牢屋敷キッチン建設計画改め牢屋敷コテージ建設計画は驚くほど順調に進んでいた。
一番の進捗は、作業の中で親睦が少しずつ深まっていったことで、完璧に打ち解けるにはまだ遠いものの、それぞれの魔法くらいなら明かしてもいいという空気が形作られたことだろう。
さらに互いが互いの魔法を知ったことで、それを作業に活かすためのアイディアが生まれていった。
例えば、建設計画において最も重要な労働力であるシェリーを活かすため、彼女が疲れてきた頃にミリアの【入れ替わり】を使うことで、全く疲れのないミリアの身体に入ったシェリーが【怪力】を発動し、その間シェリーの身体に入ったミリアが疲労回復に専念することで作業効率を大きく上げる事ができるのではとエマが気付き、その手法によって倍以上の速度で整地が進むようになった。
他にもノアの【液体操作】によって湖から安全な真水を引けるようになったり、アリサの【発火】を応用した二口コンロ、アンアンの【洗脳】で看守から平和的に逃れることが出来る手段が確立されるなど、初対面では疑心暗鬼にさえなりかけていた彼女達は今や一つの共同体の一員として同じ目標に向かって励んでいた。
そして「協力して成し遂げる」という成功体験は新しい欲を産むものだ。
随分と和気藹々とした雰囲気になった夕食中、いつものようにマーゴ、ナノカとの三人でテーブルを囲んでいたマイにココが声を掛けた。
「ねーねーマイっち、あてぃしヤンキーと話してたんだけどさ、牢屋敷のシャワーってめっちゃ汚いじゃん? これあてぃし達でリフォームとかできないん?」
「確かに、水回りの清潔さはモチベーションやらコンディションやらに直結しますね。私は沢渡さんの提案に賛成ですが、お二人は?」
「異論はないわ。洗剤やスポンジは倉庫に在庫があるし、割れた鏡などはマイの出せる撥水加工の和紙などで覆えば大丈夫なはずよ」
「なら私も賛成ね。ゴクチョーさんの性格を考えれば全部こちらでやるなら断る理由はないはずよ。鳥には優しく、ね♡」
「あ、それならボクも相談があるんだけどいいかな?」
そう言って話に入ってきたのは食べ終えたお皿を下げたエマ。
彼女は「これも一緒にゴクチョーに伝えてほしい」ととある提案を持ちかけた。
「ほら、もうすぐコテージが完成するよね? すごく立派なキッチンになったし、前にマイちゃんが言ってた通り、材料さえ揃えればボク達でも料理が作れると思うんだ」
「……なるほど、そういうことですか」
「うん。ゴクチョーに聞いてみてほしいんだけど、毎日のご飯の代わりに材料を分けてもらって、ボク達で作るっていうのはどうかな? これだったら毎日違うメニューが用意できるし、何よりずっと美味しいご飯が食べられると思うんだ!」
その提案に、俄に注目が集まった。
先程の水回りもそうだが、目下最大の問題は牢屋敷の食事のあまりの不味さ。
積極的に食べたいと思えるものではないその味から懐かしの家庭料理に回帰できるとなれば、彼女達が牢屋敷に対して抱えるストレスが激減するのは間違いない。
だが、それを一人の声が遮った。
「待て、桜羽。黒部が言うにはこの島の何処かに黒幕がいるって話だ。ならこの不味いメシもそいつの指示かもしれねえだろ。なのにそんな提案、あの鳥が通すかよ?」
「それについては私に策がありますので、御安心を」
マイがそう微笑むといつの間にかその手元にはなにやら契約書のような書類の束が握られている。
彼女はそれを少女達に配ると、ちゃんと目を通してからサインするように伝えた。
「はいはーい! マイさん、これはもしや【嘆願書】というやつでしょうか?」
「はい。この場で14人分の同意、署名を集めれば、向こうからしても「反対するよりは通してしまったほうが楽」という状況になると思います」
「そういうことだ、賛成の人はサインを頼むよ!」
すかさず割り込み、皆へ呼びかけるレイア。
少女達はそれに答え、たまたま持っていたボールペンなどを回しつつ嘆願書に自身の名前を書き込んでいった。
「……? メルルさん、どうかしましたの? 手が止まってますわよ」
「あ、いえ……その……私が思ってたのとは違う方向に進んでいるので、少し驚いてしまって……」
「まあ人生ってそんなもんですからねー」
シェリーの笑い声の中、メルルは最後の一人として嘆願書にサインした。