ニチアサ魔法少女モノに転生したら性癖終わってる奴らしかいない件 作:レイ
「ハァ、ハァ……ヤバいです、もう既に結構しんどいです……ごめんなさい日向さん、提案したのは私なのに当の本人がこんなダメダメで……」
「ダメダメだなんてそんな事ないよ!むしろ今の愛音ちゃん、最高に―――輝いてると思うな!」
「…………え?そ、そうですか?」
「うんっ♡♡」
照りつける太陽がアスファルトをこんがりと熱している、そんな8月中旬の昼下がり。TS魔法少女こと俺は、近所の公園のランニングコースにて今にも膝から崩れ落ちそうな身体を必死に保っていた……ちなみに開始からまたたったの1分半でこの有様である。地球においての光の国の巨人でもまだギリギリ胸のカラータイマーが青であろうに、隣を軽やかに走る日向さんとは対象的に俺は既に限界を迎えているのであった。虚弱体質な俺にとって、真夏の屋外運動などもはや自傷行為に近い……ならば何故、こんな無謀なトレーニングを行っているのか?一旦話を数日前に戻そう。
幹部ブレイクが生み出したハカイダーを単独で撃破出来たのは本当に喜ばしい事だが、俺は結局体力切れで盛大にぶっ倒れ意識を失ってしまったのがあの戦いの結末である。戦闘において毎回気絶していては己の身が持たないし、何より3人に心配をかけてしまう……魔法少女体のコントロールや魔力の練りはある程度こなせるようになったけれど、結局それを受け止める基礎の体力部分が伴わなければ俺は魔法少女としてすぐに破綻してしまうだろう。そこで俺は目を覚ました後、仲間である3人に『私、基礎体力作りのトレーニングを始めます!」と宣言したのだった。
最も、このトレーニングにおいて誰かを付き合わせるのは申し訳ないし一人で行うつもりだったのだが……その宣言を聞いた瞬間、日向さんは目を限界まで大きく見開きクイズ番組なら間違いなく回答権を得られるであろう超速度でその右手を天高く突き上げ『なら私も手伝うよ!そんな愛音ちゃんが息遣いを荒くして額から滝のように汗を流しヘトヘトになりながら行うであろうエチエチトレーニングを見逃す手は―――仲間が強くなりたいって真剣に言ってるんだもん!それならそれを手伝うのは当たり前じゃないかな!』
……前半部分は早口でよく内容が聞き取れなかったものの、つまり彼女は俺のトレーニングに付き合うと言ってくれているのだ。太陽のように眩しい笑顔を浮かべて、その想いは一切の嘘偽りなどない(???)心の底からの本音だと確信出来た。日向さんの優しさが胸にジーンと染み渡り、俺は溢れる感謝を込めて『……はいっ! よろしくお願いします!』と応じたのであった。
―――そして、現在に至る。
「ハァ……ハァ……が、頑張らなきゃ!」
「無理しないで愛音ちゃん、初日から張り切りすぎるのはあんまりよくないと思うな」
「う……」
「それに体力だってそんなすぐにつくものじゃないし、ゆっくりとコツコツ頑張っていけばいいんだよ。とりあえず今日は……あそこに見えるベンチまでを目標にしようね!後もうちょっと!頑張ろ!」
「日向さん……!分かりました!」
「……弱りながらも健気に走ってるその姿で、私の心臓もバックバクだしこれ以上持ちそうにないからね」
浅上愛音は日向葵が己を真っすぐに微笑んで見つめながらも、その瞳に妖しい光を宿らせている事には当然気づくはずもなかった。少しぐらいは怪しみなさい。
「つ、疲れました……」
ベンチに深く腰掛けた俺は、ペットボトルを両手で握りしめながら息を整えていた。水分が乾いた喉を潤していくけれど、全身の疲労感はすぐには抜けそうもない……たった3分走っただけでこれとかマジで自分で悲しくなるんだが。つよつよ魔法少女への道のりは思った以上に過酷そうだ……内心ため息をつく俺とは対象的に隣に座る日向さんはまるで極上のフルコースを平らげた美食家の如く、大満足と言わんばかりにホクホクしていた。
……もしかして、日向さんは走るのが好きなんだろうか?そういう面も俺に協力してくれた理由の一つだったり?まあ……こんなランニングにカウントしていいか分からない超短距離でも、喜んでくれたのなら嬉しいが。
「―――それにしても、あのときの愛音ちゃんはホントにカッコよかったなぁ。私達が苦戦したハカイダーを、愛音ちゃんはたった一人で華麗にキラーンって倒しちゃって!」
日向さんは笑みを崩さぬまま、あのときの戦いの光景を頭に思い浮かべているのか目を輝かせながら語っている。
「み、微塵もカッコよくなんかないですよ……それに最後なんか思いっきり倒れ込んで気絶しちゃいましたし……」
「ううん、カッコいいって断言出来るよ。だって……愛音ちゃんが自分と正面から向き合って、必死に頑張った結果なんだからね」
俯く俺の手を日向さんはそっと、優しく握ってきて。
「愛音ちゃんは魔法少女としてしっかり成長してるよ、だから少しだけでもいいから……そんな努力してる自分を認めてあげてもいいと思うな?」
「……それはちょっと、難しいかもです」
「もー、愛音ちゃんは頑固なんだから。あははっ」
純粋に魔法少女として何度も失敗を重ねてきた上での自信の持てなさな所はあるが、やはりそれ以上に……前世での無力な自分の姿がいつでも脳裏によぎっている俺としては、己を肯定するなんて行いはとても困難な事なのだ。当然変わりたいという願いは変わらず持っているけれど……いつか認められる日が来るのだろうか?
分からない、でも今言えるのは。
「―――ありがとうございます、日向さんの言葉はいつも私にとって大きな原動力となっていますよ。本当に感謝してるんです」
素直なお礼の気持ちだ、それだけだけど……でもこれでいいと思う。
「えへへ、そんな真っすぐ伝えられると何か恥ずかしいよぉ。別にいいのに、愛音ちゃんは可愛いし性格も良い子で、本当……」
日向さんは気恥ずかしそうに頬をポリポリと搔きながら、小声でポツリと。
「―――羨ましいなぁ」
そう、呟いた。
「羨ましい、ですか?」
思わずオウム返ししてしまった俺だったが、彼女は特に気にせず言葉を紡ぐ。
「だって元から可愛くて、魔法少女姿もとっても似合う愛音ちゃんと違って私はそんな可愛いなんて言葉とは無縁だから……」
自分を卑下するような、日向さんにしては珍しく元気のない弱弱しい声色……だがしかし、俺はそれを聞いた瞬間に思考を挟む間もなく自然と。
「?日向さんは可愛いじゃないですか?」
「……え」
そう口に出していた、日向さんがパチパチと大きな目を瞬かせ、ポカンとした顔で俺を見つめてくる。
「わ、私が可愛い?」
……俺、何か変な事言っただろうか?彼女は顔を赤くして。
「も、もぅ!愛音ちゃんったらお世辞はダメだよぉ! 私は可愛いとかそういうキャラじゃないって自分でも分かってるんだから……!」
否定するように大きく手を振る日向さん、俺はそんな彼女を真っすぐと見つめ返し。
「お世辞なんかじゃないです、本当の事ですよ」
「ひゃい……!?」
「日向さんの太陽みたいに周りをぱぁっと明るくしてくれる笑顔はとても可愛いですし、元気で活発なところも魅力的です。それにこうして私を心配して一生懸命応援してくれる時の優しい表情とか、言葉で言い表せないほど素敵で……まるで絵本に出てくるお姫様ですね」
日向さんは誰から見ても魅力的な女の子なのは間違いないし、何よりそんな彼女に救われてきているだから……俺はありのままの自分の気持ちを伝えただけだったのだが―――
「う……あぅ……」
日向さんの顔が、まるで完熟したトマトのように耳の先端から首筋に至るまで一瞬で真っ赤に染め上げられた。
「ひ、日向さん?」
「おお、お姫様って……!」
彼女は脳の処理が追い付かないとばかりに口をパクパクと動かした後、両手で真っ赤になった自分の顔を覆い隠してしまった……もしかして怒らせてしまっただろうか?
内心慌てた俺は謝罪しようとしたが、その隙も与えず日向さんは勢いよくベンチから立ち上がり。
「そそっ、それじゃあ愛音ちゃん!また明日ねバイバーイ!!」
魔法少女に変身しているのではないかと錯覚するほどのスピードで、謝罪の言葉を告げる間もなくあっという間に走り去って行ってしまった。一人ベンチに取り残された俺は。
「……はぁ、やっぱり怒らせちゃったのかな……」
そう、深くため息をつくのであった……元男子でおまけにロクに対人経験のない俺である。怒らせてしまった事に関する対処法以前にそもそもその原因が分からないのだ、明日も一緒にトレーニングする予定なのだが、そのときに何とか許してもらえるよう頑張るしかない。
肉体だけでなく精神的にも疲労を感じていたそのとき。
「―――あっはハ! みーつけた、よわよわパールだぁ♡」
人を心底馬鹿にしたような、甲高い声が突然背後から響き渡ってきた。
「……その声は……」
俺が振り返ると―――そこに立っていたのは金髪のツインテールを揺らし、黒と紫を基調としたフリルとレースで飾られたゴシックロリータ服を着用している幼い幼女であった。真夏の公園には何とも似合わない格好だが、何を隠そうこの幼女は……
「ルイン……!この公園を破壊しに来たんですか!?」
ドゥーム、ブレイクに続くアポカリプス三幹部の一人なのだ。
「ちっがーうし! ざ〜こ♡なパールがたまたま運よくハカイダーを倒せちゃったからって、調子に乗らないようにさぁ……その心をボロボロにへし折ろうとわざわざこっちからお話ししに来てあげたんだよぉ♡」
可愛らしい見た目とは裏腹に、その口元は邪悪に歪みこちらを見下すようなドス黒い蔑みの瞳を浮かべている。否定しているが、どうせその内側では街を破壊する気満々なのは明白だ。魔法少女としてそんな事させるわけには―――
「っ……!?」
俺はベンチから立ち上がろうとしたものの、疲弊した足は上手く力が入らずよろめき俺はそのまま無様に芝生の上へ膝をついてしまった。マジでこの体!もう長い付き合いだけどどんだけ弱いんだよ……!
「あははっ、なぁにそれぇ♡」
ルインは小さく手を叩いて口元を覆い、心底可笑しそうにクススと意地の悪い笑みを漏らす。そしてそのまま足を進め、倒れる俺の目の前に立ち。
「だから言ってるでしょ〜? ルインはザコのパールと戦うつもりはないってぇ♡ てか変身する前からそんなでさぁ……ほんと、生きてるだけで足手まといの無能ちゃんにはお似合いのザマだねぇ♡」
「くぅ……」
上から嘲笑うように俺を見下ろし、毒々しい言葉を吐き捨てるルイン……邪悪で生意気な幼女(メスガキ)幹部との最悪な遭遇。冷や汗を流しながら膝をつく俺に対し、ルインは愉悦に満ちた笑みを更に深めるのだった―――
「それじゃあ―――楽しい時間、始めちゃおっか~♡」
こんな煽り方しているが、このメスガキ…魔法少女3人に続く第4のヒロインである。