牢屋敷生活3日目、昼の自由時間。
少女達は一人も欠けることなく屋敷外れの森の入口に集まっていた。
それを確認したマイはまとめ役の二人、旗手を務めてもらうことになるレイアに近付くと1枚のメモを握らせた。
「こちらが台本になります。空行はアドリブで。どうぞ、よしなに」
「ああ、任せてくれたまえ!」
快諾したレイアはそれに目を通すと、その役者の才を以て集まった少女達に対して演説のように呼びかけた。
「みんな、まずは集まってくれて感謝するよ。今日は提案があって集まってもらったんだ。はじめに言っておくけれど、この提案は牢屋敷から脱出するものじゃない」
「は? なにそれ、そんなの意味ないじゃん!」
「ま、待ってよココちゃん、おじさん、人の話は最後まで聞いた方がいいと思うな〜……?」
「そう言ってくれてありがとう、ミリアくん。だけどココくんの言うことも尤もだ。私にだって一刻も早く脱出したい気持ちはあるよ。けれど、そのために焦るのは一番良くないと思うんだ。焦りは失敗を産み、失敗は焦りを産む。そして感情が高まれば──それは【殺意】になるかもしれない。ナノカくん」
「……! ええ、私達の肉体の魔女化が進む主な要因はストレスよ。感情の昂りはそのトリガーを強く引くことになるわ。……魔女になりたいというのなら、勝手にやってちょうだい」
「はあ!? そんなわけ……!!」
「なら協力して。私達にはその意思がある。受け入れるかどうかはそちらが決めることよ」
「はいはーい! ちょっといいですか?」
手を挙げたのはシェリーだった。
ナノカは再び会話の主導権をレイアに戻し、隠れるようにマーゴの後ろへ戻る。
「なんだい? シェリーくん」
「私は協力には賛成なんですが、その様子だとレイアさん達の方で先に計画を立てているんですよね? だとしたらもう少し中身について聞かせてほしいです!」
「あ、ああ。もちろんそのつもりさ。これが牢屋敷から脱出するためのものではない、とは言ったね。では何なのかと言えば、これは牢屋敷での生活をもっと快適にするための計画さ。マイくん、資料を」
「ええ、はい」
彼女はレイアに軽く会釈した後、印刷したナノカ御手製のキッチン設計書を皆へ配布する。
次に声を上げたのはいち早く資料を読み終えたアリサだった。
「おい、本当にこんなの出来るのかよ? 木ならまだしも、釘やらの材料がこの牢屋敷で手に入るわけないだろうが……」
「大丈夫よ。建材なら屋敷の補修に使うためのものが倉庫に用意されているの。そこから調達すれば充分賄えるわ」
「そ、それは……大丈夫ですの? というか、そんなことしているのがあの化け物に見つかったらわたくし達ひとたまりもありませんわ……!」
「ウフフッ、大丈夫。牢屋敷の規則や看守の反応について調べてみたのだけど、どうやらブラックリストに近いシステムで管理されているようなの。明確な違反行為でなければ咎められることはないはずよ」
「マーゴの言う通りだ。スケジュールの徹底など、リスクを侵さないために建設計画中も正しい行いを心がけてくれ」
「『すまないが、わがはいは力仕事は苦手だ。協力は難しいかもしれない』」
「のあもあんまり好きじゃないかも〜……」
「それについては御心配なく。参加を強制するつもりはないという前提の上で、力仕事以外にも協力していただける場面は沢山ありますから。材料についても先程の倉庫にて調達の目処はついていますので、三日に一度程度の頻度にはなりますが、完成したら皆さんの好物などもご用意出来ると思います」
「ほ、本当に!? オムライスとかも作れる!?」
「はい。問題なく」
マイが答えると、ぱあっと表情を明るくして目を輝かせるエマ。
彼女の様子にヒロはレイアの傍らでため息を吐くが、咎めるには至らない。
流石に少しは慣れてきたとはいえ、不味い食事というのはやはり大きなストレス、それを避けられるかもしれない希望が見えたことで、彼女達も含めた皆が賛成に傾いていく。
レイアは反対の声がないのを確認してから、集会を締めに入る。
「皆の賛成と協力に感謝するよ。もちろん、このキッチンで終わりじゃない。ここでの生活には皆様々な不安を抱えているだろう。けれど、私達はそれを自らの手で変えることが出来る! せっかく同じ空間で暮らしている仲間なんだ、力を合わせてより良い生活を築いていこうじゃないか!」
彼女の言葉に、無邪気な誰かが手を叩く。
それはちょっとずつ広がって、次第に揃った喝采になる。
こうして少女達による、牢屋敷生活リフォーム計画が始まった。