透明な配達人   作:ながずぼん

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 仙台《せんだい》の会社とのやり取りで、先方の社長から「確かに買収の話は他からも来ているが、こちらとしては条件の良い方を選ぶだけなので普通に会社へ届けて貰えればいい」との指示があった。

 ただし配送の依頼主である大阪《おおさか》の会社からは隠密配達として受注しているので、午後9時~午前5時を目処に2日間走って仙台へ行き、仮眠をとって売却する車屋へ車を持ち込んだら、先方の営業時間内に歩いて書類を届ける、ということになった。

 

 ところが出発に備えている午後1時すぎ、仙台の会社から受け取り方法の変更指示が入る。明後日の午後2時、仙台駅近くのラグジュアリーホテルに併設する地下駐車場が受け取り場所として指示された。さらにはスーツ着用のドレスコード付き。

 石川は書類を奪われる場所に誘導されているのではないかと疑い、下書きを更新したのか先方に確認したかったが電話をした時点で線が繋がってしまうので、「受け取りにはどなたが来られますか?」と下書き更新してみた。

 

 先方の返答は「弊社の実質的な経営権は代表取締役会長にあり、大阪の仲介会社の真摯な対応には相応の誠意を示すべきという指示があった」とのことだった。

 

 石川は、資料が届く話が会長に伝わっておらず、彼の耳に大阪の会社の徹底ぶりが入ったときに意気に感じ、そういうことならと方針転換があったのではないかと想像した。想像でしかなかったが。

 とにかくその変更内容はすぐに六星ロジスティクスの全員に共有される。

 最も影響が大きいのは言わずもがな運転手である男。車屋に乗って行った車を預けた後、午後2時まで時間を潰し、場合によっては仙台でもう一泊することになるだろう。

 

 夕方、戸田が石川のタクシー会社へ車を運んできた。

 持ってきたのは、2014年式ボルボV60。黒いワゴン車だった。

 

「シートにマッサージ付いてるって話だったんだが、届いてみたら付いてねえんだよ。期待させちまって悪かったな」

 

 戸田が謝っている姿は初めて見た。―――この人、ふつうに謝れるんだ。

 

「いや、別に問題ないです。これ排気量はどれくらいですか?」

 

「1600のターボだ。車重はこっちの方が重いけどDS4と同じだな。あとヘッドランプは”おまえ”が気に入ってたアダプティブだ。目玉動くやつ」

 

「それはいいですね。あれ先が見えるから曲がりやすいです」

 

「あとこれ、後ろ倒せば荷室の長さが180cmになって仮眠するときも足伸ばして寝れるから。毛布積んであるからあんまり無理すんな」

 

 戸田が優しいことを言ってくるのも初めてだった。男は戸田について思い違いをしていたのかもしれないと少しだけ思ったが、やはり熊の目は苦手だった。

 

 由加里の用意した夕食を食べていると陽菜がやってきて、追加の地図でもあるのかと思ったが事前に渡されているもので足りているらしく、単に見送りに来ているだけのようだった。

 

「一応、明日の日の出までに4号線に辿り着けるはずだけど無理はしないようにね」

 

「わかった。風呂入ってくる」

 

 男は食べ終わったらシャワーを浴びて身支度を整え、地図や現金の確認をする。

 準備が整ったところで「じゃあ」と言って車に乗り込む。

 石川夫妻と陽菜に見送られ、走行距離500km近くの隠密配達に出発する。

 

 前日に帰ってきた国道20号線で塩尻《しおじり》から岡谷《おかや》へ。

 今回は和田峠《わだとおげ》経由でいいらしく、国道142号線に入り坂を駆け上がる。

 ハンドルを切った方向へライトの向きが変わるアダプティブヘッドライトがコーナー出口を照らし、これは本当に山道で助かるなと男は装備に満足だった。

 坂を下り長和町《ながわまち》のNシステムを車一台やっとといった田んぼの中の道で迂回し、再び国道に戻って立科町《たてしなまち》へ。

 立科町のNシステムを迂回するのと同時に国道18号線方面へ抜けるため、信号の手前を左に入り県道40号線で北上し、坂を上り下りして北陸新幹線の下をくぐり、千曲川を渡ってしなの鉄道のボックスを越えた先で右に入り国道18号線の丁字路を左折。

 車にも道路にも交通量にも文句ない。順調そのものだった。

 

 とはいえ松本を出て2時間ほど経過していたので、丁字路のすぐ先のセブンイレブンに立ち寄る。広い駐車場の端の方へ停め店内へ。

 マシンドリップの珈琲と、灰皿用に蓋付のコーヒーを買って店を出る。

 車まで戻る間に缶のコーヒーを一口飲み、躊躇なく飲み残しを歩道の排水溝に流して捨てる。

 車に乗り込み、国道18号線で東進し、最初の迂回路を越えたところで窓を全開にして煙草に火を点ける。11月の夜風は涼しいを通り越して少し寒かった。

 小諸《こもろ》市内の2箇所目のNシステムもくるりと迂回し、御代田町《みよたまち》の監視カメラは小さく脇道を三角に曲がって躱す。

 

 初めての配達の際に高崎《たかさき》からの帰り道で通ったはずの軽井沢《かるいざわ》町内の監視カメラの迂回路は、こんなだったかな?と思うほどに大回りだったが問題なくパス。

 軽井沢駅の手前の分岐では、信号の手前の交差点を左折、次の丁字路を右折、県道43号線を右折して鉄道2本の下をくぐり、アウトレットモールを通過して、碓氷バイパスに出る前に左折して、裏道でNシステムを2つ回避する。

 

 碓氷バイパスにNシステムやカメラはない。大型車が登坂車線にいてくれるうちに数台追い越し、やがて下り坂になり看板もなにもないまま群馬県に入る。

 大きなヘアピンカーブが連続する下り坂を下りていき、道は平らになるもののしばらくは民家のない山の道を往く。横川《よこかわ》の釜めし屋を通過し、信越本線との並走区間が終わる頃に民家が現れ始める。

 

 先のNシステムを回避するため松井田《まついだ》の信号で鋭角に右折し、県道217号線で迂回区間を通過し、工業団地の脇を通って18号に復帰する。

 高崎《たかさき》の市街地に入る手前のあたり、左折して県道26号線に入り、両側に民家が立ち並ぶ信号のない平らで真っ直ぐな道を国道406号線に突き当たるまで進む。

 午前零時過ぎ、静かな住宅街にボルボの走行音だけが糸を引くように流れる。

 何度目かの国道18号復帰を果たし、左の前橋、高崎市街方面の車線を進んで烏川《からすがわ》を渡ると、名称が国道17号線になる。左に大きくカーブして前橋《まえばし》へ向かい、井野川《いのがわ》を渡った先にNシステムがある。

 でかいダイハツの看板のところで左に入り、道なりに進みつつコの字に迂回して、アルファロメオの前の交差点でまた国道17号に。

 

 午前1時を過ぎていたので日産の手前にあるローソンで休憩することに。

 トイレを借りて用を足し、マチカフェの珈琲を買って車に戻る。4時間走ってまだ高崎なのかと不安になるも、焦っても仕方ないと思い直し出発する。

 ドリンクホルダーに入っている缶の蓋を開け、窓を全開にして煙草を吸う。

 車内を吹き抜けていく風は、小諸のときほど寒くなかった。

 

 前橋インターを通過し群馬大橋で利根川《とねがわ》を渡り、先の交差点のNシステムを迂回するため、右手に見える大きな病院の前の交差点を左折、県庁前で左折して国道50号線に入る。しばらく道なり。

 県道40号線の交差点を通過した先のガソリンスタンドの脇を左に入り、田んぼに囲まれた道を進んで右折し、50号線に復帰する。

 

 伊勢崎《いせざき》市に入り、右手に軽ワゴンがずらりと並ぶ中古車屋の交差点を左折、すぐの辻を右折し、丁字路まで細い道を進んで右折し、また50号線に出る。

 みどり市内では迂回ポイントはなく、桐生市へ。

 丁字路で左折し国道122号線を南下。バイパスを進み左に側道の車線が現れたらそちらへ入り、陸橋へ進む大型車たちとは別れる。

 

 左折して県道316号線に入り松原橋《まつばらばし》で渡良瀬川《わたらせがわ》を渡る。丁字路を右折して県道67号線を進み、変形五差路を左折して陸橋で両毛線《りょうもうせん》を跨ぐ。

 突き当りの県道218号線で右折し、再び陸橋で両毛線を跨いで県道67号線に戻る。県道256号線の交差点で右折し、渡良瀬川をもう一度渡ったところで左折して堤防道路を進む。

 

 縮尺の小さい地図で赤い線を見ると、群馬県内は絶妙な場所にNシステムが配置されている。―――よくこの面倒臭いルートを調べたものだ。

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