そ、それにしても今日は良い天気ですね!曇一つない快晴です!」
「……確かに、今日は良い天気」
「あはは……」
「…………」
前世は死ぬまで病室暮らし、そして今世でも3人と関わりを持つまでずっとぼっちで生きてきた生粋の陰キャ人間に会話を広げられる力などミクロン単位で存在しなかった。唯一持つ天気カードを使用したから今ので俺の手札尽きちゃった……もはや苦笑いを浮かべる事しか出来ないザコな自分だったが、ふと―――長崎さんが大事そうに抱えるレジ袋のロゴに目が行った。そのロゴはこの書店のもので、つまり彼女はここで何かしらの本を購入したという事だろう。
……よし、ここで「何を買ったんですか?」と聞けば会話を広げられる。それにもし長崎さんの購入した本が漫画やラノベの類であったのなら、今この空間に存在する気まずさなど宇宙の彼方へと吹き飛び俺の勝ちである。まあそのジャンルでなくとも、何かしらの話は可能なはずだ。降って湧いた救済とも呼べようチャンスに歓喜しつつ、尋ねた結果彼女の反応は。
「それはちょっと言えない……愛音には、特に……」
申し訳なさそうに視線を落とし、何故か顔を赤らめながらそんな言葉を返してきたのであった……ああ、せっかくのチャンスが。俺が長崎さんの好感度を稼げてないばっかりに……
希望は潰え、もはやこれまでと内心頭を抱えていると。
「ところで……愛音は何の本を買いに来たの」
「……私、ですか?」
「うん」
長崎さんは感情の読めない瞳をこちらに向けつつ、でも頬を朱に染めたままそう尋ねてきた。
「そうですね……実は呼吸法に関する本を探しているんです」
「呼吸法……」
……先ほどは説明し損ねてしまったが、俺は魔法少女になった際決まって己の体のコントロールが上手く行えずに失敗している。そしてそれは前世の寝たきり生活と今世の虚弱体質の二つが大きく影響してるが故の結果だ、なので大元の身体作りは前提として……それ以外にも肉体と密接に関係している心も強くしたいと思ったのだ。具体例を挙げるならいつでも冷静沈着で凛と振舞う、彼方沙織さんのように。
……日向さんに引き続き、俺の本能がそれは違うよと警告を訴えてきているような気がするがそんなわけはない。全くポンコツだな本能くんは。
「ただ……この書店大きくて、そのコーナーがどこにあるか分からないんですよね」
「私、小さい頃から何度もここに来てるから本棚の位置は全部把握してる」
「え?ぜ、全部ですか?」
「もう長年配置を変えてない、理由は分からないけど私の予想では多分店長がこの配置を貫く事にこだわりを持ってるんだと思う」
「はぁ……」
「……呼吸法ならつまりあの棚の―――それってつまり……」
「な、長崎さん?」
長崎は小声で何かを呟き、その内容は一切聞き取れなかった。そして。
「―――私についてきて」
いつも通りの無表情のまま、されどどこか浮ついたように思える声色でスタスタと足を進めて行ってしまい……俺は一瞬ポカンとしつつも、急いで彼女の後を追った。
「この棚の一番上」
「え……」
長崎さんに案内されたのは広い店内の一番隅っこ、俺は彼女の言葉に釣られるように上を見上げると……そこには横一列に呼吸法に関する専門書がずらりと並んでおり、その的確さに驚く所だが正直俺の関心は別にあった。何故なら。
「…………これ、私が手を伸ばしても果たして届くでしょうか」
小柄な長崎さんより更に背の低い半ばロリ体型に近い俺では、例えつま先立ちで背伸びをしても指先が届くかどうかすら分からないのだ。確かに本は欲しいけれど、素直にこれ無理なんじゃ……と思わざるをえなかったが。
「届く、絶対届く。愛音ならいけるはず、頑張って頑張って。勇気全開ファイトー」
「な、何か急にいつもとキャラ違くないですか??」
「全然違くない、フレーフレー」
いや明らかに違和感あるんですけど……そして全く力の籠っていない棒読みでも、長崎さんの鈴を転がしたような声だとそこがむしろプラス要素となり正直アリかナシかで言われればかなりアリである。可愛いは正義ってやつですか……まあ、これで店員さん呼ぶの恥ずかしいし何より声をかける必要があるというだけでコミュ障にはしんどいので、ここはもう頑張るしかない。
いくつかの中から『お猿さんでも分かる呼吸法』というタイトルが目に入り……何か小馬鹿にされてる気がしてならないが、俺のよわよわっぷりではこれが相応しいだろう。悲しい。
「よし!いきます……!」
浅上愛音はつま先立ちをして全身を大きく引き伸ばし、背中の筋肉をフル稼働させた。そしてその瞬間―――夏用の薄手ブラウスの袖口がぐぐっと大きく引き上げられ、彼女の脇が外の世界へと露出したのだ。
「ぐ……うっ……」
彼女は本を取る事に夢中で隣の少女がどんな反応を取っているかに気づいていなかった……ここで少々早い種明かしとなってしまうが、長崎文香の持つ性癖について明かすとしよう。ヨワラー、眼球フェチに続く魔法少女勢3人目の性癖、それは。
「フーッ……!フーッ……!」
―――脇フェチである。
……いや、これはそこまでニッチじゃなくない?と疑問に思う人は多いであろう。ただ長崎文香が持つ大きな問題点というのは今ちょうど声に出しているように……まるで獣の発情期のような人間離れした反応を示している点である、彼女の視線は透き通る雪のように白い肌と骨と繊細な皮膚が描く緩やかな陰影に一点集中し、それ以外など消滅したかの如く入っていない。
「取、れない……っ」
「エロいエロいエロいエロいエロいエロいエロい」
怖いですねぇ、これではもはやお猿さんだ。ていうか浅上愛音も隣でこんなヤべェ反応してる人がいるんだから気づきなさいよ、まあ彼女もまた本を取る事に全神経を費やしているのだから責められないか……普段は無口系クールキャラを装っている長崎文香。だがその脳内はいつでもピンク一色であり、今起きている事も先ほど(背の低い愛音が無理に手を伸ばせば、確実にブラウスの袖口が捲れて脇が拝める……!)という邪悪な計算に基づき誘導したのだ。
「シコすぎシコすぎシコすぎシコすぎシコすぎシコすぎ」
「あ……と、届きそう……」
「え」
だがしかし、幸いな事にこの悪夢は無限ではなく……
「―――取れた!取れましたよ長崎さん!!」
「…………そう」
しっかりと終止符が打たれるのであった、ホント良かったね!
「今日はありがとうございます、おかげで助かりました」
「……お礼はいらない」
無事に本を購入し、書店を出ると温かな夕日が差し込んできた。あれから何故か普段より5割増しでテンションの低い長崎さんに首を傾げつつ……偶然にせよ、こうして魔法少女活動以外で関わる事が出来たのはとても嬉しく感じる。長崎さんがどういう人なのか分かったわけじゃないけれど、でも少しだけ知れた。本が好きって事や冗談も言うんだって。
「……帰る前に、一つ聞いていい」
「何ですか?」
「愛音はどうしてこんな本を買ったの?」
そう、静かに淡々と尋ねてくる長崎さん……確かに中学生の知り合いに「何買うつもり?」と聞いて呼吸法の本だよって答えたら「えっ何で?」と思うのが大多数の反応だろう。こんな自分を変えたい、罪なき人々を守りたい、理由は色々あるけれど……
俺は笑顔を浮かべて。
「日向さん、彼方さん、長崎さん―――3人と肩を並べられるくらい強くなりたいからですよー!」
バイバーイと大きく手を振りながら俺はその場を後にするのであった。
「フーッ……!フーッ……!さっきのは一体何……!!」
自宅の部屋に飛び込み、ベッドへ崩れ落ちた長崎文香は抱き枕に顔を埋めその全身を悶えさせていた。己を宥めるように必死に荒い呼吸を繰り返しており、どうしてこうなったかと言われれば原因は別れ際に浅上愛音がパッと右手を高く突き上げて、大きく手を振った瞬間にある。
「あんなの―――今まで見た事ないっ♡♡」
薄手のブラウスのゆったりとした袖口が重力に従って滑り落ち、浅上愛音の脇が背後の夕日の光を受けて眩しくこの荒んだ世の中を照らすように輝いていたのだ。それを至近距離で食らった長崎文香の理性は完全にキャパオーバーを引き起こしてしまった。
「今日はこれをオカズにするつもりだった……でも予定変更」
彼女はレジ袋の中身から古今東西の画集や資料集から集めた『魅惑の脇アングル大全』という本を取り出し、学習机の上に置いた。ちなみにこれが先ほど顔を赤くして隠したがっていた理由である。何だこのバカみてぇな本。
そして長崎文香は至福の時の開幕と言わんばかりに、その顔をほころばせ。
「あの神がかった脇マ〇コをオカズにオ〇ニーする♡♡それこそ夜が明けるまで……ううん、朝になっても止めない。無限オ〇ニーのはじまりはじまり♡♡♡」
昔話みたいな言い方やめてくださいよ……ツッコミ所が山のようにあるが、兎にも角にも、これで3人の魔法少女の性癖紹介は終えた。これから果たしてどうなっていくのやら、それは―――神のみぞ知る。