1989年1月20日。人混みは愚か、一切の人が歩かぬカイロ国際空港にて。一機の飛行機を前に銀髪の男が滑走路へと足を運ぶ。大きく描かれたロゴは世界的に有名な慈善機関であり、医学・薬学・考古学を主に研究・支援する団体『スピードワゴン財団』である事を示している。
タラップから降りてくる男は30から40歳と言った所だろうか。スピードワゴン財団のロゴの入ったキャップを頭に被りながらも黒いスーツの正装を身に纏う姿はさながら執事のような華麗さを解き放っている。ともあれ、財団の巨大さは説明するまでもなく、この光景を見るだけで分かるだろう。
「旅の途中も思ってたが、なんつー財力なんだか」
圧倒的な金銭力。空港に人を寄せつかせぬ『権力』とその上でキッチリと人選した人物達で構成されたプライベートジェット機を実現させる『財力』。石油を掘り当てただけに留まらず、スタンドの矢・石仮面などの超常現象などを研究している裏の顔までもあるのだから恐るべしと言った所だろう。
思考を巡らせて考え事をしながら登る階段。DIOと戦っていた者の残党とはいえ、ポルナレフは死んだと思われているのだ。そこまでの警戒は必要ないと思われるのだが。とにかく、長い白い階段を登った先に広がる機内の光景は床にギッシリと敷かれた赤いカーペットとそれに見合ったカーテン。
赤に赤と統一させるのは何かと目に悪いと思われるかもしれないが、カーペットは明るい赤でカーテンは黒に近い赤と、赤は赤でも種類を変え、差別化している。それ故に機内の雰囲気は高級ホテルのような特別感を生み出し、絶対なる安心感と安定した居心地を作り出しているのだ。
「改めて初めまして。スピードワゴン財団代表取締役代理のライアン・ジャクソンと申します。今回は財団とポルナレフ様が出会った件についてお話したく、合流した次第です」
「なぁ、堅苦しいのはやめようぜ? ちょうどそっちが用意してくれた肉も⋯⋯あむ、あるんだしよ」
離陸すると同時に提供された和牛のステーキと赤ワイン。高値の肉特有の美味ながらも重い油をぶどうがほんのり香る芳醇な味わいの赤ワインが中和し、程よく残った風味が後味を際立てる。フライト中の極上の
これから目指す終着点がどれだけ困難な事だろうと、これまでの悲惨な出来事があろうと、一瞬の娯楽と希望さえあれば人間はどんな事も可能だと、少なくともポルナレフはそのように考えている。数多の苦痛の元に幸せは成り立つ。だから、これも幸せの元と思えば苦痛ではないだろう。
美味な肉を頬張りながら、高価な赤ワインを飲み干す。一時の休息を、たとえだ。たとえ、一時の休息を望まぬ来訪者の手によって止められたとしても。全然──、
「気になんねぇぜッ! ホゥラアァ!!」
ジィィィン!
「────」
──気にもしない。目の前の男が代表取締役代理を名乗りながらも自分の首を狙っている敵だったとしても。その
左腕を右方向へと横になぎ倒し、食器やフォークなどの残骸を敵へと放ちながらの刺突。飛び散る障害物とその死角から放つべく背後から出現させたシルバー・チャリオッツ。その一撃を机を蹴り上げる事で後方へと下がり、間一髪と避ける。
もっとも、その首筋から垂れる朱を見るに完全に避け切れた訳ではないが。問題なのは不意の一撃で殺し切れず、相手に戦う時間を与えてしまった事だ。推定スタンド使いであろう対象に、スタンド能力を使用させる
「なぜバレたのかだけ聞いても?」
「財団とは予めに接触時の会話内容については決めてんだよアホ。代表取締役の代理ともあろうお方が知らねぇ訳ねぇだろ? 『情報』が丸見えだっつーの」
瞳孔を縮めながら疑問を口に出すライアンとドヤ顔で答えるポルナレフ。そのまま両者は再度の如く言葉を交わす。
「頭が働くようなヤツだとは思っていなかったが、まぁいい。どんな生物も後から『進化』する物だからな。元が悪くとも取り替えればいい。私の『モンスター』はそれを実現させる。より一段階、私を生物として高めてくれる」
ドサッ
スーツケースが地面へと堕ちる。カーペットが敷かれた通路に対面する形で離れているが故に中身までは確認できない。しかし、確実に言える事はただ一つ。それは、
「ウゥラアアァ!!」
「ぁ、ぐぁ!」
────機会。不意打ちで殺していれば放たれなかったはずの右拳の一撃が天井の照明を破壊しながらポルナレフの胸部へと突き刺さる。一瞬の暗転と共に変形した腕がその射程距離を誤認させ、直撃させる。吹き飛び、床に背中が打ち付けられ、肺の空気が吐き出され、方向感覚が歪む。
暗転が故に攻撃の正体を掴む事はできなかった。地面を押し出すようにして立ち上がり、ライアンがいた方向を視認する。追撃しようと距離を詰めてきている訳ではない。その場にて立ち尽くし、こちらを睨んでいるのみ。警戒しているが故に容易に接近しないのか、はたまた余裕を見せてるのか。
ドサッ
「生物学に置ける強さとは『吸収』と『適応』。熊のような腕力に馬の脚力。⋯⋯それらに加えてホモ・サピエンスの知性があれば無敵とは思わんかね」
「ぐっ⋯⋯! てめ、ぇ」
床へと追加される空のスーツケース。発言内容を元にライアンの言葉が何を意味し、なんの能力を持っているかを理解する。生物における強さが『吸収』と『適応』と言うのなら、ライアンのスタンドはそれに最も近しく、もっとも完璧な生物になりうる可能性を秘めたスタンドだ。
スーツケースの中身は恐らくなんらかの生物の部位のどこか。ポルナレフをも吹き飛ばす剛力ならば熊かそれ以上で、会話から察するに今回は馬と言った所だろうか。この狭い場所において脚力がどれだけ活躍し、どれだけポルナレフを追い詰めるかは分からない。しかし、
「『シルバー・チャリオッツッ!』 ホラァァァ!!」
走り出しと共に胸部を狙って放たれた刺突。185cmもの長身の足から出る速度は一瞬にてライアンとの距離を縮め、類い稀ぬ剣術を披露する。が、
「がッ⋯⋯! ぶ、ぁ」
「随分と鈍いな。
空気で膨らむ風船のように膨張した左腕。その掌が鉛筆を指でつまむようにチャリオッツの刃を止める。瞬間的に片方の拳が振られ、ポルナレフの腹部へと直撃。くの字に体が折り曲がる。今度は打撃による衝撃が肉体を貫通して吹き飛ぶのではなく、その身全体に響き渡らせる強烈な一撃。
骨を砕き、肉に食い込み、その場にて膝から崩れ落ちる。内部にて出血した血が逆流し、喉を通って口の外へと吐き出される。圧倒的な痛みが脳を揺らし、思考を乱す。────轟音。耳を悩ます風切り音は中腰になった自分へと襲いかかる死神の鎌の音色。
耳からも血が流れ、ライアンがなんと言っているかも聞こえない。見えているのは飛行機内の地面で、感じているのは死への嫌悪だけ。そう、嫌悪だけだ。
ボゴン⋯バゴ⋯ボン!
「しィりィィア!!!」
ザンッ
「──ぶ゙っ゙ァ⋯⋯く」
振り下ろされた左拳は音もなく消える。──否、腕から先の手首のみが消し飛ばされる。苦痛を我慢して真正面を見れば片膝にて立っているポルナレフがただそこにいるだけ。どうやら痛みのあまり、衝撃のあまりに自然に後方へと退いていたらしい。先程まで目の前にいたポルナレフが遠く感じた。
ともかく、ライアンの左腕の切断面から見える血管、骨、筋肉などの肉体的構造は人間と同様のそれだ。異なる点は多少なりとも筋肉の量が増え、それに伴っての耐久性の上昇。それも関節を通しての斬撃とあらば容易く斬り伏せれる。
「俺のスタンド『
細身となったチャリオッツの姿は甲冑を外した際の速度アップ。鎧へと付着したダメージは解放と共に軽減され、同時に奇襲する為の煙幕ともなる不意の一撃。
「さて⋯⋯ライアンさんとやらはどうすんだ? お得意の『進化』にでも頼るかッよォ!!」
チャリオッツのみを前進させての左斜めに斬り下ろす斬撃。痛みと驚きに呆気に取られているライアンに回避は間に合わない。が、
「騒がしいですが、何か────きゃあ!」
「ちょうどいい所に来て助かったよ。進化とは『吸収』と『適応』。⋯⋯君のシルバー・チャリオッツが素早いのは十分には分かったさ。だからこそ私は完璧に『適応』する。この不利な状況だろうとな」
──最悪なタイミングでの人質。痛みと恐怖にて怯み、下がっていたのは音を極端に奥の部屋へと響かせ、CAを誘き寄せる為の戦略的後退。手首がなけれども大きな左腕は優に人一人を包み込み、締め込む長さと力を有す。右腕にて近くに落ちていたナイフを拾い、CAの首へと突きつける。
打撃による物とはいえ、ポルナレフは打撲で軽い出血をしている。骨折に神経の圧迫に脳震盪の後残り。不意打ちだからこそ一撃を当てれたものの、今のポルナレフにそこまでの速度を出す余力はない。無論、向こうも人質を取らなくてはならない程に疲労しきっているのだが。
ともあれ、動きづらく、場所と状況では不利な事に違いはない。旅の目的で言えばCA如きが一人死のうとも支障はなく、CAが死んだ後に斬り伏せれば問題もない。飽くまで雇われのCAであってスピードワゴン財団の重要団員ではないからだ。だから、だからこそだ。誠に不本意ではある。だが、
バシュッ
「あ゙? ⋯⋯が、ぁ」
「誰にも見せた事のねぇ
────だからこそ救った上で倒す。救う事に意味がなくとも、救う事が枷になろうとも救う。ポルナレフにとっての『掟』とは救える者をできるだけ救い、殺せる者をできるだけ殺す事だからだ。善人を救って悪人を殺す。たとえ、どれだけの罪と罰を身に刻もうと、それはアヴドゥルが死んだと思われたホル・ホース戦から決まっていた決定事項だった。
レイピアの放出による遠距離での刺突。高速で真っ直ぐ飛んだ攻撃が盾として使われているCAの耳下をすり抜け、ライアンの脳天へと突き刺さる。どこかの吸血鬼であれば刺突だけでは死なないが、生身の人間であれば容易くと生命活動を停止するだろう。
手を離して地面に倒れ、頭部から広がる血液が赤き絨毯を更に染める。完全に余力を使い尽くした。これ以上に排除すべき弊害はない。目的は果たした。
「うぁ、疲れ⋯⋯た⋯ぜ」
脚を開いて大きく大の字で倒れるポルナレフ。死者と生者とて、その格好は同様。肉体の生命活動を終え、危機は消えた。そう思われていた。
「ば⋯⋯ァァ! 殺す!!!」
「は────」
脳天にレイピアが突き刺さり、死んだはずのライアンの顔が目の前に現れた。地に倒れて天井を見上げる自分の視界に人物が入ると言う事は見下ろすような姿勢か、足元の物を押し潰そうとしている者ぐらいしかいない。
力は出し尽くし、レイピアの復帰には時間が必要。絶望で死を覚悟した。が──、
グググググ⋯
「さて⋯⋯色々と聞きたい事は多いですが、着いてからでもいいでしょう。貴方⋯⋯ポルナレフさんも疲れているでしょうし」
────輝きし黄金の手がライアンの動きを止めた。触れる事もなく。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
1月21日午前9時53分。アメリカ合衆国テキサス州ダラス郊外某所にて。
「一応、医者の方にも見てもらったようですが、同様になんの問題もありません。生命反応は前よりも強く、肉体にもなんの異常もない」
消毒液の香る入院室と思わしき一室。病気や怪我を治す為に用意されたであろう部屋は白と銀色と言う配色が故に逆に気が病みそうになる。
柔らかいベッドの感触に見知らぬ者の話し声。ポルナレフの肉体は眠りから覚めると共に思考を脳内へとゆっくり巡らしていく。治療を行える環境または技術を持った者がいると言う事は通常の考えでは病院あたりが無難だろう。
なんかの間違いで医者に助けられ、家に泊めてもらっている、だなんてありはするもの、低い可能性を信じるのはおかしい話。さしあたって財団と行動していたが故、財団の管轄内である建物の一つであろうとポルナレフは推測した。
「⋯⋯」
ゆっくりと両腕を伸ばし、手首を視界の内側に入れながらグッパと交互に閉じたり開いたり、動作確認を行うように動かす。白い布団が被さっていて確認はできていないが、上からでも確認できるように問題なく足は動く。肉体に支障をきたしていないのなら好都合。少しでも情報を取り、少しでも糧にしなくては。
「あー⋯⋯悪いんだが、ここはどこで
「ここはスピードワゴン財団の本部で墜落⋯⋯と、ポルナレフさんは気絶していたので知りませんか。敵スタンド使いが細工をしていたらしく、ジェット機は墜落してあれから3日が経過しています。それと僕についてですが──」
ガチャリ
「おっと、起きていましたか。ノックもなしに失礼。────ですが緊急の問題です。ジョルノさんは
黒服を着たスキンヘッドの男。モノクル、懐中時計と言うよく言えば英国紳士のような華麗な見た目で、悪く言えば古臭い格好。『私フランス人ですよ』な顔の格好をしているポルナレフが言えた事ではないが、その人物の年齢が少なくとも50を超えている姿と言うのが
「了解致しました。ポルナレフさん、また後ほど」
「⋯⋯おう」
ポルナレフが思っていたのは発言の節々から自分を知っている風な事をジョルノの言葉から感じていたという事だった。ジョルノと言う名前を知ったのも彼の口からではなく、ダンディー紳士ご老公がそう呼んでいたから知ったに過ぎない。彼について知らない事があまりにも多すぎるのだ。ともあれ──、
「スピードワゴン財団代表取締役の『ダムド』と申します。以後お見知りおきを」
「⋯⋯ああ、ジャン・ピエール・ポルナレフだ。聞いてもいるし、知ってもいると思うがジョースターさんの旅に同行していた一人だ。ジョースターさんから、承太郎から頼まれてここへ来た」
ベッドの上で胡座をかくポルナレフのすぐ横にある椅子に座る訳でもなく、ダムドと名乗る男は腰に手を当てながらただ側へと近づき、口を開く。
「さて、時間は有限だ。本題に入りますが、結論から言うと現状ではジョースター様の隠し子の捜索及びポルナレフ様の隠し子との合流はできません」
「⋯⋯なんだって? 当初の目的ができねぇなら、何をするっつーんだよ」
膝枕に顎を預けながら訝しげな表情を浮かべるポルナレフ。財団と合流したのはDIOを倒す為に隠し子を探す為で、それ以外に理由はない。必然的に目的が果たせないのなら来た意味と何をするのかと言う疑問が残ってしまう。
「1つ。我々はジョースター様の隠し子と思わしき⋯⋯否、ほぼ確定と言っていい。隠し子を見つけました。⋯⋯が、今の時期の日本、正確にはM県S市に位置する杜王町。雪が大ぶりでとても連絡を取れるような状況ではない。そして2つ。言ってしまっては悪いですが、今のポルナレフ様では旅の二の舞⋯⋯力にはなり得ない」
予めにメモしておいた内容を語るように淡々と発するダムド。その声には嘘や冗談だなんてチンケな感情は1ミリも含まれていなかった。あるのは己が果たすべき『使命』を行う機械的心理。
侮辱や侮蔑、嫌悪や憎悪などの意図はダムドにはない。老骨に残されし役目は未熟な若者に真実を語るのみ。それが酷であれ、少なくとも
「故に明日からポルナレフ様へと稽古をつけさせていただきます。財団に所属する職員から何人かがお相手しますのでご理解を」
老練の真摯な表情、がなりが混じった低い声は感情を抜きに結果だけを伝える死神のような声だった。役にただ徹し、合理的に動くだけの歯車のように。が、
「俺は構わねぇけどが、怪我しても文句言うなよ? もちろん、オタクの
「ご心配なく。私共職員は任務の為に洗練されている。一般人は愚か、ましてやその辺のスタンド使いに負ける事はない。その事も頭に据えて休息ください。では」
挑発を入れた軽い返事。感情を抜きにしても固い口調のダムドに反してポルナレフの言葉と声はどこか明るく、物事を重大に見ていないような発言だった。物事を把握しきれていないが故の浮薄な言動か、はたまた重大すぎるが故の軽薄か。
本人であっても知らぬ、誰であっても知れぬ答えを後にダムドは部屋を後にした。再度、DIOを討伐する旅の為に。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
午前12時59分。午後に差し掛かる頃合いだと太陽の熱さが皮膚から伝わっている。運動によって生じた内部から肉体を温める熱と外側から干渉する自然の熱さ。体から流れ出る汗が油のようにジッとりと肌の表面を覆っている。
「ぜ⋯ぇ、ウ、ふ。⋯⋯はぁ。クソ、もう1回だッ!」
何百回目かの敗北。自分の体に練り込まれた『熱』は太陽による物でも運動によって招かれた生理現象でもない。
「何度でも。どこからでも」
何百回目の組合。自分の脳に刻まれた『屈辱』は敗北による物でも老人によって向けられた同情の瞳のせいでもない。
『シルバー・チャリオッツ!』
ポルナレフの左後ろへと出現する冷たき甲冑の騎士。細身の鎧かつ枝が如き刃のレイピア。感情的になってしまう男とは正反対に銀の甲冑は殺意の冷たさを帯びている。そんな強いヴィジョンを持ってなぜ勝てない? 剣術を極めてなぜ勝てない? 老人──ダムドとは何が違う?
老いた肉体は決して強靭とは言えない。が、
「がっ──」
「踏み込みが甘い」
────魂のヴィジョン。人型かつ肉体全身にまとわりつくように巻かれた長い鎖。見た目だけではないそれが、速度だけを考えたチャリオッツの一撃を防ぎ切る。狙いは胸部で直撃すれば風穴の空く強烈な刺突。それをスタンドの鎖を利用し、攻撃を弾き出す。鞭のように斜めに払われた鎖の波が斬撃と衝突し、爆竹が弾けるような轟音が鳴る。
攻撃が防がれるのは初めてではない。何百回の敗北のどれもが防御を元に行われた"一連の動き"なのだ。攻撃を弾かれ、その驚きで足払いで足元を掬われる。が、こちらも何百回の組合を元にポルナレフなりに学習した事もある。攻撃とは相手がされて嫌な動きをし、防御は自分がしたい動きをする。
至極当然の死合の常識。その認識を極限にまで濃く、精密に濃度を上げていく。──片足による足払い。懐へとスタンドを戻し、地面にレイピアを突き刺す勢いで若干の跳躍で回避。ぐにゃりと柔軟に曲がるレイピアを返す刃で前方へ。
「そこだァ! ────ほォらァァ!!!」
ダムドの顎先を下から跳ね上がるようにして狙う斬撃。しなやかに曲がる刃は鍛えながらも老いで柔らかくなった肉を切り裂き、老人の体から此度の組合にて初めての傷を与える。
致命傷にはなり得ず、出血の量も今後の展開が上手く進む訳でもない一撃。微かな跳躍にて無防備を、後隙を晒すポルナレフの服を若干の前進と共に伸びた腕が掴む。
グイッ
伸ばされ、掴んだ手のままに引っ張られるポルナレフ。低空であったとしても空中にいたが故に掴まれ、バランスの崩壊。が、攻撃に使ったスタンドは既に
スタンドマスター本体の
「待ってたぜ。こっちからじゃあなく、そっちから接触しに来るのを!」
ギィィン⋯⋯
金属が弾かれ、死の音色を鳴らす。冷たき刃が振るわれ、処刑人の一振りのように己を掴む手首目掛けて下ろされる。離さなくば今後の活動に支障をきたす障害を。そうでなくともカウンター以外では大きな隙を晒す他にあるまい。
ただし、重要なのはダムドはスタンドを持っているだけでスタンド使いじゃないということ。スタンドを持っている、ただの人間が"スタンド使い"と自称しているだけでスピードワゴン財団における扱いは異なる物だ。
スタンド使いとは。そう、スタンド使いとは。己が持つ力を存分に振るう事ができ、己の力を最大限に発揮出来る者を指す。だからこそ財団に所属する"スタンド所持者"は思う。スタンド使いの時点で一般の括りではないが、ここにおける一般が指すスタンド使いは呆れた物だと。
「厳密には私はスタンド使いではないのです。だからこそポルナレフ様は勝てない。一般の指す、
「何を────ぐ、ぁ」
手首を落とすギロチンよりも先にダムドの手へと弾き出されたのは金属製と思わしき鎖。人型スタンドの体に巻き付いている鎖は単なる装飾品としてではなく、鎖としての役目をも発揮する。もっとも、本来の鎖の用途はギロチンによる手首処刑の一撃から身を守る為に簡易的な防御として己の手首に巻き付ける為ではないのだが。
ガギィン
剣術を極めた者の斬撃を防ぐと言う事は鎖の耐久値は見た目通りの金属とは程遠いようだ。豪快な衝突音が鳴り響き、周囲の空気を張り詰めさせる。もっとも、ここにおける"張り詰めた空気"とはダムドにとってであり、ポルナレフの物ではない。
ポルナレフは訓練が開始されてから常に筋肉が強ばり、精神が引き締められていた。敗北を重ねたポルナレフを前に、多数の勝利を前に、ダムドは緩んでいた。目の前の者は敵ではないと。
「『ヘブンズ・フォーリング・ダウン』。それが私の身に宿されたスタンドであり、そして使命でもある。どこまで行っても私はスタンド使いではありません。私は軍人だ」
ヒュッ⋯
スタンドではなく生身の肉体にて放たれる膝蹴り。
ドグッ
「⋯ッ、か⋯⋯は」
「今日の訓練はここまで。また後日、行いましょう。今度は訓練ではなく、
脇腹へとめり込む左膝。その一撃は疲労しきっていたポルナレフの意識を刈り取るのには十分すぎる威力だった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数時間後、アメリカ・ニューヨーク州のマンハッタンに位置するタイムズスクエアにて。
「が、ぐ。この、スタ、ンド⋯⋯まるで弱点が見当たらない」
「ワシらは⋯⋯詰、みじゃ」
黒い波が押し寄せる。
黒い波が押し寄せる。人の思考が関与した邪悪な罠が蟻地獄のように掴んだ首を逃さない。
黒い波が押し寄せる。誰であろうと押し潰す平等たる災厄が患者を締め付けるギブスのように粘りつく。
黒い波が押し寄せる。床に落ちた獲物にまとわりつく蟻のように標的を死へと運び出す。
────黒い波が押し寄せる。黄金も魔の手も速度でも。ありとあらゆる意思と尊厳を無視してまで押し寄せる。波が求めるのは混乱と破滅。破壊的な絶望を元に生み出される混沌を糧に黒い波は押し寄せる。
純粋なる悪は対象を選ばない。尊き幼子や神に教えを乞うシスターであったとしても。黒い波は押し潰す。全てを呑み込まんとする為に、世界を己が手にかける為に、
──黒い波が押し寄せた。
スタンド名:モンスター
スタンドマスター : ライアン・ジャクソン(偽名)
破壊力 : C
スピード : C
射程距離 : C
持続力 : C
精密動作性 : C
成長性 : A (取り込む物次第)
スタンドヴィジョン「緑色の人形スライム」
スタンド能力「物質を取り込む」
詳細
⬇
生命体や無機物の部位を取り込む事によってその性質を得る事ができる。
進化とは『適応』であり、生存とは『吸収』である。生物として完璧な者がいるとしたら、それは正にこれだろう。
元ネタ:海外バンドよりSkilletの『Monster』
スタンド名:ヘブンズ・フォーリング・ダウン
スタンドマスター : ダムド
破壊力 : C〜A
スピード : C〜A
射程距離 : C〜A
持続力 : D
精密動作性 : C〜A
成長性 : C
スタンドヴィジョン「人型/鎖が体中に巻き付けられている/目から黒い棘/白い肌/足に黒の波模様」
スタンド能力「?」
詳細なし
封印されし使命はその時が来るまでの休息を待ち望む。その己に秘めし運命を元に、いざ復讐へと導かん。
元ネタ:企業のワーナーブラザーズジャパンもといバンドボーカルのSana (sajou no hana)より『heaven's Falling down』