透明な配達人   作:ながずぼん

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#23

 深夜3時過ぎ。男の運転するボルボV60は、渡良瀬川《わたらせがわ》の堤防道路を東に進み、群馬県太田(おおた)市から栃木県足利(あしかが)市に入る。

 堤防道路を右に降りて住宅地の間の細い道を進み県道39号線に出る。

 直進して伊勢崎《いせざき》線の高架をくぐった先のローソンの交差点で右折。最初の四つ角を左に曲がり突き当りを左、先に見える交差点にNシステムがあるので右手前の路地へ入り迂回して県道40号線へ。その先のセブンイレブンで3回目の休憩。

 

 思考能力が鈍っていろいろな判断が怪しくなってきていると思った男は、珈琲の他に赤い牛のマークのついた銀色のエネドリを買う。

 店を出たところで一気に飲み干し翼を授かる。いや、授かってるようなプラセボ効果を得ただけに過ぎないのかもしれないが頭がシャキッとした気分にはなった。

 出発前に大きい地図を手に持ち店から漏れる明かりでルートの確認をしたとき、ふと『太田市』という文字が気になる。現在と分断された過去の記憶、のような感覚。

 男は地図をじっと見つめる。時間にして数秒のこと。

 そして地図を助手席に戻し再び車を発進させた。―――気のせいだったのか。

 

 モスバーガーの交差点を右折して県道38号線で国道50号線へ。

 側道を左折し本線に合流。しばらく直進。

 秋山川《あきやまがわ》を渡った先でNシステムの回避ポイントがあり、左側で並走する田んぼの管理道路へ避けるコマ図があるが、それより手前に機器が載せられている架台がある。

 後続車もいなかったので速度を落として目を凝らしてみるも午前3時では暗くて見えない。車道の左側にはパイプの柵があり、右は中央分離帯。

 男は、一箇所ぐらい…と一瞬思ったが、それで全てが台無しになっては意味がないと思い、路肩に車を停め、ハザードランプを点灯し車を降りる。

 

 機器が視認できるところまで歩いて確認すると、速度自動取り締まり器(オービス)であることがわかる。以前に陽菜から監視カメラとNシステムの特徴を画像でレクチャーされたときにループコイル式のオービスだと教えてもらったものだった。

 ―――よかった。エネドリのせいでなにかが敏感になっているのかも。

 

 車に戻り発進させ、予定通り一段下の道を走ってNシステムを躱し、アウトレットモールを通過。佐野藤岡《さのふじおか》インターも通過し、しばらく先の岩舟町静《いわふねまちしずか》の交差点を左折し、丁字路を右折して県道67号線に入る。この先の監視カメラを避けるため。

 ゴルフ練習場の背の高いネットが見えたら分岐を右へ。ビニルハウスが立ち並ぶ突き当りを左折して県道36号線へ。

 しばらく道なりに進んで、国道50号線に合流する手前の青看板に小山《おやま》市街とある左車線で県道246号線に入る。これも監視カメラ避け。

 県道31号線の丁字路で右折し思川を渡り、いよいよ国道4号線に出る。

 

 北上しNシステムを回避する。ユニクロの看板のあるショッピングモールの交差点を右折し、最初の信号を左折。その県道265号線を北に向かいあちこちから道路が集結している喜沢《きざわ》分岐点の信号を左斜めに向かい、4号線に戻る。

 5分も走らないうちに回避というより避難する。

 国交省の国道事務所の鉄塔に取り付けたライブカメラで、どこまで映るかわからないから大きく迂回するらしい。「鉄塔にカメラ!」と地図に書いてある。

 ゲオの交差点を右折し、東北新幹線の高架をくぐって踏切を渡り、四つ角を左折。新興住宅地を直進すると斜めに県道44号線に突き当たるので左折。帰宅の車なのだろうか混み合っている。

 再び踏切を渡り高架をくぐって4号線の信号を右折して元に戻る。

 

 曇っているのか空は暗いがどことなく空が白み始めそう、そんな気配がした。

 明るくなる前にどこか寝られそうな場所を探しながら北上していくと、青看板に道の駅の名前を見つけ、右折して県道310号線に入る。

 迂回路以外の詳細地図はないので男は大きい地図に記されたNシステムのマークを確認しながら細い路地で躱して道の駅に辿り着く。

 

 駐車場には大型トラックや車中泊の車はそこそこ停まっており、あまり人目につかなさそうな場所の空きスペースを探しながら駐車場内を移動する。

 道路や建物から離れた場所に、よさそうな場所を見つけ車を停める。

 トイレを済ませて車に戻り、後部座席を倒して荷室で毛布を被って横になる。

 2時間前に飲んだエネドリの効果かなかなか寝付けなかったものの、長距離移動の疲労は溜まっていたようで、朝日が昇る前には眠りにつくことができた。

 

 翌日は曇り空で気温も急には上がらなかったため、ぐっすり眠れた男が目を覚ましたのは正午すぎだった。

 トイレの手洗いで顔を洗う。歯ブラシを持って来ていなかったが、持参していたとしてやはりトイレで歯を磨く気にはならなかった。

 道の駅のフードコートへ行き、モツ煮定食を食べたら車に戻る。

 窓を開けて運転席で煙草を吸ったり、荷室で横になって日が暮れるまでどう過ごしたものかとぼんやり考えていると知らないうちに眠っていた。

 目が覚めたら午後4時過ぎ。曇っているからなのか空は薄暗くなっていた。

 

 やはりどうしても歯が磨きたくなり、今朝通ってきた県道310号線沿いのローソンまで歩いて行き、歯ブラシセットと水のボトルを買って道の駅に戻る。

 運転席で歯を磨き、口をすすぐために水を持ってトイレに向かうと、案の定ブースの方から悪臭が漂ってきていたので、大急ぎで口をすすぎ逃げるように車へ戻る。

―――やっぱり安心できない。吐くかと思った。

 

 少ししてすっかり暗くなったので再び仙台に向けて移動を開始する。

 来た道を戻り、新4号国道から日光《にっこう》街道の国道4号線に戻る。そしてすぐに回避。

 祇園原《ぎおんばら》の交差点を左折し平べったい農道の突き当りを右折。真っ直ぐな農道の先の信号を右折し、消防署の先の信号で4号線に戻る。

 交通量が多めの国道を進んでいると燃料の残量が半分程度まで減っていることが気になり始める。―――これ、仙台まで持つのか。

 ちょうどガソリンスタンドの明かりが目に留まり、近づいていくとセルフと大きく書かれていたので給油をすることに。

 フルサービスの店で変に話し掛けられたくないからだ。道の駅のフードコートでも視線を向けてくる人間がいて落ち着かなかった。

 『人の記憶に残らないこと』。ここから先はそれも心掛けるべきだと男は思った。

 

 給油を済ませ、そこそこ混み合う国道4号線に戻り北へ進む。

 しばらく走ると左手に目印であるとんかつとから揚げの店が現れ、その先の横田新町の交差点で右折し、横川《よこかわ》むつみ通りに入る。

 道なりに進み東北本線の踏切を渡り住宅街を抜けると田園地帯に。東北新幹線の高架をくぐり横川橋で田川《たがわ》を渡り、住宅地と田んぼが交互に現れ、Y字路を右方向に行くと道の駅のあったもうひとつの新4号国道の側道に出る。

 左折して側道を進み、本線に合流したら三車線の真ん中を走る。立体交差になると左車線は側道になってしまうから。

 やがて新4号は元の4号と平出工業団地の交差点で交わり、そこを右折する。

 迂回と呼ぶにはそこそこの距離だったが、Nシステムを一気に3つ回避できた。

 

 元の4号に戻ってすぐ、中華料理屋の手前、岡本小入口の信号を左に入る。

 この先にNシステムがあり、鬼怒川《きぬがわ》を渡る鬼怒川橋にライブカメラがあるから。

 別の橋を使って鬼怒川を渡る必要がある。

 ―――Nシステムより監視カメラの方が厄介なところに仕掛けてあるんだよな。

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