亡霊少女ノ魔女裁判 作:1999bizzare summer
階段を登ると洋館のような玄関ホールに出た。
近くの部屋に先刻見た黒衣の化物が入っていくのが見えた。
「あれが看守……」
ゴクチョーが看守の後についてくるようにと言っていたので、エマはその後を追った。
少女たちが沢山いたことから、ここがラウンジのようだった。
冷たく閉塞的な地下の牢屋に比べると、ラウンジは華美で妖しい雰囲気がした。
シャンデリアや絨毯やソファがある一方、壁に掛けられている動物の頭の骨やボウガンが薄気味悪さを演出していた。
すると玄関ホールへとつながる入口を遮るように化物が立った。
どうやらエマで全員揃ったらしい。
広いラウンジには、エマを含めて14人もの少女がいた。
その中には先ほどエマに話しかけてきた桃髪の少女もいた。
「牛、鹿、羊……仔羊も悪くないわね」
動物の骨を見て昼食の算段をしているようだった。
他にも、個性豊かな少女たちが各々思い思いにすごしている。
「いやぁ~すごいですねっ!」
そんな中、水色髪の探偵風少女が大きな声をあげた。
場にそぐわないほど明るく、楽しそうな笑顔だ。
「突然牢屋で目覚め!化物に見張られていて!」
「なんかすごいことが起こっているのを感じます!高まっちゃいますよね~!」
水色髪の少女は目を輝かせながらエマの両手を握り上下にぶんぶんと振った。
握力が強いのか、エマは表情を強張らせる。
「なぁ~にが、高まっちゃいますよね~、ですわ!」
「やべーことになってるんですわ!」
「もっと危機感を持った方が良いんじゃないかしら!?」
口を挟んできた少女の声は、朝方『わたくしを~』と叫んでいたかん高い声だった。
西洋人形のように可愛らしい小柄な少女だが、どこか口調が不自然だ。
少女たちの中で誰かが思わずといった風に笑うと、彼女の頬がカッと赤くなる。
「今笑ったのは誰でやがりますの!?」
「いや、すまない。少し変わった喋り方だと思ってね」
中性的な顔の少女が一歩前に出た。
いかにも王子風という感じの服と腰に携えたレイピア。
華麗に佇む彼女に少女たちは釘付けだ。
「ところで、私たちはお互い名前もよく知らない。良かったら自己紹介しないかい?」
「先に名乗らせてもらうよ。私の名前は蓮見レイア」
「ふんっ…遠野ハンナ、ですわ。お見知りおきあそばっ…お見知りおきあそばせせ?」
「ちょっと先によろしいかしら?あなた、レイアさんと言ったわね。
いきなり人のことを笑うのは失礼でなくて?」
いきなりヒリついた空気が流れるが、探偵風少女が元気よく手を挙げた。
「はいはーい!喧嘩はダメですよぉ~!私は橘シェリーっていいますっ」
「事件があるところに私あり!この名探偵にお任せください!」
「いきなりなんなんですの。それに名探偵って、あなたが??」
「そうですよ!えっへん!何せミステリマニアですから!」
「実際になにか事件を解決した経験があるのかい?」
「それはまだありませんね!」
「…次に行こうか。キミの名前を教えてくれないか?」
(ボクの番だ!さ、最初が肝心…気合を入れないと!)
「ボ、ボクは、桜羽エマ!」
噛んでしまった。
次の言葉を考えて頭を逡巡させていると、
「わわわ、私の名前は、ひっひっひ…氷上、メルル、です…っ」
隣の少女、メルルに先を越されてしまった。
くよくよしても仕方ないと、エマは気持ちを切り替えた。
「ハハッ緊張しなくても大丈夫だよ。さぁ次、キミ、いいかな?」
次に指名されたのは、例の桃髪の少女だった。
「西行寺幽々子。西行寺と呼んでもらって構わないわ」
「普通そういう時って下の名前で言いません?」
「あら、そう?じゃあ幽々子でいいわ」
「あはは!変な人ですね!」
「あなたがそれを言いますの?」
「き、キミたち、次いいかな?」
レイアが次の少女に促そうとすると、天井の通気口から羽音が聞こえてきた。
少女たちが天井に視線を向けるとフクロウのような生き物が降り立った。
先刻モニターで見たものと同じ姿だった。それは姿勢を正すと口を開いた。
「あ…人がいっぱい…」
「はじめまして…この牢屋敷で管理を任されているかわいいフクロウ、
ゴクチョ―と申します…定時とかもあるのでさっさと説明していきますね」
ゴクチョ―というらしい薄気味悪いフクロウは、淡々と続けた。
「すごく申し上げにくいのですが…皆さんは【魔女】になる因子を持っています」
「エラい人が決めた話では、【魔女】はこの国に災厄をもたらす悪らしいんです。
皆さんは検査によってその因子が大きく検出された存在…そんな人物を放置するのは
あまりに危険なので、この牢屋敷に隔離したというわけです」
「つまり皆さんは世界に害をもたらす悪者ということで…ご納得ください」
「ねぇ鳥さん、魔女になるとどうなるのかしら?」
非現実的な説明を前に混乱していると、西行寺幽々子が説明の隙に問いかけた。
手間が増えたからなのか、ゴクチョーは不愉快そうだ。
「はぁ?あなたは…なんでしたっけ?
まぁこれくらいは答えてあげないと可哀想ですよね」
「どんどん魔女に近付いていくにつれ、抑えきれない殺意や妄想に衝かれてしまいます。
そして最後には、こちらにいる看守のように…【なれはて】になります」
ゴクチョ―が翼で示した先にいたのは看守、黒衣の異形。
少女たちの視線が一斉に集まる。
かつて、人間だったもの。そして魔女になってしまった、なれのはて。
それがエマ達の行く末だという。
少女たちの表情が語る。――やすやすと信じられるわけがない。
「多くの魔女は処刑されるのですが、与し易いものはマインドコントロールして使役しています。
逆らった囚人は殺すように洗脳してしまったので…ほんとすいません。
逆らったら、死んでください」
あまりに簡単に死という言葉が出てくることに、不安が止まらない。
重々しい沈黙の中、西行寺幽々子はなんとでもないといった風の笑顔でゴクチョ―に返事をした。
「ありがとうございますね、鳥さん」
「礼儀正しいのはよろしいですね、その調子で皆さんこの春から囚人として楽しく
過ごしてくださいね。それに、救済もないことはなくて…【大魔女】さえ見つかれば
皆さんの呪いを…あ、でも。期待とか持たせても良くないですよね…忘れてください」
脳の処理が追いつかない様子のエマは、動悸を抑えるため手で胸を押さえつけた。
すると誰かが一歩前に出た。その人物は二階堂ヒロだった。
「間違いだ。私は悪じゃない」
きっぱりとそう言い放つヒロの目は、濁っていて。
「私が魔女だと…?世界に害をもたらす悪だと…?ふざけるなっ!
私はいつだって正しく生きてきた!私は悪じゃない!」
暖炉横に立てかけられている火かき棒を手に、ヒロは看守に急接近した。
エマはヒロを止められない。
「悪は死ね!死ね死ね死ね!」
(そうだ…ヒロちゃんはいつもこうだった。悪を許さない、正義の執行者)
火かき棒が空を切る音と、肉が裂けて飛び散る音が聞こえる。
恍惚とした表情で火かき棒を振るヒロにはもう何も見えない。
「あら、まだ生きているなんて。ずいぶん頑丈なのね」
エマが西行寺幽々子の声に振り向くと、突然音が止んだ。
――ごとん、と鈍い音がした。
「……え?」
エマの目の前に、ヒロの首が落ちていた。
目を開けたまま、驚愕した表情で、エマのたった一人の幼なじみが落ちていた。
首のない体はしばらくふらついて、火かき棒を握りしめたまま倒れた。
エマの頭は真っ白になった。思考が纏まらない。
「キャアアアーッ!!」
誰かの叫び声で、現実に引き戻された。
血を滴らせながら、何事もなかったように看守はそこに立っていた。
「うわ~、死んじゃいましたね。掃除しなきゃ」
気だるげそうに語ったのは、ゴクチョーだった。
化物フクロウは平然とのたまう。
「でも魔女はこんなことでは死にませんので、
彼女は魔女じゃないことが証明されましたね。良かったですね」
(――良かった?ヒロちゃんが死んだのに?)
エマはゴクチョ―を睨みつける。しかしゴクチョーは全く意に介していない様子だった。
「――あっ、あとすみません、最後に大切なことをお伝えします」
「魔女になりつつあるものは殺意や妄想に衝かれてしまうと説明しましたが、
面倒なことにいずれ囚人同士で殺人事件が起こるんですよ」
「殺人事件っ!?」
探偵風の少女、シェリーが嬉しそうに声を上げる。
「はい…毎度のことなんですよね。そんな危険人物とは一緒に暮らせませんよね」
「というわけで、殺人事件が起こり次第【魔女裁判】を開廷します。
【魔女】と認定された囚人は…あの…処刑しますので」
「魔女、裁判…」
そうぽつりと呟いたエマは、自分の手を見下ろした。
真っ赤なヒロの血で染められていた。
『―よくできましたね』
はじめは原作の流れに沿うつもりで書いています。
まのさばをよく知らない方でもわかりやすいように省略はなるだけしていないのですが、あまり原作の内容に沿いすぎると幽々子が絡むところ以外は原作をそのまま書いているような雰囲気になるので、次までに課題として考えておきます。