【パリ郊外・第三埠頭 B棟倉庫】
暗闇に包まれた廃倉庫の扉を押し開け、銀髪の少年——不動レンは静かに歩みを進めた。広い内部には、自動小銃や重火器を構えた数十人におよぶバイオネットのテロリストたちが陣取っていた。その中心に立つボス、ジョン・ビッグスは、侵入者がたった一人の小さな子供であることを見ると、下品な失笑を漏らした。
ジョン「なんだクソガキ! 痛い目に会いたくなきゃ帰んな!」
ジョンの部下が下卑た笑いを浮かべながら銃口を一斉に向けられながらも、レンの瞳には一切の揺らぎもなかった。少年は深く静かな息を吐き出すと、ぼそりと低く呟いた。
レン「痛みなら……散々味わってきた」
次の瞬間、静寂は疾風へと変わった。レンの身体が残像を残して跳ねる。目にも留まらぬ脚力で頭上へ躍り出ると、両手の特注アサルトライフルとコマンドナイフが同時に死を撒き散らし始めた。
ダダダダダッ! ズバッ!
ナイフが肉を切り裂く生々しい音と、絶え間なく鳴り響く銃撃音。飛び散る火花と空薬莢が闇を照らし出す中、銀髪をきらめかせながら縦横無尽に舞うその姿は、まさに「銀の闇」の名に相応しい死神の如き身のこなしだった。
引き金を一切の躊躇なく引き、弱点へと的確にナイフを突き立てる。無駄な動作は一秒たりともない。悲鳴と怒号が交錯する間もなく、数十人のテロリストたちは瞬く間に血の海へと沈められていった。
やがて、残されたのは頭領であるジョン・ビッグスただ一人となった。膝をつき、恐怖で股間を濡らしながら命乞いをするジョンへ、返り血を浴びたレンがゆっくりと歩み寄り銃を突きつける。
ジョン「た、頼む! 助けてくれ! 命だけは……!」
レン「反省もしないで他人の人生踏みにじってきた人間が今更何言ってるの? お前達みたいな人間が居るからまともな人間がどんどん消えるんだ。だから僕は、お前達を絶対に許さない」
ジョン「見逃してくれよ……俺には妻と娘がいるんだ……」
ジョンの必死の命乞いに対し、レンの冷徹な眼差しは1ミリも動かなかった。
レン「お前のDVが原因で奥さんと離婚した事は既にCODEが調査済みだ。子供もいない……消えろ」
パンッ!
無慈悲な銃声が一発。ジョンの額を撃ち抜き、その巨体が力なく倒れ伏した。そのままレンは奥の別室へと足を向ける。そこには、テロに深く加担していた女と、その腕に抱かれた幼い赤ちゃんが隠れていた。CODE本部からは、すでに「テロの予防措置および口封じ」として両者の処分の通達が下されていた。
母親「お願い! この子だけは……! 赤ちゃんだけは助けて!!」
泣き叫ぶ母親の狂おしい哀願。だが、兵器としてプログラムされたレンの手は止まらない。
パンッ! パンッ!
闇の中に冷たく響いた二度の乾いた銃声。それが、この場に存在したすべての生命の終焉を告げた。時を同じくして、CODEの命を無視して駆けつけたルネたちは、イークイップ(戦闘形態)を装着した状態で現場へと向かう。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
突然の爆発音が鳴り響く。嫌な予感がしたルネは光竜・闇竜と共にとにかく現場へと急ぐ。
ルネ:「レン!!」
ルネたちの視界に飛び込んできたのは、あまりにも残酷な光景だった。辺り一面を埋め尽くすテロリストたちの凄惨な遺体と、広がる血の海。その地獄の真ん中で、使い切った武器を地面に投げ捨て、ただ一人ポツンと立ち尽くすレンの姿があった。
ルネ「あ……あ……」
息を呑むルネ。現場から遠く離れた本部にいるパピヨンも、センシングマインドを通じて直接脳内へ雪崩れ込んできた「レンの精神の叫び」に胸を強く締め付けられ、涙を流していた。
パピヨン「(あの子の心が……悲鳴を上げている……! 自分の手で命を奪うたびに、心が割れるような痛みを抱えながら……それでも止まることを許されない……!)」
立ち尽くしていたレンの小さな拳が、血に濡れた服の上から強く強く握りしめられた。俯いていた顔が激しい怒りと耐えがたい悲しみで歪み、少年の喉から絶望の慟哭が爆発する。
レン「いつまでも手に残る感触、耳障りな音、血の匂い、全部が神経に障る!なぜお前らは何も考えず!何も感じずに!こんな真似ができるんだ!答えろ! ……いつまでこんなことを続ける!!! あと何人殺せばいい!!! いつになったら平和になる!!! 全部お前らのせいだ!!! 全部……!!!」
血の海に向かって、全存在を絞り出すように叫び続ける7歳の少年。叫び終えたレンは、肩を大きく上下させ、途切れ途切れの呼吸を整えるために深く一呼吸置いた。そして何事もなかったかのように氷のような表情へと戻ると、胸の通信機を開いた。
レン「……CODE清掃班。現場の処理をお願いします。ジョン・ビッグスが保持していたと思われる麻薬全ては爆破しました。任務、完了です。」
事務的に報告を終え、再びただの「道具」に戻ろうとした少年の背中。
ルネ:「レン……ッ!!」
右腕のGストーンが再び淡く光り輝かせながらレンに近づくルネ。ルネはもう、我慢できなかった。サイボーグの身体を激しく軋ませながら血の海を蹴り、駆け寄ると、その華奢で小さな身体を強く、壊れんばかりの力で強く強く抱きしめた。
ルネ「もういい……! もういいんだよ、レン……っ!!」
レン「ルネ……さん……? ですが僕は……CODEの指示で……」
ルネ「うるさい! うるさいよバカ野郎!! アンタがどれだけ血を浴びようが、どれだけ罪を背負わされようが、アタシが全部受け止めてやる! アンタを一人でこんな地獄に立たせたりさせやしない!!」
ルネの胸の中で、冷たく固まっていたレンの身体が微かに震え始める。レンは無意識にルネを抱きしめていた。
光竜「レンくん……! レンくん……っ!」
闇竜「私たちは勇者です……! あなたひとりに、こんな悲しみを背負わせはしません……!」
駆けつけた光竜と闇竜も悲痛な面持ちでレンの傍らに寄り添い、遠くでモニターを見つめるパピヨンも静かに祈りを捧げていた。抱きしめるルネの胸の温もりと、溢れ出る涙の温かさ。「銀の闇」と呼ばれ、殺戮の道具として生きることを強集されてきた少年は、ルネの腕の中で静かに目をつむり、そのぬくもりに深く包み込まれていくのだった。
ルネの変化がここから少しずつ変わります