魔法少女 -Nowhere Sunrise Variant- 作:バトル系まのさば
町外れの廃工場。
そこには、二人の少女がいた。
一人は、赤い炎を文字通り手にし。
一人は、暗闇に紛れられる黒い外套を纏い。
二人は、対峙していた。
「……炎か。シンプルだが強い魔法だ」
外套の少女は落ち着いた様子で、眼前の敵を見定める。
(……どうしよう)
対して炎の魔法を持つ少女――ヒナタは、頭の中で悩みに悩んでいた。
荒事が得意でないことは自分でも分かっている。
運動も苦手ではないが、得意かと聞かれると、首を横に振る。
頼みの綱の魔法も、使い方を理解していない。
だが、戦わなければならないことだけは、確かに理解していた。
先に仕掛けたのは、外套の少女だった。
素早い身のこなしで近づき、連続で拳を突き出す。
ヒナタは炎を纏った腕を振り、払いのけ続ける。
外套の少女は力は自分の方に分があることを、ヒナタは炎に効果があることを理解していた。
その結果、一撃を入れればほとんど勝利になるが、炎により防御の突破が困難。
攻撃は防げるが、逆に攻撃の方法を知らず、反撃することが出来ないという千日手になっていた。
「埒が明かない、が……!」
「はぁ、ふぅ……!」
「どうやら体力もこちらの有利らしい……!」
否、スタミナという限界を見れば、圧倒的にヒナタが不利なことが目に見えていた。
ならばそのスタミナをさらに削ってやろうと、蹴りや肘鉄を交えた格闘で更に猛攻を加える。
ヒナタは格闘技など経験したことのないこともあり、全てを防ぎきれず、腹に一撃をもろに食らってしまう。
「ごほっ……!」
「終わりだ!」
「っ……まだまだぁ!」
しかしヒナタは気合で立ち直り、お返しと言わんばかりに熱いアッパーを放つ。
赤い一撃は確かに外套の少女の顎に刺さり、真上に吹っ飛ばすほどの威力を発揮した。
だが、外套の少女は空中で一回転し、華麗に着地する。
両者は足を止め、苦悶の表情を浮かべた。
「これは、やだな……」
ヒナタは殴った時の感触を思い、不快感を禁じ得なかった。
「……想像以上のパワーだ、魔女因子の進行が速いのか?」
外套の少女は火傷と打撃による痛みを感じつつも、思考をまとめるためか口に出す。
そして先に構え直し、次に備える。
慌ててヒナタも不慣れに構えるが、更にぎこちない姿になっていた。
それに気づいてか鼻で笑い、がむしゃらに真正面から突っ込む少女。
ヒナタは同じように受けようとする、が――
「無理だな」
さっきとは違う、シンプルだがスピードの速いストレートに対応しきれず、自分の体が折れてしまいそうなほどの痛みを許してしまう。
呻き声を上げ、床に突っ伏すヒナタに歩いて近づく外套の少女。
「鈍った獲物を見過ごすほど、お人好しではない」
顔を何とか上げて、狙いを定めた狩人を見ようとするヒナタ。
下から覗いた少女の顔はやはり見えず、どのような感情かを知ることはできなかった。
「ここまで抵抗できたのは、お前と、お前の友だけだ。私は覚えておこう。……さよなら」
(……ごめん、イリスちゃん……)
ヒナタは自身の終わりを感じ取り、心の中で親友への謝罪を零した。
消えるだろう自分の記憶、くるかもしれない更なる痛み。
だが、ヒナタは最後の抵抗か強がりか、決して目を逸らさずに少女を見つめた。
「……怯えなかったり、睨まなかったのはお前だけだ」
どこか優しさをはらんだ言葉を放ち、外套の少女がヒナタの頭を掴もうとする。
そこでヒナタの短い戦いは終わった――
「夜更かしは美容の天敵だぜ、ガキども」
――はずだった。
真上から聞こえた男の声が、外套の少女の動きを変えさせた。
ヒナタから距離を取り、くるかもしれない攻撃に警戒する。
「誰だ!」
「お邪魔虫……いや、お邪魔フクロウだぜ、ガキ」
次に現れた声は、外套の少女への突撃と共にだった。
纏わりついて動きを阻害する
「ふっ、ふふっ……フクロウ!?」
「驚いてる暇はないぞっ!オレじゃこいつには勝てん!」
眼帯を付けたフクロウというだけでも異質、更に化け物寄りの見た目だったそれには、さすがの外套の少女も驚きを隠せないのか、うまく振り払えずにいた。
しかしそれは最初だけであり、冷静さを取り戻しつつあるのか、だんだんとフクロウの攻撃を捌いていく。
「邪魔だ!」
「お邪魔フクロウだからっ、な!ヒナタっ、炎を出しまくれ!」
「だ、出せって……分かんないよ!?」
「踏ん張れ!」
「踏ん張れ!?」
ヒナタの脳内は戸惑いが押し寄せてくるが、同時今は従わないと生き残れないことを直感していた。
ダメージがある程度回復した体を起き上がらせ、言われた通りに踏ん張り、炎の威力が上がるようにイメージする。
すると、腕から噴き出していた炎が大きくなった。
……ヒナタの想像以上に。
「と、とまらない~!?」
「止めなくていい!逃げるぞ!!」
「逃がすか……くっ!?」
フクロウは外套の少女を怯ませてから離れ、ヒナタの方へと飛び強く羽をばたつかせた。
すると炎は巻き上がり、さらに大きくなる。
そして廃工場の至る所に飛び火し、炎はヒナタとフクロウ、外套の少女に分けるように広がっていった。
「話は後でしてやる、何も考えず走れ!」
「う、うん!」
ヒナタはフクロウの言葉を今は信じ、振り返ってその場を離れる。
外套の少女は炎を越えることはせず、その一人と一匹の背を見送るしかなかった。
「じゃあずる休み、楽しんでね」
「うん、気を付けてね……」
朝のローカルなテレビ番組は、廃工場の火事で持ちきりだった。
リビングのテレビはニュースが写り、それをヒナタはぼんやり見ながら、仕事に向かう親を言葉で送った。
玄関が閉まる音がすると、階段からふわふわと一匹のフクロウが飛んでくる。
「寛容な親だな」
「寛容というより、鈍感な人達というか……昨日抜け出したこともきづいてないだろうし……じゃなくて、話」
「なんのことだ?」
「一晩休んだら話をしてくれるって言ってた」
「覚えていたか……」
表情があるか分からない顔を背け、面倒そうな声を出すフクロウは机に乗る。
妙に人間臭さを感じながらも、ヒナタは体を動かし無理矢理にでも顔を合わせる。
そして人生で一番と自信を持った真面目な声で言った。
「お願い。教えて、全部」
嵐を過ぎ去るのを待つように口を閉じていたフクロウは、数秒で限界に達した。
「はぁ……分かったぜ、答えてやる……と言う前にだ」
「……なに?」
「最初で最後の警告を言ってやる。手を引け、魔法も使わず、普通の人間として過ごせ」
「嫌だ」
フクロウの言葉とヒナタの言葉の間はゼロだった。
呆れたように笑うフクロウは、予測できていたのか「だろうな」と零しヒナタへと向き直る。
「押しが強いのは……まずは何を聞きたいのか全て吐き出せ。順に答えてやる」
「……魔法と、魔女因子、黒い服を着た女の子のこと。そして……記憶喪失の戻し方」
「オーケー、メモは忘れるなよ?」
フクロウはこう語った。
魔法と魔女因子の関係は密接だ、まとめて説明するぞ。
魔女因子というのは人間どもの中にある因子だ。
魔女因子つってるのに、人間が持ってるのは変な話だが、元からあるわけじゃねえ。
とあるやつがバラまいたせいなんだが……まあ、今は気にしなくていい。
で、その魔女因子には厄介な特性が三つあってな。
魔女因子を持った女の子供が稀に特殊な力を持つことがある。
それが一つ、魔法だ。
魔法は一人一人違う、くだらないものだったり、人を殺せるやつもある。
夢があるのかないのか分からんが、魔法は成長する。
くだらないものが人を殺せるレベルにもなる、元からできるなら尚更な。
なぜ殺すという言葉に拘るか?三つ目の特性のせいさ。
成長すれば、殺人欲求が段々と止まらなくなり、最後にはバケモンになっちまう。
この三つの特性が合わさるとどうなるか?……地獄だ。
その地獄が始まってないのは……大人の涙ぐましい努力ってやつさ、ふんっ。
あとはあの黒いガキと、記憶喪失か。
正直この二つは長くは語れないぞ。
あのガキ……オレは
魔法を持ったガキを狙って、記憶と共に魔女因子を吸収してるみたいだ。
それをやっている理由は分からん。
あいつも魔法を持っている、
これも詳しいわけじゃないが……分かっているのは、魔法と魔女因子、記憶は奪える。
奪うためには目の前に現れて、顔に触れる必要があるようだ。
魔女因子が狙いなら、普通の人間も襲うはずだが……それをしない理由も分からん。
最後に記憶を戻す方法だが……
魔法少女狩りを倒すしかない。
それしか選択肢がないというより、見つからないと言ったところだな。
「こんなもんだ、分かったか?」
「えっと、なんとかぎりぎり……」
「魔法と魔女因子はクソで、魔法少女狩りというガキをぶちのめしたら記憶は戻るかもしれん。それさえ分かっていれば赤点は回避できる」
丁寧なのか雑なのか分からないな……とヒナタは思いつつ、フクロウに再確認する。
「あの子……魔法少女狩りを倒せば、イリスちゃんは記憶が元に戻るかもしれないんだよね?」
「確証はない。だがやる価値はある……が」
フクロウは変わらない表情を浮かべながらも、威圧感を放っていた。
ヒナタはつい後退りしてしまいそうな足を必死に抑えながら、言葉を待つ。
「お前にできるのか?」
「それは……!」
「一度殴っただけで動きが鈍った。あいつが命を奪う気なら既に死んでたぜ」
ヒナタは自覚していた。
本能が忌避するレベルで、己が暴力に向いていないことを。
もう一度戦えと言われたら、勝つどころか、逃げられる自信すらない。
黙り込んだヒナタに向け、フクロウは言葉を続ける。
「お前の魔法は特別だ、使いさえしなければバケモンにもならない。人のまま過ごせる。だが……もし戦うと決めるなら、甘さを、優しさを捨てろ。お前を殺す死神にしかならん」
ヒナタは理解していた。
その言葉は事実であると。
そもそも、いじめすら自分では対応も解決できていない。
イリスちゃんがいなければなにもできない、弱い存在。
そう知っていた。
「でも」
そう知っていても。
「それでも」
自分の中にある勇気は違うと、叫んでいた。
「私は戦う」
「ほう、なぜだ?」
ヒナタは目を閉じ、自分の本心を掴み上げる。
自分を騙さない、信じている考えを。
「戦う力が、魔法があるから。それに私が戦わないと他の子も被害に遭う。知った今、それを無視したら後悔する」
「確かに戦う力はある、だが覚悟は?」
「百パーセントあるとは言えない、甘さも優しさも、はっきり捨てられるとは言えない。暴力も嫌だ、でも戦う」
ヒナタは、自分が無茶苦茶なことを言っていることは分かっていた。
だが、ヒナタ自身知らない頑固さを消せなかった。
少し恐怖も覚えるほどに、こんなにも意志を通そうとするのは初めてだった。
フクロウは全ての言葉を聞き入れた後、今日一日で最大のため息を吐く。
「お前といると、ため息が尽きねえぜ。あー、青いな……」
「ごっ、ごめん……」
「謝るなよ、ブレるぜ。……分かった、あいつの居場所はオレが分かる」
「分かった、すぐにでも……」
「だが、あいつはこの町を離れた。目標を変えたのかもな」
「つまり、追いかけないといけないってことだよね。……でも、なんで私以外を?」
「さあな、それも分からんが……確かなことは一つある」
「確かなこと?」
「ちょっとした旅行になるな」
その言葉はフクロウからの、本当に最後の警告だった。
ヒナタは、黙って二階にある自分の部屋に行き、荷物をまとめ始めた。
それが、ヒナタなりの返答だった。
ヒナタはがたんごとんと、自分しかいない電車の中で揺れていた。
「本当にメモ一枚でよかったのか?」
正確には、ぬいぐるみの振りをして、ヒナタに抱えられていたフクロウもいた。
少し不服そうにしていたが、それにヒナタは気づかなかった。
「さすがに鈍いからって、自分の子供が消えてたら慌てに慌てるだろ」
「一応スマホも持ってるし、何かあったら連絡くるよ。倒したら、すぐ戻る予定だし。それよりも」
「それよりもじゃないだろ……なんだ?」
「そういえば、あなたの名前をまだ聞いてなかったなって」
「……好きに呼んだらいい。どうせ短い付き合いになるだろ」
「そう言われても……うーん、他の人に名乗ったり、名付けられたりもしたことないの?」
「同族は最近ゴクチョー、なんて呼ばれてるらしいがな」
「同族、いたんだ……じゃあ、フクロウだし、フクチョーとかは?福とか運びそうでしょ?」
その名づけを聞いたフクロウ――フクチョーは、突然口を閉ざす。
かと思えば、クククと笑い始める。
初めて笑い声を聞いたヒナタは困惑し、しどろもどろになる。
「え?変だった?やっぱり安直だったかな……」
「いや?そんなとこが良いぜ、オレはフクチョーだ」
「……変なの」
そんな雑談を繰り広げながら、ヒナタ達は目的地まで揺られていく。
先に見える戦いのことを、今は目を逸らしながら。