黒の暴牛代理副団長は転生者   作:ダークラーメン

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最近原作の一巻読んだんですけど、セイヒの爺さんって原作だと名前も出て無いし、マグナとの関係性も全部アニオリってマジですか?


6話 諦めない者達

「これは、予想以上ですね……」

 

ノエルの魔法に私は思わず声が漏れる。

 

村人達全員を守るために広範囲へ水のドームを展開し、そしてヒース達の魔法をどれだけ浴びても小揺るぎすらしない。

範囲と強度、どれを取っても強力な魔法であり、ノエルの魔法センスの高さが窺える。

 

「何なのだこの魔力は……!?」

 

そして何よりも驚いているのはヒース達であり、先程まで魔力のコントロールもまともに出来なかったノエルが自分達を凌駕する魔法を使用した事に動揺している。

 

そして、その隙をアスタは逃さない。

 

アスタは剣を前にして構え、獣の如き姿勢で一気に加速し、ノエルの結界から出てヒースとの距離を潰した。

 

先程、ヒースは私達に向かって「魔法騎士団に入れるほどの魔力があるのだから恵外界の人々を獣に見えるだろう?」と言っていたが——

 

「俺に魔力なんてねぇ!でも、お前をぶちのめす!」

 

「グハッ……」

 

ついにアスタの突きがヒースを捉え、腹部を襲う衝撃にヒースは思わず吐血する。

完全に決まったと思われる一撃にマグナやノエルは歓喜するが、アスタは何か違和感を覚え、私は同じ氷属性の使い手であるが故にヒースが何をしたのかいち早く理解した。

 

(氷で足元を滑らされて、勢いを殺された!)

 

「フッ……剣は魔法を無効化できても、お前自身はただの人間のようだな」

 

ヒースはアスタの足元を凍らせる事でその勢いを逸らし、本来ならば戦闘不能になる程の一撃を浅く受け流したのだ。

 

「今度はこちらの番だ」

 

「アスタさん!」

 

そして攻撃後のアスタは無防備な体勢の為、ヒースから反撃の魔法が襲いかかる。

しかし、事前にそれを予測していた私は氷の玉を作り出し、アスタに向けて全力で投球する。

 

「グゥッ!?」

 

氷の玉は猛スピードでノエルの魔法を突破し、一切減速をする事なくアスタの背中にクリーンヒットして彼を吹き飛ばす。

それと同時にヒースの魔法がアスタに突き刺さるが、土手っ腹を貫かれる位置からずれ、右腕を軽く負傷する程度で済んだ。

 

「申し訳ありません。少々手荒になりました」

 

「全然大丈夫っす!むしろありがとうございます!」

 

アスタは地面を転がりながらもすぐに立ち上がり、傷付いた右腕を気にも留めず大剣を構え直した。

 

その姿にヒースは僅かに眉を顰めながら私達を見つめる。

 

「無茶な事をするものだ。どうやら貴様らはよほど私の時間を奪いたいようだな……先ずは小僧の方から始末するとしよう」

 

標的を定めたヒースは氷の壁を作って私の援護を封じ、周囲には氷柱を展開してアスタに向かって攻撃を仕掛ける。

 

アスタは大剣で撃ち落としながら前進を続けるが、腕の傷が響くのか大剣を振るう速度が遅くなっており、それに合わせて動きも遅れている。

 

「先程よりも動きが鈍いな。その様な成りで私の魔法を防げるか?」

 

氷柱の対処に追われる隙をつく様に、地面から生えた巨大な氷の突起がアスタを吹き飛ばす。

 

「ガハッ……まだだ!」

 

なんとか剣を盾にして致命傷を防いだが、威力を殺す事は出来ずダメージを受けてしまった。

しかし、アスタはすぐさま立ち上がりヒースに向かって走り出す。

 

「イノシシじゃあるまいし。私に余計な時間を使わせるな」

 

ヒースはそんなアスタを冷酷な表情で見つめながら先程と同じように魔法を発動して吹き飛ばす。

 

「グッ……まだだ!」

 

血を吐きながらもおぼつかない足で立ち上がるアスタに疑問を持ったヒースは問いかける。

 

「もうお前に勝機は無い。何故諦めない?」

 

「諦めたら、誰が守るんだ!?約束を守るだけじゃ無い……俺はみんなを守る為に魔法帝になる!」

 

「魔法帝だと?馬鹿げた夢だな……残念だがお前はあと1分で死ぬ」

 

アスタの覚悟に対してヒースは冷ややかな死刑宣告を告げるだけだが、その覚悟は1人の男の心に火をつけた。

 

これ以上の戦闘はアスタの体が持たないと思った私は無茶を承知でマグナにアスタの援護する様に頼もうとする。

 

「マグナさん!」

 

「わかってますクリスさん。後輩があそこまで頑張ってんだ……先輩が黙って見てる訳にはいかねぇ!」

 

どうやらマグナも同じ気持ちらしく、私の言葉に答えるマグナの瞳は、先程までとは比べ物にならないほど決意に満ちていた。

 

「でもクリスさん。もしも俺が失敗したら……」

 

「大丈夫ですよ。その時は貴方の先輩である私がなんとかします。ですから迷わず行ってください」

 

「はい!」

 

短く頷いたマグナは、不敵な笑みを浮かべる。

 

その笑みには恐れは無い。あるのは、後輩を守るという一人の先輩としての意地だけだった。

 

「おい氷野郎!そいつを殺るなら、まずは……先輩であるこの俺を殺ってからにしやがれぇ!」

 

「マグナ先輩!」

 

マグナはノエルの魔法から身を出して、氷の壁を破壊しながらヒースを挑発する。

 

「馬鹿め、わざわざ早死にしに来たか……30秒だ」

 

「上等だ……行くぞアスタ、洗礼の儀だ!」

 

マグナはアスタに伝わる様に作戦を伝え、それと同時に自身に残っている魔力を全て絞り出す。

 

「一球入魂!炎魔法"獄殺散弾魔球(ごくさつさんだんまきゅう)"!」

 

マグナから放たれたのは、無数の炎弾だった。

その全てが不規則な軌道を描き、空を埋め尽くすようにヒース達へと襲い掛かる。

 

「これがお前の最後の魔法か……無駄が多すぎる」

 

全ての炎弾が襲いかかるのなら厄介だが、明らかに当たらない軌道を描いている炎弾もある為、ヒースは氷の盾を目の前に出して冷静に対処する。

 

「無駄じゃねぇ!」

 

だが、ヒースを無視する様に後ろを通り過ぎた炎弾にアスタは回り込んでおり、そのまま大剣で炎弾を反射させてヒース達に打ち返す。

 

(囮で引きつけ、死角から魔法の反射——!)

 

ドオォォン!!!

 

凄まじい爆炎と共にヒース達が炎に包まれる。

 

ヒースは高い魔力による身体強化のおかげで意識を失わずに済んだが、部下達は全滅である。

 

「この炎消えないのか、ならば凍らせるまでッ!?」

 

「まだだ!俺の体はまだ動くぞ!」

 

マグナの炎を消火しようと自身の体を凍らせるヒースだが、上を向くとアスタが跳躍して大剣を振りかぶっている。

 

「ま、待て!」

 

先程と違い空中にいるため、滑らせて威力を軽減する事も出来ず、このタイミングではヒースの魔法よりもアスタの方が早く届く。

 

「待つかぁ!!」

 

容赦なく大剣は振り下ろされ、ヒースは叩き潰されるかの様にアスタの一撃を受けて意識を手放す。

 

これにて決着である。

 

村人たちが一斉に安堵の息を漏らし、泣き崩れる者や互いを抱きしめ合う者の姿があちこちで見られた。

 

「炎拘束魔法 "炎縄緊縛陣(えんじょうきんばくじん)"」

 

マグナはヒース達を逃さない様に拘束魔法を発動し、ヒース達の衣類に着いた炎が形を変えて拘束する。

 

「あなた見かけによらず器用なのね。褒めてあげても良いわよ」

 

「やかましいわ!俺先輩よ!?」

 

「まぁまぁ落ち着きましょう……ッマグナさん!」

 

緊張が解けて明るい雰囲気が戻る中、敵の1人が魔導書をコッソリと開いていた為、私は苦無を咄嗟に投げるものの、敵の体は液状となり炎の拘束と苦無を潜り抜けてそのまま蒸発するように消えてしまった。

 

「クッソ!」

 

「逃げられましたね」

 

「何をしているの!詰めが甘いわね先輩達!」

 

これに関しては私も敵を倒した油断からか、一瞬反応が遅れてしまっていたので反論の余地がない。

 

心の中で反省をしていると、とある異変に気づいた為、氷で傘を作って上にさす。

それと同時にノエルの展開していた魔法が制御を失い、細かい粒となって雨のように降り注ぐ。

 

「ダハハハッ!まだまだだなノエ公」

 

「荒削りではありますが、初めてにしては上出来ですよ。おかげで助かりました」

 

私はノエルにお礼を言いつつ、ヒースを倒したアスタに視線を向ける。

 

「どうだ……下民でも勝ったぞ!どうだこんちくしょぉぉぉ!!」

 

勝利の雄叫びを上げるアスタだが、体はボロボロであり、フラフラとよろめいている。

その姿を見て私は即座にマグナとノエルへ指示を出す。

 

「ノエルさん、私のバッグに傷薬と包帯が入っていますのでアスタさんに応急手当てをしてください。その後は魔法騎士団本部に連絡をお願いします。マグナさんは村人の安全確認と捕らえた者たち見張りをお願いします。私は民家を借りてセイヒさんの治療に専念しますので何かあれば報告して下さい」

 

「了解です!セイヒの爺さんをお願いします!」

 

「わ、分かったわ!」

 

2人は指示に従ってすぐに動き出した為、私はセイヒの爺さんをそっと抱え上げ、近くの民家へと運び込んだ。

 

 

◇

 

 

寝台に横たわらせたセイヒさんの容態は一声で言うなら最悪であり、私の魔法で何とか延命出来ているが、すでに死体の一歩手前だ。

手持ちの回復薬をどれだけ使っても、もう手遅れだろう。

 

普通ならもうどうしようも無い状況なのだが、私にはそんな常識をひっくり返す彼らがついている。

 

「アスクレピオスさん、セイヒさんの治療をお願いします」

 

私の呼びかけに応じ、薄暗い室内に淡い光の粒子が集まって黒衣を纏った男が静かに姿を現した。

 

ギリシャ神話において医療を極め、ついには死者すら復活させる禁忌の領域にまで達したとされる医神。

キャスターのサーヴァント、真名をアスクレピオス。

 

アスクレピオスは寝台に横たわるセイヒへ視線を向けると、一切の迷いなく脈を取り、瞼を開き、胸元へ手を添える。

 

「患者の容態はお前の視界から見ていたが……肋骨数本の骨折、内臓への損傷、失血も酷いな」

 

「助かりますか?」

 

「愚問だ。患者を前にして救えぬなどと言う医者は三流以下だ」

 

私の問いにアスクレピオスは無愛想に返しながら、すぐさま治療に取り掛かる。

 

その手際と技術は至高としか形容しようがなく、たちまちセイヒの爺さんの傷が塞がっていく。

神域の治療術と超高性能な回復用魔道具によって負傷した内臓を復元させ、尚且つ血液の補填まで同時に行っている。さらにはバラバラに砕けた肋骨が、まるではじめから何事もなかったかのように正しい位置へと噛み合わせ結合されていく。

 

治療を開始してから数分が経つ頃には、先ほどまでの重傷が嘘だったかの様に消え去り、セイヒの爺さんの顔色も穏やかになっていた。

 

「治療完了だ。数日もすれば起きるから安静にしておけば問題ない」

 

「ありがとうございます。アスクレピオスさんがいなければ助けられませんでした」

 

「礼は不要だ。医者が患者を治すのは当然のことだ。それに……お前が渡していた回復用魔道具がなければ僕達が到着していた頃には死んでいただろう。まぁ、この患者はお前が助けたも同然だ」

 

アスクレピオスは不器用な労いの言葉を口にすると、淡い光の粒子となって再び私の影へと溶けていった。相変わらず無愛想だが、医者としての彼ほど信頼できる存在はいない。

 

直ぐに治療が終わったと報告すると、流石に異常な速さに怪しまれる為、ある程度時間が経ったタイミングで私はセイヒの爺さんの治療が終わったと村人達に報告し、拘束されているヒース達の元へ向かう。

 

しかし、向かっている途中、突如としてヒース達の魔力反応が消えた。

 

「ん?これは逃げた……いや、まさか!」

 

私は急いで駆けつけたが手遅れだった様であり、彼らはマグナ達の前で氷の粒となり粉々に砕け散っていた。

情報漏洩の防止として、恐らく何らかの手段を使ってヒースたちは自決をしたのだろう。

 

(それほどまでに覚悟が決まっていたとは……)

 

これで彼らの正体は分からずじまいであり、判明している情報は何かしらの物を探しており、魔法騎士団内の情報を知れる程の情報収集能力を持つと言う事のみ。

 

今回の一件は、恐らく氷山の一角に過ぎないのかもしれない。

彼らの背後には、もっと巨大で、もっと深い闇が広がっている——そう直感させるには十分すぎるほどの執念だった。

 

「皆さんご無事ですか?どうやら遅かった様ですね」

 

「クリスさん!セイヒの爺さんは大丈夫でしたか?」

 

「無事に終わりましたので後は安静にしていれば目を覚ますはずです。ひとまず安心して良いと言えるでしょう」

 

その言葉を聞いた彼らは安堵の表情を浮かべた。

 

「今回は3人ともお疲れ様でした。新人の2人には初任務としてハードな物になってしまいましたが、何かしらの褒賞は出ると思いますよ」

 

「マジっすか!」

 

「あくまでも予想です。仮になかったとしても皆さんは素晴らしい活躍をしたのは間違いないですよ。村の方々もお礼を言いたいそうなので聞き込みも兼ねて行きましょう」

 

ひとまずこの村から脅威は去ったので、その後は村人達の元へ向かい、感謝の言葉を貰いつつもヒース達の探し物について聞いてみたが誰も心当たりは無かった。

 

個人的に軽く村の周りを歩き回って調査をしてみたが進展は無かった為、ここで得られる情報は無いと判断してアジトへ帰る事にした。

 

「皆さんお待たせしました……何やら賑やかですね」

 

調査が終わるまで待っていた3人の元へ向かうと、一匹のアンチドリにアスタが追い回されていた。

 

アンチドリは魔力が少ない者に集まる習性がある鳥であり、どうやらこのアンチドリはアスタに懐いた?様で執拗に追いかけ回しては口に咥えた石で突ついている。

 

詳しく聞くと、あれはセイヒの爺さんがお守りとして持っていた石らしく、綺麗な事以外は特に何も無いので、命の恩人なのだから石をあげるくらいのお礼なら良いのでは、という事で貰ったらしい。

 

「クリス副団長助けてくださーい!」

 

「随分懐かれている様なので、そのまま連れて帰るのはどうでしょうか?賑やかでいいじゃないですか」

 

「嘘でしょー!?」

 

先の戦闘が嘘のように平和な、それでいてどこかコミカルな時間が流れる。アスタの叫び声と、彼を必死につつき回すアンチドリの姿に、マグナは腹を抱えて爆笑し、ノエルもまた口元を綻ばせていた。




・氷回復魔法"氷鱗の棺(ひょうりんのひつぎ)"
対象の傷口や全身に透明度の高い氷の鱗を急速生成し、出血を防ぐとともに代謝や心拍などの生体機能を極限まで低下、一時停止させる事が可能な魔法。
デメリットとして、傷そのものを治癒・再生させる能力はなく、傷口を直接塞いでいるので、呼吸をしたり体を動かす度に激痛が襲う。

ちなみに、この魔法を覚えた事でサーヴァント達との修行で気軽に致命傷をぶち込まれるようになり、クリスは何度も生死の境を彷徨う事となったが、戦闘系サーヴァント達は優秀な戦闘者であるクリスと遠慮なく戦え、アスクレピオスは多種多様な傷の治療が出来てご満悦である。
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