私は盗賊達の受け渡しが終わり箒に乗って空を飛びながらアジトに帰っていた。盗賊の数が多かった為、受け渡しに時間がかかりすっかり夜となった空を見上げると星々の輝きが綺麗に見える。
「今日も綺麗ですね、前世では中々見れない景色です」
この世界は前世よりも文明のレベルが幾つか落ちる為、夜になると灯りが少なく夜空の星が良く見えるのだ。
まるで宝石箱のような煌めきに見惚れていると私の頭に直接声がかかる。
(マスターは星が好きなのですね)
「確かに好きですが、貴方の前で言うと違う意味になりそうですよアーチャー。いや、ケイローン先生」
夜風が心地よく頬を撫でる中、私は己が魂の内に確かに存在する相棒であり、師である人物の言葉に苦笑いを浮かべた。
何故なら声の主は黄道十二星座の射手座を司る大英雄ケイローン。彼にとって「星」は単なる夜空の輝き以上の意味を持つだろうから。
神話において語られるはずの彼が何故、先の盗賊を撃ち落とした時のように私に付き従っているのか疑問が尽きないだろう。
答えは私が転生特典で神様から貰った「英霊召喚」だ。
私の魂には聖杯が埋め込まれていて、Fateシリーズに登場するサーヴァントを7クラスからそれぞれ一騎召喚する事が可能であり、現在私が召喚したサーヴァントはバーサーカー以外の6騎となる。
複数騎を顕現させると魔力の消費が激しくて戦闘行為にも支障が出る為、普段は聖杯に収納した状態で過ごしている。
聖杯にいるサーヴァント達とは脳内や視界などの感覚を共有可能で、こうして会話や同じ景色を見る事も可能だ。
この力は他人に知られると色々と面倒な事になるのは明白な為、この世界でサーヴァント達の事を知っているのは私ただ1人だけである。
「転生してから色々ありましたが、未だに主人公らしき人物もわからないままですね」
(この世界について分からない事は多いですが、焦る必要は無いでしょう)
この世界で20歳となり様々な事を経験して今に至るが、クローバー王国は至って平和だ。
今日のように盗賊などの小さな被害はあれど、国を揺るがす程の大事は私の知る限り起こってはいない。
「ま、平和なのは悪いことじゃないんですけどね」
ぽつりと呟いて、私は風の流れに身を任せながら箒の速度を緩める。眼下には見慣れた森林地帯、そして目的地である黒の暴牛のアジトがあった。
「お疲れ様です、今戻りました」
アジトについた私はそう言ってアジトの扉を開けると……
「おいラック!てめぇ何で俺のプリンを食べてやがる!」
「アハハッ!だってマグナが楽しみにしてそうだったから美味しいだろうと思って食べたんだ」
楽しみにとっておいたプリンを食べられてブチギレているマグナと、その犯人であるラックがマグナを煽るように笑い。
「ああ、今日も天使のように可愛いな愛しの妹マリー」
鏡の向こうにいる妹を愛おしそうに鼻血を出しながら見るゴーシュ。
「あ〜もっと酒持って来なさいよ〜Zzzz」
酔っぱらいながら寝たのか寝言を言う飲んだくれのヴァネッサ。
「もっちゃりもっちゃり……美味しいのら〜」
小柄な体に見合わぬ量の料理を食べているチャーミー。
「プシュ〜・・・」
そして何を考えているのかわからない巨漢なグレイ。
「あー、いつも通りの光景ですね」
私の挨拶に気付かずに黒の暴牛の面々はそれぞれ楽しんでいる様子だ。普通の人が見れば困惑するのだろうが黒の暴牛にとっては日常であり、すっかり私も慣れてしまった。
とりあえずラックとマグナがまた喧嘩を始めそうなので少し離れた場所にいるチャーミーさんに声をかける。
「チャーミーさん、団長達はまだ帰って来てないのか?」
「お帰り副団長。団長達入団試験からまだ帰って来てなのらー。もっちゃりもっちゃり」
例年通りなら入団試験は既に終わっているはずであり、空間魔法を使えるフィンラルも一緒にいる為、とっくにアジトに戻っているはずだ。
「となると、新入団員が取れてそれが原因で遅くなってるのかもしれませんね」
私が所属する黒の暴牛は最低最悪の魔法騎士団と言われており、実際見ての通り問題児だらけの為、入ろうと思う人は少ないだろうし、逆に入ってくる奴は同じぐらいの問題児なのだ。
そう考えていると丁度、マグナの堪忍袋の緒が切れたのか炎魔法をラックに向かって打ち込み始めた。
だがラックは手足に雷魔法を纏って、軽快な動きで放たれた魔法全てを躱している。
危険な場面に見えるだろうがこれも日常茶飯事なので止めるだけ無駄と思い静観していると……
「今日から黒の暴牛に入るハージ村出身。アスタ……ウワァ〜ッ!!」
見覚えのない少年がアジトの扉を開けて来たが、マグナの魔法に直撃して吹っ飛んでいった。
だがそんな事などマグナとラックは気づいていないようでさらに喧嘩は勢いを増していく。
喧嘩の音がうるさくなり、不機嫌な様子で起き上がるヴァネッサや、妹さんに騒音が聞こえるとブチ切れるゴーシュなどと更に騒がしくなっていく。
私は吹き飛ばされた少年が心配なので扉の前を見るとさっきの少年と、黒の暴牛団長のヤミ団長、フィンラル、ゴードンがいた。
(あの少年が新入団員でしょうか?なんと言うか普通に見えますね)
てっきり凶悪な見た目か、見るからに変人な人物が来ると思っていたのだがその少年はこの光景に絶句しており外見的にも内面的にも普通に思える。
少年はこの騒ぎにも負けじと大声で先程邪魔された自己紹介を始めるが、私以外聞いている様子はなく、アジトを破壊しながら更に騒がしくなっていく。
そんな様子を見たヤミ団長は怒り心頭で直ぐにでもアジトを破壊してブチ切れそうなので流石に止めに入る。
パンッ!
軽く手を叩くと同時にアジト内に私の魔力が奔り、騒がしかった空気が一瞬にして静まり返った。皆、何事かとばかりに視線を向けてくる。
「皆さんそこまでです、ヤミ団長が帰って来たので迎えてあげましょう」
私がそう言って扉の方を指差すと、ようやく団長の帰還に気づいた面々は、慌てた様子でそちらへと向き直った。
マグナ、ラック、ヴァネッサ、ゴーシュ、チャーミー、グレイが思い思いの言葉で団長を迎え、先程の様にまた騒がしくなった
だが、ヤミ団長は新入団員である少年の紹介がしたいらしく皆んなを黙らせ、少年に自己紹介をさせる。
「ハージ村出から来ましたアスタです!よろしくお願いしゃーーーす!」
大きな声で自己紹介をする少年アスタは、クローバー王国の恵外界で最も奥にある村で、魔力の少ない下民の中でも更に少ない者達が住む場所が出身との事だ。
実際、彼の魔力は至近距離にいても全く感じとれないほどであり、そんな彼が入団試験に合格した事に私を含めた団員達が興味を示しておりヴァネッサは誘惑したり、ラックは戦いに誘ったり、ゴーシュは妹に近づくなと忠告したりとそれぞれ絡みに行っている。
「代理副団長のクリス・サンドレットです。宜しくお願いします」
「代理副団長ですか?」
「ええ、黒の暴牛は副団長が長い間何処かに行っていて不在でしてね。その間に私が代理として務めているので副団長と呼んでもらって構いません」
「わかりました!クリス副団長よろしくお願いしますしまーす!」
私もアスタに自己紹介をしたのちにアスタと握手をした。
アスタは私の見るからに怪しい外見と副団長という肩書きに驚いている様子だった。
「……というわけでお前ら、死なねぇ程度にしごいてやれ」
「えぇ〜!!」
そしてヤミ団長はアスタの自己紹介が終わるや否や彼をしごいてやれと団員達に命令する。
「聞いたか?ヤミさんはしごいてやれって言ったんだ。俺がしごいてやるぜ」
ヤミ団長の命令に1番に名乗り出たのはマグナだ。
マグナは魔力の全く感じられないアスタが黒の暴牛に入る事をまだ認めておらずアスタを睨みつけながら近づく。
「この黒の暴牛のローブを纏いたいか!?」
「欲しいです!下さ〜い!」
「なら、ヤミさんの筆頭舎弟である、この漢の中の漢!マグナ・スウィングを認めさせてみな!黒の暴牛入団の洗礼の儀だ!」
「え?」
こうしてマグナが取り仕切る黒の暴牛入団の洗礼の儀(勝手にやってる)にアスタは恐怖しながらも挑むのだった。
◇
洗礼の儀の内容は至ってシンプルで、マグナの放つ魔法を避けるなり防ぐなりすればいい。
一見簡単のように思えるが、マグナの魔法の速度は騎士団内でも上位クラスであり、並の魔導士では避ける事すら不可能だ。
つまりアスタは実質マグナの魔法を防がなければならないが、アスタにはそれが出来るとは到底思えない為、ヤミ団長に問いかける。
「ヤミ団長良いいのですか?と言うより何故魔力を一才持っていない彼を入団させたのですか?」
私は先程アスタと握手をした際に魔力の感知を行った。
優れた魔導士にとって触れている物の魔力を感じ取るなど造作もない。
だが、アスタからは魔力を一切感知出来なかった。
つまり考えられるのは……アスタはこの世界で唯一魔力を持たずに生まれ魔法を使う事が出来ない存在である。
それ故か一目でわかるほどアスタの体は鍛えられており、並の魔導士が強化した身体能力は凌駕しているだろう。
だが、肉体を鍛えた所で魔法を使えなければ無力と言う他ない。
そんな事はヤミ団長も十分理解しているはずであり、アスタの人柄を気に入ったとしても入団させる事はあり得ない。
「お前の疑問はもっともだが、まぁ見てればわかるだろうさ」
ヤミ団長は私の問いにはぐらかすかのように答える。口で説明するよりも見た方が早いと言う事だろう。
なので私は黙ってこの洗礼の儀を見る事にした。もし危なくなればフィンラルが助けるのでアスタの安全は心配無い。
そして始まった洗礼の儀が始まると同時に、アスタの魔導書が開く。開いたページから一本の大剣が現れそれをアスタは掴んで構える。
(あれは魔法なのか?だが魔力は感じ取れない……どう言う事だ?)
魔導書から出てきてる時点で魔法のはずなのだがこちらも一切魔力を感じ取れない。
ただの薄汚れた剣と言うにはあまりにも異質すぎる。故に私はこの場で1番剣に詳しい存在に声をかける。
(シグルドさん、あの剣ですが、貴方にはどう見えますか?)
シグルド——セイバークラスのサーヴァントであり、北欧神話にて邪竜を打ち倒し、その知を喰らった竜殺しの大英雄。
私の問いに視覚の共有により見たアスタの剣に対して、シグルドは自身の叡智によって出た結論を答える。
(聖剣や魔剣の類いでは無いな。だが予想される彼の戦闘スタイルから見て、あの剣は魔法を無効化する事が可能かもしれん)
(魔法の無効化ですか!?……もしそうだとしたら、この世界の常識を覆しますね)
この世界は魔力が全てと言っていい、何をするにも魔法を使う事が大前提だ。
そんな世界に魔法を問答無用で無効化する力があれば全ての魔導士の天敵になり得る脅威的な力である事は間違いない。
「行くぜアスタ構えろ!」
「いらっしゃいませ先輩ィ!」
そうこう考えているとついに洗礼の儀が始まった。
マグナは右手に炎の球体を作り出す。
「炎魔法"爆殺轟炎魔球"死ねぇーっ!」
投手のようなフォームから炎の球を豪速球で投げる。
避ける事は不可能、仮にアスタの剣があらゆる魔法を切る事が可能だとしても勢いが消える事は無く別れた魔法がそのまま直撃する。
だが、アスタは切るのでは無く剣の腹を向けて炎の球に打ち付ける。するとマグナの魔法が反射したからのように打ち返される。
ドカーン!
自身の魔法をそのまま打ち返されたマグナに避ける術は無く、もろに直撃し爆炎をあげた。
「どうだ?面白れぇだろうあの小僧」
「……確かに。あの剣を使いこなせるなら文句はありませんね」
先程の芸当が全ての魔法に対して可能であるのであれば、アスタの持つ戦闘力はそこらの魔導士を凌駕している。
そして実際にマグナに反撃をする姿を見せられては反論する余地などどこにも無い。
魔法を跳ね返されたマグナだが、咄嗟に相殺していてピンピンしており、魔力を持たないのに魔法を跳ね返したアスタの事を気に入り肩を組んで褒めている。
他の黒の暴牛の面々もアスタの事を認めたり気に入ったのかまた絡みはじめた。
「ほらよ、テメェのだアスタ」
そしてお待ちかねたばかりにマグナは黒の暴牛のローブをアスタに手渡す。
手に取ったアスタは憧れの魔法騎士団のローブをまじまじと見ていた。
「ほら、羽織ってみなさいよ」
ヴァネッサが魔法でローブを操りアスタに羽織らせ、ついでにバンダナにも黒の暴牛の紋章が刻んだ。
「これでお前も、俺達黒の暴牛の一員だな」
黒の暴牛の皆がアスタを認め、団に入る事を歓迎しており期待の眼差しで見つめる。
「ウオォーー!」
そしてアスタは憧れの魔法騎士団に入る事が出来た歓喜で叫び声を上げる。
とても嬉しそうな笑みを見ながら、私はアスタがこのブラッククローバーの世界の主人公ではないかと考えていた。
(魔力がない特異な生まれと、魔力を無効化する力。そしてその真っ直ぐな性格は主人公と呼ぶに相応しい要素ばかりですね)
あくまでも予測であり、アスタの存在が今後どのような影響を及ぼすのかはわからない。
だが、私とサーヴァント達は理屈を抜きにして感じ取っていた。この世界の物語が動き始めたと。
・ヤミ団長との日常
「おいクリス、この書類今日中に片付けておいてくれ」
「ん、えーと……また人の家壊したんですか?」
「仕方ねぇだろ、そこに建ってるのが悪い」
「この団長言ってる事やばいですね」
「なんだ?文句があるならこの場で殺るぞ」(刀を抜きながら)
「やろうとしてる事もやばいですね。なら団長1つ良いですか?」
「遺言か?少しなら聞いてやるぞ」
「私がいなくなると団員達が起こした計40件の後始末を請け負う事になりますが大丈夫です?」
「なんか……すまん……自分でやっとくわ」