部屋の空気が張り詰める。
自己紹介によって僅かに緩んだ空気が再び締め上げられる。
それは騒ぎ立てていた彼女も、生還していた彼女も、尋ねた彼女さえも無差別に、そして窮屈に。
「これは……結局全部話さないとですかね……」
ゴクチョーは少し面倒そうに羽をパサパサと畳み、それから少女達の方へと向き直った。
「まず……皆さんは【魔女】という、エラい人曰くこの国に災いをもたらす存在になる【魔女因子】というものを持っています。この国の法律で決まった検査によって因子が発見され、このままでは非常に危険、ということでこの【牢屋敷】に収容することになりました」
「魔女って……そんなのおとぎ話の話じゃありませんの? 意味不明ですわ」
「そう言われても帰すわけにはいきませんし……ほら、近々魔女になるのは多分避けられないことなわけで……。ここは皆さんが魔女因子を持つ“悪者”ということで、納得してもらえたら……」
「“悪者”……今、私のことを“悪”と……?」
「っ、ヒロちゃん──!?」
何かの逆鱗に触れたのか、怒りと抗議に満ちた表情で強く一歩を踏み出すヒロ。
その故を知るエマが心配そうに彼女を見る中、彼女の後ろへ回り込んでいたマイが指先を手のひらで包んだ。
「落ち着きましょう、二階堂さん」
マイが耳元で囁くとヒロは我に返ったように動きを止め、声を静めた。
そのまま彼女は一歩下がり、再び静観のポジショニングへと戻る。
「……? 何か質問でも?」
「いえ、問題ありません」
代わってマイが答え、文面そのままを受け止めたゴクチョーは元の説明に戻っていく。
エマはマイにこっそりと近付くと、すごいすごい、とその手を握った。
「これ、さっきのメルルちゃんみたいな……?」
「そうですね、どちらかと言えば、小手先の技術でしょうか。ですが、
貼り付けた笑顔が、自然な形で笑った。
「……ともかく、皆さんにはこれから囚人としてこの牢屋敷で過ごしてもらいます。ご飯や着替えなんかはこちらで用意しますし、シャワーや娯楽なんかもありますし……そんな悪い話じゃないと思うんですよ」
「悪ぃ話だろうが……」
「まあ、一応大魔女さえ見つかったら救済も……いや、まあ、宝くじが当たるような話はやめておきます。……そうだ、ちなみに看守も皆さんと同じように囚人が魔女になってしまった結果、【なれはて】というものです。皆さんがそうなるかは分かりませんが、使いやすい者を洗脳して看守としています。逆らったら殺すように命令しているので……まあ、逆らいたくなったら、その時は死んじゃってください。申し訳ないんですけど」
まだ誰も死んでいない。
いや、今死んでいないだけで本来なら誰かはもう死んでいるのかもしれない。
誰もがそう疑わざるを得ないほど、ゴクチョーの口からは軽々と「死」という単語が出てくる。
ますます「疑い」「困惑」といった単語が空気をより硬く締め上げていた。
「そして、これが本題なんですが……魔女に近付くにつれ、殺意や妄想というのがどんどん強くなってくるので、基本的に囚人の間で【殺人事件】が起きるんですよ。面倒なんですが……その時は【魔女裁判】で犯人を探して、そのまま処刑してください。死体の方と、処刑した魔女はこっちで片付けるので……。あっ、後の説明は【魔女図鑑】を見てもらえたら……」
そう言い残し、また何処かへ飛び立っているゴクチョーと、同じく屋敷の影に姿を消す看守。
部屋に残された14人には避けがたい沈黙が流れる。
『囚人番号706:城ヶ崎 ノア』
『囚人番号707:沢渡 ココ』
『囚人番号708:二階堂 ヒロ』
『囚人番号709:桜羽 エマ』
『囚人番号710:祁答院 マイ』
『囚人番号711:宝生 マーゴ』
『囚人番号712:遠野 ハンナ』
『囚人番号713:蓮見 レイア』
『囚人番号714:橘 シェリー』
『囚人番号715:夏目 アンアン』
『囚人番号716:紫藤 アリサ』
『囚人番号717:佐伯 ミリア』
『囚人番号718:黒部 ナノカ』
『囚人番号719:氷上 メルル』
魔女図鑑には、まだ欠けることなく並んでいた。