【シャッセール本部・作戦会議室】
ルネの熱い抱擁とレンの涙から数日後。シャッセールの執務室に、聞き覚えのある重厚で力強い足音が響き渡った。自動ドアが開き、そこに姿を現したのは、燃えるような眼光と茶髪を持つ男——GGG機動部隊隊長、獅子王凱だった。
凱「久しぶりだな、ルネ」
ルネ「凱……!」
突如として現れた従兄の姿に、ルネは驚きつつも笑みをこぼした。数々の激闘を潜り抜けてきた戦友との再会は、いつでも胸を熱くさせるものがあった。
パピヨン「あら、凱さん。フランスへは任務で?」
凱「ああ、GGGと国防省の合同会議でな。少し時間が取れたから、お前たちの顔を見に来たんだ。……それに」
凱はそう言うと、視線を壁越しにある個室のトレーニングルーム——大学レベルの専門書を開き、黙々と銃器の整備資料を解読しているレンの姿へ向けた。GGGのネットワークを通じて、CODEについてもCODEから派遣された少年のデータは凱の耳にも入っていた。
凱「あの子だろ……例のCODEのエージェント……」
ルネ「あぁ……」
ルネは胸の奥を重い塊で押さえつけられたような顔で、深く溜め息をついた。
凱「護よりも歳下の子が……言葉も無いな……」
天海護という、世界を救うために戦った少年の勇気を誰よりも知る凱だからこそ、その護すらも下回る「7歳」という幼さで殺戮と暗殺の地獄に身を投じさせられてきたレンの存在は、胸を激しく締め付けた。
ルネ「本当……笑えないよ……。あんな小さなガキに、100人以上の暗殺だの拷問だのを叩き込んで、朝から晩まで分刻みで兵器として管理してやがるんだ。CODEの連中も、この狂った世界も……反吐が出る」
凱「ルネ……」
凱は静かにルネの肩へ手を置いた。かつて同じサイボーグとして、Gストーンの痛みに耐えながら戦うルネが、どれほどあの少年に心を痛め、助けたいと願っているかが痛いほど伝わってきた。
凱「すまない、俺はこれから日本へ戻らなきゃならない。ゆっくり話す時間はなさそうだ」
ルネ「いいさ、顔を見られただけでも十分だよ」
凱「だが……行く前に、少しだけあの子と話をさせてくれないか?」
ルネ「……ああ、構わないよ。レンも、アンタみたいな『本物の勇者』と話せば、少しは何かを感じるかもしれない」
【シャッセール本部・個人学習室】
静かな部屋の中で、レンは大学レベルの高等物理学のテキストを開きながら、特注のハンドガンを無意識の手つきで分解・結合させていた。
コンコン、とノックの音が響き、ドアが開く。
レン「はい。……どうぞ。」
凱「邪魔するぞ。俺は獅子王凱。GGG機動部隊の隊長だ」
レン「……! GGGの、獅子王凱さん……。CODE-No.4、不動レンです。お初にお目にかかります」
レンは即座に立ち上がり、テキストと銃から手を離すと、いつものように深々と頭を下げた。
凱「ああ、楽にしてくれ。少しだけ、日本へ発つ前に話がしたくてな」
凱はレンの小さなデスクに置かれた凶悪な資料や銃のパーツ、そして開かれた難解なテキストを見つめ、静かに息を吐いた。
凱「すごい勉強量だな。7歳で大学の教材を解くだけでも驚きだが……銃の手入れも、プロの兵士以上だ」
レン「……僕はCODEのエージェントですので。完璧な成果を出すために、これらは最低限の義務です」
淡々と、感情を挟まずに答えるレン。その姿に、凱は優しく目元を緩め、レンの目線に合わせて片膝を突いた。
凱「レン。お前がこれまで背負ってきたものの重さは、俺には想像もつかない。大切な両親を奪われ、戦うことだけを教えられてきた……本当に、辛かっただろう」
レン「……いえ。僕の過去はどうでもいいんです。僕はバイオネットを壊滅させるための道具ですから。テロを無くすためなら、どんな汚れ仕事でも……」
そう言って頑なに心を閉ざそうとするレンの頭に、ぽんと大きな手が置かれた。熱い手だった。Gストーンのエネルギーだけでなく、命の脈動と強い意思がこもった、力強く温かい手。
凱「道具なんかじゃないさ」
レン「え……?」
凱「俺もな、全身をサイボーグに変えられ、Gストーンの力で生きていきた。命を燃やして、誰かを守るために戦っている。だからこそ分かるんだ。お前がテロを憎み、誰かを傷つけたくないと思いながら戦っているのは……『心』があるからだ。道具にそんな苦しみや優しさは宿らない」
レンは息を呑み、凱の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。
凱「ルネやパピヨン、光竜や闇竜から聞いたよ。お前が現場で、自分の危険を顧みず市民を助け出したこと。あいつらの背中を完璧に守り抜いたこと」
凱はレンの華奢な肩をしっかりと掴んだ。
凱「お前がやっていることは、殺戮の道具の仕事なんかじゃない。立派な『勇気』だ。誰かを守りたいと願うお前の心は、絶対に汚れてなんかいない」
レン「僕の……勇気……?」
生まれてからずっと「効率的な兵器」「銀の闇」とだけ呼ばれ、殺戮の技術だけを評価されてきた少年。そんな自分に対して、地球を救った英雄である男が、はっきりと「勇気がある」と言ってくれた。
凱「ああ。だからな、レン。自分の心を殺すな。お前にはルネたちがいる。お前を温かく迎えてくれる仲間がいるんだ。苦しい時は甘えていい、助けを求めていいんだよ」
凱は立ち上がると、ニッと力強い笑みを浮かべ、レンに向かって親指を立ててみせた。
凱「次に会う時は、もう少し柔らかい顔を見せてくれよな。じゃあな、レン!」
レン「あ……凱さん……!……会えてよかったです。」
凱「こちらこそだ。」
大きな背中を残し、部屋を去っていく凱。残されたレンは、自分の頭に残る熱い手の感触と、胸の奥でドクドクと脈打つ「温かい何か」を感じていた。手に残る銃の冷たさとは違う、人間としての温度。部屋の影からそっと様子を見守っていたルネが、腕を組みながら歩み寄ってくる。
ルネ「……相変わらず、クサいセリフを平然と言う男だろ、凱は」
レン「ルネさん……。僕……」
ルネ「言ったろう、アンタは化け物なんかじゃないって。凱もそう言いに来たんだ。……さあ、勉強はそこそこにして、今日はもう寝な。CODEのクソみたいなスケジュールなんて、アタシが揉み消してやるからさ」
ルネはポンとレンの背中を叩いた。
レン「……はい、ルネさん」
パピヨン「(また……高温の身体でレンに触れた……)」
その夜、レンはCODEに配属されてから初めて、23時半の消灯時間を待たずに、どこか安らかな気持ちで目を閉じることができたのだった。
凱との出会いを経て少し和らぐレン・・・しかし・・・