ウルトラマンエターナル 〜神聖時間軸の守護神〜 作:マーベルウルトラ
激動の戦いを終え、それぞれの故郷へと帰還した神々の日常。
そこで静かに語り合われる古代の記録と、神話の答え合わせ。
張り巡らされていく因果のピースを、どうぞお楽しみください。
セントラルパークからの空間跳躍を経て、故郷アスガルドの王宮へと帰還した雷神ソーと、口枷を嵌められ、ニューヨークの戦場で目撃したあの“光の巨神(エターナル・ワイルドハンター)”の底知れぬ恐怖に未だガタガタと全身を戦慄させ続けるロキ 。
王宮の回廊の影からぬるりと、圧倒的な死の威厳を纏った長姉ヘラが自らの意志で悠然と姿を現したのは、まさにその到着の直後であった 。
「フッ、相変わらず間抜けな弟たちだこと。神を気取って地球で浅はかに暴れた挙句、私の大切な『友人』の庭にうっかり踏み込んで半殺しにされたそうじゃない? 命があっただけでも、彼の過保護な優しさに感謝するのね」
「なんだと……!? 待て、いつも冥界に閉じこもっている姉上が、なぜこんなところにいるんだ!? ロキ、なぜお前はさっきからそんなにガタガタと怯えているんだ!? 姉上が言っている“大切な友人”とは一体何の話なんだ!?」
いつも冥界に引きこんでいる気高い姉が珍しく王宮に現れた驚きと、ロキの尋常ではない怯え方に完全に置いてけぼりにされ、ソーはハンマーを持ったままきょとんとする 。
ロキは口枷をしながら目を血走らせ、絶望に顔を青ざめさせながら、ガッツスパークレンスの輝きを思い出してガタガタと激しく首を縦に振るしかなかった 。
(……っ、やっぱりあの光の巨神は、昔、姉上達から『いいかいロキ、この宇宙で光の巨神だけは絶対に敵に回すんじゃないよ』とさんざん警告されていた、あの『友人』だったんだ……! 私はとんでもない奴に喧嘩を売ってしまった……!!)
「相変わらずの浅はかさね。哀れな弟たちを見れたから私はもう冥界(ヘルヘイム)に戻るわ」
ファサッと髪を揺らし、そのまま悠然と踵を返そうとするヘラ 。
だがその瞬間、廊下の奥からすべてを優しくお見通しの微笑みを浮かべた母フリッガが静かに姿を現した 。
「貴方達そんなところで話してないで、中に入ってきなさい。……ヘラ、久しぶりに帰ってきたのですから、少しお話ししましょう。ロキ、あなたのお仕置きはご飯の後ですよ」
「……っ、母上。……分かりました、母上がおっしゃるなら、今日だけは付き合ってあげます」
さっきまで冷徹な女王の威厳を放ち、男たちの前では強がって格好をつけていたヘラが、母の前に進み出た瞬間、一瞬にして『久しぶりに実家に帰ってきた気恥ずかしそうな長女』の顔へと変わる 。
フリッガがその髪を優しく撫めると、ヘラは「相変わらずお節介ね、母上」と少しだけ嬉しそうに目を細め、母娘だけの不器用なぬくもりを湛えながら、フリッガに寄り添うようにして二人で静かに奥の庭園へと歩み去っていった 。
ソーと、一度口枷を外してもらったロキも、母の優しい号令に従って素直にその後に続き、王宮の食堂へと足を運ぶのだった 。
王宮の食堂へと場所を移し、久しぶりにヘラも揃って大皿の肉やスープを囲むアスガルドの家族の食卓 。
何も知らないソーが、待ちきれないとばかりに身を乗り出して尋ねた 。
「父上、地球に現れたあの“光の巨神”……真中優斗という少年についてですが、ミッドガルドの仲間の調べでは数千年前の古代バビロンの粘土板のいくつかにも名が遺されていたそうです! 彼は父上が話していた友人ですか!?」
主神オーディンは一瞬だけビクリと身を硬くした 。
自らの過激な征服戦争の黒歴史や、ムジョルニアの裏に勝手に保険を刻み込んだ件をソーに隠さねばならないため、必死に話を美化してボカしながらも、大好きな友人である優斗の誇らしさに思わず笑みを浮かべる 。
「ウム……! よくぞ聞いてくれた、ソーよ。真中優斗か! ああ、彼はかつて我がアスガルドの危機をもその高潔な優しさで調和して救ってくれた、私の不滅の、かけがえのない『対等の友』なのだ! 遥か昔に世界が平和に調和したのも、彼のおかげと言っても過言ではなく――」
「……フッ。もっとも、あの男はあの青い辺境の星をひどく気に入っていてね。あそこに生きる小さき人間たちの笑顔を護るために、遥か昔から、幾度となくあの星を救っているのだけれど」
父親が自分の過去を格好つけて話している姿を、ヘラはワイングラスを傾けながら鼻で小さく笑い、優斗の旅路を少しだけ誇らしげに付け加えた 。
オーディンもまた、友の話題に嬉しそうに頷く 。
「ああ, ヘラの言う通りだ。真中は本当にミッドガルドが大好きでな。お前が地球で人の温かさを学んだように、あの男もまた、太古の昔からあそこに生きる小さき命たちの笑顔に、寄り添うべき尊さを見出しているのだろう。これまでにも我々のあずかり知らぬところで、幾度となくあの星に降臨しては救ってきたのだ」
「ええ、本当に素晴らしい友人ですものね、あなた? さあ、冷めないうちにスープをどうぞ」
フリッガもまた、夫が必死に過去を隠して格好をつけているのをすべてお見通しのまま、いたずらっぽく微笑んで、それとなくオーディンのお皿に温かいスープをよそってあげるのだった 。
「おお! やはり父上直々の不滅のご友人でしたか! 地球のゼウスをも素手だけで完璧に返り討ちにしたと聞き、我がムジョルニアを以てしても敵わぬ絶対神の格を感じました!」
ソーだけが「さすが父上、さすが父上の友人です!」と一人でピュアに大興奮していると、オーディンは突如、大真面目な厳格な顔になって我が子を強く見据え、声を潜めた 。
「……ソーよ、これだけは絶対に忘れるな。今後、オリンポスのゼウスの前では、間違っても真中優斗の名前を口にするのではないぞ。あの全能の神にとっては、素手だけで完膚なきまでに返り討ちにされた過去が、未だに名を聞くだけで震え上がるほどの『トラウマ』になっているのだからな」
「なるほど、全能の雷を放つあの老神が名を聞くだけで怯えるとは! やはり真中は、光の巨神なんだな!」
ソーが未だ驚きを隠せないまま大真面目に目を輝かせて深く息を吐く傍らで、借りてきた猫のように静かになったロキは、青い顔のまま、黙々とスープを口に運び続けていた 。
(……頼むからもうその『光の巨神』の話はやめてくれ、私の胃に穴が空いてしまう。お仕置きの前のこのご飯が一番喉を通らない……)
賑やかだった食卓が終わり、母フリッガの言葉通り、ソーはしっかりとロキの肩を掴んで地下の監獄へと連行していった。
「さあロキ、飯も食った、大人しく檻に入りに行くぞ!」と引っ張られるロキは、今度こそ大人しく檻へと収まるのだった 。
やがて家族それぞれが部屋へと戻っていった静寂の食堂 。
一人テーブルに残り、ワイングラスを傾けていた主神オーディンは、窓の向こうに広がるアスガルドの美しい星空を静かに見つめ、誰にともなく、ぽつりと厳かに独白を漏らした 。
「……幾重にも重ね、我がムジョルニアに刻み込んだ、あの不滅の『保険』。あの子たちが本当の意味でその力を引き出す、次なる激動の時が来るか……。いや、それだけではない」
オーディンはグラスを置き、優斗が放ったあのまばゆい緋色と真鍮の烈光(エターナル・ワイルドハンター)の圧倒的な深淵を思い起こすようにその隻眼を細める 。
「あ奴の宿す創生の力、その深淵には……未だ誰も到達しておらぬ、さらに先の『覚醒の領域』があるはず。あれほどの力を宿しながら、彼はまだその本質すら開いていない。あの光が真の覚醒を迎える時、マルチバースの因果を変えるだろうな……」
ふっと、その老神の厳格な顔に、友を全面的に信頼する温かい笑みが浮かび上がった 。
「子どもたちと、これからの未来を頼んだぞ。……私の不滅の友よ」
主神の静かな願いが夜空に溶けていくその頃、アスガルドの王宮のあちこちでは、家族達がそれぞれ話していた 。
重厚な地下監獄の檻の前では、ソーが「おいロキ、地球のあのシャワルマという肉料理は美味かったぞ」などと笑いかけ、ロキが「兄上、あんな泥臭い場所に私を誘おうとしないでください」と呆れ混じりの、いつもの小気味良い軽口を叩き合って言葉を交わしている 。
そして柔らかな明かりが灯るフリッガの部屋では、男たちの前では頑なに心を閉ざしていた長姉ヘラが、母の隣でだけは驚くほど大人しく穏やかな表情を見せ、かつてアスガルドの黒歴史や世界を優斗と共に渡り歩いた、かけがえのない優しき友人の思い出話を、母フリッガと二人でいつまでも楽しそうに語り合っているのだった―― 。
第10話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
『アスガルド』を描かせていただきました。
不器用な神々の家族がそれぞれの場所で紡ぎ始めた温かい未来を、ぜひ色々と想像しながら楽しんでいただければ幸いです!
あと数話ほどの後日談を投稿します。どうぞお楽しみに!