ニチアサ魔法少女モノに転生したら性癖終わってる奴らしかいない件 作:レイ
「う、うわ!何あのすっごい可愛い子!芸能人!?」
「芸能人でもあんなに顔整った人いなくない?すっご……」
「マキマさん助けて、俺あの娘好きになっちまう」
「……バードウォッチング目的でこの公園へと訪れたプロカメラマンこと私、相田和彦は目撃した。この現実空間と浮世離れしたまるで雪の妖精が如く美しい少女を、そして同時に私の脳裏によぎったのは―――そういえば積んでたエロゲの中であの子に似たヒロインがいる作品があったわ!帰ったら早速攻略しよ!」
……夢バトルする人と後半部分から著しく発言のIQが下がったエロゲーマーはスルーして、太陽が照りつける炎天下の中、3分走っただけで体力が限界を迎えるカップラーメン系魔法少女こと俺は今日も近所の公園にて日向さんとヘトヘト確定なランニングを……
「―――愛音ちゃん、体の方はまだ大丈夫かな?もし辛かったら無理しないで全然言ってくれていいんだよ?」
「大丈夫ですよ、私まだまだいけます……!」
「……そっか!なら一緒に頑張ろうね!」
「はい!」
力強く返事を返す俺……この時点で疑問に感じた人も多いだろう、割と元気じゃん?と。何故かと理由を聞かかかれば、今日は走っているのではなく―――歩いているからだ。つまりはウォーキングである。
本当なら今日も気合を入れてランニングを行うつもりで、自宅で念入りに準備運動を重ねて公園へ向かった俺だったのだが……後怒らせてしまった件に関してもしっかり謝罪しようと思っていたけれど、それは昨日の夜に日向さんから電話がかかってきて『あっ、その……昨日はいきなり帰っちゃってごめんね!べべっ、別に怒ったとかそんなわけじゃなくて!だから愛音ちゃんは気にしなくていいからね!?』と何故か上擦った声色で言ってきたので大丈夫になった。良かったのだが、日向さんの様子がどこかおかしいように感じたのは気のせいだろうか?
……僅かな謎は残ったものの、気まずい思いを抱える事なく俺は日向さんと合流すると、そこで彼女から思いがけない提案を受けたのだ。
『私、昨日の件を踏まえて家を出る前にずっと考えてたんだけどね、愛音ちゃんが魔法少女として強くなりたいって気持ちはすっごくよく分かってるよ。でも……それで無理して身体を追い込む必要はないと思うんだ?ほら、千里の道も一歩からって言うでしょ! だからしばらくはウォーキングにして、筋肉や体力が付いてきたらランニングに変えるって形でもいいんじゃないかな!』
日向さんからの提案を聞いて、自分もそれが良いと思った。彼女の言ってる内容にも同意なのだが、それ以上に……昨日の幹部ルインとの突然の遭遇時。俺は軽く走っただけで激しい疲労に見舞われロクに足が動かず、されるがままになってしまっていたという失態がある。だからそういう不測の事態においても、魔法少女として対応出来るようにしていなければならない。まあ幸いにも、ルインとはただゲーセンで遊んだだけだったのだが……一夜経っても結局何故あんな事をしてきたのか、その意図はさっぱり分からないけれど……
とりあえず無事で良かったと前向きに捉えるしかないか……そう結論付けて、疑問に蓋をし目の前の事に意識を戻した。
「……ふぅーっ」
深呼吸をして息を整える……ウォーキングを始めてから既に20分ほどが経過していたが、体への負担はランニングと比べて遥かに少ない。疲労感を感じていないわけじゃないが、それでも昨日に比べたら楽だ。改めて振り返ると、よわよわな俺がいきなりランニングを行うというのはどう考えても無理があった。この暑さもありいずれ熱中症で倒れるなんて未来が容易に想像できる、日向さんのおかげでそんな未来を避けれた。
流石日向さん! いつでも仲間の事を一番に考えてくれて、大切にしてくれている……!
浅上愛音が感心している隣で……当の本人である日向葵は目を大きく見開き、じっと穴が開くほど彼女の横顔や首筋を見つめていた。
「えへへ……昨日はすぐに終わっちゃったからね、だから今回は時間をかけてゆっくりと愛音ちゃんが弱っていく姿を堪能させてもらうよ。汗が顔をつたって首筋に流れていく様や、時折漏れ出る可憐な息遣い……あ♡さっきよりもちょっとだけ息が乱れてきてるね♡疲れてきたんだ♡嬉し……じゃなくて頑張ってね♡♡」
……信じてもらえないかもしれないが、これでも日向葵は浅上愛音の事を仲間として、友達としてちゃんと大切に思っているのだ。ただ、自分の性癖に対してあまりにも素直すぎるというだけでねハイ……
邪な心中はともかく、ウォーキングを続ける2人だったが。
「そういえば昨日……日向さんと別れた後、ちょっとひと悶着ありまして……」
「ひと悶着?」
「実は……アポカリプスの幹部のルインと会ったんです」
「……えっ!?そ、それってホント!?大丈夫だった!?」
俺は指先で汗を拭いながら話すと、日向さんは驚いたように声を上げてその瞳はこちらを心配するように不安そうに揺れている……伝えるか迷っていたが、日向さんは同じ魔法少女仲間であり彼女にとってもルインは敵だからこそ内緒にするわけにはいかないと思い打ち明けた。でも実際。
「大丈夫ですよ、ルインとは戦ったわけじゃないんです。彼女とは―――駅前のゲームセンターでゾンビをぶちころがすゲームやクレーンゲームで勝負したりしたんです、まあゾンビの方では負けちゃいましたけどクレーンゲームでは見事一発獲得で勝利を果たして、それで最後に取った猫のぬいぐるみはルインにあげて私はそのまま帰りました」
「???」
俺が包み隠さず事実を伝えると、日向さんは脳の処理が追い付かないと言わんばかりにポカンと口を開けフリーズしてしまった……ごめんなさい。こちらから話しておいて何ですけど、マジで俺もよくあの出来事について分かってないんですよ……
沈黙が場を支配したが、やがて日向さんは顔を赤くしながらポツリと聞き取れないレベルの小声で。
「私、愛音ちゃんと遊んだ事ないのに……いいなぁ―――ってあれ?今何て」
「日向さん?」
「な、何でもないよっ!?うん!ホントに全然微塵も何でもないです!!」
「そ、そうですか」
焦ったように大きく手を振りながら否定してくる彼女に、ちょっと困惑していた俺だったが……そのとき。
「うああぁぁぁん! お母さーん! お母さんどこー!?」
突然、女の子の泣き叫ぶ声が響き渡ってきた。俺は驚いてそれが聞こえた方向を見れば、まだ幼稚園児ぐらいと思われる小さな女の子が目を真っ赤に腫らしながら、一人で立ち尽くしぼろぼろと大粒の涙をこぼしている。
「愛音ちゃん―――行くよ!」
「……は、はいっ」
日向さんは一瞬で表情を引き締めると、迷いなくその女の子の元へと駆け寄っていき……俺も慌ててその後に続いた。
「どうしたの?大丈夫だよ、怖くないからね」
日向さんは女の子と同じ目線になるようその場にしゃがみ込み、優しい声色で語りかける。そのおかげか女の子も警戒心を和らげ泣き止み。
「お母さんが、お母さんが……いなくなっちゃったのぉ……うぇぇぇぇん……!」
予想はついていたがやはりこの子は迷子か……そして一時は落ち着いてくれたものの、言葉にして口に出しているうちに悲しみがこみ上げてきてしまったのか、また先ほどと同じように大声で泣き出してしまった。
「あ、えっと……」
……助けてあげたい、けれど前世から含めて対人経験が少なくコミュ力も低い自分には……激しく泣きじゃくる女の子を前にどうしていいか、どう言葉をかけるのが正解なのか分からなかった。
だが―――
「そっかそっか、寂しかったね。でももう―――大丈夫だよ!」
日向さんはとびきり温かい、太陽のような笑顔を向けて女の子の頭にポンと優しく手を置き。
「私は葵お姉ちゃん!そしてこっちの可愛いお姉ちゃんは愛音ちゃん!よければ貴方のお名前も教えてくれるかな?」
「ひぐっ……あかね……っ」
「あかねちゃんかぁ、とっても可愛いお名前だね!」
「……そう?」
「うん!!」
あかねちゃんは暗闇の中で一筋の光を見つけたような、されどそれを果たして信じて良いのかと不安混じりの瞳を日向さんに向けて……日向さんはそれを真っ直ぐに見つめ返すと、大丈夫だよと優しく微笑み。
「私達が一緒にお母さんを探してあげるね! 絶対に見つけてあげるから、だからもう泣かないで。お姉ちゃん達がついてるからね?」
「…………うんっ!」
あかねちゃんの表情からすーっと迷いの色が消え、嬉しそうに頷いた。そして俺は……一連の光景に思わず目を奪われていた、人の抱く不安を太陽のように眩しい笑顔と優しさで吹き飛ばす。そんな日向さんの姿は紛れもない―――正義の味方であった。
「あかね!どこに行ってたの!?お母さん心配したのよ!」
「うぅ……ご、ごめんなさい……」
「……もうっ、謝らないで。お母さんはね、あかねが無事ならそれでいいんだから」
「お母さん……!!」
お互いの存在を確かめるように抱きしめ合う2人……幸いな事に母親はすぐに見つかった、あの後あかねちゃんから話を聞けばどうやら飛んでる蝶を追いかけてるうちにはぐれてしまったらしく、この公園自体がそこまで広くないので娘を探す母親と俺達がかち合うまでにそう時間はかからなかったというわけだ。
「本当に、本当にありがとうございました!何とお礼をしていいか……」
「お礼なんていいですよ!あかねちゃんとお母さんが会えて良かったです!ね、愛音ちゃん!」
「はい、そうですねっ」
そして問題は無事解決し、「お姉ちゃん達ありがとうー!バイバーイ!」と母親に連れられながらこちらに向かって元気よく手を振るあかねちゃんを笑顔で見送った後、俺達は夕日が差し込み始めた公園のベンチへと腰を下ろした。
「えへへ、あかねちゃんが笑顔になってくれて良かったなぁ……って、あ」
日向さんは晴れやかな笑顔で伸びをしていたが、ふと何かに気づいたように小さく声を漏らし……
「そ、そういえばまだトレーニングの途中だったね!?どうしよ!?」
アタフタと慌てる日向さんに対し、俺は彼女を落ち着かせるように穏やかな声色で。
「いいですよ、だって今日はもう十分な成果がありましたから」
「せ、成果……?」
日向さんが不思議そうに首を傾げる。
「……私は泣く少女を前にどう言葉をかけていいか分かりませんでした、でも日向さんは迷いなく助けの手を差し伸べられて。体を鍛えることももちろん大切ですが、やっぱり魔法少女として最も欠かせないもの……」
俺は優しく微笑みながら。
「それは、正義の心です。私は困っている人に寄り添い笑顔で助けになる日向さんを心の底から―――カッコいいって思いましたよ」
「……っ」
素直な想いを伝えた……そんな俺の言葉を聞いた瞬間、日向さんは顔を真っ赤に染めながら恥ずかしそうに俯いてしまった。そして、こちらを上目遣いで見つめながら……
「……ぁ、ありがとね……」
そう、羞恥心が混じりながらも嬉しそうな声色で感謝の言葉を告げてきて……改めて、日向さんに対しての尊敬の念がより強まり、こういう人間になりたいなぁと思う俺であった。
「愛音ちゃん……」
浅上愛音と別れた後、日向葵は夕日に照らされた街並みを一人歩きながら自分の胸元をギュッと強く握りしめていた。うるさいくらいに脈打つ心臓の鼓動が手のひらを通して伝わってくる。
「愛音ちゃんは私にとって大切な仲間で、友達で、性癖にぶっ刺さる存在なの……でも、この想いは今まで抱いた事がない、それらとはまた違った感情のような……」
……ちょっとシリアスに欠けるようなワードが一部混じっていた気がするが、まあそこら辺は目を瞑っておいてくれるとありがたい……
「この気持ちが何なのか、全然―――分からないよ」
その呟きは、誰にも聞かれることなく夕風に溶けて消えていき……そして、首からアクセサリー型で下げている日向葵のルミナス・ジュエルがまるで己の心とリンクするかのように微かな光を放っている事に彼女自身は……気づいていないのであった。
次回はマジカル・ルビー編の最終回となります!