「ねえ、ここどこなの!? 誰かいない!?」
「何なんですの!? わたくし、こんなところに閉じ込められた記憶はありませんわ!」
「分かってる!? 監禁って立派な犯罪だよ!? 人生終わっちゃうよ!?」
「おい! 誰だか知らねぇがぶっ殺すぞ!!」
「……ここは──」
古びて苔むした廊下を反響するいくつかの、悲鳴や叫びにも似た少女達の声。
「そう、ですか」
何に対してかは分からないが彼女は納得したように頷き、それから部屋を見回した。
他に被害者がいることが分かったからか、少女達の悲鳴は止んでいた。
部屋は狭く、二段ベッドの上段に敷かれたマットレスからはうっすらとカビの、部屋の入口の鉄格子からはサビの匂いがあり、古めかしい牢屋のようだったが、片隅に掲げられたモニターだけが同じ時代であることを教えてくれている。
いつの間に着せられた衣装、ブレザーとメイドを混ぜ込んだようなドレスは、少し服選びに苦労する母譲りの凹凸のはっきりとしたスタイルにもピッタリと合わせられていて、丁重なのか粗雑なのか分からなくなってしまう。
マイは悩む前に二段ベッドを降りると、下にいる誰かに声を掛けた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「あら、分かりきったことを聞くのね?」
「はい、不本意ながら快眠でした」
「ええ、そうね。そうでなければ牢屋になんて入っていないもの。まあ、心当たりはいっぱいあるのだけど♡」
「奇遇ですね、私もです」
ミニハットを被り、和洋折衷なドレスをまとった少女はベッドに腰掛けながら、仲良くやっていけそう、なんて薄っぺらい笑顔で言った。
同じような笑顔でマイが応えると、丁度そのタイミングでザー、ザーとモニターがノイズを立てて起動した。
「『あー……あー……聞こえてますかね? 聞こえるということにします。聞こえてなかった場合は……周りを見て察してくれるとありがたいです』」
「あら……かわいらしいフクロウね」
「はい。特に人語を話すところが」
「『ということで皆さんはじめまして。私、ゴクチョーと申します。詳しい説明をしますので、【ラウンジ】に集合してもらえますか? 皆さんのいる【監房】の鍵が開いたら【看守】についてくるように。抵抗とか、そういうのは自由なんですが……その場合、多分死んじゃうので……なるべく従ってもらえると……』」
怠惰で事務的な、【ゴクチョー】と名乗るフクロウの説明。
それが終わると再びモニターはプツンと切れて真っ暗になった。
それから手際よく迫る、廊下に響く何か重々しいものを引き摺る音。
人の迫る音じゃない、人の迫る感覚じゃない、人の迫る空気じゃない。
2人はゆっくりと目を合わせてそれを確認すると、大人しく鍵が開くのを待っていた。
その途中、数メートルはあろうボロ布を纏った怪物が隣を通った。
仮面のせいで顔は見えないが、腕と思わしき部位、脚と思わしき部位の動き方から見ても人間でない。
過去、未来は差し置いて、現在人間でないことは間違いない。
携えた鎌は、いとも容易く人の首を跳ね跳ばせるものだと、2人にあっさりと理解させる。
「わかったぁ! わかったわかりました、いきます、ちゃんといきますからぁ!!」
怪物が少女達の入った監房の前を一往復したころ、鉄格子は開け放たれた。
出ることを渋ったらしい誰かが強制連行される中、少女はマイの手を取った。
「安心して、私がエスコートしてあげるわ♡」
「ええ、光栄です」
青ざめる少女、戸惑う少女、沈黙する少女、皆が重々しい空気を纏って廊下へ出る中、その2人の足取りだけは軽かった。
容易に足裏が暗い石畳から離れた。
【看守】と呼ばれた怪物に近付くことを、恐れていなかった。
その足取りを重ねて踏むように長く面倒な階段を上がると、広く、大仰で、されど老衰した玄関ホールが彼女らを出迎えた。
数えるのが億劫になるほど並んだ扉、端の見えない幾つもの通路、見上げるのも疲れる大階段、そのいずれもが少女達に館のスケールをまざまざと教え込む。
並んだ扉の中で一際大きいものへ看守が無い足を踏み入れると、彼女らはそこに続いた。
どうやらここが【ラウンジ】らしい。
赤を基調とした装飾は刻まれた年季によって不気味さを増し、これから何が起こるか、この館で何が起こるのかを圧縮言語のように伝達する。
髑髏やらボウガンやら山羊の頭の骨やら、装飾も至って趣味が悪く、その癖ソファや暖炉はまともなものを備えている辺り、監房やドレスなどに限らない屋敷全体が気持ち悪いバランス感覚を纏っていた。
「……はい、14人。皆さんちゃんと集まってくれましたね。とても助かります」
先程のフクロウがそう言うと、看守が入口を塞ぐように移動した。
空気が、何らかの始まりを告げていた。