ガッハッハッハッ……!
落雷のような笑い声がリビングで轟いていた。
いや、いやだやめて……!
で、これが私の声だ。
明るい電気の付いた部屋で、テーブルは引き倒されて物はぐちゃぐちゃ。潰れた頭のお母さんが柱にもたれて寝てる。潰れた頭のお姉ちゃんはうつ伏せになって寝てる。
豆まきの升にお姉ちゃんの指がかかってて、豆がこぼれてるのが見える。
大音声の笑い声に部屋中が揺れてるようだった。
掴まれていた髪を引っ張られ、顔を上げさせられる。
お酒、ではないだろう。真っ赤になったパパの大きな顔は喜色満面、腐ったような黄色い眼でこっちをねめつける。その頭には角が生えてたけど、どうやら頭の皮膚を突き破って生えてきたらしい。角の生え際から血が滴っている。
ぎゃーっはっはっはっは!
何がおかしいのか、パパはげらげら笑いながら片手に持ったカナ棒をごつごつと地面に打ち付ける。そして、また……。
ひぐっ、やめてぇ!
あのひ弱だった体のどこにこんな力があったのか。地肌が軋むほど強く髪の根元から掴みなおし、パパは私の顔を自身の剥き出しにしたすねに押し付け、ごしごしとこすりつけ始めた。
涎でべたべたなすね毛が私の頬で流れていく。どれだけ濡れてもチリチリとした感触がなくならない。
さらに正面から。すえた肌の匂いと共に視界が無数の毛で埋まり、鼻が潰れて鼻水まですね毛に絡まっていく。
涙と鼻水、唾液と血でべたべたするすね毛にまみれ、私の顔はもうめちゃくちゃだった。
ふと、ころころと転がってきた豆に気づく。パパ、楽しみにしてたっけ。
いや、ごめんねとかは思わない。でも、私は豆を一つ摘まむと、パパに向かって投げつけた。
鬼は外!
自分でも妙に元気な声が出る。豆まきはもっと元気な声でって……バカみたいだ。
豆はパパの額に当たり、パパは仰け反り、しかし握ったままだったカナ棒に引っ張られ、どしんと背中から床に倒れ込んだ。
私は息を切らして床を這い、お姉ちゃんの元まで行くと、その手から升を取り上げた。私は立ち上がり、倒れたパパに向かって豆を投げつけた。
鬼は外! 鬼は外! 鬼は外!
がぁあああああああっ!
お父さんが悲鳴を上げてのたうち回る。
効いてる!
私は笑みを浮かべて豆を投げ続けた。ざまあみろと思った。そうだ、それがパパに相応しいんだ……!
ずっとこのままパパに豆をぶつけるのも悪くなかったけど、升の中の豆はなくなってしまう。
横にした身体を縮こませて小さくなったパパの元へ、私は走りよると、その顔のそばにしゃがみ込んだ。
鬼は外! 鬼は外! 鬼は外!
私は升の角でお父さんの顔を殴りつけた。何度も。唇をぶつと歯が欠けて血が流れ、鼻をぶつと鼻水と鼻血が噴き出て、目をぶつとぎゅっと閉じた目蓋から血が流れる。
肌は切れ、色を変えていく。さんざんぶった後で思いだし、角をぶつと、キン、と軽い金属音が鳴って角が消えた。真っ赤だった顔はただの傷まみれの変色した顔に戻り、顔も目も、ただのあちこち腫れあがった顔に戻っていった。
私はパパの手を取って言った。
パパ、私できたよ……!
カクンとパパの頭が項垂れる。私は何か恥ずかしくなってパパの手を離し、辺りを見回した。
物音一つしない静かな夜だった。明るいリビングに、私一人だけが取り残されていた。