皆んなカッコいいよ!
「うおぉぉー!」
ソッシ村付近に着いたマグナ、アスタ、ノエルの私達は早速イノシシ退治へと向かったが、思ったよりも数が少なく、アスタがバッタバッタと薙ぎ倒して行く。
「よっしゃあ! これで全部だな!」
最後の一頭を大剣で叩き伏せたアスタが額の汗を拭う。
「聞いていた話では十数頭の群れでしたが、実際にいたのは半分程度ですか」
私は周囲に魔力感知を広げながら呟いた。
周囲にイノシシの魔力は感じられない為、少なくともこの辺りに残党はいないだろう。
僅かな違和感を覚えるが、数が減った理由はいくらでも考えられるので、ひとまず深く考えないことにした。
これにて任務は完了の為、退治した報告としてイノシシ達を運んでソッシ村へと向かう事となった。
「アスタさん大丈夫ですか? 厳しそうなら手伝いますよ?」
「ヌオ〜ッ! 猪の三匹や四匹、余裕ですよ!」
額に青筋を浮かべながら言う辺り、余裕ではないのだろうが、それでも運び切れているのだからとんでもないパワーだ。
「大した馬鹿力だぜ。まぁ、これでセイヒの爺さんも喜ぶだろうさ」
「そのソッシ村の村長……セイヒさん? 知り合いなの?」
ノエルの問いにマグナが肩を竦める。
「ああ。昔から世話になっててな。オレもガキん頃はヤンチャしてて、魔導書を貰って調子に乗ったオレはソッシ村もシメたろうと思って乗り込んだわけだ。そしたらよ――」
どうやらマグナは昔ソッシ村にカチコミかけた時にセイヒの爺さんにボコボコにされ、その後何度もリベンジを挑んでは返り討ちに合うと同時に、漢気を叩き込まれたらしい。
「セイヒの爺さんは若い頃魔法騎士団を目指してた程の魔力の持ち主でな、俺に魔法騎士団の入団試験を受けろって勧めてくれたのも爺さんなんだ」
「成程。なら今のマグナさんがあるのはセイヒさんのおかげと言う事ですね」
「そうっすね。漢の何たるかを教えてくれたのはあの爺さんで、あんな漢になりてえなってヤミさんの次に尊敬して……っ!なんだこりゃ?」
突如マグナが言葉を切った。
その視線の先——目的地であったソッシ村が霧で覆われている光景が広がっていた。
間違いなく魔法で作られた霧であり、中にいる者の逃走や外部からの侵入を防ぐ類の物だろう。
「マグナさん。村にこの規模で魔法を使える人はいましたか?」
「こんな魔法、村の人はもちろんセイヒの爺さんのでもありません。何が起こってんのか……」
「わかりました緊急事態と言う事ですね。アスタさん、この霧を貴方の剣で切り裂いて下さい。強行突破して村人の安否を確かめに行きます」
一度騎士団本部に連絡を入れて増援を待ち、結界を解除してから村に入りたい所だが、その間に村人達に何か起きる可能性が高い為、無理矢理入る事にする。
「え?何バカな事言ってんスか、霧は剣では斬れませんよ?ハハハ……」
「バカはテメェだ!魔法だったらテメェの剣で斬れるんだろうが!」
マグナの怒鳴り声にアスタがハッと目を見開いた。
「そ、そうだったァァァァ!!」
アスタは魔導書から黒い大剣を取り出して霧目掛けて振り抜くと、霧が切り裂かれ、一本の通路が生まれる。
そうして霧を切り裂きながら進んでいくと、大きな広間へと辿り着いた。
「「「あっ!」」」
そこには何十人の村人達が集められており、上空には無数の氷柱が浮かんでいて、一本一本が村人目掛けて落ちる直前だった。
「処刑」
何処からか聞こえた処刑宣告と共に、氷柱が村人達を貫くべく落下を始める——
「させません」
私は既に動いており、氷柱に向かってジャンプをすると同時に、氷の剣を手に持つ。
そして振り抜かれた氷の剣が白銀の軌跡を描き、一筋の閃光となって無数の氷柱をすべて一振りで切り裂く。
砕け散った氷の破片が雪のように舞い落ち、村人達の頭上へ降り注ぐ。最後の一本を叩き斬ると同時に着地し、追撃を警戒して村人達の前へ立つ。
「皆さん遅くなり申し訳ございません。只今魔法騎士団が到着しましたのでご安心を」
「魔法騎士団が……助けに来てくれた」
魔法騎士団が来た事で村人達の間に安堵が広がる。
だが、私は村人達の中で唯一横たわっている老人――セイヒの爺さん姿を見て即座に駆けつける。
「クリスさん!爺さんは無事なんです!?」
マグナが焦った様子で駆け寄ってくる。
私は脈と呼吸を確認し、全身の状態を観察する。
脈も呼吸も微かにあるが、徐々に弱くなっており、腹部は何かで貫かれたのか大量の血で染まっていた。
傷口を見る限り腹部を貫通しており、普通の人間なら即死しているような重傷だ。
私はセイヒの爺さんが何故この傷でも生きているのか不思議に思ったが、首にかけている私が以前渡した回復用魔道具を見て納得した。
魔道具の治癒によって即死は免れているが、この魔道具は致命傷を即座に治せる程の性能はない為、このままでは助からない。
「時間がありませんね。氷回復魔法"
私の魔力がセイヒさんの体を優しく包み込む。
瞬時に生成された透明度の高い氷の鱗が彼の傷口を塞ぐように、そして全身の代謝を極限まで遅らせるように凍結させていく。
「私の回復魔法でセイヒさんの生体機能を一時的に停止させました。出血と傷の悪化を防げますが、これは回復とは名ばかりの時間稼ぎです。直ぐに本格的な治療を行わなければ助かりません」
この魔法は本来、私が重傷を無視して戦う為のものであり、他者を治癒する効果は見込めず、延命する為の応急処置程度だ。
持って後10分と言った所だろうか。
それを聞いたマグナはこの事態を引き起こした犯人への、抑えきれない激昂にその身を震わせた。
「よくも、よくも爺さんを……テメェの仕業かァ!」
視線の先にはローブを纏った3人の魔導士と、中央で懐中時計を確認している男、ヒース・グライスの姿があった。
ヒースは私達が村人を助けた事が気に食わなかったのか魔導書を開いて攻撃準備を始める。
「よくも時間を狂わせてくれたな、10秒後に全員処刑」
ヒースは巨大な氷塊を作り出し、私達目掛けて飛ばして来るが、アスタが大剣で氷塊を真っ二つに両断した。
「なんで、こんなひでぇ事をする……何なんだお前ら⁉︎」
アスタは怒りを込めた眼差しでヒースと対峙するが、ヒースは興味が無いのか特に反応もせず懐中時計を見つめている。
「魔法騎士団の者が来るとは聞いてませんね……」
「申請外の任務か何かでしょうか?それにどうやって我々の霧の結界を破ってこの村に入ってきた?」
ヒースの部下と思われる魔導士達はそれぞれ疑問を口にするが、一つ引っかかる部分があった。
(魔法騎士団の内部情報が漏れている?この集団、正体はわかりませんが単なる野盗の類ではありませんね。他国のスパイでしょうか……)
騎士団の情報管理は徹底されており、任務の内容や派遣人員が外部に漏れることは本来あり得ない。
(内部に協力者がいるのか、それとも別の情報網か……どちらにせよ厄介ですね)
思考を巡らせながらも、私は視線をヒース達から外さない。
「『黒の暴牛』……魔法騎士団の中で浮いている粗野な異端の連中か。5分だ。何も知らなかった役立たずの村人諸共始末し、目的の代物を探すぞ」
ヒースは部下達に指示を出し、継続して戦闘態勢を取ろうとするが、私は彼の言葉を聞いて1つ質問してみる事にした。
「失礼。貴方達の目的はこの村にある何かしらの代物という事でしょうか? 現状誰も死者はいないので、探し物によっては交渉の余地があるかもしれません。ここはお互い穏便に済ませるのが一番では?」
私が静かに問い掛けると、ヒースは初めてこちらへ視線を向けた。
「聞く耳を持たんな。そんなわかりやすい時間稼ぎには乗らん。そしてそこにいる獣どもを皆殺しにするのは私にとって必要な事だ」
ヒースの言葉を聞いた瞬間、マグナとアスタの額に青筋が浮かんだ。
「……獣、だと?」
低く、押し殺した声だった。
だがその怒りは先程までとは比べ物にならない。
「テメェ今、村の連中を獣っつったのか?」
「事実だろう」
ヒースは何の感情も込めずに答える。
「この村のように恵外界にいる者のほとんどは生活で多少役に立つ程度の魔法しか使えない劣等種。まるでモノを扱えない獣だ。オマエら騎士団に入れる程の魔力を持っているんだろう?任務だから助けようとしているだけでオマエらにもコイツらが取るに足りん獣に見えないか…...?」
ヒースからすれば恵外界にいる者達は皆価値の無い獣なのだろう。そして私達魔法騎士団はその獣を仕方なく保護しているだけの存在に見えているらしい。
(説得するのは無理ですね。根本的に主義思想が違いすぎます)
ヒースの価値観はあまりにも歪んでいた。
魔力の多寡だけで人の価値を決め、力を持たぬ者は獣と同じ。その思想そのものが、クローバー王国の抱える病巣だった。
「お前が獣と言ったその人達は、オレが守るべき存在だ!」
「そうか、そんなにその薄汚い獣どもが大事か…...」
価値観は人それぞれだが、実際に目の前で人を傷付け、命を奪おうとする者を見過ごす理由にはならない。
そうしてお互い臨戦体制に入り、構えると同時、ヒースの部下が霧の魔法で私達の周囲を覆うと同時に、その霧から無数の氷柱が形成されて行く。
『氷霧複合魔法"
「では、この状況でも獣の群れを守れるか?じわじわという言葉はあまり好きではないが......これが一番効率が良さそうだ!」
降り注ぐ氷柱をアスタは大剣で弾き、ヒース達に向かって反射させるが即座に無効化され効果が無く、そのまま無数に迫る氷柱からアスタとマグナと私で村人達を守る事となった。
本来なら私の魔法でこの霧を吹き飛ばし、ヒース達を無力化したい所だが、今の私は残念ながら慣れない回復魔法の使用に手一杯で、他の魔法を使う事もこの場から動くことも出来ず、氷の苦無を作ってマグナとアスタの撃ち漏らしをカバーする事しか出来ない。
(まずいですね。苦無で何本かの氷柱を撃ち落とせはしますが、このままでは先にマグナさんの魔力が尽きてしまいます)
マグナは魔法騎士としては魔力量が低い方であり、器用さと根性で勝ちをもぎ取る戦法を得意としている以上、このまま魔力量による持久戦に持ち込まれると不利だ。
アスタも魔法を無効化する剣で氷柱を叩き落としてはいるが、村人達を守りながら敵に接近するのは容易ではない。
残るノエルは魔力の制御が全く出来ない為、ヒースに攻撃しようとした水魔法はあらぬ方向で爆散している。
私はこの状況をどう打開すればいいか思考していると、突如としてシグルドから脳内で話しかけられた。
(マスター、残された時間は少ない。一声かければ即座に出撃可能だがどうする?)
(それは最終手段ですね。可能なら彼らの力のみで解決して欲しいところです)
視界共有で戦場を分析していたシグルドの提案通り、サーヴァントの誰かしらを呼べば形勢を逆転させる事は可能だが、そうなると英霊達の事が露見する上に、主人公と思われるアスタやノエルの成長機会を奪ってしまう可能性がある。
(なので今は……彼女に賭けたいと思います)
その為、ここは彼らの奮闘に期待し、私は逆転の鍵として無力感によって今にもこの場から逃げ出しそうになっているノエルに視線を向けた。
(私は王族なのに……この中で一番の魔力を持ってるのに……完璧に足手まといじゃない!私がここにいる意味なんて……)
「ノエルさん」
私が声をかけると、彼女は泣きそうな顔でこちらを見る。
「な、何よ……」
「私は貴方がこの場から逃げ出しても責めたり恨んだりはしません。むしろこの場から逃げて援軍を呼ぶという選択も、今の貴方には立派な役目です」
「――ッ!」
ノエルが小さく息を呑み、悔しさに唇を噛み締める。その瞳には、自分の無力さへの怒りと、同時に「やっぱり私はお荷物なんだ」という諦めの色が混ざり合っていた。
だが、私はそこで言葉を切らない。
「ですが、この場の村人や私達を誰1人として見捨てたく無いと思うなら——貴方自身の事を信じて下さい」
「自分を……信じる……?」
「辛辣な言葉にはなりますが、自分を信じない人は何も成すことが出来ません。失敗を恐れるあまり自らの可能性に蓋をし、逃げ出し、結果として何も守れず後悔する……貴方はそんな自分になりたいのですか?」
「な、なりたくない……! 私だって、王族として……ううん、魔法騎士団の一員として、誰も死なせたくなんてないわよ!」
それはただの意地ではあったが、諦めかけていた彼女の心に光が灯った照明だった。
「そうだぜノエル! 俺達でこの村の人達を全員守って、あんな奴らぶっ飛ばしてやろうぜ!」
「先輩である俺様がいるのに何弱気になってんだノエ公!お前が心配する事なんて1つもねぇんだよ!」
「アスタ……マグナ……」
王族として生まれながら魔力を制御できず、出来損ないと呼ばれ続けた日々。だが、今はこの3人の様に自分の弱さを認めた上で信じてくれる仲間がいる。
そんな大切な仲間達からの激昂を受けておきながらうじうじするなど、ノエルのプライドが許さない。
そして何より——
「魔法騎士団のお姉ちゃん……助けて……」
(……こんな小さな女の子が助けを求めているのに、逃げるわけにはいかない!)
ノエルの強い決意に答える様に彼女の魔導書から眩い輝きが放たれ、新たな魔法のページが追加される。
「水創成魔法"
ノエルから膨大な魔力が溢れると同時に、激流の渦を纏う水のドームが村人達を守る様に展開される。
その魔法はヒース達の放つ魔法を全て飲み込んで村人達全員を守っていた。
「私が守る、私は王族……そして、黒の暴牛の一員よ!」
主人公を強く設定しすぎて中々活躍させてあげられない……序盤からそんな強さで書き始めた作者は馬鹿だよ。
頑張って近いうちに主人公の戦闘シーンも書いてみたいと思います。多分。