What happened in the story ? 作:斬【Zan】
実は夏風邪ひきまして、先週は投稿できませんでした。
大変遅れまして申し訳有りません。
内容的の紹介も、オリ主一択なので今回は省略します。
押していると言う事もあり、例のお約束、お願いします。
(とだけ言っておきます)
では、第14話・中編です。 どぞ。
2001年12月1日 土曜日 13時45分
アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ニューヨーク市マンハッタン区 国際連合本部ビル
国際連合安全保障理事会 軍事参謀委員会 オルタネイティブ計画本部 緊急対策会議会議場
オルタネイティブ第四計画 計画主幹委員長 香月 夕呼 博士(<<<<<)
オルタネイティブ戦略実働(A−01)連隊 連隊長 エイデン・ピアース 中佐(>>>>>)
香月博士からの報告が一旦終わった。
それにしても、何とも荒唐無稽と言うか無茶苦茶な内容に、会議に参加している主要メンバーは勿論、
オブザーバー席にまで至る全ての人間に、印象的な内容が提示された。
そして、大方一つの見解に纏めることができそうなのだが、決定的な証拠がない状況で、その言葉を
述べることは躊躇われた。
それを結論づけるためには、もう少しこのバカげた話の続きを聞かなければ成らないだろうと、参加
している人間はそれぞれが検討をし始めていたからだ。
先の香月博士の説明から、約5分ほど経過してから、隣に座っているエイデン・ピアース中佐が起立し、
発表の続きを述べ始めた。
会場に居る参加者たちは、続く発表者の言葉を聞き逃すまいと、再び沈黙をしたのだった。
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フゥ。 まだ、仕事の初旬だというのに、疲労感が半端ないのは何故だろう?
これと言うのも、ユーコさんのハチャメチャな発表がその原因なのだが、前日の打ち合わせではこうなる
とは夢にも思っていなかったので、その性で疲労感が高いんだな?
うん、ユーコさんは横浜に帰ってから、オシオキ決定っ!!
ま、”話の掴みはバッチリ”って顔でこちらに笑顔でサインを送っているので、今更修正してもな・・・。
じゃ、そろそろ次の発表を始めるとするか。
「・・・では、香月博士からの報告を引き継ぎまして、甲21号ハイヴから入手した情報について、私の方から
ご報告申し上げます・・・。」
その報告内容は、先日ユーコさんに述べた内容を中心として、丁寧語が盛り込まれている内容だった。
特に捻りも伏線も張らず、全部を”イノベイター能力”を用いて情報の収集を行ったことにした。
・・・まぁ、本当のことを言えば、実際はユーコさんもどうやって俺がハイヴ・コアとのコンタクトを取れた
のかと言う事は理解していないのだろう。
恐らく他にも方法がある事は感づいているだろうが、それを今問われても俺も答えないのは分かって
いるから、そのままスルーしたんだろう。 ま、後で追求が来るかもだが、果たして本当に答えるかは
その時次第だな・・・。
とか他所事を考えながら報告を行っていると、オブザーバー席のポルトガル代表か? から野次が
飛んできた。
「・・・オイッ!! そんな出鱈目な与太話をする為に、私達を呼び寄せたのかねっ!!
良い加減にしろっ!! さっさと日本帝国に施した、ハイヴ攻略方法を報告し給えっ!!」
恰幅の良い白人で、高齢者の学者か政治家が怒鳴り声を上げていた。
確かポルトガルはヨーロッパの西の端の方に位置していて、ヨーロッパから撤退してきた国々を支えて
いて、スペインと共にヨーロッパ戦線に留まって踏ん張っている前線国家の一つだったな。
ま、焦る気持ちも分からんではない。 だが、この野次に対しても議長であるトレイシィー空軍大将から
注意や警告が発せられることはなかった。
・・・フーーン。 つまり、大国が後ろで糸を引いて弱小国家に野次を飛ばさせているって事か。
姑息な真似を・・・・・・。 面白い。受けて立ってやるっ!!
「・・・何やら雑音が聞こえた気がしましたが、それは兎に角、順序良く報告をしたいのですが、このまま
報告を行っても宜しいのでしょうか? それとも、先程報告しましたように、皆様に分かるような形で
私の能力”イノベイター能力”を披露した方が良いのでしょうか? 如何致しましょうか、議長閣下?」
「・・・報告者の判断に任せる。
特に私は何とかという能力に興味はないが、確たる証左も無しにこのまま報告を聞くのも興が醒める
と言うものだろうとも思う。 何か具体的な事例や現象を提示することができるかね、中佐?」
「ハッ、畏まりました。
では、皆様。 こちらの巨大スクリーンをご覧ください。」
俺は正面に見えている会議場のシンボルと成っているノルウェーの画家が描いた大壁画を指した。
すると、その絵を隠すように巨大なスクリーンが会場の上の方から降りてきた。
若干会議場の照明が暗くなり、隠れていた巨大スクリーンに鮮明な解像度の映像が表示されてきた。
徐々に最初に映しだされたのは、国連のシンボルマークが表示された。
会場全体が薄っすらと青一色に染まっている中で、参加者は何とも思わずに、単にスクリーンを見ていた。
だが、会場の裏側。 国連本部の裏方連中は、大慌てで動き回っていた。
と言うのも、スクリーンに表示されているプロジェクターやら、映像元の端末、平たく言うと安保理内の
メイン・サーバのAdministrator 権限、いや、root 権限という方が正しいのだが、関係者はこれらの
権限は外部に漏れないように、普段から厳重に管理している。
だが、いきなり俺が『スクリーンをご覧ください』と述べただけで、その瞬間からシステムの権限が
一切効かなくなったから、大慌てとなっていたのだ。
ま、大変だとは思うけど、俺が”その権限”を手離すまでの辛抱と思って諦めてくれ。
そんな事を思いつつ、先程話した内容を分かりやすくプレゼン資料をイメージし、それを専用のソフトを
用いずに、表示されている文字やイラストが決まった動き方で、移行していくように標示を行い、
その内容を再度標示させた。 だが、それを見ていた空軍大将閣下は退屈そうに苦言を呈した。
「・・・どうも要領を得ないな・・・。 先程の発現を映像化しただけではないか?
これが一体どうしたというのかね、中佐?
それとも、本当に先のポルトガルの政治家、アンドレア・クレメンソ氏の言う通り、与太話を披露した
だけではあるまいな?」
「・・・いいえ。 その様なご心配は無用であります、大将閣下。
では、此処で映像を切り替えてみましょう。 この会議室もそうですが、国連安保理委員会の裏方で
あり、メイン・サーバを管理しているコントロールセンターの映像をご覧頂きます。」
俺がプレゼン資料を一旦消して、画面を切り替えた。
俺は卓上に設置されている受話器を取り上げると、番号を押さずにそのままコントロールセンターを
呼び出した。 向こうからの音声は、大会議場のスピーカーから直接流れる様に調整した。
「・・・・・・コントロールセンターか? こちらは、大会議場のエイデン・ピアース中佐だ。
そちらの監視モニターから、こちらの様子は分かるな?
先程から、メイン・サーバの管理権限を始め、その他一切の受付が行えないと思うが、相違ないか?」
「・・・? な・何でその事を・・・・・・??
ッ?! ま・まさか、アンタがやったんじゃないだろうなっ?! 巫山戯るなよ、中佐っ!!
例え階級が上で在ったとしても、やって良いことと悪いことがあるんだぞっ!!
良いからさっさと権限を戻せっ!! 安全保障関連の情報が一斉にストップしてしまったら、最悪は
最前線で戦っているユニットにも影響が出兼ねないんだぞっ!!」
「ぅん? 今展開中のユニットが居るのか?」
「・・・いいや、仮に居たとしたらの話だ。
現状その様なケースは発生していないが、万が一に備えて常に管理者権限は死守する必要があるんだ。」
「フム、確かに。 一般論としてはその通りだろうが、それにしてはアクセス内容はそれらの主旨に合って
いないと思うのだが・・・。
例えば、一部の男性局員はエロサイトにアクセスしかしていなかったり、また、女性かな? その局員は
通信販売サイトへの発注が多かったりしているぞ?
これが君の言う『万が一に備える』と言う事なのか? それとも、エロサイトを覗いたり通販に注文を
出すことが何らかの意味を持ち、それに拠って我々国連軍の運用が成されていたりするのかね?」
「うぐっ!! そ・それは・・・・・・。」
「フン、語るに落ちているでは無いかな? まぁ良い。私は監察官ではないからな。
諸君等の緩みきっている”業務意識”の改善は、本来の役目を担わされている者に一任しよう。
私から諸君への警告と言う事で、一連の騒動の意味を正しく理解し給え。
次は本当に君が言う様な『万が一』が発生しないとも限らないからな。
では、一部の権限を戻す。 通常業務に専念してくれ給え。」
と此処で俺は受話器を置いた。
一連の内容を大会議室内に居る全員は”見ていた”ので、内容は理解していた。
そして、もう一つの事実を認識した。
それは、俺が持っている「イノベイター能力」という物の凄まじさを、だ。
先の「スクリーンを」から始まって、受話器を置くまでの間で、俺が行った行動や仕草は、会議室に居る
全員は”見ていた”が、それら全ての動作は、とてもコントロールセンターの権限を阻害したり奪取したり
するような行動ではなかった。
当たり前に人間がするような身振り手振りをしただけで、それらの結果が生じているのを、目視していた
と言う事実を認識した、と言う方が正しいだろう。
「・・・如何でしたでしょうか、皆様?
これが私の持つ能力『イノベイター』です。 この様に人間社会のシステムに対しても意図しない様な
行動で干渉が行え、情報収集と解析、それと場合にもよりますが、攻撃も行えます。
これをハイヴ・コアに対して実行しました。
結果は先ほどと同じく、必要とする情報の収集に成功しました。
・・・・・・ご理解いただけたようなので、続けて入手した情報について、重大な発表を行わせて頂きます。」
此処で一旦話を置いた。
気持ちの切り替えが必要だからと言う事もあるが、報告内容が極めて重要な結果につながる為、
正しく理解させるために形式を整えたと言う事だ。
内容として、甲21号ハイヴ・コアから直接情報を引き出し、それらは大凡3つの事に集約されると説明した。
一つ目。 BETAのハイヴ・コアと言うものは、それ単体では思考力を持たない、と言う事。
甲21号ハイヴだけでなく、旧甲22号ハイヴだった横浜基地の地下ジェネレーターも同様の結果であった
ので、この様に結論付ける事ができた事を報告した。
二つ目。 BETA大戦が始まって以来、大小の違いはあるものの襲ってくる各BETAユニットの運用や
指揮は誰が行っているのか? と言う長年の疑問点の答えとして、その司令塔は甲1号の、”あ号目標”と
呼ばれるコアそのモノが特定された事を報告した。
最後に三つ目。 甲一号である”あ号目標”のハイヴ・コアと他の拠点のハイヴ・コアの関係性について
報告を上げた。
つまり、甲一号がトップカーストであり、甲二号以下はそのヒエラルキーにおいて、規模の大小はあるものの
同列の配下でしか無いことを述べた。
すると、さもそれは当然であり、今更報告されるまでもないと言わんばかりに、トレイシィー空軍大将は
不満気に言葉を発した。
「・・・中佐。 その様な当然の事を報告するために、今回の緊急招集会議を行ったのかね?
今君が報告した内容が、どれほどの重要性があるというのかね?」
「・・・大将閣下。
先ほど閣下は『当然の事』とおっしゃられましたが、失礼ですが本当にその意味をご理解されて
おられますか?」
「バカにするのもいい加減にし給えっ!! 甲一号目標を潰せば、この馬鹿げた”BETA大戦”は我々人類の
勝利で終わるっ!! そんな子供でも知っているような事柄が、どれほどの重要な情報だと言うのかね?」
「・・・・・・ああ。 やっぱり、誤解されておられますね。
大将閣下。そして、皆様。 この情報の本当の意味を正しくご理解して頂きたい。
先程ネーサン・トレイシィー米国空軍大将閣下が述べられた解釈は、全くの間違いであると言う事を
です。 甲一号目標を駆逐できたとしても、我々が直面している”BETA大戦”は終決しませんっ!!」
今まで、あまり声を荒らげるというような事はしなかった、紳士的な態度のトレイシィー大将は、初めて
その猫の皮を拭い去り、本性である荒々しげな態度を晒した。
ドスを効かせた声で、高圧的な態度で詰問してきた。
「どう言う意味だ? ピアース中佐っ!!」
「では、ハイヴ間の関係性を説明しましょう。
入手した情報を解析した結果、その関係性は人間社会で言う所の”親”と”子”の様である、と言う
結論を得ました。
親子と表現が曖昧であるならば、人間で言う【頭脳】は”あ号目標”が、他の手足等はその他の拠点
ハイヴ・コアがその分担を担っている、と申した方が分かりやすいかと思います。
その根拠として、各地域を統括する拠点のハイヴ・コアの役目は、全て甲一号である”あ号目標”から
トッブダウン方式で戦術指令や”開拓”オーダーが発せられ、その要求を満たすためにハイヴ・コアは
監督下に居るBETAユニットに割り当てなどの指示を出している、中継所的役割しか持っていない事が
判明しました。」
「?? そんな事は分かりきっている。 だから、甲一号を駆逐すれば良いだけではないかっ!!」
「ですから、そう単純な話では無いのです。
では、甲一号の親は誰ですか?」
「?!? こ・甲一号の『親』だと?? ・・・・・・・・・月の・・・・・・ハイヴのどれか? と言う事か?」
「正解です。 私が親子と謎ったのは、正にそれが述べたかったからです。
地球上の甲一号が沈黙した場合、親である月のハイヴ、仮にMoon1と仮称しますが、そのハイヴは
子供であるところの、地球の甲一号に対してどう言う行動を取ると推測されますか?」
「つ・月のハイヴが行動を起こす?! い・いや、ちょっと待てっ!!
ナ・何も本当にそうなるとは・・・・・・。 か・仮にそうなったとしたら・・・・・・。」
ネーサン・トレイシィー空軍大将は、俺からの問いかけに対して悩み始めた。
彼は第五計画派に所属する、バリバリのG弾信奉者だった。 だから、単純にG弾を用いてハイヴを
空爆できれば、”BETA大戦”に勝利できると信じている軍人だった。
だが、その親元である甲一号の更に上の存在、と言われるとその思考は混乱を極めた。
遥か遠い月のBETAの事など、すっかり忘れていたのだから。
俺達の遣り取りを見ていた大会議室に居た面々は、一気に不安にかられ声にならないドヨメキがあちこち
で起こった。
従来の絶望的結果情報を聞いてきた、この会議に参加している面子は勿論、オブザーバー席からも
その生々しい情報に驚愕の声が立ったのだ。
傍を見ると、先ほどまで笑顔でサインを送っていたユーコさんは、一変してその表情を真剣なものに変えて
この様子を見ていた。 その表情は、この不様さを怒っているように思えた。
その意味を考えてみると、それは俺の報告内容に驚いていたユーコさん自身の不甲斐なさと、目の前で
狼狽えているオルタネイティブ本部連中の不様さが重なっていると思えた。
ま、今はそれは考えないようにして、さっさと報告を済ませよう・・・。
主要テーブルに座っているイギリス代表の後ろの補佐席から、イタリア陸軍から出向している陸軍少将が
質問を加えてきた。
「ピアース中佐っ! で・では、貴官は月のハイヴ、Moon 1はどの様な行動を起こすと推測するのだっ!
ぐ・具体例があるのなら、報告し給えっ!!」
当然の疑問であるのだが、”地球上の”と”地球圏の”とでは、意味合いが全く異なる。
俺はそれの説明のために少将からの質問に答えることにした。
「少将閣下のご懸念も分かります。
推測の域を出ませんが、小官が想定しました最悪のケースの場合、次のような内容になりました。
1973年に甲一号が月のハイヴから降下してきたのと同様に、指揮官ユニットを含むBETAユニットが
地球に複数再降下してくるものだと思われます。
また、地球の陸地海洋の比率を考えると、ワザワザ3しかない陸地を目指さず、7もある海洋の中に
着水する可能性が高いと思われます。
そして、そうなった場合、もう我々には迎撃できるような手段は有りません。」
「? 何故かね? それこそ米国がカナダに対して行った、核ミサイル攻撃を行えば、初期の段階で
あればハイヴ・コアを迎撃できるではないかっ!!」
「小将閣下、本気でおっしゃっておられますか?
海洋の、しかも海底の深海に核ミサイルを撃ちこむ等と簡単におっしゃらないでください。
それこそ、1940年台や50年台に盛んに行われた核実験宜しく、海中や土中実験と称して核汚染
される領土領海が増えると、今度は人類側の生存可能地域が限られることとなりましょう。
また、昨今の食糧事情の悪化により、海洋プラントの開発が行われ、現状何とか食いつないでいる
状況下で、核汚染が成されることが分かっている状況で、核ミサイルを海底に撃ちこむなどと
おっしゃらないで頂きたい。」
俺がその様に抗議の声を上げると、それに呼応するかのようにオブザーバー席に居たカナダ出身の
政治家や軍人の人間から、同じように抗議の声や拍手が起こった。
どうやら、米国から十分な補償を充てがわれていても、その辺りの心情は納得できていないらしい。
些かバツの悪そうな表情をしてイタリア陸軍の小将は押し黙った。
彼も言わされた口なのだろうか? ・・・いや、暴発した感が否めない。
俺よりも若くして、苦労もなく”小将”の階級を”与えられて”満足している、何処かの御曹司らしい。
俺は締めくくりとして、結論を述べることにした。
「・・・此等の予想から、私達第四計画としての戦略目標を次のように修正することを、皆様にご報告
申し上げます。
【対BETA大戦上の戦略目標は、地球上の甲1号ハイヴの”あ号目標”に加え、地球圏内の活動を
統括していると思わしき”Moon 1”もその対象に設定する。】
私が今回皆様の招集を香月博士にお願いした情報は、正にこの為であったと申し上げたい。」
再び会議室全体がドヨメキ、騒然としだした。 ま、無理もない。
そして誰もが思い、言葉にできない事柄が在った。 それを言葉にするとそうせざるを得なくなるので
誰もがそれを考えたくなかったから、言葉にできなかったのだ。
だが、勇気があるのか無謀なのか、一人の将官が質問を出してきた。
議長のトレイシィー空軍大将からだった。
「・・・ピアース中佐。 貴官の報告内容で言う所の戦略の修正について、貴官であればどの様な作戦を
立案するのが妥当だと思うか?」
「・・・僭越ながら、私が考えるBETA攻略の為の作戦案骨子は、地球上の戦略目標を殲滅後、返す刀で
月面の戦略目標に対しての電撃攻撃を加える”二正面作戦”の立案を愚考致します。」
「フム・・・。 やはりそうなるか。
しかし、先に地球上のあ号目標から攻略するのではなく、月面のMoon 1 を攻略する事をしないのは
何か理由があるのかね?」
「・・・大将閣下。 閣下の申される戦略を考案した場合、その方針の中で私が気にするところのものとして、
火星のBETA勢力の動向が掴めていないことが挙げられます。
人類がBETAを最初に確認したのは、1958年の火星探査衛星・ヴァイキング1号からの受信データが
一番最初でありました。
であるならば、太陽系の他の惑星にもBETAは既に侵攻を行っていると仮定した場合、太陽系外縁部
から恒星である太陽方向に向かう侵略ルートが想定されます。
つまり、月面を叩くことができたとしたら、次の脅威は火星からの勢力、と言う事を懸念せねばなりません。
ですが、幸いな事に地球軌道と火星軌道では公転周期が異なるため、火星BETA勢力は容易には
地球圏に襲来できるとは思えません。
拠って、地球圏防衛を考えた場合、有効である手段を構築するためにも確実に地球圏の安全を確立する
方針を建てた場合、第一目標は主星である地球上のあ号目標を設定し、次に第二目標としてMoon 1
を設定するのが妥当であると考えます。」
「・・・なるほど。 しかしな、中佐?
容易に『二正面作戦』と言うのは簡単だが、その内容はとてつもなく面倒であり、現状の総兵力を
以ってしても、作戦運用が行えるかは未知数だ。
いや、寧ろ国連軍や多国籍軍の連携を鑑みて、成功確率を計算しても、それは0%に近い数字だと
言えるのではないだろうか?
そう言う部分も含めて、今後の戦略方針を立案せねばならんだろう。」
「・・・はい。 それは大将閣下がおっしゃられる通りだと思います。 今この問題についての結論が
出るとは私も思っておりません。
問題は先延ばしにできませんが、議論を重ねる時間は掛けねば成らないと思います。
では、話題を切り替える、と言う意味で、他に収集した情報について報告を行いたいと思います。
甲21号ハイヴ内で収集した情報は、実はもう一つあります。
それは、グレイ物質についての情報となります。」
俺のこの発言は、先ほどまで絶望的な雰囲気を、確かに幾らかは場を明るくさせた。
その内容については、この後の話次第で明暗が別れることになりそうだと思いつつ報告を続けた。
「私が甲21号ハイヴ内の”貯蔵庫”からサンプルとして採取したのは、グレイ6,9,11の3種を各500cc分
拝借しました。 後でこれらの戦略物資は、所属国である日本帝国に返却させて頂きます。
さて、此等の物質に関する情報を、同じく甲21号ハイヴ・コア内にて記録されていた情報を元に、
解析を行った所、面白い情報を入手することができました。
その内容とは、グレイ6に関する情報でした。
昨今の研究成果により、グレイ9は超電導物質である事が判明しつつ有り、その有用性を研究されて
おりましたが、BETA共はグレイ6を情報伝達物質として活用していることが分かりました。
取り分け我々が知る所の物として、ハイヴ内部の壁材の中にそれらを使用することにより、ハイヴ内部に
侵入した異物、・・・もとい。 BETA共にとってのと言う意味で”異物”とは、具体的には我々の攻略部隊
であるところの、軌道降下兵の事を指しております。」
俺はそう言いつつ、自席を離れ、別に用意していた小袋の中から幾つかの破片を取り出し、主要メンバー
が着席している対面から、その破片を手渡していった。
俺の狙い目としては、実際に人類もグレイ6の使用を実感させる目的で結晶体を通じて、参加したメンバー
に共通の情報を共有させることを目的とした。
やり方として、食べ物等では食べた物の情報、味・形・風味・感想・嗜好などが思いつくが、それは個人に
とっては開きのある情報だと言える。 それぞれの情報の表現を数値化などして表示させ、第三者が見て
も認識を共有させることはできるだろうが、しかしそれとて、直接的な情報では在り得ない。
だが、グレイ6を通じてであれば、各個人が思っている情報を他の個人に伝達することができ、
認識や意識を共有させることができるので、この点を体験する為に説明した。
手始めとして、牛肉を使った料理について、性別も出身国も宗教すら異なる主要メンバーに、思い思いの
牛肉料理のイメージを想像させて、その情報を参加者達で共有情報として感じさせた。
結果的に言うならば実験は概ね成功した。 ”概ね”と評したのは、主要メンバー内に宗教上の理由で
牛を食することを忌避する人間が居たので、彼からの拒絶イメージが、他のメンバーに情報の阻害を
生んだので、彼の持っている情報のみ排除したからだ。
「・・・概ね皆さんで、情報の共有は行えているように思えるのですが、如何でしょうか?」
ある程度の牛肉を使った料理のイメージを共有できたためか、それぞれの感じ方に差分があったが、
その大数がステーキなどの料理について、共通の情報を得ることができていた。 というのも・・・
「うぅむ・・・。 私が普段美味と感じていた感覚は、他の人間にとっては”大味”と評されるのは、納得の
行かない部分があるが、しかし、確かにDr.香月の感じたサーロインステーキの方が美味だと言う
情報に偽りが無い事は納得できる。
個人的にこれらの情報は、目から鱗が落ちるほどの衝撃だと思う。
こうも個人の感じ方による違いが生じるとは、驚かされたな・・・。」
と言うように、トレイシィー空軍大将が、一番感銘を受けていて、参加したメンバーは苦笑いを浮かべている
と言う結果に終わった。
兎に角、この実験によりBETA達は、各ユニットが持っている情報がハイヴ内に入るやいなや、即座に情報が
中枢のハイヴ・コアに知らされる仕組みを持っている事を明かした。
これの意味する所は、軌道降下兵がハイヴ内に突撃した場合、迎撃までのタイムラグはあるものの、
どのくらいの規模の敵が侵入したか、ハイヴ・コアは即座に検知でき、ハイヴ内に居る各ユニットは
侵入現場にどのくらいの速度と規模をもって対処すれば良いか直に分かると分析した情報を提示した。
途端に参加している全ての人間の表情に緊張が走った。
俺はこの件を区切る為の言葉を述べることにする。
「・・・この様にグレイ6を用いることで、BETA共はハイヴ内戦闘を乗り切ってきました。
ソビエト陸軍第43戦術機甲師団ヴォールク連隊はじめ、多くの軌道降下兵達は何の情報も持たずに
これらの犠牲になってしまっていた、と言えるかも知れません。
もっと早くにこれらの情報が分かっていれば、ヴォールク連隊は無理でも軌道降下兵の犠牲は減らす
事もできたのではないかと思うと、慙愧の念に絶えません。」
ある者は憎々し気に、ある者は消沈した。表情はそれぞれバラバラだったが、グレイ6が齎す機能と効果に
戦慄を憶えたようだ。
ここで話を終えてしまえば、グレイ6の有効性を解くことはできないだろう。
『新概念戦術機構想』についても報告したいのだが、このタイミングでやって良いのだろうか?
みすみす、重要な戦術機情報を教えるのは、業腹になってきたな・・・。
「では、以上を持ちまして、グレイ6に関する情報の報告を終了します。
ああ、最後に補足ですが、我々第四計画は先のグレイ6について、その有用性から新戦術機構想を
策定しました。
ただ、現段階的には”青写真”の様な段階で、とても計画的に運用できる状況で無かったため、
第四計画としてのプロジェクトには組み込まれていません。
また、グレイ6の有用性の高さから、一時実験的に試用した機材や部材など、それらを扱う専任の
研究チームは、横浜基地司令部付き教導部隊の一部として組み込みました事を補足事項として
ご報告しておきます。」
最後の最後に、ボソッと、トンデモ報告を混ぜておいた。
これにわずかに反応したのは、勿論ユーコさんだけだった・・・。 おやっ?! 意外にも煌武院殿下も
呆気にとらわれているかの様な、鳩がマメを喰らったかのような顔をしてこちらを見ている。
・・・意外に目ざとい性格をしているな、あの人・・・。
俺からの報告が終了した、と言う認識しか持っていなかったためか、議長役のトレイシィー空軍大将は
報告内容をスルーして、会議全体を進めようとしていた。
議長を始め、第五計画派は先月日本帝国が国土復帰宣言をした背景に、第四計画が絡んでいる事を
既に承知していたので、その詳細情報が報告されることを期待して、こちらからの招聘に応じていた。
そして、その全貌とまでは言わないが、一部の報告を聞いたのだが、しかし知りたいと思っていた情報に
たどり着いていないことから、さらなる報告を聞き出すべく対応を検討する時間を要した。
その為、一旦休憩を挟み30分後に会議を再開することを宣言して、一時会議を閉廷する事が述べられた。
「・・・アンタって、どーしてああ言う事を言うかしらねぇ〜〜・・・。」
会議場から関係者の控室に移った俺達は、コーヒーを飲みながらユーコさんから説教を喰らった。
勿論、控室に入るなり盗聴器や盗撮器、爆発や毒ガスなどの危険物の有無を確かめてから休憩を
行った(盗聴器と盗撮器はあったので、排除しておいた)。
「でもね、ユーコさん。
後でゴチャゴチャ文句言われるよりも、あのタイミングでスルーされておいた方が良かったと思うよ。
あの発言に気づいたのって、ユーコさん以外だと殿下くらいだから。」
「・・・まぁー、そりゃそうでしょうよ。 だって、私達第四計画が引き上げたら、帝国内には国連軍基地を
提供する必要がなくなるから、横浜基地は元の白陵基地に戻るのだから。
基本的に、第四計画に提供している関係の”国連軍”な訳だし、私達が引き上げたら、私は民間人に
まりも達軍人は”日本帝国軍”に戻るからねぇ〜〜。」
「なるほど。 そう言う理由か。
じゃ、殿下からの追求とかは無いって思っていても良いのかな?」
「・・・どーでしょうね? 私は殿下じゃないし、彼女の性格は全く知らないから、私みたいに割り切れるの
なら、不問で済ますでしょうね。 でも、後日の憂いを出させないおつもりなら、この休憩中か休憩あけの
会議直前に質問するんじゃないかしら?
ま、議長のトレイシィー大将閣下が汲み取るかは望み薄だろうけど・・・。」
「うーーん、どうする? 後半戦はユーコさんが第五計画に止めを刺すんでしょ?
その前に茶々が入るのって、邪魔にしか成らないんじゃないかな?」
「・・・ま、成るようにしか成らないわよ。 今此処でアレコレ言っていても始まるわけじゃないわ。
まぁ、現状第五世代機しかロールアップしていないし、他の機体って進捗的にどうなの?」
「えーーっとね、 第五世代機は、準の方が1,000ユニット分用意完了している。 あっ、ノーマルスーツは
装着者の違いがあるから、ソッチの方は数に入っていないよ。
んで、正規の方で使えるのは大凡80機ほどだね。 他に教導用に複座席にしたのが12機ほど。
残りは整備やカスタマイズ化する予定の7・8機ってことでスペア取りようだね。
んで、第六、第七、第八用に各2機づつの枠でストックされていて、ホントのホントに2機だけ余りが
残った。」
「フンフン。
でも、ノーマルスーツに搭載するグレイ6関連部品は、準と正規分の1,108機分は確保済みで良いの?」
「うん。その数は既に確保済み。 と言うか、ノーマルスーツだけで言うならば、他のユニバ用にも確保が
必要だったから、スーツとグレイ6関連部品とで、2,000体分は製造して保管してあるよ。
一応、俺とユーコさんの分なら、今持っているから、直ぐにでも着替えられるし・・・。
そ~言えば、まだユーコさん着たこと無かったっけ? 着てみるかい?」
「何、馬鹿なこと言ってんの? 冗談でも質が悪いわよ?!」
いたずらっ子に注意する様な、”メッ”と言う表情を作り、こちらを睨むユーコさん。
でも、いつかはノーマルスーツを着せてみようと、密かに思う俺だった。
特に俺達の方で方針転換を行うような打ち合わせはしなかった。
と言うのも、盗聴器などが仕掛けられているのは承知の上で、それらに対応する為に、事前にシナリオは
用意していたから、ある程度のサインによって、この後の展開は準備していたとおりに展開することを
確認済みだった。
そんなこんなで、30分の休憩を挟んで、後半戦の会議に望んだ。
>>>>>
「・・・それでは、定刻となりましたので、再び会議を再開します。
先の第四計画の香月博士とピアース中佐の発表は、我がオルタネイティブ計画に於いての主目的で
ある、BETA戦略基本方針に些か則っていないとの多数の意見を受け、この後の会議に於いては
それらの不要要素を外した内容に吟味を加えつつ進めたいと思います。
まず最初に、我が米国が主導します第五計画から、ジョージ・オブライエン博士より諸情について
詰問を始めます。」
と、決められた台詞を吐くトレイシィー空軍大将。 議長には収まっているが、完全にお飾りでしか無い
為か、裏で糸を引いていた人間の一人が出てきた形だ。
このオブライエン博士は、主に”方舟”計画の主導的責任者であり、余り表舞台には出てこない人間だ。
普段は地球と月の中間点(L1・ラグランジェポイント1)で建造中である宇宙船団の製造指揮を行って
いるのだが、どう言う訳か今回は地上に降りて来て、この会議に参加している。
最初、大会議場で彼を見かけたユーコさんも、そのことに驚きを隠せなかったらしく、今も隣で少し緊張
気味にして、オブライエン博士を見ている。
さて、どう言う追求を始めるのやら・・・。
「ただ今ご紹介に預かりました、ジョージ・オブライエンと申します。
私は宇宙物理学を専門にしておりまして、第五計画においての”方舟”計画の方の主幹管理責任者を
務めております。
さて、先ほど来より、第四計画の香月博士、及びピアース中佐から、とても興味深い報告をして頂き、
大変感銘を受けたのですが、私達オルタネイティブ計画としての主要戦略方針と報告内容を照らし
合わせ検討した所、些か戦略方針を逸脱している部分があることに気が付き、それについて香月
博士より補足説明を受けたいと思い、本会議の議長であるトレイシィー空軍大将閣下にお願いして
この場に出させて頂きました。 私にこの様な大役を認めていただき、大将閣下には感謝の意を
表したいと思います。」
ふーーん。 こいつ、ユーコさんに喧嘩をふっかけているって訳ね。
どーせ、建造物資が宇宙に届くのが遅いとか、イチャモンを付けに地上に降りてきたついでに、第四計画
自体を潰して、その空いた分の予算とか物資を横から掻っ攫うつもりで出てきたのかもな・・・。
「・・・お久しぶりですわね、オブライエン博士。
珍しく地上に降りて来られていたとは、ついぞ知りませんでした。
地上とは異なって、上下左右もわからない宇宙空間での長期作業、ご苦労様です。
さて、そのご苦労人である博士から、私達にどの様な質疑があるのでしょうか?
早速始めて頂けますか?」
にこやかに笑顔を浮かべながら宣戦布告を受けたユーコさん。 ぅんー? 静かに怒っている?
それから両博士間で、激しい論戦が始まった。
オブライエン博士曰く、ユーコさんの実験はいきあたりばったりであり、とても第四計画の成功結果とは
呼べない、との趣旨のイチャモンが飛び、それに呼応してユーコさんは因果律量子理論に基づいての
実験であり、たまたまであっても、結果的に成功した事についての実績は、立派に第四計画としての
責務を果たしていると応じた。
まぁ、平たく言うと・・・、
『実験成功してねーじゃん』『成功したんじゃ、文句有っか?』『大いに有るわい、ざけんなっ!!』
ってことだな、うん。 俺始め、議長や主要メンバー(科学者以外)、オブザーバー席(科学者以外)は
この遣り取りを、ウンザリとして眺めているだけだった。
んで、切れた。 主にトレイシィー空軍大将閣下が。 他にも軍関係者は切れかかっている。
ユーコさんとかオブライエン博士? キレるわけ無いじゃん。 一応、論戦のプロよ? この程度でキレる
ほど、低脳な訳ないじゃん? 俺も切れていないけどな。 呆れているが・・・。
「両者、いい加減にし給えっ!!
ここは会議を行う場であり、科学的根拠を論破するために招集している議場ではないっ!!」
「(チッ)・・・大変失礼しました。大将閣下。
いや、久々に論戦などできたので、私としたことが熱くなり過ぎましたかな・・・。」
「(今こいつ舌打ちしていたわよ? お飾りとは言え第五計画派の軍幹部に敬意を払えないって・・・。
これだから選民意識の差別主義者は嫌なのよっ!!)
確かに、議長閣下のおっしゃられる通りだと思います。 もう少し冷静に礼節に則り議論することに
致します。」
まぁ、このまま進めても良いんだが、一応俺のことも含まれているから、俺からも相手の博士に対して
質問してみよう・・・。
「あの、宜しいでしょうか、オブライエン博士?
初めまして、エイデン・ピアース中佐であります。 先ほどの議論の続きと成るのでしょうが、
オブライエン博士がどの様な認識をお持ちであっても、私が持つ「イノベイター能力」の性能について
実践をご紹介させていただきましたが、それについては、博士はどの様にお考えなのですか?」
「ああ。 初めまして、ジョージ・オブライエンと申します。
私もイリノイ州はシカゴの出身なのですよ。 同郷の方と一緒の仕事に付けるとは、感銘深いものが
あるのですね。 初めてその様に思いましたよ。
さて、些か失礼な部分が有るのかも知れませんが、宜しいでしょうか、中佐?
私に言わせると、貴官の「イノベイター能力」と称するものは、トリッキーな手品の一種だと、私は考えて
おります。
何故その様に思ったのかというと、先ほどの休憩時間にコントロールセンターに赴いて、関係者に
事情を聞いた所、凡そタイミングさえ合えば、コントロールを奪うことは可能だとの結論に至りました。」
「ホゥ。なるほど。
私がワザと皆様を信じこませるために、その様な演出を行ったとおっしゃるわけですね?
確かに、事前にバックドアを仕掛けたり、root 権限を調査できていれば、特にこの大会議場で操作
などせずに、ウィルスのようなプログラムを走らせることで、一連の事象を演出する事ができるやも
しれませんな。 ま、可能性の一説と言う事でお伺いはしておきたいですが、真実は一つしか無いと
言う言葉を博士はご存知ですか?」
「・・・ええ。 確かに真実は一つしか存在しませんね。
多数の正義正論はあっても、それは唱える人間に拠っては本当の事となり、つまり、正論が複数に
生じてしまう結果と成る。
故に、唱える人間の多少にかかわらず、結果として残っている現状こそが真実である、という事ですね?」
「ええ。
では、それらを踏まえて、博士が私にはその様な能力が無いのだとおっしゃられるのであれば、
私はどの様な方法を以って甲21号ハイヴ・コアを撃破した、と言う事実については、どう思われて
おられますか?」
「おおっ!! やはり、甲21号ハイヴのコアを破壊したのは、貴官でしたか!!
いや、その方法論などについては、私では想像もつかないのですが、少なくともイノベイター能力で
撃破したのではないと思っておりますよ。」
「ーーーーー・・・・・・。 まぁ、確かに撃破とイノベイター能力は関連性はありませんでしたね。
ですが、情報の収集を行うにあたっては、イノベイター能力を行使したのも事実なのです。
主にイノベイター能力を前に出したのは、この能力が第四計画に拠って齎されたことを指しております。
故に、香月博士の功績であり、それは確かに第四計画としての実績であると申し上げます。」
「ホゥ・・・。 しかし、イノベイター能力なる、私に言わせればペテンの一種について、それが無くても
ハイヴ攻略は可能だったのではないかと思うのですが、その点では中佐はどの様にお考えですか?」
「・・・何故にイノベイター能力が不要であると思われるのか、私には理解できません。
ペテンであるという説についても納得がいきません。 休憩前の会議に於いて、グレイ6の解析には
イノベイター能力を駆使しなければ、気づけなかった部分も有りましたし、それを「ペテン」の一言で
すまされては、グレイ6の有効性も嘘であるとおっしゃられるのでしょうか?」
「・・・情報伝達物質である、と言う”可能性”までは否定しませんが、あの実験においても、個人の感想や
感じた情報を他者へ伝達できると言う部分が、胡散臭く思います。
科学的根拠に乏しく、私としてはあの実験と称する見世物は、暗示や催眠術の一種で対応できると
感じているからです。」
「・・・なるほど。 では「イノベイター能力」を用いた”攻撃要素”を”現実に”表せれば、博士はこの能力が
現実に起こっている現象であるとご理解いただける、と解釈してもよろしいですね?
分かりました。では手っ取り早く、『イノベイター能力を使った攻撃要素』の具体例を上げましょう。
丁度昨日、私と香月博士が宿泊したハイアットホテルに、盗聴器が仕掛けられておりまして、それの
発信元を辿り、盗聴している機器にある特殊なマルウェアを仕掛けておきました。
そのマルウェアは、感染した機器の情報に制限を掛けると言う特徴を持ち、タイムリミットギリギリまで
感染拡大を行い、感染した機器はそれ以降の業務が行えない状態になります。
盗聴器は都合3つありまして、その内の二つはKGBと地元マフィアのものでした。
タイムリミットを本日の正午としましたので、もうそろそろ感染した機器は一切使えない状態に成っている
と思いますよ。 ソフトの駆除を行おうとしても、削除する端からダミーファイルをコピーしまくるので、
人の手に拠って対処することは凡そ無理でしょうし、対応できるのは私くらいじゃないかな・・・。」
この俺の発言を聞いていた、ソビエト連邦の軍人らしき人間が慌てて会議室から飛び出した。
その軍人は、会議が終わった後ハイアットホテルまでやって来て、感染したコンピュータの修復を依頼して
くるのだが、当然俺はその依頼を撥ねのけた。
俺はその後も、言葉を続けた。
「・・・とは言え、これだと現状的に即効性が有りませんね。
うーーん、もういっその事、米国が誇るミサイル包囲網に侵入して、大統領コードを模してノーラッドの
核ミサイル発射シーケンスでも誤作動させましょうかね? 目標を甲1号のあ号目標として・・・。
トマホーク・ミサイルなら、30分ほど掛かりますが、太平洋を越えて目標に到達できるでしょう。
まぁ、BETAのレーザー種の迎撃があるので、太平洋上で叩き落とされるとは思いますが・・・。」
この俺の発言には、米国と中国の両代表部が主体となって抗議し、儚い夢と消えた。
だが、俺の能力を疑うのであれば、俺は迷わずに能力を使う姿勢を崩さなかったので、三竦み(俺・
オブライエン博士・議長たち)状態となってしまった。
俺曰く、
「私は能力の証明が行えれば何でも良いので、その手段としてのICBMを例に上げただけです。
それの何がいけないのですか?」
と撃ちたいアピールを行った。 人の能力をペテンと評したのだから、これで文句を言われるのは
俺的に心外だった。
だが、アメリカ代表部から、
「大陸間弾道弾は君のおもちゃじゃないっ!! 一体いくら費用がかかると思っているんだっ!!」
と文句を言われた。
また、中国代表部からは、
「我が国の領土を核ミサイルで攻撃するとは何事だっ!! これだから、アメリカ人は非常識なのだっ!!」
と見当違いの文句を言われた。 攻撃対象は甲1号のあ号目標って宣言聞いていなかったのか?
しかも、レーザーで撃ち落とされると推測までしていたのに、そこを理解できないとは、アンタの頭は
南瓜か何かの飾りなのか? まぁ、喧嘩を売った事は認めるが・・・。
この様に、話が進まなくなってきたので、議長であるトレイシィー空軍大将が仕切り直しの声を上げた。
「いい加減にし給えっ!!
会議を始める前に、一番最初にも言ったはずだが、この会議は国家間の喧嘩を行うための物では
断じて無いのだっ!!
それと、ピアース中佐は、君の能力がペテンであろうとなかろうと、余計な喧騒を招くような発言は
厳に謹んでもらうっ!! 判ったかっ!!」
・・・この注意についても俺は納得できなかった。
そもそも喧嘩を売ってきたのは、第五計画のオブライエン博士だったのに、トレイシィー空軍大将も
第五計画派だから、同じ派閥のオブライエン博士はお咎め無し的に話をまとめてしまった。
俺は気に入らないので、了解の意を示す態度は直ぐには取らなかった。
通常の軍人の態度的には、この対応は全くダメだが、しかし今これを認めてしまうと第四計画的に否を
認めてしまうのと同じなので、これは受け入れることは出来なかった。
すかさず切り返すための一手を打たなくてはいけない。 何か良いネタは・・・・・・、有ったっ!!
でも、これは本来はユーコさんが追求する為のネタだったんだが、ここまで来たら俺がする方が自然だろう。
ユーコさん、ごめんね。 オシオキの件は無かったことにするから、第五計画への止めは俺が貰っちゃう
事にするよ。
「・・・では、議長のお言葉に従い、奇を照らった事例を上げるのは止めて、本題を追求することにします。
本来ならば、この様な会議場にて追求や弾劾を行うのは十分な手回しができていない証左として、
後ろ指を指されてしまうのですが、議長閣下はじめオブライエン博士を筆頭に第五計画派が
その様に望むと言うのであれば、已むを得ません。
正論で正面突破させて頂きます。
そもそも、私達”オルタネイティブ”の名を冠する計画に携わる人間にとって、各計画の派閥はあっても
その目的とするところは、常に一つ、それは『人類の勝利』であります。
私が属する第四計画も、議長閣下やオブライエン博士が属する第五計画も、その目的に向かい切磋
琢磨している訳ですが、それでもやって良い事と悪い事の分別は踏まえて、日々努力を重ねております。」
と、此処で一旦区切った。すると、トレイシィー空軍大将から苦言がやって来た。
「中佐。 そんな当たり前の事は述べなくても良いから、さっさと議論内容を披露し給えっ!
時間は無限ではない。有限である時間を無駄にする奴は許さんっ!!」
とお叱りを受けてしまった。 ま、慌てなくても、今からアンタらを追求してやるから、チョット待ってな。
議長からの注意を受けても、俺は気にせず続けて発言した。
「・・・それらの努力の中には、”情報の収集”と言う行為も行い、”となりの計画”がどの様な進み具合を
しているか見てみたり、内容を検討すると言う事も行っております。
そして、先日、”となりの計画”である第五計画の機密情報を、米国のサーバーにアクセスして見て
いましたら、とんでもない内容が記述されていたので、その事についてこの場で言及したいと思います。
追求したいのは合わせて2つの事柄です。
まずは皆様、正面のスクリーンをご覧ください。 表示されているのはこの会議場のサーバーから
一旦CIAのサーバーを経由して、ペンタゴンのサーバーにアクセスします。
こうする事で、現在コンピュータネットワークが使用不可の状態でも、目的とするサーバーに対して
堂々と正面から情報を掴むことができるのです。」
すると、アメリカ代表部の後ろで控えていた、背広を着た役人風の男が激昂して叫んだ。
「ちょ、チョット待てっ!! どうして、ワザワザCIA(ウチ)のサーバーを経由する必要が有るんだ?!
ピアース中佐っ!! 君は所属している組織を裏切るつもりかっ!!」
「はぁ? 私はCIA正規職員でも、非常勤職員でも、現地サポーターでも、CIAには一切関わりは
ありませんが?
先程私は、『盗聴されたから、発信元にマルウェアを仕込んだ』と申しましたよね?
3つの発信元が有り、KGBと地元マフィアであると申しましたよね?
で、最後の三つ目については言っておりませんでしたが、KGBときたらついでに挙げられる組織は、
シー ・・・そう言う事ですよ。」
俺はとっても”良い笑顔”(デビル・フェイス)でそう答えた。
俺を詰問していた男は脱力して席に着いた。 その後ろに控えていた秘書らしき、ビジネススーツを着た
女性が、先程退場したソビエトの軍人宜しく、大慌てで会議場から出て行った。
まぁ、今から確認に行ったところとて、手遅れなので仕方がないだろうに、宮仕えは辛いよね・・・。
その間もずっと、ネットワーク接続されている為か、あらゆるアクセス画面には外部からのアクセス表示が
出てきており、ログイン名とそのパスワードを入力する2行が表示されているのだが、アカウント名は
「Administrator」一択で、パスワードはエンター(未入力)で突き進んでいる。
こうなってくると、機密も何も有ったものじゃない。 正にやりたい放題。
ああ、でも誤解の無い様に言っておくと、俺がアクセスしているからこの様にシステムが使えているが、
他の正規職員がアクセスしようとしても、文字化けは当たり前だし、入力を一切受け付け無いなどの
状態だから、俺以外の人間は『手も足も出ない』状態だから。 そこは間違えない様に。
(注:作者の声:それって、「仕込んだのは私です」って言っている様なものじゃ無いの?)
「(・・・ぅん? 何か電波が聞こえたような・・・?
何かよくわからないが、『正解です』と答えておこう・・・。)」
閑話休題
で、目的とする画面まであと少しと言うところで、議長のトレイシィー空軍大将が、護身用のグロック21を
引き抜いて、俺を銃撃してきた。 警告なしの発砲に議場は騒然と戦慄した。
当然、俺は説明していない属性付加能力を使い、弾丸が俺に到達するまでの僅かな時間で障壁を俺と
ユーコさんの周りに展開し終えた。
障壁に当たった弾丸は、そのまま弾かれて会議室天井に跳弾して行った。
俺は落ち着いた声で、トレイシィー空軍大将を詰問した。
「議長閣下、何をなさるのです?! お気を確かに。」
「だ・黙れっ! この売国奴っ!! こ・国家機密をこの様な場で暴露して、タダで済むと思うなっ!!」
続けて、グロック21は火を吹いた。 装填されているのはご丁寧に45ACP弾だった。
俺が新潟で使っていた物と同じ拳銃と弾丸だ。 戦車級BETAも当たりどころが良ければ、沈黙させられる。
全弾を撃ち尽くして、議長は自席にへたり込んだ。 それは、攻撃しているはずの俺が無傷であり、
自分が撃っている弾丸が一向に効力なく、しかもその間も、会議場スクリーンにはペンタゴンへのアクセス
画面が表示されている。
これらへのアクセスについても機密なので、議長が取り乱すのも本来は無理もない事だ。
だが、俺の狙いは飽く迄も第五計画の機密情報にあるので、他の情報の見出しが画面に表示されても
そちらへは一切アクセスしなかった。
そして、目的とする情報が項目として一覧できるディレクトリを表示することができるのは、議長がご乱心
してから5分を要した。
あらゆるグレードの機密階層を正面から潜りぬけ、正規の情報であることの証明を画面で表示させつつ、
その情報に辿り着いた。
その機密。 第五計画の地球における最終・最大作戦。 その名も「作戦名:バベルの塔」(読み方:
オペレーション・バビロン)
ここまでに来るのに相当の時間を要したが、会議室内の誰もが何も言わなかった。
俺の能力「イノベイター」を散々ペテン呼ばわりしていた、オブライエン博士すら何も言わずに画面を睨み
付けていた。
俺はそのまま、その作戦名が記されているファイルを開いた。
概要や作戦の詳細情報を画面に表示させて行く。 この作戦を知っていた人間も、会議室の中には
数人いたが、ここまで詳細に記述されている資料は見たことがなかったのだろう。
誰もが息を呑んで、一心不乱に内容のチェックを行った。
俺はその中の、一番問題とする項目を画面上に出し、オブライエン博士に聞くことにした。
「・・・オブライエン博士、お答えください。
このバビロン作戦の中核である”G弾による欧州一帯に跨るハイヴを包囲し、ハイヴ自体に対して
一斉攻撃を行う”と言う、この項目の効果について答えてください。
計画書には、その予想される地上の被害について、”相当の被害が及ぶと思われるが、敵BETA
を殲滅せしめる結果に比べると、人類側の被害は軽微である”との記述が有ります。
ですが、実際の被害についての詳細は記載されていません。 第五計画ではG弾に依る戦況被害の
報告はあったはずです。 その詳細をお教え頂きたい。」
だが、博士からの答えは、俺の予想に届かなった。
「・・・残念ながら、私はその情報を持ち合わせていない。
私が管理しているのは、主計画のもう一方。 ”方舟”の方であり、それ関係のものであれば答える
事はできるだろうが、軍事の事、とりわけG弾ともなると、専門外も良い所だから、それらの情報は
一切関知できる立場にない。」
「では、どの様な方であれば、G弾の具体的な効果について、答えていただけるのでしょうか?」
「・・・分からない。 それこそトレイシィー空軍大将であれば、それらの効果についての報告を聞いている
かも知れないが・・・・・・。」
そう言われ、俺とオブライエン博士は脱力して会話に参加してこないトレイシィー空軍大将を見やったが、
彼の反応は・・・
「・・・・・・。」
無反応だった。 いや、無視を決め込んで、情報の漏洩を防ぎたいのだろう。
その意図は読み取れたが、この場での”沈黙”は”全て是である”と認めている様なものだった。
その意味も込めて、俺は発言した。
「・・・あの様子では、望み薄ですね。
この件についてお聞きしたいのは、G弾の具体的な効果、取り分け被害規模の詳細が聞きたいのです。
問題としたい部分は、この”ハイヴを包囲し”と”一斉攻撃を行う”と言う部分です。
恐らく、この計画書を描いた人間も理解していないでしょうが、この攻撃方法はとてつもなく危険です。」
「・・・中佐。 私には中佐が危険としている意図が分からない。
一体何が危険なのかね? 私とてG弾の被害は一般常識の内であれば理解しているが、
あの爆弾は核放射能汚染などは起こさない。 まぁ、一部の地域においては重力の異常があると
理解しているが・・・。」
「・・・その”重力の異常”が問題点なのですよ。
私もG弾の被害予想を計算し直したところ、その効果範囲は地中深く、マントル層を突き抜けるのです。」
「なぁッ?! ほ・本当かねっ!! それほどの威力があると言うのはっ!!」
「ええ。 しかもバビロン作戦で問題としたいのは、計画しているG弾の攻撃をシミュレーションして
みたところ、とんでもない結果となってしまったのです。
まず、攻撃が成功すると、ユーラシア大陸の8割強の地域に対して大陸プレートに干渉が発生します。
しかもマントル層にまでその影響が伝わりますので、最初にポール・シフト、つまり、地軸に影響が
でます。 作戦決行時刻によりますが、その影響で極点が代わります。
次にユーラシア大陸プレートが影響を受け、周辺の大陸プレートを巻き込んで地盤沈下現象が
発生します。 それに伴う地震と津波が発生するので、北半球は甚大なダメージを受けます。
そして最後に、何処に成るかはわかりませんが、海底に沈んでいるプレートが隆起します。
地球の地形は大きく影響を受け、生態系に著しい被害を及ぼすでしょう。」
会議場は沈黙した。 誰もこの予想に対して反対意見を述べることができなかったからだ。
だが、その中でも一番に口を開いた人間が居た。 オブライエン博士だった。
「ピアース中佐。 一つ確認したい。
そのG弾の影響というのは、単発だけでそれだけの影響が出るものなのかね?
それとも、複数のG弾の影響に拠って、シミュレーションの様な状況になるのかね?」
「・・・複数のG弾の影響に依るものです。 オブライエン博士。」
「そ・そうか・・・。 一安心できたよ。ありがとう、ピアース中佐。 と言う事であれば、まだ対応方法は
残されている。
要は”面”での運用を控えるようにすれば良い、と言うことだな。
つまり、横浜ハイヴで使用されたように、単発運用で行えば、マントル層を抜けるほどの影響を出した
としても、その効果を分散することができる、と言う事だ。
実際に作戦が行われる前に、早い段階でこの案件が検討できたことを神に感謝する。
ああ、指摘してくれた第四計画とピアース中佐にも感謝の意を表したい。」
「・・・オブライエン博士。 その台詞は些か早計ではないですか?
連携した影響で地殻変動を引き起こす事が懸念される兵器を、運用上の効力が分散される方法だけ
で、実用に移すのは危機感が少なすぎます。
G弾の運用については謎部分が多すぎるので、改善案を検討する追加条項を加えた上での運用を
当面の目標とする、と言う事で宜しいでしょうか?」
「うむ。 中佐の意見も最もだと思う。
だが、我々に残された時間が余りにも少ないのも事実だ。 故に、有効性が認められる兵器であれば、
ある程度のリスクは覚悟の上で運用するのが、我々の立場的では”是”としなくてはいけないだろうね。」
「・・・まぁ、確かにオブライエン博士の意見も分かりますがね・・・。
では、G弾の今後の運用については、先に上げた方向性と言う事で宜しいでしょうか?」
「ああ。 その方針で構わないと思うよ。
いや、大変有意義で貴重な討論をありがとう、と言わせてもらおう。
では、この会議はこれで終わりだな。」
「いいえ。 残念ながら、もう一つ決定的に追求しなくてはいけない議題が残っています。
私はこの追求については『二つの』と申しておきましたよね?」
「ぅん?! そうだったかな?
まぁ、良い。 では、残りの”追求”とやらを報告し給え。」
「・・・その余裕ある態度が最後まで続けば、大したものですがね・・・。
では、今度こそオブライエン博士にはお答えいただきましょう。 ”方舟”が向かう先の”約束の地”に
ついてです。 今度は、航空宇宙局NASAのサーバーにアクセスします。」
「おいおい。 コンピュータ・ネットワーク感染をそんなに広げて大丈夫かね?
復旧するのは私の作業ではないから他人ごとだが、ピアース中佐のナントカ能力は、凄まじい被害を
巻き起こしているのでは?」
クッ、この男、喰えない奴だ。
先ほどまで俺の能力をあれ程「ペテン」とか「イカサマ」と称していたのに、その威力を知ると、手の平を
返してきて揶揄してきやがった。 俺は何食わぬ顔で受け答えした。
「ええ、多分そうでしょうね。
復旧作業は特に私の管轄でもないので、私も他人ごとですが、それは兎に角、問題のデータを表示
します。 事はダイタロス計画に於いて、人類が移住可能惑星を発見したことに遡ります。
現状でも、NASAは定期的にバーナード星系のかの惑星の情報を収集していると思うのですが、
その情報を提示します。」
俺はそう言いつつ、巨大スクリーン上にバーナード星系の移住可能惑星の画像データを表示した。
その表示はぼんやりとしていて、視点が合っていないのだが、遥か6光年先の惑星の情報だから
ある程度は仕方がないのかも知れない。
余裕を持ってみていたオブライエン博士が、苦言を呈してきた。
「・・・で、このNASAのデータが何だと言うのかね?」
「・・・オブライエン博士、お答えください。
このバーナード星系の惑星は、現状も表示された状態であるのか否かを。」
博士は、ちょっと両肩を竦ませ”ご覧の通り”と言わんばかりの態度を表した。
俺は言葉を続けた。
「97年ダイタロス計画の成功を受け、これ以降はNASAにてバーナード星系の惑星の観測が始まりました。
ですが、今年に至るまでのわずか4年の間に、全く何も変化なく、かの星が無事であると言い切れる
要素が無いのも事実です。
と言うのも、電波、つまり光学に於いても約6年もの歳月がタイムラグとして生じているのであり、
その意味で『今現在』の情報は入手できないからです。
では、2001年である今年の現状は、状況的には6年前の情報と言う事で、1995年時点の状況が
分かっているだけであります。 まぁ、この理屈は天体観測を行う小学生でも分かる理論でありましょう。
その意味で、『95年の』状態では無事である、と言う事でよろしいですね?」
「フン、何を分かりきっていることを、今更のように・・・。」
「では、現状掴み取れている95年の情報を提示してみましょう。
米国はハワイ諸島にあるマウナケア天文台の中のNASA管轄の電波望遠鏡から、目的の天体の
観測情報を呼び出してみましょう。」
「ちょ、ちょっと待ち給え。 何もハワイの天文台を呼び出さなくても、NASAのサーバーから直接呼び
出せば同じこと・・・。」
「ええ。 恐らくそうでしょう。 ですが不思議なことがこの後起こりますので、そこでご覧になっていて
ください。」
すると、画面からお馴染みのアカウント表示画面が出てきて、ハワイの天文台にアクセスが行えた。
そこから、電波望遠鏡がバーナード星系の情報に焦点を合わせようとすると、『Not Access Data』
と詳細情報であるシステムエラーが表示された。
そのエラーメッセージを読みとくと、『当電波望遠鏡は観測地点に対して有効な位置に無いため、観測が
行えません。』と言うメッセージだった。
大凡それらの情報は、在り得ないメッセージだった。
確かに星の裏側から見える星座を見ようとするならば、そのメッセージと合致するが、ハワイの天文台
からバーナード星系の観測は行えるのに、このメッセージが表示された。
「・・・この様に、巫山戯ているとしか思えないような、正規のエラーメッセージが表示されます。
また、オブライエン博士推奨のNASAのサーバーからは、冒頭に紹介した質の悪い情報しか表示されず、
その詳細を検討したい私にとっては、何とも言いがたい状況でした。
でしたので、思い切って最新の電波望遠鏡を作成して、国連航空宇宙軍と日本帝国航空宇宙軍に
依頼して、月と火星・火星の衛星である『フォボス』と『ダイモス』と、最後のついでにバーナード星系の
情報を収集してもらいました。
すると・・・。」
そこには、立場の異なる宇宙軍を要する2つの軍隊から提供された情報が表示された。
しかも、月と火星、火星の衛星の情報は大したもので、各ハイヴの位置と規模、それらからBETAユニットの
総推量まで表示が成されていたが、最後のバーナード星系の情報は『Not Image』だった。
「両軍の関係者が言うには、バーナード星系の情報を収集しようとすると、決まって米国はNASAの
シャトルが搭載されている荷物を展開して観測の邪魔をした、と言う報告を受けました。
我々第四計画として、即日抗議文を当オルタネイティブ計画本部と米国航空宇宙軍宛に送信し、
抗議を行いました。
それで、私としてもこのまま済ます訳にも参りませんので、独自で観測を行いました。
その結果の映像がこちらです。」
会議場が騒然とした。 そこには、当初NASAから提示された映像よりも鮮明さが際立った惑星の
映像が出ており、最初に見た映像よりも様変わりしたと称されるほどの違いがハッキリと見て取れたから
だった。
「ピ・ピアース中佐っ!! い・一体、何処で、どうやって、この様な映像を撮影出来たのだ?!」
先ほどまで、知らぬ存ぜぬを決め込んでいたオブライエン博士は急に血相を変えて、追求をして来た。
俺は嘆息を吐きつつ、正直に撮影ポイントを報告した。
「この映像は、地球とバーナード星系を繋ぐ航路上といえば宜しいでしょうか?
距離的には、地球から約50万kmの位置になります。」
「つ・月の軌道から更に10万kmも向こう側だと?! バ・バカな在り得ないっ!!
バーナード星系方向についての観測点は、毎日チェックを行っているが、その様な人工物が
その様なポイントに展開していたという報告は聞いていないぞっ!!
だ・第一、電波望遠鏡の様な観測機器を運ぶシャトルの有無は、私の方でもチェックしているっ!!
過去半年はその様な航空駆逐艦の行き来は行われていないっ!!
い・一体どうやって、この様な情報を取得できたと言うのだっ?!」
「・・・フゥ。 博士、それこそ『イノベイター能力』を駆使すれば、簡単ですよ。
欺瞞情報を潜り込ませることで、観測員にアラートを発生させなければ良いだけでしょう?
それと、航空駆逐艦のような無重力状態でも行き来できる宇宙船などは使用していません。
博士は”チェックしていた”とおっしゃっておられますが、私に言わせると、その観測は”穴だらけ”ですよ。」
「ぐぬぬぬっ・・・。
だ・だが、この様な不確かな観測情報と称して、出鱈目な情報を提示したとして、何だというのだっ!!
こ・こんなペテン、 だ・誰が信じるものかっ!!」
「・・・博士、往生際が悪いですぞ。 その様な態度は既に『語るに落ちています』よ。
私が提示した情報が間違いであると、博士がおっしゃるのであれば、何が”正しい”情報なのですか?
言っておきますが、冒頭に表示されたNASA提供のバーナード星系の情報こそが全くの偽物なの
ですよ?
博士は、現状のバーナード星系の情報をご存知なのですか?
だから、私が提示した情報が”ニセモノ”であると断ずるのですか?」
「し・知らないっ!! わ・私はバーナード星系の情報など本当に知らないっ!!」
「オブライエン博士。 宜しいですか? 心して聞いてください。
博士がバーナード星系の情報を知っていないとする先ほどの発言に、虚偽内容が含まれていないと
この場で宣誓してください。
何故ならば、この情報については、第五計画の根幹を為す情報であることは勿論、第四計画が目的を
成し得なかった場合、人類が持てる総力を第五計画に全力投入せねばならない事態と成る取り決めが
過去の本委員会にて可決されていた筈だからです。
ですが、もしも第五計画に”小穴大船を沈める”の例えの如く、油断大敵とも言うべく情報があって、
それらの情報を故意に隠蔽が成されていた場合、これは本計画が国家間に跨る優先計画である事から、
計画本体に関わる虚偽は、全人類に対しての敵対行為に相当し、例えオブライエン博士が
第五計画の”方舟”計画の主幹委員長であったとしても、その罪を免れることはできないでしょう。
この宣誓は、その類の虚偽妄言を成さない為に必須と成る宣誓なのです。
宜しいですか、ジョージ・オブライエン博士?
第五計画”方舟”計画の主幹委員長である貴方は、貴方自身が信奉する神に誓って、これ以降の
虚偽・妄言等は、即ち人類全体の命運を左右するオルタネイティブ本計画に於いて、絶対に行わない
事を誓い、今この場で宣誓しますか?」
「ーーーーー・・・・・・。」
最後は声にならない弱々しい溜め息を吐いたかと思ったら、博士は自分の席に脱力して座ってしまった。
一気に緊張して、博士自身がそのプレッシャーに負けてしまったらしく、意識が朦朧として判断できない
状況に、自身で追いやってしまったようだ。
それらの様を見ていた、主要メンバー達も、何も言わなくなった。
それらが全てを物語ってしまっている状態だった。 つまり、バーナード星系は俺が提示した情報が
正しく、NASAは何らかの情報の隠蔽を行っていたことを指している。
そして、これが決定的だったのだが、その情報は内容としてはトンデモなく人類に対して不条理で
不合理な内容となる物が容易に想像ができた。
だが、第五計画の中枢に位置する人間がそれに気づき、隠蔽工作を行っていた事が、露見した瞬間だった。
ここまでの認識が、主要メンバーが座る「C」の形をしたテーブルが出した答だった。
そしてそれらを見届けるために集まった、発言権を持たないオブザーバー席に座る各国の政治家や
軍人はその状況を見届けていたのだが、事の重要性から自国の利益を鑑みて、所々で話し声がしていた
物が、段々と大きな濁流のようになるのに、そう時間は懸らなかった。
「結局、アメリカが主導していた第五計画こそが、ペテンだったって事だろっ!!」
「そうかも知れないが、ピアース中佐もアメリカ人だぞ! 奴の言う事こそが胡散臭いっ!!」
「何もかもが、出鱈目だったんだっ!! なのに、提示される支援物資欲しさに俺は自国を売り渡した!
こんな事が知れたら、俺の政治家生命はもう終わりだっ!! 一体どうしてくれるんだっ!!」
「結局、主要国家と呼ばれる資本主義者共の茶番だったのだっ!! 共産国家を蔑ろにしていた報いだ!!」
「資本主義とか共産主義とかどうでも良い。 先の第三計画はソ連が主導していたじゃないかっ!!」
「・・・しかし、結局の所バーナード星系の何の情報を隠蔽する必要があたんだ?」
最後に誰かがつぶやいた疑問は、誰もが感じる疑問へと昇華していった。
そしてついには、疑問を持つ視線が、会議場中央の俺の方に集中した。
俺は咳払いをしつつ、その問いに答えることにした。
「・・・コホン。
では、第五計画がひた隠しにしていた情報と言う物について、最後にご報告します。
先に出した、月と火星とその衛星2つの映像をご覧頂きたい。
現状これらの天体に、ある特殊な電波を生じるフィルターを掛けてご覧にいただきます。
すると各天体は、真っ青に表示されます。
これは、BETAが存在することで、奴らは惑星や衛星上の資源を物理的に採取している訳ですが、
それら採取採掘することで生じる地形変化を表しております。
まぁ、平たく言いますと、大地を抉って持ち去ることで、星の表面が丸裸に剥かれている訳です。
この状態を検査するために、天体の位置と地面との間にどれだけの隙間が生じているか、電波を
使用して解析しているわけです。
で、月や火星までの距離は判明しておりますので、そこから抉られた度合いを調査すると、その差分が
青く輝く、と言う仕組みです。
これを通じて、月や火星やフォボスやダイモスを見てみると、火星本星の進行具合はひどいものだと
分かって頂けます。
そして、この検査電波を私が電波望遠鏡を用いて撮影してきたバーナード星系の天体に照射して
結果を見てみると・・・。」
会議室の巨大スクリーンには、処々に青い部分が見えるバーナード星系の惑星の絵が表示された。
つまり、95年の時点ではバーナード星系にもBETAは存在していることを証明してしまった事になるのだ。
だが、実際は95年から既に6年経過しているので、その数は今の地球のBETA達と大して変わらない
事になる。 10億人の中から1万分の1である10万人少々を60年の歳月を掛けて移住させても、
移ったその先にもBETAは居る事になる。
”地獄の一丁目”から”地獄の二丁目”に移動した様なものなのだ。
時と場所を変えても、結果が変わらないと言うオチなのだ。
これほどの悲劇はないだろう。 いや、喜劇というべきなのか?
ともあれ今度こそ、その絶望的な内容を知った会議場の全ての人間は、悲観であり悲痛なの声を上げた。
先ほどの野次とは比べ物に成らないくらいの怒声が飛び交い、誰もそれを収集できないでいる。
それでも俺は、次の話題を振らねばならない。その為のタイミングを推し量っていると、一人の少女が
俺を差し置いて発言をした。
「代替案が有りますっ!!」
その少女の名は、”日本帝国国務全権代行であり、現政威大将軍” 煌武院 悠陽 その人であった。
to be continued.
「ス****胞はありますっ!!」とかじゃないですよ。でも、イントネーションは似たものがあるな、おい。
前回に引き続き「to be continued.」的な締めとなってしまいました。
15話が遠いなぁ・・・。
でも、予告しておきます。
次の14話・後編。めっちゃ短けーです。
いつもの半分くらい。 多分・・・。
だから、短期決戦で臨みたいと思います。
と言いつつ、前回から2週間掛かってしまったとです。前科ありはつらいですね・・・。
と言う事で、今回はここまでです。
次回も宜しくお願いします。では。