1ヶ月近く続いていてびっくりしています。
その場のノリで書いているので、まさかここまで続くとは思っていませんでした。
聖杯の中
(彼、強いですね。あれほどの戦闘力を持つ魔導士を見るのは久しぶりです)
(当方が知る中だと魔法騎士団の団長殿達と遜色ないレベルに見える。間違いなくこの世界で屈指の強者だ)
(模倣魔法……あらユる魔法属性に有利を取レ、その上凄まジイ手数デす)
(戦闘に興味は無いが、珍しい魔法による未知の症状が期待出来るかもしれんな……)
(マスターにとって難敵ですね。ここは誰か助けに行った方がよろしいでしょうか?)
(愚問だ、あの程度で根を上げるならそこまでの男。わざわざ我らの力を貸す道理がない)
(そうですね。私達はこれぐらいで沈むような鍛え方はしていません。それに、今回は久しぶりにマスターの本気が見れそうです)
◇
遺跡の最奥では、ライアによって胸を切られて地面に倒れる私と、それを見つめるライアの姿があった。
あっさり、というわけではないが、ライアの圧倒的な実力に傷一つつける事も出来ず、私は致命の一撃を受けてしまった。
「……結局最後まで魔法使わなかったな。まあ、何か良い魔法でもあればいいかな」
ライアは倒れた私を見下ろしていたが、やがて興味を失ったように小さく息を吐き、私の魔導書に手を伸ばす。
あともう少しで指が触れようとした瞬間——倒れていた私の手がいきなり動き、ライアの腕めがけて氷剣が振るわれる。
「危ね!?」
ライアは光魔法で咄嗟に身をかわした。しかし、反応がわずかに遅れ、腕に浅い傷を負っていた。
大きな傷ではないものの、ライアは初めての傷に少し顔を歪ませながら、驚愕の色を浮かべて私を見下ろす。
視線の先では、致命傷を負ったはずの私が平然と立ち上がっており、先程とは異質な空気を纏っていた。
「死んだフリして襲いかかるなんて酷いじゃないか……魔法騎士としての誇りとかないの?」
「戦場に卑怯も何もないでしょう。致命傷を受けたのですから、それを利用して相手を油断させるのは常套手段です。次からはトドメを刺した後に近づく事をおすすめします」
「確かにそうだね。それはそうと、君が今こうして立っていられるのはその氷の鱗のおかげなのかな……」
ライアが軽口を言いながら致命傷を負った私の胸元を見ると、氷鱗の棺によって傷口が塞がれていた。
この鱗はかなり頑丈な為、戦闘が始まったタイミングでこっそりと体に展開していたのだが、そのおかげで致命傷ではあるものの、主要な臓器への傷はかなり軽減出来た。
「けど残念。一度きりの不意打ちだったのに仕留めきれなくて。こんな傷ならすぐに治せちゃうからねぇ。模倣光魔法"
ライアが傷口に手をかざすと、小さな光が傷を包み込み、あっという間に元通りの状態に治してしまった。
そんなライアに対し、私は出血を抑え、傷口を塞いでいるが、呼吸や少し動くたびに激痛が走り、喉からの吐血も止まらない。
一瞬でも気を抜けば倒れてしまいそうになるほどの重傷だが、それ故に意識は驚くほど冴え渡っており、久々の窮地に心の奥底で眠っていた感覚が呼び覚まされる。
「1つ確認ですが、先程私の魔導書を触ろうとしたのは何故ですか?私の予想では、それが魔法を模倣する条件だと推測しているのですが……」
「うーん、どうだろうねぇ……ただの気まぐれかもしれないよ?仮にそうだった場合、今の君に関係あるの?」
「先程までは魔法の模倣条件が不明だったので迂闊に使えませんでしたが、それなら遠慮なく使えそうです。何せ、私の魔法は殺す事に特化しすぎていて、模倣されたら大変でしたから」
私は両手を前に出し、何かを握るかの様に構える。
「氷創生魔法"
構えた私の両手から極大の冷気が爆発的に溢れ出し、冷気を纏った一本の太刀が形作られていく。
それはこれまでに作ってきたどのような氷の剣よりも硬く、冷たく、そして鋭い。
「それと、これは忠告です。今の私は先程の私とは別物と考えてください。端的に言うと……本気で行きます」
「……へぇ、だったら見せてもらおうか。君がどれだけ変わったのかをさ」
ライアは肩をすくめると、両手を軽く広げた。
次の瞬間、彼の周囲に幾つもの光剣が浮かび上がる。
「模倣光魔法"
ライアの掛け声と共に光剣が一斉に発射される。
数は十、いや二十を超えている。一本一本が十分な殺傷能力を持つ上に、光魔法特有の速度まで備えているのだから厄介極まりない。
だが、集中状態に入った私は迫り来る光剣の軌道を瞬時に感じ取り、最小最速の動きで光剣がまだ間合いの外にあるにもかかわらず、氷天羽々斬を振り始める。
ライアは私の謎の行動に呆気にとられるが、次の瞬間、その表情が驚愕に染まった。
スパンッ!
「なっ……!?」
私に向かって飛んでいる最中の光剣が次々と真っ二つに切り裂かれ、その形を維持出来ずに消失していく。
何が起きているのか理解する間も無く、私は数十メートル先にいるライアに向かって振るう。
それを見たライアは何かヤバいと感じ取り、即座に高速移動でその場から離れる。
「いったい何だって……痛っ!」
右足に激痛を感じたライアは反射的に視線を落とすと、そこには氷に覆われた裂傷が刻まれていた。
慌てて治癒魔法をかける。しかし、傷口を覆う氷は単に冷たいというだけではなく、回復を妨げ、傷が一向に治らない
「いったいどういう魔法なのかな……氷の斬撃?でも何も見えなかったし……」
ライアは傷ついた右足を庇いながら、私の持つ太刀へと視線を向ける。
「貴方の予想はあっていますよ、この氷天羽々斬は超高密度の冷気を斬撃として飛ばせます。そしてその冷気は透明度が高いので、目で捉えることができません」
「目に見えない氷の斬撃ってわけねぇ……確かに模倣を警戒するわけだ。こんな魔法を相手にするなんて面倒くせぇな」
愚痴を溢しながらも、ライアの瞳から完全に軽薄さが消え去っていた。片足の機動力を奪われた状態での光魔法は、彼ほどの使い手であっても命取りになりかねない。
「でもさぁ……手負いなのは変わらないよね!模倣光魔法"断罪の光剣"」
ライアの頭上にまたも無数の光の剣が生成され、その全てが殺意を込めてこちらへと向けられる。片足を負傷しているとはいえ、その出力と脅威度は衰えるどころか、更に増していた。
だが——
私は光剣がこちらに届く一瞬の間にすべて空中で切り落としつつ、その合間を縫って反撃の斬撃をライアに放つ。
(彼の最大の強みは模倣魔法による圧倒的な対応力。機動力は半減させましたので、次は手数の方を封じさせてもらいます!)
ライアは先程の経験から即座に高速移動でその場から離れるが、私はその動きを予測し、逃げ場を無くすように無数の斬撃が襲いかかる。
(回避先に既に斬撃が振るわれてる!これじゃあ他の魔法に切り替える余裕がねぇ!)
ライアは舌打ちしながら、迫り来る斬撃を光魔法による加速で辛うじて回避する。
片足が凍らされて本来の動きより鈍っており、光以外の属性に切り替えた瞬間に切り刻まれると判断していた。
「今の状態だと遠距離はこっちが不利か……なら近づかせてもらうよ!」
ライアはそう言うと、残された左足で地面を蹴り、光魔法によって一気に加速した。
その速度は凄まじく、瞬く間に距離を詰めて私の目の前に現れる。
そしてお互いに至近距離での剣戟が始まった。
キィンッ! ガキィンッ! ギィンッ!
金属音にも似た甲高い音が遺跡の最奥に響き渡る中、ライアの光剣が凄まじい速度で私の身体を切り刻み、至るところから血しぶきが舞う。
純粋な剣技なら私の方が上なのだろうが、今の私は傷の影響で本来の出力を出すことが出来ず、逆にライアは膨大な魔力で強化された身体能力と、光魔法の圧倒的な速度で技量の差を帳消しにしていた。
至近距離ではこちらが有利と踏んだライアは畳み掛けるように剣を振るい、私の防御を崩そうと攻撃の手を緩めない。
だが、不思議な事にライアの振るう剣が次第に私の事を捉えられなくなっていく。
「……あれ?」
ライアの剣が私の肩を掠め、空を切る。
先程までは確実に捉えられていたはずの攻撃が、ほんの僅かに届かない。次の一撃も、その次の一撃も同じだった。
(右肩、胸、左足、右足——)
私は大きく動いているわけではない。紙一重の動きで刃を避け、時には氷天羽々斬を使って攻撃の軌道を逸らしているだけだ。
「貴方の動きの癖と攻撃の間合いは、だいたい把握できました。速度があっても、攻撃の軌道と次の行動が予測できれば対処は可能です」
その証拠に私の動きはライアに合わせて最適化されており、彼が剣を振るうよりも僅かに早く、私は既に次の回避行動へと移っている。
更に私は攻撃の合間に見つけた僅かな隙を突いてライアに反撃を仕掛け、互角の斬り合いに持ち込んだ。
「その傷でよくもまあ動けるもんだね。痛くないの?」
「この程度で根を上げるようでは、私は副団長になっていませんよ!」
言い放つと私は氷天羽々斬を鞘に収めて居合の構えを取った。
何をするつもりかとライアは訝しんだが、隙だらけの好機を見逃す理由が無く、私の首筋めがけて光剣が振るわれるが——
「氷天羽々斬・四連居合」
それよりも早く抜刀された四連続の居合斬りがライアを襲う。
一撃目が首筋を狙い、二撃目が胴を薙ぎ、三撃目が反撃に出ようとした腕を切り裂き、そして四撃目が逃げ道を塞ぐように足元を斬り払う。
「ぐっ……!?」
ライアは咄嗟に光魔法で身体を加速させ、致命傷となる一撃だけは何とか回避した。しかし、完全に避けきることは出来ず、肩口と左腕に凍りついた傷を負ってしまう。
この距離で斬り合いを続けるのは危険だと判断したライアは、光魔法で加速しながら後方へ飛び退いた。
「はぁ、はぁ……ガフッ!」
だが、一方の私も四連居合の反動と膨大な出血により、先程から呼吸も浅くなり、体の感覚と意識が朦朧として来た。
「このダメージは流石にまずいね!炎回復魔法"
「くっ……させません!」
氷が回復を阻害するなら溶かせばいいと考えたライアは、炎属性の回復魔法を展開しようとするが、そんな隙を私が与えるはずもなく、自身の負傷を意に介さず追撃の斬撃を放って炎を霧散させる。
「本当に面倒くせぇ!そっちはもう体が限界でしょ!」
「限界は超えるためにあるんですよ!私を止めたければ息の根を止めるしかありません!」
ここに来るまで、ライアは私の事を格下と認識し、氷天羽々斬を使った後も瀕死の重傷人として手を抜いても勝てると判断していた。
しかし、その結果がこの現状であり、面倒くさがりのライアにとっては我慢の限界だった。
「言ってくれるじゃん……ならもう遠慮なくやらせてもらうよ」
ライアが前髪をかき上げると、額に瞳が現れ、ライアの全身から、先程までとは比較にならないほどの魔力が溢れ出した。
私が最後の力を振り絞っていたのに対し、ライアはまだ本来の力を解放していなかった。
額の瞳から溢れ出る魔力は周囲の空間を歪め、大地を揺るがすほどのプレッシャーとなって私に重くのしかかる。
(——これが、彼の本気……!)
肌が粟立ち、本能が危険信号を鳴らす。だが、私の足がすくむことはない。
むしろ、この男をここで仕留めなければ、後々どれほどの被害が出るか分からないという使命感が湧き上がってくる。
「別に見逃してもいいと思ってたけど、ここまでやられたら流石にやるしかないよね」
「賛成ですね。貴方の様な危険人物は……ここで確実に叩き潰しておかなければなりませんから!」
初めて同じ意見が一致した私達は、まるで示し合わせたかの様に魔導書を開き、負傷を気にしないような動きで部屋中を駆け回る。
光が、土が、炎が、風が——あらゆる属性の暴力が激突し、爆炎と極冷の暴風が部屋全体を狂乱の渦へと巻き込んでいく。
「模倣雷魔法"
「氷天羽々斬・一閃!」
落雷のごとき雷光の塊を氷の閃刃が真っ二つに引き裂き、激突した魔力が部屋の柱を粉砕する。
天変地異を思わせる魔力の激突に、遺跡そのものが悲鳴を上げていた。
天井が崩れ始め、もうこの部屋は長くないと悟った私達は、ここで決着をつけるべく、互いに魔力を高め合う。
「そろそろここも限界だね!」
「ええ……これで、終わりにしましょう!」
互いの魔力が最高潮に達し、崩れ落ちる天井の破片すら蒸発させるほどの高密度な魔力が空間を支配する。
私は氷天羽々斬を大上段に構え、ライアの背後には燃え盛る巨大なドラゴンの様な生物が現れる。
「模倣炎精霊魔法"サラマンダーの吐息"!」
「氷魔法"氷天羽々斬・
圧倒的な熱量を誇る精霊の炎と、全てを凍てつかせる極冷の斬光が真っ向から激突する。
空間そのものが悲鳴を上げるような凄まじい衝撃波と膨大な水蒸気が爆発的に広がり——直後、限界を迎えたのは天井だけではなかった。
ガガガガガッ……ドドドドドォンッ――!!
「なっ……!?」
激突した魔力の余波に耐えきれず、足元の石造りの床が一気に大規模な崩落を起こした。
崩れ去った床の底から覗いたのは、存在すら知られていなかった古びた巨大な隠し地下空間だった。
底が見えないほどの暗闇に向かって、崩落した巨大な瓦礫や岩塊とともに、私たち二人の身体が浮遊感を伴って落下していく。
(地面が崩壊……!? まさか、この部屋の真下にこれほど巨大な隠し空間があったなんて……!)
強烈な風圧と浮遊感の中、私は必死に空中体勢を整え、手負いの体に鞭打ってなおも氷天羽々斬を握り直す。鋭く視線を向けたのは、同じく落下していくライアの姿だ。
たとえ足場のない空中であろうと、隙があるならこのまま追撃を叩き込む。
だが、大量の瓦礫の隙間から見えたライアの表情にあったのは、焦燥でも闘志でもなく……心底辟易したような、呆れ顔だった。
「あーあ……天井だけじゃなくて床まで抜けるなんてね。……つーか、どこまで深いのここ」
ライアは大きく息を吐き出すと、落下しながら面倒くさそうに頭を掻いた。至る所に氷の傷をつけられて、本来なら使う予定が無かった力を使わざるを得ないところまで付き合わされたことで、彼の面倒くさいという感情は完全にピークに達していたようだ。
「ここからまた戦うのも面倒くさいし、早くこの氷を取り除きたいし、もういいや……」
ライアの額にあった瞳が完全に閉じると、同じく彼から放たれていた殺気や戦意が消え去る。
(追撃を諦めて、落下死に賭けた……!?)
ライアの意図を察知した私は、即座に冷気を解き放とうとした。しかし、宙に浮いた状態では足場がなく、身体の負傷も相まって動作が遅れる。
ライアはその僅かな隙を見逃さず、だらけた手つきで魔導書を開くと、自身の真下に空間魔法を展開させた。
「じゃ、僕もう帰るね……お互い生きてたらまたいつか〜」
ライアはひらひらと軽薄に手を振ると、吸い込まれるように空間の穴へと消えていく。
残されたのは、下に向かって落ちていく膨大な瓦礫の群れと、底の見えない地下部屋の深い闇、そして重力に引かれる私一人だけだった。
・氷創生魔法"
クリスが使える魔法の中でも対人戦闘に特化しており、能力自体はシンプルで、魔力を込めるほど透明な氷の斬撃を遠距離まで高出力で飛ばせる魔法。
しかし、副次効果として傷口に発生した氷には回復の阻害、体温低下、氷の侵食、常に痛みが走るという凶悪な効果があり、一撃でも受ければじわじわと弱っていき、最終的には全身が凍結して死に至る。
基本的な対策としては、氷を物理的に取り除くか、炎系統の魔法で氷を溶かす必要がある。
・氷魔法"氷天羽々斬・
氷天羽々斬に魔力を注ぎ込み、刃先から一気に噴き出す極冷の巨大な斬撃。
弱点属性の炎魔法すら凍らせるほど威力は高いが、その分速度が遅くなっており、魔力が過密すぎて透明な斬撃ではなくなっている。