勇者王ガオガイガー外伝-銀の闇-   作:わったさん

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仕事を終え夕食の準備に入り席を外すリンタロウ。座るレンのもとにルネが座り自分のことについて話をする。


12.あたたかな言葉

バイオネット本拠地での激しい制圧戦を終え、シャッセール本部の待機室には静かな時間が戻っていた。夕刻、リンタロウはタクティカルハーネスを外し、シャツの袖をまくり上げながらキッチンへと向かった。

 

リンタロウ「俺は晩飯を作ってくる。待ってろよ。」

 

無駄のない動作で調理場へと消えていくリンタロウの背中を見送り、レンはテーブルの椅子にポツンと座り直した。その小さな胸の奥では、先ほどリンタロウに胸を突かれて言われた「お前には、お前だけの心がある。無くすなよ」という言葉が、まだ温かく脈打っていた。そこへ、冷たいジュースの入ったグラスを持ったルネが歩み寄ってきた。

 

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ルネ「隣、いいか?」

レン「あ……はい、ルネさん」

 

ルネはドカッと椅子を引き、レンの隣に腰掛けた。少しの間、二人の間にグラスの氷がカラリンと鳴る静寂が流れる。ルネはジュースを一口あおると、遠くを見るような瞳で口を開いた。

 

ルネ「……アタシの本当の名前は、ルネ・カーディフ・獅子王だ。知ってるだろ?」

レン「はい。GGGの獅子王雷牙博士の娘さんで、獅子王凱隊長の従妹さん……だと履修しています」

ルネ「ふん、相変わらずデータだけは頭に入ってるね。……アタシもさ、あんたと似たようなもんだ」

レン「え……?」

 

意外な言葉に、レンは少し首をかしげた。ルネは自嘲気味に口元を歪め、自分の右手——義手の金属肌を愛おしむように、反対の手で撫でた。

 

ルネ「アタシの母親もね、バイオネットに殺されたんだ。アタシがまだ幼い頃にね。それだけじゃない……アタシ自身も奴らに捕まって、身体の半分以上を勝手に改造されてサイボーグにされた」

レン「……っ!」

 

レンの息が止まる。ルネの過去は極秘データとして伏せられていた部分が多く、レンもそこまで生々しい事実までは知らなかったのだ。

 

ルネ「他人に心を開けばまた傷つく。味方も、人間も、敵も何もかも信じられない……そう思って、自分の周りに壁を作ってた。父さんに対しても反発ばかりしてさ。『完全サイボーグ』の凱にも嫉妬して皮肉ばかり言ってたよ。……あんたと同じだ。アタシも、復讐と自分を守るための鎧を着込んで、ずっと一人で戦ってきた気になってたんだ」

 

ルネの言葉は、まるでかつてのレン自身の姿を写し鏡で見ているかのようだった。

 

ルネ「でもね……そんなアタシを見捨てないでいてくれた奴らがいた。殉職した相棒のエリック、パピヨン、光竜、闇竜、そして凱……。ぶつかり合って、泥臭く関わっていくうちに、気づいたのさ。『他人に心を開くのは怖いことじゃない』ってね」

 

ルネは椅子を少し寄せ、レンの目を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、荒々しくもどこまでも温かい、太陽のような輝きが宿っていた。

 

ルネ「さっき、あんたが『バイオネットを生かすなんて間違ってる』って叫んだ時……アタシ、内心すごく共感しちまった。今だって奴らを許せたわけじゃない。あいつらは反吐が出るほどのクズだ」

レン「ルネさん……」

ルネ「だけどさ、リンタロウの言ったことも分かるんだ。憎しみのままに殺し続ければ、最後に残るのは空っぽになった自分だけだ。……だからね、レン。あんたが一人でその重荷を背負って、苦しんで、決断する必要なんてないんだよ」

 

ルネは優しく手を伸ばし、レンの小さな手の上から、自分の大きな手のひらを重ねた。不完全なサイボーグゆえの微かな金属の硬さと、Gストーンが育む生命の熱が、じんわりとレンの手に伝わっていく。

 

ルネ「あんたが悩むなら、アタシも一緒に悩んでやる。あんたが怒るなら、アタシも一緒に怒ってやる。バイオネットに対する憎しみも、両親を奪われた悔しさも……全部、アタシが半分背負ってやるよ。だから、一人で『兵器』になろうとするな」

 

少年の心の中にあった氷の壁が、ルネの言葉によって、また一つ大きく崩れ落ちていく。

 

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レン「ルネさん……僕……僕、どうしたらいいのか……自分の心が、分からなくなっちゃって……っ」

ルネ「分からなくていいんだよ。7歳のガキが完璧な答えなんて持てるわけがないだろ。迷ったら、アタシたちを頼りな。アタシはあんたの『先輩』で……不器用だけど、あんたの『友達』なんだからさ」

 

ルネがニッと力強く笑いながらレンの頭に手を乗せると、レンの目から、すっと綺麗な涙が一粒こぼれ落ちた。それは恐怖や憎しみの涙ではなく、どこまでも温かい、救いの涙だった。

 

レン「……はい……! ありがとうございます……ルネさん……っ!」

 

その時、調理場から香ばしい醤油と生姜の香りが漂ってきた。

 

リンタロウ「おい、メシだ。ご飯よそえ。」

 

エプロン姿のリンタロウが顔を出し、無愛想に声をかける。

 

ルネ「へいへい、今行くよ! ほら、レン、拭きな。美味しい夕飯が台無しになるよ。」

 

ルネはポンポンとレンの頭を乱暴に撫でると、立ち上がってキッチンへと向かった。レンは自分の胸に手を当て、ルネの温もりが残る手のひらを見つめた。リンタロウがくれた「心の道標」と、ルネがくれた「歩むための温もり」。冷たい闇の中にいた少年は、いま確かに、一人ではないことを知っていた。

 

キッチンのカウンター越しに、包丁を動かしていたパピヨン・ノワールは、レンとルネのやり取りを静かに見守っていた。そう言ってレンの頭を乱暴に、けれど溢れんばかりの愛おしさを込めて撫でるルネの姿。そして、ルネの手の温もりに包まれながら、救われたように涙を拭うレンの姿。パピヨンの胸の奥に、じんわりと温かな感動が広がっていく。

 

パピヨン「(……本当に、よかったわ……)」

 

彼女の持つ『センシング・マインド』は、波紋のように伝わってくる二人の心の波動を色鮮やかに捉えていた。かつて母を殺され、サイボーグへ改造され、世界への怒りと不信感で心を頑なに閉ざしていたルネ。そして今、両親を奪われ、CODEの殺戮兵器として心を機械に仕立て上げられようとしていたレン。同じ残酷な運命の闇をくぐり抜けてきた二人だからこそ、言葉の端々に真実の熱が宿る。ルネが自分自身の傷をさらけ出し、レンの憎しみも迷いも丸ごと抱きしめたことで、レンの心に結びついていた重く冷たい鎖が、確かにひとつ解け落ちたのをパピヨンは感じていた。

 

パピヨン「(ルネ自身も、エリックや凱たちから注がれた温もりによって救われてきた……。そして今、彼女は自分が貰ったその『勇気の熱』を、しっかりと次の世代の幼い男の子へ受け渡しているのね……)」

 

人は、もらった温もりで誰かを温めることができる。ルネが不器用ながらも「友達」として差し伸ばした手は、レンにとってどんな言葉や教条よりも確かな「生きていていい理由」になったはずだ。

 

パピヨン「(レン君……あなたはもう、孤独な『兵器』じゃないわ。迷いながら、傷つきながらでいいの。私たちが、いつだってあなたの帰り道を守り続けてあげるから……)」

 

パピヨンは穏やかな微笑みを浮かべると、まな板の上の生姜を細かく刻み終え、特製のタレをあわせた。

 

パピヨン「はい、お待たせ。今日の夕飯は『豚の生姜焼き定食』よ。リンタロウさんがお肉を絶妙な火加減で炒めてくれたわ」

 

テーブルの上に運ばれたのは、ツヤツヤとタレが絡んだ豚の生姜焼きに、山盛りのキャベツ、温かい白いご飯、そして湯気立つお味噌汁。

 

リンタロウ「冷めないうちに食え」

ルネ「へへっ、うまそうじゃないかい! ほらレン、いっぱい食べな!」

レン「あ……はい! いただきます……!」

 

レンはお箸を手に取り、生姜焼きを口に運んだ。甘辛いタレと香ばしい生姜の香りが口いっぱいに広がり、ご飯の甘みがそれに重なる。

 

レン「美味しい……すごく、美味しいです……っ」

 

噛みしめるごとに、お腹の底から、そして胸の奥から温かいものが広がっていく。にぎやかな食卓。冗談を言い合って笑うルネとリンタロウ、そしてそれを優しく見守るパピヨン。その温かな輪の中で、レンは何度も何度も頷きながら、生姜焼き定食を大切そうに口へと運び続けた。テーブルを照らす柔らかな灯りは、どこまでも温かく、少年の新しい日常を優しく包み込んでいた。

 

温かな湯気と生姜の甘辛い香りが漂うシャッセール本部の食堂。にぎやかに料理を口へ運んでいた一同だったが、ふとしたきっかけで、ルネが前々から気になっていた疑問をリンタロウへと投げかけた。

 

ルネ「そういえばさ、リンタロウ。あんたは『No.2』なんだろ? あのいけ好かない冷血男のNo.3よりも、あんたの方が組織じゃ先輩ってことなのか?」

リンタロウ「本来は……な」

 

箸を止め、お茶の入った湯呑みに手を伸ばしながら、リンタロウは短く答えた。

 

レン「あの……CODE-No.2、そのお話は……ルネさんたちに話しても大丈夫なんですか? 守秘義務が……」

 

レンが不安そうにリンタロウを見上げる。基本的にCODEは内部情報を外部へ漏らすことを固く禁じているからだ。

 

リンタロウ「構わん。こいつらは話したところで余計な口を叩く奴らじゃない。……守秘義務のギリギリの範囲で教えてやる」

 

リンタロウは少年の頭にぽんと手を置くと、湯呑みを置いて一同を見渡した。その黒い瞳には、深く重い影が落ちている。この話を格納庫で待機している光竜・闇竜も聞いていた。

 

リンタロウ「CODEのナンバーは、基本的に加入順、あるいは実力順で与えられる。だが……ナンバーが固定されているわけじゃない。任務中に命を落とすエージェントが多々いるからな。空きが出るたびに、次の者がそのナンバーを引き継ぎ、穴が埋められる」

パピヨン「命を……落とす……」

 

パピヨンの顔からサッと血の気が引いた。リンタロウは静かな口調で続ける。

 

リンタロウ「俺の前任者のNo.2も……すでに亡くなっている。名前はエミリー・ステーシー。6歳の女の子だ。……テロの一味が仕掛けた爆弾から、市民を守るために爆死した」

 

光竜『え……? ろ、ろくさい……!?』

 

光竜が口元を押さえ、絶句する。

 

リンタロウ「ちなみに、No.3の前任者の、さらにその前のエージェントも……8歳の男の子だった。……俺が知っている限りの情報でこれだ。俺の知らないところで、一体何人の幼い子供たちがエージェントとして使い捨てられ、犠牲になっていったか分からん」

 

食堂に、冷たい沈黙が立ち込める。ルネは握りしめた箸が折れんばかりに力を込め、激しい怒りと悔しさで全身を震わせた。6歳、7歳、8歳……。自我すら確立していない幼い子供たちが、「世界平和」という美しいお題目の下で兵器として使われ、人知れず命を散らしているという凄惨な現実。

 

ルネ「……なんで……なんでそんな幼い子供ばかりが選ばれるんだよ……ッ! 大人の兵士なんて、いくらでもいるだろうが……ッ!!」

 

怒りをぶつけるルネに対し、リンタロウは感情を交えずに、CODEという組織の冷酷な合理性を語った。

 

リンタロウ「理由は簡単だ。選ばれる子供の大半が……バイオネットなどのテロで親を失い、天涯孤独になった子供たちだからだ」

ルネ「っ……!」

リンタロウ「倫理観や道徳観が乏しい幼子なら、殺人術も洗脳も施しやすい。……それに、親も身寄りもない。どれだけ凄惨に死のうが、どこからも苦情は来ないし、誰も探さない。都合のいい『使い捨ての道具』なんだよ」

 

胸を抉るような言葉。レンは静かに俯き、自らの運命の残酷さに胸を痛めていた。

 

パピヨン「……あまりにも……悪魔的な合理主義ね……。人の心を踏みにじるにも程があるわ……」

 

パピヨンは胸元を痛むように押さえ、目頭を熱くした。すると、リンタロウは自分のお茶を一口すすり、淡々と付け加えた。

 

リンタロウ「俺も幼い頃、バイオネットのテロで両親を殺された。行くあてもなく彷徨っていたところをCODEに拾われ……今日まで生きてきた。俺と同期でCODEに連れてこられた人間は殆どが任務中に命を落とした……もう俺だけだ。」

 

ルネも、パピヨンも、光竜も闇竜も、息を呑んでリンタロウを見つめた。無愛想で、論理的で、冷徹に見えた20歳の青年。彼自身もまた、レンと同じように両親を殺され、CODEという狂気のシステムの中で幼少期を奪われ、血を流しながら生き残ってきた「被害者」の一人だったのだ。だからこそ、彼はレンのスケジュールを「クソだ」と切り捨て、温かいカレーを煮て、「役立たずでもいいから生きろ」と告げたのだ。自分が味わってきた絶望と孤独を、目の前の幼い少年に二度と味わわせないために。

 

ルネ「リンタロウ……あんた……」

 

言葉を詰まらせるルネ。リンタロウはそんな全員の視線を避けるように、再び箸を取って生姜焼きを口に運んだ。

 

リンタロウ「……話は以上だ。冷める前に食え」

 

静かに告げるリンタロウの背中に、ルネは深く、深く胸を痛めると同時に、揺るぎない確信を抱いた。

ルネ「(この男も……傷つきながら、たった一人で戦ってきたんだ。レンを守るために……そして自分自身の魂を守るために……!)」

闇竜『……火浦リンタロウ。あなたという人は……どこまで深い重荷を背負ってこられたのですか……』

 

レンは自分の胸に手を当て、リンタロウの顔を見つめた。自分と同じ悲しみを抱え、それでも「大人」として自分を守ろうとしてくれる背中。温かな生姜焼きの湯気の中で、シャッセールのメンバーたちの絆は、悲しい過去の事実を知ったことで、より一層深く、固く結びついていった。

 




リンタロウの指導が更に入る
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