人は、人に必要とされなければ生きていけません。
生きていては、いけないんです。
綺麗な顔は彼らにはどうでもよかったようなので、次は机に向かいました。
100点のテストは捨てられちゃったので、次は頑張って遊びました。
徒競走で一番になるのは見てくれなかったので、次はいいことをしました。
賞状を飾る場所はどこにもありませんでした。
とても困りました。
私は何をすればいいんでしょう。
どうしたら、褒めてもらえるんでしょう。
どうしたら、ここにいていいと言ってもらえるんでしょう。
思いつかなかったので、調べてみることにしました。
心理学というのはとても難しいもので、初めて勉強が出来て良かったと思えました。
沢山の本を借りて、1年も勉強したら、色んなことが分かるようになりました。
その人の思考、過去、トラウマ、願望、衝動……
色んなことを勉強して、色んなことを身につけて、ようやく私は気づくことが出来たんです。
彼らは【祁答院 マイ】を必要としていないのだと。
◇◇◇
「あら、虚ろ。何か考え事?」
「……ええ、はい」
正座を崩し、木陰からぼんやりと皆の様子を眺めていたマイにマーゴは声を掛けた。
目の前の建設予定地では木を引っこ抜くシェリー、それを材木としてカットする班、地面を埋め直す班に分かれて作業が進んでいる。
二人は設計担当として建設の指揮を担当することになっていたが、マイもマーゴも多少の知識はあれど建築は素人同然。
補強について考えていたところでヒロとレイアが設計図を片手に声を掛けてきた。
「二人とも、少しいいだろうか?」
「はい。なんでしょうか、二階堂さん」
「この設計なんだが、調達できる材料を考えるとまだ大きくすることが出来る。全員が同時に集まる程度のスペースは無理のない柱の追加で確保可能だろう。これが新しい設計だが、簡易計算でも充分な強度を確保している。私は増築を提案したい」
「というわけだ! もちろん判断は二人に委ねるが、この方が皆の結束を高められると思うよ!」
「そういうことでしたら、是非その方向で。設計図は印刷しておきますから、整地が終わり次第皆さんにもお伝えしてください」
「ああ、感謝する」
ヒロは新しい設計図を手渡すと、ノコギリ片手に相変わらず危なっかしく作業を続けるエマ達の手伝いに戻っていき、同様にレイアも見張り担当のアンアン達を労いに戻っていく。
彼女は一通りの内容を精査すると、その設計図をパッと14枚に増やす。
その内の1枚を受け取ったマーゴも同じように目を通し、それから隣のマイに声を掛けた。
「マイちゃん、次はどうするの?」
「私の話ですか? 私は、少し屋敷の方へ戻ろうと思います。休憩場所が必要ですから、テントに使えそうな布でも探そうかと」
「あら、だったらご一緒しましょうか」
「ええ、どうぞお好きに」
そしてマイは他の少女達に時間には気をつけるようにと注意喚起した後、ゆったりとした足取りで牢屋敷へと戻っていく。
二人きりになれるタイミングを探していたマーゴはこれを好機に、道中で話を切り出した。
「マイちゃん、私はあなたのことを同じ類の人間だって思っているの。だからこれは追求じゃなくて、共感するための質問。答えてくれるかしら」
「いいですよ。私に答えられることなら、何でも」
すんなりと出てきたその言葉に軽々しさはなかった。
言葉通り、その口は望めば全てを吐き出し、物語るのだとマーゴに直感させる。
彼女はうっすらとした微笑みを作って、少しだけためらってからその問いかけを口にした。
「あなたは、【愛された】ことはある?」
「いいえ。ただの一度も。誰にでも、そう答えます」
二人の会話は飛び石だった。
それは重なっては離れ、離れては重なることを繰り返すかのような、決して他人事ではなかった互いの人生への関心であり、憐憫でもあった。
マーゴは被虐待児だった。
『女』であった母の下に生まれ、疎まれ、拒絶と浴びるような暴力に育まれた。
マイは被虐待児だった。
『幸せなカップル』の下に生まれ、飽きられ、無関心と徹底的な黙殺に育まれた。
「中学校って、どんな場所なのかしら」
マーゴは呟いた。
「給食は出ないそうですよ」
「なら別によかったわね」
「はい、そう思います」
マイが答え、二人は顔を合わせて笑った。
都会のマンションやホテルを転々としていたとマーゴは言った。
株取引を覚えたとマイは言った。
好きなコンビニのご飯の話をした。
行けなかった修学旅行の話をした。
入れなかったプールの授業の話をした。
初めて手に入れた大金の話をした。
親の話をした。
泣いた気もしたし、笑っていた気もした。
「……ああ、監房へ戻らないと」
シャワー室のロッカーに、アラームが響いた。