ニチアサ魔法少女モノに転生したら性癖終わってる奴らしかいない件 作:レイ
日向さんの提案で最初から体への負担が大きいランニングを行うのではなく、無理せずゆっくりと筋力を付けていくウォーキングへとトレーニング内容を変更して約1週間が経過した。学校が無い夏休みであるにしても、律儀に毎日付き合ってくれる日向さんには本当に頭が上がらない。ただ……ここ最近、話しかけてもどこか上の空でいつも明るく笑顔な日向さんらしくない、まるで何か大きな悩みでも抱えているかのような暗い表情を浮かべているのだ。
「……一体どうしたんだろう、日向さん……」
朝食を終えて、自室のベッドで横になりながらボソッと口から漏れ出た心配の言葉。今日も午後から日向さんとトレーニングをする予定なのだが、そのときに思い切って聞いてみるべきだろうか?でも向こうから話してこない以上言いたくない事なのだろうし、こちらから踏み込むのも……明確な答えの存在しない問題に頭を悩ませていたそのとき。
『―――みんな!この街の公園にアポカリプスが出現したフェニ!急ぐフェニーッ!!』
突然、俺の脳内に妖精フェニィの焦った叫び声が響き渡ってきて……アポカリプスが現れた際にすぐにその場へ駆けつけられるよう、魔法少女に成れる者のみフェニィは距離等関係無しにテレパシーを送る事が出来るのだ……全くこんなときに限って、少しはタイミングってものを考えてほしい。だがもちろん。
「よし……行くぞ!」
この街を守る魔法少女として戦わなければ―――場所は当然把握している、何せここ1週間は毎日訪れている場所なのだから。俺はベッドから勢いよく飛び起き、パチンと両手で頬を叩いて気を引き締め、急いで街の公園へと向かった。
「フフフ……来たわね、マジカル・パール」
公園へ駆けつけると既に日向さんに彼方さん、長崎さんといった仲間の姿と妖精フェニィもいる。そして公園の中央でドンと構えるように禍々しいオーラを放ち、こちらに不適な笑みを向けてくるのは幹部ブレイクだ。俺は彼女達と横並びになる形で立ち。
「この公園は市民の皆さんの、何より子供達にとって無くてはならない大切な場所です!それを破壊しようだなんて許しません!」
口先だけの偽善ではなく、実際にここで沢山の子供が心の底から楽しそうに遊ぶ姿をこの目で見てきている。だからこその強い思いだ……だが、そんな俺をブレイクは嘲笑うように。
「……弱くてずっと仲間に頼りっきりだったくせに、いきなり一人前面して生意気な事この上ないわね。ホント、その無駄に整った顔といい、とことんこの私を腹立たせる存在でしかないこと。いいわ、前回のがただのまぐれだったとこの場で証明してあげる―――出て来なさい!ハカイダー!!!」
ブレイクは手に持った鞭を空間にしならせると、紫色の空間の歪みからドスンと重厚な地響きを立ててハカイダーが現れた。
「ハッカイダーーッ!」
「……あの姿は」
明らかな既視感、あのハカイダーは恐らく前回の戦闘において俺が打ち破ったのと同型だ……ただ、違う点を挙げるとすれば右腕の巨大回転ドリルからはバチバチと紫色の魔力が放電がしており、明らかに攻撃力が強化されている。
「……アレはかなり厄介」
「そうですね……」
面倒とばかりに気だるげに呟く長崎さんと、彼女に同意するように苦々しく顔を歪める彼方さん……長崎さんの言う通りだ。今回のハカイダーは苦戦を強いられた前回に増して更に手ごわいはず……でも。
「私達なら、この4人でなら―――絶対に打ち勝てるはずです」
「……ええ!」
「……うん」
そう信じているし、俺だってもう足手まといじゃなく一緒に戦えるのだから……俺の言葉に2人は頷いてくれた。そして日向さんと目が合うと。
「そ、そうだね!」
「…………」
どこか気まずそうにしながらも、同じように頷き……日向さん、本当にどうしたのだろう……俺は内心不安を抱きながらも己のルミナス・ジュエルを握り「「「「オープン!」」」」と眩い光に包まれ魔法少女へと変身した。
「ハァァァァッ!!」
開戦の如く、真っ先に飛び出したマジカル・ルビーは疾風のような踏み込みから流れるような動作でハカイダーに強烈な上段蹴りを叩き込む。
ドガァァンッ!!
激しい金属音が響き渡るが、それでもハカイダーの巨体は僅かに揺らいだだけだった。
「くっ……硬いっ!」
「ハッカイダァー!」
「させませんよ!サファイア・フリーズ・プレッシャー!」
「エメラルド・グリーン・アロー!」
「パール・グラン・シュート!」
攻撃した際に生まれた隙でマジカル・ルビーに向かってハカイダーの拳が振るわれるが、マジカル・サファイアの氷結波とマジカル・エメラルドの矢に巨大な真珠の形をした光弾の3つを同時に食らわせ奴は倒れ、その拳の軌道を逸らす事に成功した。だがしかし。
「ハッッカイダー!!」
鋼の装甲に多少傷がついたくらいで、肝心のハカイダーはすぐに起き上がり咆哮を上げている。
「……ッ、私達3人の攻撃を当ててもこの程度しかダメージを与えられないなんて」
「……前回のハカイダーより明らかに装甲の強度が上がってる」
「無駄よ無駄!今回のハカイダーには私の魔力も存分に籠っているのよ、そう易々と倒されるわけないじゃない?」
「魔力強化……?そんな事、今まではしてこなかったはずです……」
思わず漏れ出た疑問に対し、ブレイクはその美貌を酷く歪ませ。
「そんなの決まっているでしょう……貴方を倒す為よ!何故なら美しい存在は世界に―――この私だけでいいの!!」
激昂した叫びと共に、その手に握られた鞭が蛇のように不気味にしなり目にも止まらぬ速さで一直線に俺へと伸びてきた。
「な……!?」
「愛音ちゃん!」
避ける暇すら与えられず、黒紫色の魔力を帯びた鞭が俺の体をバシッと強く絡め取り、そのままブレイクは鞭を力任せに引いた。そして俺の身体は宙を舞い、仲間から強引に引き離されてハカイダーのすぐ足元へと叩きつけられてしまった。
「ガァ……!?」
痛みに悶えるが、ブレイクは間髪入れずに空いた左手を高々と掲げ魔力を爆発させた。
「逃がさないわ……仲間から切り離されたその場所で独り惨めにくたばりなさい!」
ドス黒い魔力が彼女の手から一気に周囲へと広がり、俺とハカイダーをまるごと閉じ込めるようにしてドーム状に密閉されてしまった。
「ダメです!破壊する事が出来ません!」
「ッ……完全に閉じ込められてる……」
「そんな……!」
ドームの外側から日向さん達の悲痛な叫びが響き渡ってくる、ブレイクの魔力の壁は恐ろしく強固で一切の干渉を受け付けないらしい。
「ハカイダー!!」
「…………落ち着け、焦っちゃダメだ」
呼吸を乱しそうになる自分を必死に抑え込み、ステッキを力強く握りしめる。さっきは魔力を練り上げる時間がなくて威力が弱まってしまったが、今なら……!
俺はこの攻撃を撃った後の事は脳内から完全に捨て去り、体内の魔力を限界まで練り上げ……そして。
「パール・グラン・シュート!!」
最大火力の一撃を放った、だが―――
「ハッッッカイダァァァァ!」
ハカイダーはブレイクが込めた分であろう紫色の魔力を放電させた右腕の巨大回転ドリルを前面に押し出し、真珠色の光弾とぶつかり合うと……
ガガガガガガガガッ!!
「そんな……」
みるみるうちに光弾は破砕されていき、相殺しきれなかった凄まじい衝撃波と突風が逃げ場のないドーム内を吹き荒れ俺の体はそのままドームの内壁へ激しく衝突してしまった。
「はぁ……はぁ……」
衝撃で視界がぐにゃりと歪み、痛みと魔力を切らした身体は全く制御が効かず動いてくれない。そしてそんな状況でも非情にハカイダーはドリルを激しく回転させながら、一歩、また一歩と迫ってくる……逃げ場はなく、外側から助ける事も出来ない……大丈夫、仲間とならどんな困難でも打ち破れる。そう信じていたのに、全く現実は残酷だ。
「ああ……!遂にこの瞬間が訪れたのね……!」
「……ここで、終わりですか」
「愛音ちゃん……」
溢れんばかりの悔しさがにじみ出た浅上愛音の悲痛な表情を、ドームの壁越しに日向葵はその瞳で見ていた……今は状況が状況であるから当然例外だが、けれど大まかに括れば『浅上愛音の苦しむ姿』というのは普段の日向葵ならばヨワラーとして興奮を覚えるものであるはずだった。だが、今彼女の心中において己のコントロールが行き届かない、言わば無意識化の領域においてすら微塵も―――そんな性癖の感情など存在していない。
ただ頭に浮かぶのは……浅上愛音の温かな笑顔、自分を『お姫様と、カッコいいと』、そう言ってくれたあの真っ直ぐな瞳。
「嫌だ……嫌だよ……愛音ちゃんが死んじゃうなんて―――絶対に嫌だ!!!」
そんな魂の叫びと共に、日向葵のルミナス・ジュエルがまるで太陽の如く世界全てを照らすかのように光り輝き……
「これは……」
眩い光の中から出現したのは、深く燃え上がる炎のような美しい紅蓮色の大剣であった。
「―――行くよ」
考える必要などない、マジカル・ルビーは出現した大剣の柄を両手で強く握り締めると地面を強く蹴り飛び出した。疾風どころではない、空間を置き去りにするかの如く速さ。そして。
ズバァァァァンッ!!!!!
外側からは打ち破れないであろう絶対の強度を誇っていた紫色のドーム結界が、まるで紙切れのように易々と切り裂かれ四散した。
「なっ、何ですって!?」
ブレイクが驚きの声を上げる中、そんなものは耳にも入らずマジカル・ルビーはその勢いを殺さぬままハカイダーの懐へと一瞬で踏み込み、全身の筋力と魔力を全て乗せて大剣を大きく振りかぶり。
「愛音ちゃんに……手を出すなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ドゴォォォォォォォンッ!!!!!
その一撃は一刀両断とばかりに、重厚な鋼の装甲ごとハカイダーを真っ二つに切断した。当然断末魔など上げる事も出来ず消滅するハカイダー……俺は地面にへたり込んだまま、その光景を呆然と見上げていた。舞い散る火花を背に受け、大剣を持つ凛々しい姿。
そして倒したのを確認すると、くるりとこちらに振り返った日向さんは……俺が初めて彼女に助けられたあの日と全く同じ。
「安心して―――もう大丈夫だよ!」
明るく、そして優しい笑顔を浮かべているのだった―――
「くっ……覚えていなさいっ……!」
幹部ブレイクは己の魔力までも込めた渾身のハカイダーを打ち破られ、そして俺を倒せなかった事など様々な苛立ちが重なっているのか、それこそ普段よりも数十倍は悔しそうに歯ぎしりをしながら紫色の空間の中へと消えていった……彼方さんと長崎さんの2人が安堵の表情でこちらに駆け寄ってくる。そして俺はというと、よろめきながらも何とかして立ち上がり。
「日向さん……!本当に、本当にありがとうございました……!」
「お礼なんていいんだよぉ、私にとっては愛音ちゃんがこうして無事でいてくれたのが何よりも嬉しいんだからね。えへへっ」
深々と頭を下げて命を救ってくれた感謝を伝えると、日向さんは照れくさそうにポリポリと頬を掻いている。助けてくれた件もそうだけど、日向さんずっと元気無くて俺と話すときも気まずそうに目を逸らしてしまう事ばかりだったから、いつもの彼女に戻ってくれたのが嬉しい。
「それにしても……あの大剣、めちゃくちゃカッコよかったですね!」
これでも心は男だ、あんな大剣を目の前で見せられたらロマンを感じずにはいられないのである。
「浅上さんの瞳が一際美しく輝いていますね♡これは今すぐペロペロした―――何でもありません」
「?今何か言いましたか?」
「何でもありません!!!」
「は、はぁ……?」
「……沙織、うるさい……」
一件落着し穏やかな(?)空気が流れる中、日向葵は自分の胸元へとそっと手を当てていた……先ほど浅上愛音が絶体絶命の危機に陥ったとき、内側で爆発したあの燃え盛るような感情。普段の『弱り』を見たいという性癖すらミクロも抱かない、それこそ全てを超越するような想い。
「……そっか……」
日向葵はようやく理解した、これはフェチズムでも仲間としての気持ちでもない。浅上愛音という一人の少女に対する―――紛れもない恋心なのだと。その自覚と同時に最近抱いていたモヤモヤが晴れて、解放されたような気分になった。
そして空中に浮遊する妖精フェニィは、そんな日向葵の澄み切った表情を見て涙ぐみながらホッと胸を撫で下ろしていた。
「よかったフェニ、これでようやく一人まともになってくれたフェニね……!」
魔法少女達を見守る妖精として、感慨深い事この上ない。だがしかし、そんな感動も―――
「あはは……今回のハカイダーはホントに強かったですね、幸い軽傷ですがまたしても傷を負っちゃいましたよ」
浅上愛音は苦笑いしながら、スカートの裾から覗く擦りむけた自分の足元へと視線を落とした。綺麗な白磁の肌に赤い血が滲んでいる。
「―――あ♡私、今進化しちゃった♡♡」
「…………フェニ?」
謎めいた発言に思わず首を傾げるフェニィ……そう、日向葵はこの瞬間、現状のヨワラー性癖に加え浅上愛音への愛おしさという感情が奇跡のフュージョンを起こしてしまったのだ。恋心という最高のスパイスが加わったことで、目の前で傷を負っている浅上愛音の姿が以前の数倍の破壊力へと跳ね上がり日向葵の脳をぐわんぐわんに揺さぶっている。これはもうセ〇クス以上の快楽だッ。
「愛音ちゃん……♡♡♡」
こうして日向葵は魔法少女としてだけでなく、変態性癖持ちとしても見事レベルアップを遂げた。
そんな彼女を見たフェニィは。
「……希望を抱いたフェニが、馬鹿だったフェニ……」
そう、悲しげに呟くのであった。
次回から彼方沙織がメインのマジカル・サファイア編となります!