今後はちょっとオリジナルの話を挟んでいく予定なので、かなり執筆に時間がかかりそうです。
アジトに帰った私達はソッシ村で起きた出来事をヤミ団長に報告した。ヒース達を生かしたまま拘束できなかった事は手痛いが、村人達を誰1人死なせず守り抜いた事はヤミ団長も褒めてくれた。
しかし、ヒース達の正体については魔法騎士団の鑑識に遺留品を鑑定してもらったが、特に有用な情報は無く、高価な物である事から王族か貴族と関わりがあるのでは……程度である。
「まぁ、調査は鑑識に任せて俺らは報告を待つ。それよりも……俺から良い報告がある」
「「良い報告?」」
ヤミ団長は口にくわえた煙草をフッと吹かすと、ニヤリとした笑みを浮かべた。
「なんと、お前達の活躍が魔法帝に認められて……星一つ授与されたんだからな!」
ヤミ団長がそう告げた瞬間、その場にいた私を含めた団員達が歓喜の声を上げて、今回の任務の功績を褒め始める。
「やったー!……て、星って何スか?」
「星は魔法騎士団員の活躍によって魔法帝が与えてくれる名誉のようなものでして、毎年魔法騎士団は獲得した星の数を競い合っているのですよ」
この制度により、各騎士団は成果を競い合い、それが国を守るための士気へと繋がっているのだ。
「ちなみに現在のトップは金色の夜明けの70個で、素晴らしい活躍をしています」
「俺たち黒の暴牛は幾つなんですか?金色には負けてられねぇ!」
アスタの質問に私は思わず言葉を失い、これから辛い現実を告げなければならない罪悪感に苛まれる。
「俺たちは……これでキリよくマイナス30個だ!」
「マイナス!?」
ヤミ団長があっさりと口にしたその数値に、アスタは目玉を飛び出さんばかりに見開いた。
「街を破壊したり、暴れて損害を出したりすると星は容赦なく引かれるんですよ。……主に自業自得です」
これが黒の暴牛が最低最悪の魔法騎士団と言われる所以であり、去年はマイナス45という前例のない結果を出している。
どうやらアスタは金色の夜明けに星の取得数で勝ちたかった様だが、追いつくどころか、スタートラインに立ててすらいないのが現実である。
「それともう1つ、今月の給料だ!」
「ウオーッ!金だーっ!20万ユールはあるぞ!」
アスタは給料袋を手にして、まるで宝物でも見つけたかのように目を輝かせている。
他の団員達もそれぞれ団長から給料を貰いお礼を言って、それぞれ給料の使い道について賑やかに話し始めた。
「明日は休みにするからな、無駄使いするなよ」
「「「ありがとうございます!」」」
こうしてヤミ団長から休日を得る事が出来た団員たちは、それぞれの時間を過ごすことになった。
◇
翌日
黒の暴牛のアジトは周りを広大な森林で覆われており、アジトから離れた森の中は静寂に包まれていた。
だが、その静寂は鋭い金属音と共に切り裂かれる。
木々の間を常人には捉えられない速度で移動する2つの影が火花を散らしながら交差する。
「——ハァっ!」
掛け声と共に、私の振るった氷の剣が横薙ぎに走るが、その一撃は目の前の剣士によって片腕の短剣で受け止められる。
キィィィン——!
「いい斬撃だマスター。腕を上げている様で何より」
そう言って薄く笑ったのは、私のサーヴァントの1人であるシグルドだ。
現在、私は休日の修行としてシグルドと真剣勝負をしており、森への配慮として私は魔道書の魔法全てと、シグルドは宝具と一部のスキルを禁止にし、どちらかが戦闘不能になるか、降参するまで続けるのがルールとなっている。
サーヴァントの方々と戦う機会は仕事のない休日しかない為、貴重な経験なのだ。
今日こそは初めての白星を取るべくこちらは全力で斬り込んでいるが、シグルドは片腕の短剣で私の剣を受け止めながら余裕の表情を崩さない。
私は踏み込みをさらに強め、氷剣に魔力を流し込む。
魔法すら断ち切る神速の氷剣による猛攻と、竜を屠った英雄が振るう無駄の一切ない短剣による鉄壁の防御。
攻撃をしているのは私だけで、シグルドは先程から防御に専念し受け流し続けているだけの為、優勢なのは一見するとこちらに見えるだろう。
だが、それがどれほど異常なことかは、剣を交えている私自身が一番よく分かっていた。
斬る、返す、突く、払う。
普通の剣士ならば、とっくに防ぎきれず細切れにされている剣閃の連続に、シグルドの短剣はまるで未来を知っているかのように私の剣の軌道へ正確に差し込まれる。
最小限の動き。最短の軌道。無駄が一切ない。
「人外の膂力に神域の技量と叡智……まったく勝てる気がしませんね」
「そう悲観する必要はないマスター。貴殿の剣技は当方の知る剣士の中でも既に一流の域であり、剣速は類を見ぬ素晴らしい物だ」
シグルドは私の剣を軽く弾きながら、落ち着いた声で言った。その動作はあまりにも自然で、まるで子供の相手でもしているかのようだ。
「大体の技量は把握した。次はこちらから行かせてもらう!」
シグルドの言葉が終わると同時に——空気が変わった。
それまで受けに徹していたはずのシグルドの気配が、一瞬にして獲物を狩る者のそれへと変わる
(来る!)
直感が警笛を鳴らすと同時、私の斬撃の隙間を縫うかの様に短剣の突きが繰り出される。
すぐさま反応して右に避けるが、その動きを読んでいた追撃の短剣が既に振り抜かれていた。
両手の氷の剣をクロスさせて防御の姿勢に入るが——
ガギィィン!!
体躯に見合わないパワーによって、体ごと横へ弾き飛ばされる。数十メートル先の地面を削りながら着地するも、休む暇はない。
すぐにシグルドに視線を向けると、彼は自身の持つ複数の短剣を何故か上に放り投げていた。
初見の者は彼が何をしたいのか理解出来ないだろうが、幾度も彼と戦った私はその光景を見て、次に取らなければならない行動を嫌と言うほど理解していた。
「セイッ!」
私が剣を構えると同時、シグルドは空中に浮かぶ短剣を私に向かって
投擲では無く、殴り飛ばすという常軌を逸した動作によって加速された短剣は、矢どころか砲弾に等しい回避や防御が不可能な速度と威力を持って一直線に私へと襲いかかる。
(全て迎撃する……!)
正面から飛来した短剣を、氷剣で正確に叩き落とす。凄まじい衝撃が腕に伝わるが構わない。続けざまに迫る短剣を弾いて逸らす。
なんとか短剣を捌いた時には鈍い痺れが残り、腕はわずかに震えていた。
「休んでいる暇はないぞ」
その間にシグルドは既に私の死角に周り込んでおり、凄まじい速さで距離を詰めて短剣を振り抜く。
「グゥッ——!」
なんとか氷剣で受け止めるが、シグルドの膂力に敵うはずもなくまたもや吹き飛ばされる。
そして距離が空くといつの間にか回収した短剣を殴り飛ばされ、それを凌いだ瞬間に再び距離を詰められて強烈な一撃が襲いかかる。
息をつく暇もない波状攻撃に私の体力と集中力が確実に削られる。
このままではシグルドに削り切られて敗北するだろう。
——だが、それは“このままなら”の話だ。
「見切りました!」
私が小さく呟くと同時、極限状態で研ぎ澄まされた感覚がシグルドの攻撃を目線の動き、呼吸、僅かな初動で予測し、身体がそれに応じて自然と動き、飛ばされた短剣を最小限の動きで回避し続けながら前進してシグルドとの距離を詰め、お互いに刃の制空圏に入る。
「近接戦で当方に勝てる見込みがあるのか?」
「殆どありませんが、このまま削られて負けるよりはずっとマシです!」
そして繰り広げられるのは、最初と同じく至近距離での斬り合い——だが、その内容はまるで別物だった。
精密機械の様に襲いかかるシグルドの斬撃を、私は直前に読みきって躱し続け、僅かに出来た隙をついて神速の斬撃を叩き込み、シグルドは冷静に対処して次の手に繋げてくる。
優勢なのはシグルドであり、彼の攻撃を防ぐ術を持たない私は回避を選択するしかなく、必然として私の攻撃頻度は少なくなり、逆にシグルドは私の回避の癖すら読み取りながら、確実に追い詰めてくる。
最高の集中状態にも関わらず、このままでは私の敗色は濃厚。こうなれば一か八か“アレ”を決めるしかない。
(一瞬、ほんの一瞬の隙を作る——!)
そう心の中で言い切った瞬間、シグルドの短剣を避けて出来た反撃の隙を私はあえて一歩踏み込みを遅らせた。
ほんの僅か。だが、達人同士の間では致命的とも言える遅延。
当然、それを見逃すシグルドではない。
「甘い!」
何とシグルドは、振り終わった短剣の軌道を筋力で無理やり切り返し、そのまま私の首筋へと突き込んできた。
何かしらのカウンターが来ると踏んでいたものの、まさかの芸当に驚きが隠せないが、私の狙い通りの展開でもあった。
「終わりだマスター」
「いいえ、まだです!」
私は防御を捨て、片方の氷剣を鞘の形に変形させて居合の構えを取る。
もちろんこのタイミングで全速力の抜刀をしたとしても、シグルドの短剣には迎撃が間に合わないし、カウンターも取れない。故に取れる手段は回避のみである。
「——む!?」
シグルドの短剣が私の首を捉える寸前——直進していた私の体がいきなり横へ滑る様に移動し、短剣の軌道から外れる。
私はシグルドに見えない様に自身の足元のみを凍結させた後、凍った地面を利用した急制動からの横滑りにより、本来ならば人体の構造上あり得ない軌道変更を行った。
だが、ここからが本命だ。
「はぁぁぁっ!!」
滑走の勢いを殺さず、そのまま捻り込むように体勢を低く落とし、鞘に収めた氷の剣を抜刀。
放たれたのは音すら置き去りにする、
かつて、某NOUMINの魔剣を習得しようとしたことがあるのだが、次元屈折現象を起こして同時に三本の刃を出現させる変態技など出来るはずもなく諦めたのだ。
しかし、同時には無理でも一呼吸の内に可能な限りの斬撃を放つのであれば可能と考え編み出したのが、四つの居合切りがほんの僅かな時間差で急所に襲いかかるこの技だ。
刃を鞘に収める1工程が必要でシグルドのような超一流の戦闘者であれば距離を取られるか、防御体勢を整えられる可能性がある為、今回はあえて隙を作って攻撃のタイミングを誘い込み、回避と納刀を同時に成立させる事でこの状況を作り出したのだ。
空気が裂ける音すら追い越し、四閃の斬撃が同時に存在したかのようにシグルドへと襲いかかる。
首、心臓、左脇腹、右肩。全てが必殺の間合い。全てが致命の軌道。
その瞬間、初めてだった。シグルドの表情から余裕が消えたのは。
だが、それでも。彼は英雄だった。
カンッ——!
一閃目。首を狙った斬撃が短剣で弾かれる。
ギィィン!
二閃目。心臓への一撃が片方の短剣で軌道を逸らされ、胸先の数ミリを掠める。
「シュッ!」
三閃目。左脇腹を狙った斬撃を、シグルドは身を沈めて躱した。
しかし、その回避は咄嗟にした物であり、回避後の体勢は悪く最後の一撃を防ぐには回避も防御も間に合わないであろう。
斬撃への対応は明らかに遅れる。そう確信した私はシグルドの右肩を狙って振り抜いた。
「獲った!」
そして最後の四閃目——右肩から胴へと斜めに走るトドメの居合が決まる、その瞬間。
何とシグルドは右肩を自ら前に出しながら前進し始めたのだ。
予測外の行動に理解が及ばないが、既に四閃目は放たれており、今更何をしようと防ぐ事は不可能だ。
氷の刃はシグルドの右肩へ吸い込まれるように走り、容赦なく斬り込まれる——筈だった。
本来なら肩口から胸まで斬り裂けていたはずの一撃。
しかし、シグルドは筋肉を極限まで硬直させ、さらに氷剣が最高速度に入る前に肩を斬られる事で、斬撃が深く入るのを阻止した。
タイミング、速度、肉体操作など、あらゆる要素が1つでもズレていれば深傷は免れなかった紙一重を、まるで出来て当たり前の事の様にシグルドは実行したのだ。
そしてそれだけでは終わらない。
「——っ!?」
氷剣にかかる私の力が最高潮に達したと同時に、シグルドの身体が大きく捻られる。その動きによって斬撃の勢いが逸らされ、刃が骨へ届く前に離れてしまった。
そしてシグルドは捻った勢いを殺す事なく右足に乗せて至近距離からカウンターの膝蹴りを繰り出す。
(これは……やられましたね)
「見事な技だったぞ」
ドォォン!!
魔力で強化した両腕を咄嗟にクロスさせるが意味は無く、衝撃が腕から腹部へと突き抜け、激痛と共に視界が一瞬白く弾けてそのままはるか後方に体が飛んでいく。
「——ッが、はっ……!」
地面に叩きつけられると、肺の中の空気が一気に押し出されてうまく呼吸が出来ない。視界がぐらりと揺れ、全身の感覚が一瞬遅れてやってくる。
完全に両腕の骨が崩壊しており、痛みが常に走って力を入れることもままならない。さらに内臓にも深刻なダメージが入っており、先程から吐血が止まらない。
ただの膝蹴りでこの威力、なるべく最小限の衝撃に抑える様に受けた上でこの有様だ。
これ以上の戦闘続行は難しいと判断した私は、おぼつかない思考の中でゆっくりと上半身を起こしてシグルドと向き合う。
「ハァハァ……参りました。流石にこれ以上は無理です、ゴフッ!」
「承知した。怪我を治すゆえ少し待つがいい」
言うと同時にシグルドは私の体に治癒のルーンを刻んで治療を施す。
砕けた腕の骨や傷ついた内臓が時間をかけながら徐々に治っていき、意識がハッキリする頃には体の外傷は全て消えており、私は即座に起き上がって礼を言う。
「ありがとうございます。肩の傷は大丈夫ですか?」
「問題ない。軽傷ゆえ既に塞がっている」
そう言ってシグルドは、自らの肩に視線を落としながら軽く腕を回してみせる。先ほど私が付けたはずの傷は既に跡形もなく消えていた。
「多分ですけど……本来なら無傷で対応出来ましたよね?三閃目の回避後、わざと体勢を崩して攻撃のタイミングを誘導したでしょう?」
シグルドは私の問いに対し、数秒ほど沈黙した後、小さく笑った。
「気付いていたか。流石はマスターだ」
「やっぱりですか。私が攻撃を誘った事への意趣返しですか?」
「それもあるが、あの状況では完全に捌くよりも、カウンターを取れば勝てると判断した。故に、最も被害が少なく、次へ繋がる受け方を選択したまで」
普通の剣士なら斬られないことを最優先に考えるが、この男は斬られることを前提に、その後の展開まで含めて最適解を選んでいるのだ。
「勉強になりますね。しかし……自信作だったんですけどね、あの四連居合」
「良い技ではあったが、切り札としては決定力が些か足りないと判断する。必殺に固執するのでは無く、引き出しの1つとしても扱う事を勧める」
「……なるほど」
確かに、今の私は四連居合で仕留める事ばかり考えていた。だが、シグルドの言う通り、必ずしも必殺技である必要はない。
相手に回避を強要し、受けを崩し、体勢を制御させる。
それだけでも十分に価値がある。
「当方の短剣投擲と同じだ。アレは必殺を目的としていない。避ければ隙が生まれ、防げば硬直が生じる。どちらを選んでも、当方が次の攻めへ移れる様にしている」
シグルドの攻撃は、常に私へ選択を迫っていた。
短剣を迎撃するか。
避けるか。
後退するか。
前へ出るか。
そして、その全てが既にシグルドの次へ繋がっていた。
「技とは単体で完成するものではない。前後の流れ、相手の心理、戦場の状況。それら全てが噛み合って初めて真価を発揮する」
「だからシグルドさんは、あんな無茶苦茶な戦い方が出来るんですね」
「無茶ではない合理だ。しかし、マスターに先程の芸当はオススメ出来ないがな」
「でしょうね」
そもそも、シグルドの合理は前提条件からしておかしい。
致命傷の一撃を筋力で最小限の被害にして受ける?
普通の人間は、その時点で戦闘不能か即死である。
「マスターは耐久力よりも速度と技量に優れる。ならば受けより当たらない方向へ伸ばすべきだろう」
「まあ、自分でもそう思います。シグルドさんみたいに筋肉で斬撃止めろって言われても困りますし」
「鍛えれば可能だぞ?」
「……嫌ですよ」
あの芸当を習得するまで鍛えた結果、人間を辞める未来しか見えない。
「さて、休憩はここまでにして修行の続きと行こうか」
「そうですね。先程のリベンジと改善案の実践も兼ねてお願いします」
こうして休日の修行は再開され、私はその後もシグルドに何度も叩きのめされることになった。だが、四連居合の改善点を実戦で学べたこともあり、非常に実りある時間を過ごすことができた。
セイバー・シグルド
主従関係は非常に良好で、クリスの事はマスターというよりも戦士や弟子として高く評価している。
クリスが5年前に召喚したファーストサーヴァントであり、1番信頼しているサーヴァントは誰かと聞かれたら真っ先に上がるほど頼りにしている。
修行だけでなく魔道具作成にも協力しており、クリスが魔道具を作るようになったのは彼の影響が大きい。