勇者王ガオガイガー外伝-銀の闇-   作:わったさん

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早速始まるレンの新生活。様々なトラブルを取り巻きながら少年はまた成長する。


11.人指し指の道標

翌朝。火浦リンタロウが策定した新しいスケジュールに基づき、いよいよ「授業」が開始された。朝のラジオ体操と朝食を終え、9時から始まった国語と算数の授業。ルネが時に熱く、パピヨンが分かりやすく教える傍らで、レンは驚くべき集中力と飲み込みの早さを見せ、授業は順調に進んでいった。

 

しかし、50分間の授業が終わり、10分間の「休み時間」に入った瞬間、問題が発生した。

レンはデスクの上に教科書を綺麗に揃えると、そのまま微動だにせず、どうしていいか分からない様子でちょこんと座り込んでしまったのだ。

 

長く時間が取れた自由時間であれば、ルネたちに連れられて外へ出かけたり会話を楽しんだりできた。しかし、たった「10分間」という短く宙に浮いたような時間の中で、一体何をして過ごせばいいのか、7歳の少年の知識と経験には存在しなかった。

 

部屋の隅で銃のメンテナンスをしていたリンタロウの元へ、レンがとことこと歩み寄る。

 

レン「あの……CODE-No.2。ご相談があるのですが……」

リンタロウ「なんだ?」

レン「授業と授業の合間の、この『10分間の休み時間』……僕は、何をすればいいのでしょうか……?」

 

真顔で尋ねる少年に、リンタロウは作業の手を止め、呆れたように小さく息を吐いた。

 

リンタロウ「……そこからだったな、本当の課題は」

 

リンタロウはポケットからメモ用紙を一枚破り取ると、器用に手際よく三角に折りたたんだ。そして、それをテーブルの上に置く。

 

リンタロウ「これはペーパーフットボールだ。指で弾いて、相手の陣地の端から落としたら勝ちだ。……ルネ、パピヨン、手伝え」

ルネ「へえ、懐かしいじゃないかい! いいね、アタシが手本を見せてやるよ!」

パピヨン「ふふ、紙で作ったボールね。指の力加減が難しそうだわ」

 

リンタロウの呼びかけに、ルネとパピヨンも笑って乗ってきた。テーブルを挟んで、紙の三角ボールをデコピンの要領で弾き合うシンプルな遊び。

 

レン「あ……行き過ぎちゃいました……」

ルネ「ハハッ、力が入ってんだよ! ほら、こうやって指先で軽く弾くんだ!」

 

最初は戸惑っていたレンだったが、ルネの力強いアドバイスとパピヨンの優しい応援を受けながら、夢中で紙のボールを追いかけた。たった10分間の休み時間は、あっという間に過ぎ去っていった。

 

10分後、チャイムの代わりにリンタロウが声をかける。

 

リンタロウ「時間だ。……楽しかったか?」

 

レンは少し照れくさそうに、けれど今までで一番素直で柔らかな笑みを浮かべて答えた。

 

レン「……はい! すごく、楽しかったです!」

 

夕方。1時間目の道徳までの授業を全て終え、14時からの「自由時間」に入った時のことだった。一日を通じた授業や休み時間の遊びを経験し、楽しかった反面、レンの胸の中に漠然とした「不安」と「罪悪感」が頭をもたげていた。レンは廊下に立っていたリンタロウの元へ歩み寄り、胸の思いを吐露した。

 

レン「CODE-No.2……相談というか、お聞きしたいことがあるんです」

リンタロウ「言ってみろ。」

レン「……僕、こんなことばかりしていて、本当に良いのでしょうか……?」

リンタロウ「どうしてだ?」

 

少年の瞳に、真剣で切痛な色が宿る。

 

レン「僕たちCODEは……世界平和のための機関です。テロリストを倒し、世界を守るのが僕たちの義務のはずです……なのに、紙のボールで遊んだり、小学校の勉強をしたり……こんな非生産的なことばかりしていて……」

リンタロウ「無駄だと思うか?」

レン「それは……。……はい……。僕が遊んでいる間にも、世界のどこかでテロが起きているかもしれないのに……こんな無駄な時間を過ごしていていいのか、不安になるんです……」

 

リンタロウはタバコを吹かす代わりに深く息を吐き、膝を折ってレンと視線の高さを合わせた。その眼差しはどこまでも静かで、大人の包容力に満ちていた。

 

リンタロウ「……無駄だから、価値があるんだ」

レン「え……?」

リンタロウ「世界平和ってのはな、お前みたいに7歳のガキが、無意味に紙のボールを弾いて笑える時間を増やすことだ。平和の成果ってのは、血の量や討伐数じゃねぇ。『くだらない無駄な時間』をどれだけ過ごせたかだ。お前がやってることは、非生産的でも無駄でもない。平和の証明だ」

レン「平和の……証明……?」

 

思いもよらないリンタロウの言葉に、レンは目を見開いた。だが、CODEで叩き込まれてきた「兵器としての自己否定」が、まだ少年の心を縛り付けていた。

 

レン「でも……! 役に立たないと……役に立つ兵器でいないと、僕は……自分の居場所を失ってしまいます……! CODEからも……シャッセールからも、捨てられてしまうんじゃないかって……!」

 

震える声で叫ぶレン。役に立たなければ存在価値がないという、幼い心に刻まれた恐怖。そんなレンに対し、リンタロウは少年の肩に大きくて温かい手をポンと置いた。そして、何よりも力強く、揺るぎない言葉を投げかけた。

 

リンタロウ「人の役に立とうとするな。……役立たずでもいいから、生きろ」

レン「ッ……!?」

リンタロウ「誰かの道具や兵器として役に立つ必要なんてねぇんだよ。お前がただメシを食って、寝て、くだらねぇ遊びで笑って生きている……それだけで十分だ。お前の居場所は、俺とあいつら(シャッセール)が作ってやる」

 

「役立たずでもいいから、生きろ」。

 

役に立つことだけを求められ、血塗られた戦場へ送り出され続けてきた少年へ贈られた、最大にして最上級の「許し」の言葉。レンは溢れ出る涙を止めることができず、その場にぽろぽろと涙をこぼした。

 

陰からそのやり取りを見守っていたルネ、パピヨン、光竜、闇竜の心にも、リンタロウの言葉が深く、激しく響いていた。特にルネは「役に立たなくても生きろ」という言葉に、自分自身の救いをも重ね合わせていた。自らもサイボーグとなり、戦うことでしか自分の存在理由を見出せなかった時期があったからこそ、リンタロウの言葉の重みが胸に突き刺さる。

 

ルネ「(……言ったじゃないか、あの愛想のねぇ男……! 最高にカッコいいこと言い上がりやがって……っ!)」

 

パピヨンはセンシング・マインドを通じ、レンの心に長年こびりついていた「捨てられる恐怖」が、リンタロウの言葉によって優しく溶かされていく波動を感じ取っていた。

 

パピヨン「(『役立たずでもいいから、生きろ』……なんて温かい肯定なのかしら。あの子が一番欲しかったのは、条件付きの評価ではなく、無条件の存在の許しだったのね……)」

 

胸元を押さえながら、静かに感謝の笑みを浮かべる。光竜・闇竜は本部内のカメラから二人のやり取りを確認していた。

 

光竜「そうだそうだー! レンちゃんは生きてるだけで満点なんだからねー!」

闇竜「……完璧な答えです。機能や成果で存在価値を測るCODEの歪みを、たった一言で打ち砕いてみせた……。火浦リンタロウ、やはりあなたは素晴らしい『大人の背中』をお持ちです」

 

大人の嘘偽りのない言葉と、温かな手のひら。「役立たずでも生きていていい」と肯定された7歳の少年は、初めて自分の命を「自分のもの」として抱きしめるための第一歩を踏み出したのだった。

 

翌日、シャッセール本部に、CODEから新たな最高警戒指令が下された。バイオネットの主要本拠地の一つが、パリ郊外の地下プラントで特定されたのだ。指令の内容は、かつてのジョン・ビッグスの時と同様——『目標の完全排除。対象の生死は問わない』。

 

ルネ「地上部隊と重機兵器はアタシと光竜、闇竜で引きつける! レン、あんたはいつも通り無理に前に出ずにバックアップを——」

 

ルネが指示を飛ばそうとしたその時、火浦リンタロウは無言でジャケットを羽織り、タクティカルハーネスの装着を確認していた。

 

リンタロウ「No.4はシャッセールのバックアップだ。……本拠地の叩き潰しは俺一人で行く」

レン「え……!? CODE-No.2、本拠地には数百人規模の兵力が……!」

リンタロウ「言ったはずだ。CODEの緊急任務は全部俺が引き受けると。お前はここにいろ。」

ルネ「こっちが片付いたら迎えに行く。無理すんなよ?」

リンタロウ「分かってる。」

 

言い残すと、リンタロウは静かな足取りで一人、バイオネットの本拠地へと向かった。地下プラントに激しい破壊音が響き渡る。ルネたちが地上部隊を引きつけ、派手な戦闘を繰り広げている裏で、リンタロウは一人、地下の核心部へと侵入していた。そこには、無差別テロや兵器密売で莫大な利益を上げ、「一般人などいくら死んでもかまわん」と下卑た笑いを浮かべるバイオネットの幹部や工作員たちが溢れていた。

 

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リンタロウ「……邪魔するぞ。」

 

暗闇から現れたリンタロウの動きは、恐ろしいまでに洗練されていた。レンのような目にも留まらぬ殺戮の演武とは異なり、リンタロウの戦い方は「完璧な制圧」だった。CQCのみで銃撃戦の嵐の中を影のように突き進み、敵の急所を的確に外しつつ、骨を折り、関節を外し、行動能力だけを奪っていく。その制圧速度、判断力、そして技術力は、レンとはまた違った完成度の高い戦力だった。

 

激しい銃声が止み、ルネ達が地下プラントへと駆けつけた時、そこに広がっていたのは予想だにしない光景だった。

 

床一面に倒れ伏す数百人のバイオネット構成員たち。あちこちから呻き声や痛みに耐える息遣いが聞こえてくる。全員が骨を折られたり、関節を外されたり、麻痺弾で動けなくなってはいたが——死者は一人も存在しなかった。

 

返り血を一滴も浴びていないリンタロウがそこに立っていた。

 

レンはその光景を見つめ、信じられないというように瞳を揺らした。

 

レン「CODE-No.2……なぜ……全員、生かしているんですか……? CODEの指示は『生死を問わない』……つまり、処分しても良かったはずです……!」

 

レンの問いに対し、リンタロウはゆっくりと振り返り、冷たくも真っ直ぐな瞳で少年を見つめ返した。

 

リンタロウ「……聖人君子を気取るわけじゃないが、殺せばやり直すチャンスもないだろ」

 

その静かな一言が、レンの胸の奥に眠っていた激しい感情に火をつけた。これまでCODEの命令に従い、テロリストを「害虫」として容赦なく殺害し続けてきた少年の瞳から、溢れんばかりの怒りと悔しさが噴き出す。

 

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レン「僕は……! 僕はこれが正しいとは思いません!! こいつら……ハッキリ言って害虫です! 他人の命を何とも思ってないクズばかりです!」

 

声を荒らげるレン。普段の温厚で静かな少年からは考えられない、むき出しの憎悪。

 

レン「そんな連中を生かして、もし再犯を犯したら……罪の無い人たちがまた苦しむんです! それでいいんですか!? 僕は嫌です! 僕のお父さんとお母さんを殺した連中を……生かすなんて……間違ってます!!」

 

涙しながら血を吐くような少年の叫び。バイオネットに対する絶対の許せない気持ち。両親を奪われた絶望。そして「殺すことでしか平和を守れない」と信じ込まされてきた自分自身の過去を否定されたくないという抗い。その叫びを聞いていたルネは、胸を強く締め付けられ、思わず唇を噛み締めた。

 

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ルネ「(レン……っ……)」

 

ルネ自身もまた、バイオネットによって母親を殺され、自分もサイボーグへと改造された過去を持つ。テロリストに対する激しい憎悪、決して許すことのできない怨念。レンの言っていることは、ルネ自身の魂の叫びそのものでもあった。

 

ルネ「(間違ってるなんて……言えない……! アタシだって……アタシだってあいつらを許せるわけがないんだから……ッ!)」

 

レンの気持ちが痛いほど理解できるからこそ、ルネは「そんな考えは間違っている」と言いたくても、言葉が喉に突っかかって言うことができなかった。光竜と闇竜もまた、悲しげな表情で黙り込むしかなかった。バイオネットへの激しい憎悪をむき出しにして肩を上下させる7歳の少年に対し、火浦リンタロウは逃げることも、怒ることもなく、ただ静かにその瞳を受け止めていた。激しい怒りと憎悪を吐き出し、荒い息をつくレン。その言葉は、両親を奪われた少年の血を吐くような叫びであり、ルネをはじめとするシャッセール全員の胸に重く突き刺さっていた。静まり返る地下プラントの中で、火浦リンタロウは静かに息を吐くと、感情を荒らげることなく、静かに膝を折りレンの目線で穏やかで重みのある声で語り始めた。

 

 

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リンタロウ「お前の言う通りだ、レン。こいつらはクズで、害虫だ。生かしておけば、また別の場所で誰かが泣くことになるかもしれない。お前が怒るのも、憎むのも、当然だ」

レン「……っ! だったら……!」

リンタロウ「だがな、俺たちが引き金を引いてこいつらの命を終わらせた瞬間、俺たちは『裁判官』になり、『処刑人』になる。一度その味を覚えた人間は、自分の基準で『死んでもいい奴』と『生かしておく奴』を線引きし始める。……それはもう、バイオネットと何が違うんだ?」

レン「それは……っ……!」

リンタロウ「法やシステムが完璧じゃないことは知ってる。それでも、踏み越えちゃならない一線を守るために、俺たちは踏みとどまるんだ。殺すのは簡単だ。だが、殺さずに裁きに委ねる方が、何倍も苦しくて、何倍も手間がかかる。俺はその苦しい方を選ぶ。それが、俺のやり方だ」

 

大人の、どこまでも冷徹で、けれど深遠な倫理観に基づいた答え。しかし、7歳の少年にとって、その理屈を受け入れるにはあまりにも過去の傷が深すぎた。

 

レン「……分かりません……。僕には……どうしても納得できません……! 許せるわけがないんです……!」

 

血の滲むような思いで首を振るレン。両親のぬくもりを奪った悪意を「生かす」という選択を、今の彼が心から受け入れられるはずもなかった。そんなレンの姿を見て、リンタロウは怒るでもなく、失望するでもなかった。

 

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リンタロウは右手の人差し指を伸ばし、レンの小さな胸の中央——心の臓がある場所をトンと優しく突いた。

 

リンタロウ「……それでいい」

レン「え……?」

リンタロウ「人の言うことを簡単に鵜呑みにするな。俺の言っていることが100%正しいわけじゃない。俺が間違ってることだって、いくらでもある」

 

レンの目から、溢れかけた涙がぽろりとこぼれ落ちる。リンタロウは人指し指に少しだけ力を込め、少年の胸の温もりを確かめるように言った。

 

リンタロウ「ただな、最終的にどう考え、どう決断するのかは……いつだって自分の心だってことだけは忘れるな。CODEの命令でもなく、俺の言葉でもなく、お前自身がどう思うかだ。お前には、お前だけの心がある。……絶対に、無くすなよ」

 

「お前の心がある。無くすなよ」——。

 

CODEで「兵器」として自我を消去されかけていた少年に対し、リンタロウは「間違ってもいい、自分の心で悩み続けろ」と肯定したのだ。

 

レン「僕の……心……」

 

胸を突かれた指先から、じんわりと温かい感触が広がっていく。殺戮の肯定でもなく、綺麗な善意の強要でもない。「悩み、怒り、それでも自分で選べ」という大人の不器用な教えに、レンは瞳を揺らしながら、小さく、静かに頷いた。背後で見守っていたルネは、握りしめていた拳をそっと緩め、深く息を吐き出した。

 

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ルネ「……へっ。相変わらず、カッコつけた言い方しやがって……」

 

口元にわずかな笑みを浮かべつつも、ルネの目には静かな敬意が宿っていた。レンの憎しみを否定せず、かといって殺戮へ逃げさせず、一人の「人間」として向き合ったリンタロウの背中。本部ではパピヨンも胸の前で手を組み、穏やかな表情で二人を見つめていた。

 

パピヨン「(ええ……そうね、レン君。正解なんて一つじゃない。悩みながら、傷つきながら……あなたの心で答えを探していけばいいのよ)」

 

光竜と闇竜も暗い地下プラントの中に、確かな温もりの光が灯っていた。レンは自分の胸に手を当て、まだ残るリンタロウの指の感触を確かめるようにギュッと服を掴んだ。「怪物」ではなく、「悩み続ける一人の人間」として生きるための大切な道標を、少年はその胸に強く刻み込んでいた。




ここからルネが心を開かせていきます
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