魔法少女 -Nowhere Sunrise Variant-   作:バトル系まのさば

1 / 1
第一話なのにまのさば要素がほとんどないです


『魔法』と『少女』

ヒナタにとって、学校は地獄に等しいものだった。

内気で自分を出すのが苦手な少女は、悪意に満ちた者達とって都合のいいおもちゃになった。

 

 

ある時はトイレに閉じ込められ。

 

ある時は教科書を破り捨てられ。

 

ある時は上履きに虫を詰められ。

 

ある時は集団リンチにあい。

 

ある時は縛られてさらしものにされ。

 

ある時はある時はある時は――

 

 

ある時は、校舎裏で少女三人からカツアゲされていた。

 

 

「結構持ってんね~、愛されて育てられてんだ?」

 

 

リーダーだろう中心の少女がヒナタの財布を漁り、残りの二人がニヤニヤと笑いながらヒナタを抑えつけていた。

動けないヒナタはうっすらと涙を流しながらも、歯を食いしばることしかできない。

自分には、自分を助ける力がないことに、深い悲しみと、少しの怒りを抱えながら。

 

それを知ってか知らずか、リーダーの少女は、煽るように――実際煽っているのだろう――ヒナタに対して嘲笑いながら言葉を放つ。

 

 

「私達愛されて育ってないからさ~、分かるでしょ?でもそれって不公平ってやつだと思うんだよね」

 

「ふこう、へい……?」

 

「そ。やっぱり愛っていうのはいろんな人に分け与えるもんじゃない?そうでしょ?」

 

「それは……」

 

「なに?なんか文句でもあんの?」

 

 

返答に困った末に零れ落ちた、ただの一言。

それの何が少女を苛立たせたのか、その場にいる誰も分からない。

分からないが、いじめられている少女が傷つくならいい。

分からないのに、それで傷つくなんておかしい。

 

ヒナタの顔面を狙い、リーダーの少女の拳が振り上げられる。

 

悪意と、悪意に襲われるもの。

それはきっと、どこにでもあってしまう、負の繋がり。

 

 

「……」

 

 

負にさらされ続ければ、体だけでなく心も傷つき、壊れていく。

それはいとも簡単に、十五の少女ともなれば、尚更。

 

 

「……っ!」

 

「何、その眼。むかつくんだけど」

 

 

しかし、ヒナタは壊れなかった。

痛み、苦しみ、悲しさがないわけではない。

むしろ、並の人間よりも何倍もの強い負を感じている。

それでも、反抗することは叶わなくても、反抗的な目をすることはできた。

 

何故か。

 

 

「……あれ、体が動か」

 

「こらあああああああああ!!!」

 

「な――ぶべらっ!?」

 

 

彼女には、ヒーローがいた。

 

大声と飛び蹴りと共にやってきた少女によって、リーダーはきりもみ回転しながら倒れ伏す。

他二人は飛んでいくリーダーを見たせいか、突然やってきた一人の暴走列車に驚いたのか、驚愕の表情で固まっていた。

ヒナタは喜びの表情で、彼女の名を呼ぶ。

 

 

「イリスちゃん……!」

 

「あんた達!ヒナタを離しなさい!財布も返しなさい!」

 

「だ、誰ぐへっ!?」

 

「ふんっ!」

 

「ぼはっ!?」

 

 

イリスと呼ばれた活発な少女が、ヒナタを拘束していた障害を次々となぎ倒す。

いじめっ子達は突然現れたことに驚愕した表情で、倒れ伏しながらイリスを見つめていた。

現れたヒーローは倒れた悪意に対し、腕を組み、笑顔を向けた。

 

 

「次いじめなんてしたら、このイリス様が許さないんだから!!」

 

 

その姿を見た一人が、あることを思い出し、声を上げた。

 

 

「イリスってあの、この辺りの喧嘩とかいじめとかに首突っ込んで、暴力で解決していくっていう……!」

 

「なにその野蛮人!?正義の味方気取り!?」

 

「気取ってるんじゃない、そのつもりよ。って、いつまで寝転んでるのよ、財布返しなさい!」

 

「……~っ!こんなの、いらないし!」

 

 

リーダーは悔しそうな顔で財布をイリスに投げ、そのまま取り巻きと共に駆けて去っていく。

その背中を少し見送ったあと、イリスはヒナタに手を伸ばす。

ヒナタは嬉しそうに、しかし少し困った表情で手を取った。

 

 

「もう、やりすぎだよイリスちゃん」

 

「いいのよ、悪い奴なんてこう!してやったらね」

 

 

シュシュっと前に拳を突き出すその姿に、妙なおかしさを覚えてくすりと笑うヒナタ。

二人は小学生の頃からの幼馴染であり、中学から始まったいじめの、守る者と守られる者でもあった。

 

 

ある時はトイレに閉じ込められ。

 

「臭いところに閉じ込めるなんて最低ね。帰るわよ、ヒナタ」

 

ある時は教科書を破り捨てられ。

 

「一緒に見ましょ。ほら、席くっつけて!」

 

ある時は上履きに虫を詰められ。

 

「たまには裸足で帰るのも悪くないわね。虫?ちゃんと帰してあげたわよ」

 

ある時は集団リンチにあい。

 

「ヒナタに何してくれてんのよパーンチ!!!」

 

ある時は縛られてさらしものにされ。

 

「よくもうちの可愛いヒナタをキーック!!!」

 

ある時はある時はある時は――

 

「助けに来たわよ、ヒナタ!」

 

どのある時でも、ヒナタの傍に駆け付けるイリス、それが二人の関係だった。

 

 

幸い、土を払うだけでいい被害で済んだヒナタは、イリスと共に帰路についていた。

 

 

「――暴力は、やっぱり駄目だよ。イリスちゃんも悪くなっちゃう」

 

「そんな私の助けを待ってるのは誰だっけ?」

 

「うっ……それを言われると辛いかも……」

 

 

困ったように笑うヒナタに対して、攻撃的だったものとは違う、穏やかな笑みを浮かべるイリス。

ヒナタは、イリスを心の支えにしていじめに耐えていることを自覚し、自分で何とかしたいと思いつつもなかなか勇気を出せずにいた。

 

顔を俯かせながら、零す。

 

 

「私は、強くないから……力も、意志も、何もかも」

 

「そう?そうは思わないけどね」

 

「イリスちゃんは私の何を見てきたの……そうじゃなきゃいじめられないよ」

 

「力はともかく……ま、いっか」

 

 

頭を掻きながら、今度はイリスが困ったような笑いを浮かべるが、一瞬で自信満々な表情に切り替え、そして自信満々で語り出す。

 

 

「たとえ正しくなくても、私は信じたことをしたい。悪いやつはぶっ飛ばす!とかね」

 

「ぶっ飛ばす以外にも、選択肢が……って、助けてもらってる私が言えないか……」

 

「もう、どうしてそんなに自信なさげなのよ。自分を信じて、勇気を持って好きにぶつければいいのよ。言葉でもなんでもね」

 

「勇気なんかないし……それに、自分を信じるって……私なんか、信じられないけどな」

 

「じゃあ私を信じなさい!」

 

 

イリスは立ち止まり、親指で自分を指差す。

その姿は先程よりも確かな、これ以上ないと断言できるほどに、自信で満ち溢れている。

ヒナタはその瞳を、無意識に輝かせながら少女に向けていた。

 

 

「あんたの信じるあんたじゃなく、あんたを信じる、私を信じなさい!!」

 

 

何の根拠も無いはずのその言葉は、確かに熱を持ち、ヒナタの全身に広がっていった。

もしかしたら、私も――不思議な自信を心にしまい、歩き出した幼馴染に追いつくように駆けていく。

 

 

「……」

 

 

その自信が揺らいだのは、丸一日後だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

学校から病院までは、それなりに距離がある。

学生としての時間が終わった後、その距離を足を止めに走り続けたヒナタは、目的地の前で息を整えていた。

この動悸は、激しい運動をしたせいか。

 

それとも、幼馴染が入院した、その事実に対してか。

 

ヒナタは、そんなことはどうでもいいと頭を振り、病院へと入っていった。

そのまま受付に向かい、部屋を聞けばすんなりと教えられ、逸る気持ちを抑えながら歩みを進める。

 

 

「あの後、何があったの……?」

 

 

ヒナタは途中で別れた昨日の帰り道を思い出す。

あの時までは楽しくお喋りしていたのを覚えている、その後に何かがあった。

もう少し、一緒にいたらこんなことには……後悔はその足と同じように止まらない。

 

そして、病室に辿り着いた。

自分を落ち着かせながら、驚かせないようにノックをしてから入る。

そこには、ベッドに座り込んでいる幼馴染がいた。

 

 

「イリスちゃん、大丈夫……!?」

 

 

小走りで駆け寄りながら、見えている体を見回すと、怪我は何一つないように見える。

もしかしたら、下半身らへんを骨折したんだろうか、それとも、内臓?

そんな風に考えていたヒナタに対して、イリスはこう答えた。

 

 

「……ごめんなさい」

 

「え?なんであやま……」

 

「誰、ですか……?」

 

 

ヒナタは一瞬、その言葉の意味が分からなかった。

数秒のお互いの沈黙の後、ヒナタは一つの可能性が頭の中に現れ、それがあっていることをイリスの言葉で理解させられた。

 

 

「えっと、私、記憶喪失?らしくて……特に、人の記憶が抜け落ちてて……」

 

「……記憶、喪失?」

 

「はい、すいません……」

 

 

知らない顔だった。

正確に言えば、知っている顔が初めてするその表情に、驚きを越えた――例えるなら、無のような――感情を、ヒナタは浮かべるしかなかった。

 

 

「本当に、私のこと分からない?何も……?」

 

「その、何も……自分の名前は、何とか……」

 

 

もしかしたら、イリスの冗談なんじゃないか。

そんな、ほんのわずかな希望も砕かれた。

何故なら、イリスはそんな表情をしないことを、ヒナタは知っていたからだった。

 

恐怖という表情を。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

三度目の謝罪を聞いたヒナタは、何も言えないまま、逃げ去るように部屋から去ることしかできなかった。

 

 

 

病院の外は、春の陽気に包まれていた。

むしろ、温暖化が進んだせいで暑いと言っても過言ではない。

だが、一人の少女は冷水をかけられたように、己の熱を感じられていなかった。

 

ヒナタは静かな場所を求めフラフラと歩き、たまたま目に入った病院に置かれている自販機の前で、ただ立ち尽くした。

 

 

「……何か、買おう」

 

 

冷静さを取り戻すため、ポケットに入れていた財布を取り出す。

小銭を出そうとして、その財布を見つめる。

 

 

「……私一人じゃ、取り返せないよ」

 

 

ヒナタの心には一点の絶望というインクが落ち、確かに広がっていった。

 

 

「また記憶喪失起きたんだ」

 

 

ヒナタは頭上から聞こえてきた声に顔を向ける。

見えた二階の窓には、看護師と思える女性二人が話し合っていた。

なんとなく息をひそめ、耳を潜めるヒナタ。

 

 

「これで七人目よね?」

 

「ええ、早く治るといいけど……記憶喪失は戻らないのもざららしいし」

 

「他の子もまだ一人も戻ってないらしいわよ」

 

「二人とも何の話してるんです?」

 

「あら、あなた知らないの?記憶喪失の子供がいろんなとこで現れてるって、便りで来てたでしょ?」

 

「あ、そういえば来てましたね」

 

「全員女の子ですって。年齢も、ばらつきがあるけれど、十五歳以下だったとか」

 

「あとそうねぇ……皆、夜の人気のない場所で倒れてたらしいわよ」

 

「うわぁ……お化けの仕業とか?」

 

「もう、こんなとこでオカルトの話しないでよ、何か出そうじゃない!」

 

「宇宙人とかかもよ?」

 

 

自販機の前には、白衣を着た男が一人立っていた。

男は缶コーヒーを買いながら、上から聞こえる噂話にも耳を立て、眉間にしわを寄せていた。

 

 

「まったく……あの子達は暇になると、すぐサボるな……あとで注意しておかなければ」

 

 

そうして、男はその場を去っていく。

他に去っていく者も、立ち止まっている者も、いなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

十二時、夜。

ヒナタはスマホだけをポケットに入れ、親に黙って外に繰り出していた。

目的は、真実の調査。

 

 

「……何も分からないかもだけど、それでも」

 

 

大人しく、いじめられながらも日々を静かに過ごしていっても、全ては解決するかもしれない。

だが、ヒナタはそれに気づきながらも、行動を止められなかった。

何故かは本人にも分からない。

しかし、頭に浮かぶのは一人の少女。

 

 

「……きっと、もし私が記憶喪失になったら、イリスちゃんなら……」

 

 

自信は、ない。

だが、勇気は知っていた。

幼馴染の、親友の形として。

だから同時に、恐怖もなかった。

 

ヒナタは考えた。

この町の、出来るだけ人のいないところといえば。

そうしてやってきたのは、町外れにある廃工場だった。

 

 

「思ったより、広いな……」

 

 

中に入ってぽつりと言葉を零すと、声が少し響く。

小さめの体育館ほどに広く、物もある程度持っていかれたのか走り回ることもできるほどだった。

 

ヒナタは待つことにした。

夜が明けるまで、建物の隙間から流れる月だけを灯りにして。

これで何か必ず起こるとは、ヒナタも思っていなかった。

失敗したときの可能性を考えて、次の手を既に考え始めていた。

 

心の中にある、勇気(イリス)のために。

 

幸か不幸か、次の手は考える必要がなかった。

コツ、コツと硬い靴の足音が聞こえ、ヒナタは急いで振り返る。

 

そこには、夜に消えてしまいそうなほど、真っ黒な外套を纏った人だった。

顔は同じような黒いフードで見えない。

 

 

「それは本当に勇気か?」

 

 

ヒナタは、もし人が犯人ならと想像していた。

そして目の前の人物は、その想像とは違う、年若い女の声を発していた。

 

 

「私から見れば……今のお前は、蛮勇に見える」

 

「……あなたが、イリスちゃんの記憶を奪ったの?」

 

 

ヒナタの眼はしっかりと、目の前の人物を見つめていた。

外套を纏った人物――少女は、ふっと笑い、答えた。

 

 

「そうだ、私が彼女の記憶を」

 

 

どうやって。

そんな疑問が湧いたが、ヒナタはどうでもいいと振り払い

 

なら、今すぐにイリスちゃんの記憶を返して!

 

と、言おうとした。

 

 

「そして、彼女の魔(・)法(・)を奪った」

 

 

その言葉が発せられる、それまでは。

ヒナタは固まりそうになるも、何とか言葉を紡ぐ。

 

 

「魔法って……?」

 

「知らないふりか?お前を助ける時にも使っていただろう」

 

「なんのこ……」

 

 

全ての言葉が出る前に、不自然に止められた拳をヒナタは思い出す。

察したような顔を見て、外套の少女は答える。

 

 

「ようやく気づいたか。となると、貴様は知らないようだな」

 

「何を……?」

 

「貴様の魔法のことだ」

 

 

ヒナタはその言葉の意味は理解した。

しかし、それを自分に言われる理由が分からなかった。

 

 

「私は魔法なんて持ってない!」

 

「安心しろ、持っていることに気づかずに過ごす者も少なくない。そういうやつもいた」

 

「いた……もしかして、他の記憶喪失の子も……!」

 

「お喋りはここまでだ。貴様の魔女因子も頂く」

 

 

魔女因子。

新たな言葉に驚く暇もなく、駆けてきた外套の少女の対処にヒナタは迫られていた。

想像以上に速い速度で近づく外套の少女。

その手のひらが自身の顔を掴みかかろうとするのを見て、ヒナタは横に転がるように避ける。

 

 

「どんくさいやつと思っていたが……そうでもないらしい」

 

「イリスちゃんの記憶を返して!」

 

「まずは自分の心配をしたらどうだ!」

 

 

外套の少女が頭を掴もうとするのを、必死に避け続けるヒナタ。

このままでは埒が明かないと気づいたのか、外套の少女は同じように頭を狙うふりをし、それを避けようとしたヒナタの腕を掴んだ。

 

 

「取った!」

 

 

外套の少女はもう一つの手を伸ばした。

 

ヒナタは相手が何をするのかは分からない。

だが、間違いなく記憶を奪われることは確かだと感じていた。

犯人は見つけた、だけど、解決することは叶わない。

やはり、自分に何かを為すことなどできなかった。

 

ヒナタは目を閉じ、勇気に――

 

 

「……めて」

 

「っ!?」

 

「諦めて、たまるかあああああ!」

 

 

――目を開き、イリスにこたえた。

その想いが、彼女の中にある力を呼び覚ます。

 

ヒナタはお返しと言わんばかりに、その手を掴み上げる。

その掴んでいる手には、炎(・)が上がっていた。

 

 

「チッ、このタイミングでか!」

 

 

外套の少女は力任せに振り払い、距離を取る。

ヒナタは追撃せず、自分の手に浮かぶ炎を見つめた。

 

 

「これが、魔法……?」

 

 

疑問は今のヒナタの容量を超えるほどある。

だが、今は戦うことが先決だと不慣れに構えた。

同じように外套の少女も、服に移りかけていた火を振り払い向き合い直す。

 

魔法を扱う者同士の戦いが今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

「……チッ、まずいな……」

 

 

 

 

 

二人はまだ、知らなかった。

その光景を見ていたのは、月だけではなかったことを。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。