ニチアサ魔法少女モノに転生したら性癖終わってる奴らしかいない件 作:レイ
「それじゃあ―――楽しい時間、始めちゃおっか~♡」
そう言って邪悪な笑みを深めたルインは、ポンと両手を叩くと視界がどす黒い紫色の魔力に包まれ俺は強烈な浮遊感に襲われた……これは恐らく普段幹部達が戦闘後に逃亡する際に使っている転移魔法だ。まずい……このままどこか、暗い地下の拷問部屋とかに飛ばされるのでは。
俺は強い恐怖から目を瞑ってしまったが……次の瞬間、視界が見えぬ中で耳に飛び込んできたのは重厚な爆音と電子音だった。一体何が起きているのかと思わず目を開くと、そこに広がっていたのは暗い拷問部屋―――ではなく沢山のゲーム筐体が並んでいる光景、つまりゲームセンターであった。
「……これは、一体」
「あははっ! なぁに呆けてんのぉ、ザコパール♡」
ルインの煽りも普段ならば怒りを抱く所だが、正直今はただただ困惑の感情しか出てこない……ここは駅前のゲームセンターだ。俺はあまりゲーセンに足を運ばないけれど、前に一度だけ訪れたから見覚えがある。夏休みな事から多くの若者達で賑わっており……まあこういった人が多く騒がしい場所は俺にとって人酔いしやすく、すぐに疲れてしまうのが避ける理由なのだが……ってそれより。
「ど、どうしてここに私を連れてきたんですか!一体何が目的なんです!?」
俺が声を上げると、ルインはそんなの決まってるじゃんと言わんばかりにニヤニヤしながらこちらを指差し。
「弱っちいパールちゃんを勝負でコテンパンにしてその心を折ってあげるためだよぉ♡ ほらぁ、つべこべ言わずにルインについてくるくる~♡」
「……もう意味が分かりません……」
ルインは鼻歌を歌いながら、俺の服の袖を掴みグイグイと引っ張っていく。魔法少女状態じゃない上に先ほどのランニング(たった1分半走っただけをそう呼んでいいか分からないが)の疲れを未だ引きずっている俺は抗う事もできず、そのまま連れていかれ……少しして彼女は『ザ・プラネット・オブ・ザ・デッド』というタイトルのゲーム筐体の前で立ち止まった。
「これは……ゾンビを銃でぶちころがしていく系のガンシューティングゲームですよね」
「そ♡今からこのゲームで勝負!それでもしルインよりスコアが低かったら、パールは今後ルインの専属奴隷決定ね♡」
「え……!?そんなの嫌ですよ!どうして私が貴方の奴隷なんかにならなきゃいけないんですか!」
サラッととんでも発言を放ってきたルインに、俺は当然抵抗の意志を示したのだが……
「ふ~ん?嫌なら逃げ出してもいいんだよぉ? よわよわパールちゃんは現実だけじゃなくこんなゲームでもザコなんだね~♡ウケる♡」
「くっ」
このメスガキ……!ルインには今まで何度も何度も煽られてきて、別に大人でもないのだが心のわからせメーターが限界まで溜まっている状態だった。だから二つの人生を生きてきて経験皆無にも関わらず、半ばヤケっぱちに「や、やってやりますよっ」と勝負を引き受けてしまった。
「へぇ~♡まあせいぜいボロボロに負かされても泣かないでね♡」
「泣きません!」
ルインが100円玉を入れて、ゲームが始まり……俺は見た目かなりずっしりとしているガンコントローラーをその手に持ち……
「―――あ」
……その瞬間、悲しい事に俺は己の負けを悟ってしまった。何故なら俺の握力では……このコントローラー持ってるだけで精一杯だからだ。俺の心の安西先生も「もう無理じゃね?」と言ってきている、いや貴方にまで諦められたらもうどうしようもないじゃん。
そしてゲーム開始から5分後。
「―――あはっ、なっっっさけな~い!コントローラー持ってるだけでさ、もういっぱいいっぱいとかホントパールはざこだねぇ♡」
「うぅ……」
俺の画面に大きな『GAME OVER』の文字が映る横で、一人この筐体内でもトップクラスのハイスコアを叩き出しているルイン。手を口元に近づけ、人を心底馬鹿にしてるようなニヤついた笑みを張り付けながら煽ってくる。
「ルインの圧倒的勝利~♡ 雑魚パールちゃん、負け犬の気分はどうぉ?」
「…………こんなので一生奴隷が決定してしまうだなんて」
俺はガクンとその場に膝をつき、仲間の3人に心の中でごめんなさいと謝罪の言葉を告げていると……
「ホント、手応えなさすぎて笑っちゃう♡ でもまあ安心してよ、ルインは優しいからぁ―――特別にもう1回だけチャンスを上げる!」
「ほっ、本当ですか!?」
舞い降りた救済にすがりつくように勢いよく立ち上がった俺を、ルインは相変わらず道化師でも見るかのような小馬鹿する目線を向けつつ……けれど、ほんの一瞬だけ。
「がっつきすぎじゃん♡えへへ、これでもっとパールと遊べる……」
……普段のルインからはまるで想像も出来ない、幼い見た目相応の純粋無垢な表情を見せたような気がして。
「ほらほらぁ、さっさとゴーゴー♡」
「そ、袖が伸びちゃいますからそんな強く引っ張らないでください……!」
でもまあ……ただの気のせいだろう。
俺を再び引っ張り、ルインに連れて行かれたのは……意外にも可愛いぬいぐるみで溢れ返るクレーンゲームのコーナーだった。ガラスケースの中には今流行っているアニメの猫のぬいぐるみが積み上げられており……もしかしなくても、今からこれを取るって事か?人間の目玉とかが好きそうなイメージからいくら何でも遠く離れすぎだろう。
ここへは間違って来てしまったに違いない、それで改めてとんでもないキモグッズが景品の機体へ向かうんだ。ああ、そうだ。
「ルールは簡単! あの猫のぬいぐるみを先に獲れた方の勝ち!」
「…………」
……いやここで合ってるのかよ。
思わずツッコミを入れたい所だが変に噛みつかれても面倒な為、グッと堪えつつ「それじゃぁ、まずはルインから♡」と彼女は意気揚々と100円玉を投入し、ボタン操作でクレーンを動かした。アームが下り、ぬいぐるみの頭を掴む―――だが、持ち上がった瞬間にコロンと落ちて失敗してしまった。
ルインは露骨に機嫌を悪くし。
「チッ……アームが緩すぎるんじゃないのコレ!? ま、まあ最初はウォーミングアップだからね! ほら、次パールちゃんの番だよ! どーせロクに動かせずに終わるんでしょ~♡」
……今度こそ負けるわけにはいかない、敵幹部の奴隷になんてなってたまるか。俺は魔法少女として罪なき人々を助け、何よりこんな自分でも信頼し寄り添ってくれる3人の優しさに答えたい。最近ようやくそのスタートラインに立てたばかり、まだまだこれからなんだ。
先ほどは醜態を晒してしまったけれど、実はクレーンゲームに関しては密かに自信がある……前世で寝たきりだった頃、俺は一時期動画サイトでクレーンゲームの解説や攻略動画にハマりそれこそその系統のものは全て見切ったほどだ。最もそれを活かす事は出来なかったし、今世ではその一時の熱意などとっくにに失せていたが……まさかその知識が役立つときが来ようとは。
「見ててください……私だって、やるときはやるんですから!!」
俺は100円玉を投入し……集中力を極限まで高めながらアームの可動域、ぬいぐるみの傾き、そして狙うべきポイント等を知識を元に計算して。
「……あそこに引っ掛ければ、重心の偏りでそのまま滑り落ちるはず」
1回目のボタンでアームをギリギリまで奥へ進め、2回目のボタンでぬいぐるみのタグの小さな隙間へと鋭くアームの爪を滑り込ませ……そして。
「はぁっ!?」
「よし!」
俺の狙い通り、爪が絶妙にタグへ引っかかり持ち上がった猫のぬいぐるみはそのまま綺麗な描線を描いて落ち口へと吸い込まれていった。一発獲得である。
俺は取り出し口から猫のぬいぐるみを両手で抱きかかえ―――
「どうですか!これで勝負は私の勝ちですよ!」
誇らしげに見せつけると、ルインはその顔を真っ赤にして地団駄を踏み悔しそうにする……と、確信めいた予想を立てていたのだが。
「…………終わっちゃった」
まるで午前零時の日付が変わる鐘が鳴り響き、魔法が解けたかのように、この時間が終わりを告げた事に対して酷く悲しんでいる様子であった……寂しそうに俯くルインの姿は偽りにはとても思えない。
……彼女の心情が全く分からないが、俺は無意識に。
「……ぬいぐるみ、あげますよ」
「え……」
そう、手に入れたぬいぐるみをルインに手渡していた……ポカンと呆気に取られる彼女を見て、何だかとても気まずくなってきてしまったので俺は。
「こ、これで私の勝ちですから約束通り奴隷は撤回でいいですよね!?」
「あっ、うん……」
「じゃあ今日はもうおしまいです!さよならっ!」
「ちょ、ちょっと待っ―――」
何やらこちらを引き留める声が聞こえたが、ここを逃すと帰れなくなりそうなので時間も経過し無事体力が回復してきた俺は全速力でゲームセンターから飛び出すのだった。それにしても、結局ルインは一体何がしたかったのだろうか?ただゲーセンで遊んでいただけのような……それにぬいぐるみを取ったときのあの顔、俺としては渡す必要など無かったのだが……でも、何故かああして良かった気がする。
悪い奴には変わりないけど……自分でもよく分からない、突然訪れた出来事は何とも不可思議な後味を残す時間だった。
「……行っちゃった」
―――ゲームセンターに取り残されたアポカリプス幹部ことルイン、彼女は浅上愛音から手渡された猫のぬいぐるみを両手で抱え込んだままその場にぽつんと立ち尽くしていた。されどその表情は普段の生意気で意地悪なものとは遠くかけ離れており、耳の先端まで熟したリンゴのように真っ赤に染まり上がっている。そしてルインはぬいぐるみに顔を埋めると。
「うぅ……また遊ぼうねって言えなかった……!」
恥ずかしそうに声を震わしながら涙目を浮かべていた―――そう、ルインの生意気なメスガキ態度というものは、決して愛音を憎んでいるからでも加虐心からでもないのである。
「本当は……本当は、パールちゃんと仲良くなりたいだけなのにどうしていっつもこうなっちゃうの!」
日向葵、彼方沙織、長崎文香のトンデモ性癖持ちな魔法少女約3名と違い、ルインという悪幹部の内側はまさかの純情すぎる……好きな子に素直になれず、ついつい意地悪な煽りと言葉責めでしかアプローチできない超不器用でピュアな女の子だったのだ。
幹部としてマジカル・パールを一目見たその瞬間から、ルインの心は奪われていた。雪のように白い肌、透き通る瞳の妖精のような可愛さに。もっと一緒にいたい、もっとお話ししたい、もっと遊びたい、けれど立場が敵である上に素直になれない彼女は結果……「ざ〜こ♡」や「よわよわ♡」と煽る事しか出来ていないという現状だった。メスガキとは想い人に理解されがたい悲しき定めなのだ。
「ぬいぐるみ、柔らかい……嬉しいな」
ルインはぬいぐるみにすりすりと頬を寄せ。
「……こんなの、余計に好きになっちゃう。パールちゃん……今回は失敗しちゃったけど、絶対いつか仲良くなって、それで……えへへっ」
頬を赤らめ、体をくねらせながら。
「手とか、繋いじゃうんだから……!」
いっぱい弱ってる姿見てぇ、眼球舐めてぇ、激シコな脇マ〇コ見てぇと来て4人目の願望はまさかの手繋ぎ、何とピュアなのでしょう。
「パールちゃん―――大好きだよっ」
そう、純粋無垢で可愛らしい笑顔を浮かべるルインであった。
正義の味方の魔法少女が変態で、悪の敵幹部が正常とは…(普通逆では?)