ウルトラマンエターナル 〜神聖時間軸の守護神〜 作:マーベルウルトラ
彼女を蝕む赤黒い大暴走を前に、主神オーディンはいつもの王の顔ではなく「一人の戦士」として重々しく口を開く――。
明かされる世界の真の暗黒面と、神話の歴史をどうぞお楽しみください!
フリッガとオーディンの圧倒的な親の愛の力技によって、ジェーンの体内を蝕むエーテルの暴走がひと先ず堰き止められた王宮の医療室 。
一時的な安らぎを得て眠るジェーンの手を、ソーが愛おしそうに優しく握り締めて寄り添うなか、
床からグングニルを静かに引き戻したオーディンは、いつもの玉座の上から見下ろす冷徹な主神の顔ではなく、かつて無数の死闘を潜り抜けてきた「一人の老戦士」としての生々しくも重々しい口調で静かに口を開いた 。
「ソーよ。お前が連れ帰ったその娘の体内で蠢いているものは、ただの病などではない。……それは宇宙の誕生前から存在し、液体状をしている宇宙最凶の物質『エーテル』だ。別の生き物に寄生し、宿主の生命力をどこまでも吸い尽くす絶望の塊なのだ」
オーディンが重々しくその名を口にした瞬間、前話であれほど医療室をバリバリと白金色の幾何学模様で埋め尽くしていた王宮のルーン防衛回路が、まるで宇宙の絶対的な因果に畏怖し平伏するかのように、一瞬にしてその輝きを鈍らせ静かに小さく潜めた 。
部屋全体が厳かな深い陰影に包まれ、グングニルを握るオーディンから滲み出る底知れない重圧によって、医療室の大気そのものがメキメキと重く軋み、気圧が跳ね上がっていく 。
「……エーテル。かつて我が父ボーの時代、ダーク・エルフの長マレキスがその最凶の力を使い、九つの世界のすべてを光を拒む暗黒物質(ダークマター)へと還すため、このアスガルドを攻め滅ぼそうと攻め込んできた時の悪夢だ。
我が父ボーが命懸けで奪い取り、地下の暗黒空間へと封印した歴史の闇なのだが……」
オーディンは一度言葉を切ると、隻眼をさらに鋭く細め、声を極限まで潜めて語りを繋いだ 。
「だがソーよ。真の恐ろしさはそこではない。このエーテルは……あ奴、真中優斗の宿す『エタニティコアのエネルギー』と共鳴を起こし、より強大で手の付けられない破壊の力へと変貌を遂げてしまう恐れがあるのだ 。
実際、我が父ボーがマレキスの軍勢と戦っていた5000年前のあの戦場にて、あ奴はエーテルを変貌させないために、わざわざ『人間体(等身大の姿)』のままで戦場に立ち、あの白銀の刺繍が輝く不滅のジャケットを纏って軍勢を蹂躙していたのだからな……」
「な……っ!?」
ソーの胸を、かつてないほどの激震と驚愕が奔った 。
身近な良き友人として接していたあの少年が、5000年も昔にエーテルの共鳴進化を防ぐためにあえて力をセーブし、人間体のままダーク・エルフを圧倒していたという話 。
ソーは息を呑み、思わずオーディンを見上げて声を絞り出す 。
「それ程の力を……真中優斗は持っていたのですか……っ!?」
「エーテルなど比較にならん力だ、ソー」
一人の戦士としてのオーディンは、拳を強く握り締めながら、底知れない畏敬を込めて吐き捨てた 。
「あ奴が持っているエネルギーは、この宇宙と同等の存在と言われる概念『エタニティ』と同じ名を持つ、宇宙創生の核【エタニティコア】だ 。
この宇宙そのものを生み出したビッグバンの源流であり、時空の因果そのものを一瞬で書き換えて無へ還すこともできる、神々の想像すら絶した絶対創生の核なのだ 。
……到底、ただ一人の人間が持っていいものではない 。あ奴という気高い意志だからこそ完璧に制御し、1ミリも悪用していないだけなのだ 。
……だが、あ奴はそれを使わずとも、両親から受け継いだ光と闇の力、、そして我々の叡智を以てしても理解できぬ『スフィア』という不思議な力を使いこなし、人間体のまま凄まじい戦いぶりでアスガルドを救っていた 。
光と闇という力の調和とは根本的に異なる、時空の理を歪めて世界を侵食しようとする、全宇宙のどこにも存在せぬ因子…… 。
あ奴はその災厄の力すらも己の武器として、完璧に調和して使っていたのだからな」
そこまで語ると、オーディンは深く、深く溜息を漏らし、どこか切なげに視線を落とした 。
「……だが今となっては、その光と闇の力も、スフィアの力すらも、周囲の空間や愛する人々に影響を与えることを恐れ、それらすべての力をも深く、深く、己の奥底へと完璧に抑え込んでいるようだがな……あ奴は拠点も隠しておる」
あ奴はそれほどの圧倒的な全能を背負いながら、誰に褒められるでもなく、ただ俺たちの何気ない“人々の日常”を護るために、たった一人で血を流し、その全能を深い愛で閉じ込め続けていた 。
そんな気高き友の想いを、俺は絶対に無駄にはせん――!
ソーは瞳に熱い涙が込み上げるのを堪えながら、優斗の持つ最強ゆえの不器用な優しさと、誰にも理解され得ない絶対神としてのあまりにも気高い孤独に魂を激しく震わせ、ムジョルニアを握る拳を白くなるほど強く強く握り締めた 。
ジェーンの寝台を包み込む緑やオレンジの魔法の光を維持しながら、その粒子がピキィン……と緊張感の中で凍りついたように静止するなか、王妃フリッガもまた深く静かに双眸を伏せ、戦慄と母親としての深い慈愛を言葉に滲ませた 。
「ええ、ソー。あのエタニティコアの力が漏れた場合、九つの世界は未曾有の危機に陥るでしょう 。
……真中さんがその果てしない全能をどれほど深い愛で閉じ込め、一人の少年としてただみんなの日常の笑顔を護るために佇んでいるのか、私たちが想像できる範疇を超えています。」
張り詰めた神聖な緊張感のなか、一人の少年の気高き孤独の哲学が医療室を重々しく満たしていく 。
ソーはムジョルニアをさらにがっしりと握り締め、一人の男としての不退転の決意を瞳に宿して、再びオーディンへ食い下がった 。
「父上……! 真中優斗がそこまでして俺たちの笑顔を護ってくれているのだ 。
ならば、アスガルドの王子たる俺がいつまでも甘えてばかりではいられない! ジェーンの体内にあるこのエーテルを完全に引き剥がし、無効化する術を教えてください!」
しかし、一人の老戦士の顔をしたオーディンは、静かに首を振って冷徹な現実を突きつけた 。
「……ソーよ。先ほどフリッガと二人がかりで編み上げたオーロラの結界を以てしても、このジェーンの体内にあるエーテルの暴走を一時的に『堰き止める』のが限界なのだ 。
ただエーテルが再び暴走する恐れもある 。……共にマレキスという、我が父ボーが封印したダーク・エルフの長であれば、その最凶の権能を以てこの娘の体内からエーテルを力ずくで取り出すことは可能だろう 。
……だが, それをすれば寄生されている宿主の生命力をも根こそぎ奪い取ることになる。この娘ジェーンも死ぬかもしれん。……もしくは、真中優斗ならこの娘の命を護ったまま、問題なく取り出せるだろうがな」
「ならば父上、すぐにでも真中優斗をアスガルドへ! あ奴の光があればジェーンは……!」
ソーが身を乗り出して必死に叫ぶが、オーディンは静かに、しかしこれ以上ないほど重い溜息とともにそれを拒んだ 。
「……出来ぬのだ、ソー。何故あ奴がそれほどまでに己の拠点を隠していると思う?」
オーディンは声を極限まで潜め、厳かにその隻眼を細めて世界の真の暗黒を明かした 。
「ソーよ、お前はアベンジャーズとともに地球を護り、九つの世界を平定して満足しておるかもしれん。だが、この広大な世界(マルチバース)には、我らアスガルドの神々を以てしても、逆立ちしたとて太刀打ちできん絶対的な災厄(存在)が数多く存在するのだ。お前はまだ知らぬだろうが、あ奴は我らでも太刀打ちできん存在と、宇宙の人々を護りながら日夜戦っておるのだよ」
「……我が父でも、太刀打ちできん存在、ですか……? 真中優斗はそんな存在とも戦っているというのですか?」
ソーが驚愕に息を呑むなか、オーディンの口から全宇宙の支配者たちの恐るべき名と歴史が紡がれていく 。
「暗黒次元の主ドルマムゥ。時空の理そのものを捕食し、黒魔術の呪詛で全次元を腐らせようとする闇の根源クトーン。かつて超古代の地球を支配し、互いを喰らい合って狂った邪神の王たち──『堕ちたエルダーゴッド』の一柱だ。
さらに、死の概念そのものである死の女神デス、あ奴の存在を認めぬ者が数多く居る宇宙の絶対創造主セレスティアルズ……他にも数多くおる。真中優斗はそんな化け物たちと、全宇宙の人々を助けながら今もたった一人で戦っておるのだ。中でもドルマムゥやデスは、殺したいと思うほどにあ奴を激しく憎んでおる」
語られる名に、医療室の空気が張り詰めた神聖な緊張感で凍りついていく。
しかし、オーディンはかつてないほどの熱い戦律をその双眸に宿し、誇らしげに口元を歪めた [2012年]。
「……だがソーよ、勘違いするな。あ奴が力を抑え込んでいるのは、あくまでこの九つの世界や、地球のような『壊れやすい星や人々』を護るための配慮に過ぎん。
奴らのいる暗黒次元や、クトーン本体が潜む混沌の次元……そういった、時間の概念すらドロドロに溶け去り、因果の法則そのものが黒魔術の呪詛によって腐り狂った、最初から理の崩壊した異形の地獄において、あ奴は周囲に気を使う必要すらなく、その全能の力を『全力』で解き放って戦っておるのだよ。
あ奴が周囲への配慮(枷)を100%解除し、創生と破壊の全力を解き放った瞬間、その白銀の烈光と闇の波動は、次元の壁をも粉々に粉砕し、絶対の支配者たる邪神たちすらも力ずくで調和してねじ伏せる。その戦神としての真の姿は、全宇宙の因果を書き換える不滅の絶対神そのものだ」
その圧倒的な戦闘神話を聞き、ソーは、あるいは結界を維持するフリッガまでもが、優斗の持つ絶対神としての底知れない戦闘歴史に魂を激しく震わせた 。
「マレキスを頼らず、この娘の命を護ったままで、宇宙最凶の暗黒物質を根底から完全に無効化し、調和できるのは──全宇宙でただ一人、我が不滅の友、真中優斗だけなのだ。
あ奴はそれほど凄まじい絶対神だからこそ、敵も血眼になってあ奴を殺そうと探しておる。
そんな化け物たちの邪悪な目を、この九つの世界へ向けさせぬため、あ奴は一切の痕跡を残さず一人で世界を飛び回っておる。
その気配と拠点を完璧に隠しているがゆえに、我らアスガルドの神々を以てしても、今……頼みたくとも、探す術が無く頼めないのだ」
「頼みたくても、探す術がないというのですか……っ!」
ソーが愕然とし、最愛の人の寝台の傍らで拳を握りしめる医療室 。
親の愛の力技によって一時的にホールドされた日常のぬくもりの中に、宿命の歯車は静かに、しかし確実に噛み合っていく 。
光の巨神の降臨を予感させる不穏にして温かい余韻を王宮に遺した 。
――だが、その同じ瞬間。全宇宙を震撼させるエーテルの目覚め、そしてドルマムゥたちの名を明かす優斗の凄まじい戦歴の重みに呼応するかのように 。
遙か闇の奥底、数千年間眠り続けていたダーク・エルフの宇宙船のなかで、宿敵──ダーク・エルフの長マレキスの双眸が、悍ましき赤黒い光を宿して本格的に完全覚醒を果たした 。
数千年の封印の眠りから覚め、その赤黒い凶悪な瞳を開いたマレキスが、脳裏に刻まれたあの5000年前の戦場でボーと共に美しく輝いていた白銀の刺繍のジャケットの残像に激しい怒りと身を震わせ、
「ウルトラマン……っ!」
と復讐の呪詛を宇宙の深淵へと響かせながら、九つの世界を再び光を拒む暗黒物質へと還すため、不気味な船体をゆっくりと加速させて漆黒の闇を進軍し始める。
第17話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
マレキスがもたらす冷徹な現実、そしてマルチバースの支配者たちを相手に、孤独に『壊れやすい星や人々』を護り続けている真中優斗の話を、オーディンの視点から描かせていただきました。
世界の裏側で繰り広げられている壮絶な死闘の重みを、ぜひ色々と想像しながら楽しんでいただければ幸いです!