「いいですよ」
資料を持ち込んだマイら3人にゴクチョーはあっさりと承諾した。
「皆さん珍しいほどに殺人事件も起こしませんし、仕事が少なくて助かります。倉庫の件は……まあこちらが禁止事項に指定していませんでしたし、引き続き使ってもらって構いません。食材もどうせ余りますから、自由に持ってっちゃってください」
「そうですか。ありがとうございます」
「随分と物分りがいいのね、ゴクチョーさん」
「私としては皆さんが問題を起こさなければいいので……この調子でお願いできればと」
そう言い残し、バサバサとどこかへ飛び去っていくゴクチョー。
ラウンジに残された彼女達は顔を見合わせ、一つの事実を確認した。
「ええ、予想通り……【黒幕】は、囚人の中にいる」
「そうですね。【全員の署名】を見せたタイミングで少し反応が変わりました」
「いると分かれば絞るのは難しくないでしょうけど……排除してしちゃったら雰囲気の悪化は避けられない。せっかく作ってきた良い関係が台無しになっちゃう。その点についてはどうするつもりなの?」
「少し考えてみましょう。まず確実なこととして、黒幕は私達を殺すことそのものは目的じゃない。牢屋敷に入る前の段階の魔女因子の検査に政府が関わっているのに私達が生きているという時点でその可能性は排除できるわ」
「しかし、生かすことが目的なのであれば牢屋敷の環境は極めて劣悪です。そうなると、黒幕は私達にストレスを溜めさせた上で生かしておく必要があったということになります。そう考えれば──」
「──【魔女化】、それが黒幕の狙いね。【魔女の本】の皆の解読箇所をつなげてみても、これに矛盾する情報は出てこない。今のところは正しい道を進んでいる、と言えるのかしら」
「それに以前の【大魔女】についての記述を合わせて考えれば、黒幕は私達を魔女化させることが大魔女への手がかりになると考えているはず」
「でしたら、放置で構いませんね。もう【魔女の本】の写しは皆に配り終えました。共有状況を見れば、私達の目的が大魔女であることは自明です」
「ウフフッ、そうね。ほら、そろそろ戻りましょ。お祝いパーティが始まっちゃう♡」
◇◇◇
「っ、点いたぞ!」
アリサがコンロに火を入れると、ドッと歓声が湧いた。
最初はキッチン一つだったはずの設計は気づけばゲストハウス二つを吸収した立派なコテージに。
正式な許可の下に運び込まれた食材は、一週間以上ゲテモノ料理が続いていた少女達にはどんなごちそうよりも輝いて見えた。
「桜羽エマ、焼き加減はこんな感じでいいかしら」
「わぁ! ナノカちゃんすごいよ! すっごく上手!」
初回の料理はエマのリクエストでオムライス。
二口コンロに並んだナノカとアリサがフライパンを揺すり、ハンナが皆に指示して食卓を整えていく。
そして仕上げにケチャップの上から牢屋敷の庭で取れたハーブを刻んで散らすと、ふわっと香る牢屋敷にはとても無かったいい香り。
ソファ、テーブル、カウンター……思い思いの場所に座った14人は揃って手を合わせた。
「えっウマっ! ヤンキーすごっ!」
「黙って食え沢渡……」
「いいじゃないか、素晴らしい腕だよ。恥ずかしがることじゃないとも」
「……マーゴもマイも、意外と早食いなのね」
「あ、あら? そう……かしら?」
「あまり、そういう自覚はありませんでしたが……」
「ええ。でも美味しそうに食べてくれて嬉しいわ」
「おや、皆さん楽しそうですね」
「あっゴクチョーさん! よかったらゴクチョーさんも少し食べますか?」
「いやなんでいるんですの!? てかあなたも食べさせないでくださいまし!」
「いや、皆さんがこのコテージに集まってくれるのならこちらとしても監視しやすくて助かるんですよ。なるほど、これはこれは……私の分もたまに作ってくれません? 時間とか、無理のない範囲で見逃すので」
「普通にお口に合ってるんじゃねーですわよ!」
「のあ、こんなに楽しいご飯はじめてー!」
「わ、わがはいもだ……」
「美味しいものはみんなで食べるともっと美味しくなるからね〜」
「お、オムライス……こんなに美味しいんですね……!」
「そうなんだよ! ヒロちゃんが家に遊びに来た時とかもよくお母さんが作ってくれたんだ!」
「ああ、懐かしいな」
牢屋敷に似つかわしくない笑い声が、窓を抜けて森の中に響いていた。