で、出来らぁ!
ある日のアジト内、そこではいつも通り団員達の団欒が行われていたが、今回はとある1つの議題が盛り上がっていた。
「シルヴァンタスシュナウザーよ」
「別の名前が良いんじゃない?そうね……ワインとかね」
「我が女神であるマリーからマの名前をやろう。喜べ」
「もっとカッコいい名前がいいぜ。そうだな……マグナムファイヤー!」
皆が何をしているのかと言うと、ソッシ村で付いてきたアスタに懐いている?アンチドリの名前についてそれぞれ案を出し合って決めようとしているのだ。
側から見ている私からすれば、今出てきた名前の中でマシなのは名前が言いづらいノエルの案ぐらいで、あまり良いものとは思えず、アンチドリも無反応を貫いている。
「クリス副団長は何か良い名前はありますか?」
そんな様子を眺めていると、アスタが私の方まで話を振ってきた。
「そうですね……私は名前をつけるなら過去の偉人から取る事が多いので、初代魔法帝ルミエル様からとってミルエルはどうでしょう?」
その言葉を聞いたアンチドリは何か思う事があったのか一瞬だけぴくりと羽を震わせた。
「あ! 今ちょっと動いたぞ! クリス副団長、それ結構気に入ってるんじゃないすか!?」
「まあ、他の突飛な案に比べれば、少しは意味が通っているように思えますからね」
私が苦笑しながら答えると、周囲から一斉に不満の声が上がった。
「ちょっと副団長! 私のシルヴァンタスシュナウザーのどこが突飛なのよ! 高貴で洗練された響きじゃない!」
「甘いっすよクリスさん。男ならもっとドカンと胸に響くアツい名前にしねーとダメですよ!」
「マリーの名前を冠する以上に尊い命名などこの世に存在しない……!」
各自が己のセンスを主張し始め、再びアジト内は騒がしい論争へと逆戻りしていく。
「う〜ん……ネロで良いんじゃない?」
そんな中、ラックの出した名前をアンチドリが気に入ったようで翼を大きく広げた。
実際にネロは黒と言う意味なので、名付けとしては筋が通っていて呼びやすく良い名前だと私も思った。
アンチドリの名前がネロと決まったタイミングで丁度よく、騎士団本部から呼び出しを受けていたヤミ団長がフィンラルの空間魔法で帰ってきて、皆それぞれ団長に何があったのか質問する。
「え〜皆さんにお知らせがあります。新しい
「「「魔宮!?」」」
その言葉に、アジト内にいた団員達が一斉に反応する。
魔宮とは、古代に作られた巨大な遺跡の総称であり、内部には貴重な魔道具や鉱石、そして現在では失われた古代の文献などが眠っていることがある。
その一方で、その技術やお宝を他者に悪用させないように、魔宮内には罠魔法が幾つも仕掛けられており、とても危険な場所の為、常に魔法騎士団が調査を行なっている。
「ヤミ団長にその話が来たと言う事は、黒の暴牛がその魔宮の調査をすると言う事ですか?」
「そうだ。特に今回の魔宮はダイヤモンド王国との国境近くに出現した」
「……そうですか。それだと向こうにお宝を奪われない為にも確実で速やかな任務遂行が望まれますね」
これはかなり難しい任務になりそうなので、誰を行かせるか思案していると、アスタが手を上げて立候補した。
「はいは〜い!俺に行かせてくださ〜い!」
「おう、行ってこい小坊主。て言うか魔法帝の旦那がテメェをご指名だ」
「「「え!?」」」
予期せぬ言葉に、私も団員達も思わず目を丸くする。魔法帝がわざわざ魔法騎士になりたてのアスタを指名するなんて本来ならあり得ない事なのだ。
「ええぇ!?魔法帝ぃぃ!?」
何なら本人が1番驚いている。
「スゲーじゃねーかアスタ!お前どっかで魔法帝と知り合ったのか?」
「魔法帝から直々に指名されるのはとても光栄な事ですよ」
「魔法帝が俺を……不肖アスタ、この任務全身全霊で当たらさせていただきまぁ〜す!」
アスタが拳を強く握りしめ、燃えるような眼差しで叫ぶ。
そうして魔宮の調査メンバーが決まり、魔力感知がずば抜けているためリーダーを任されたラック、魔法帝から指名のあったアスタ、何事も経験という事で選ばれたノエルの3人となった。
「では、3人ともくれぐれも気をつけて行ってきてください。特にダイヤモンド王国が絡んでいるとなれば、敵襲の可能性も高いですから」
「はい! 任せてください、クリス副団長!」
「……本当に分かってるのかしら、この馬鹿は」
「ダイヤモンド王国の魔法使いかぁ……強い奴いるかなぁ」
三者三様の反応を見せながらフィンラルの空間魔法へ入って行き、3人は魔宮へと向かった。
3人がいなくなった後、私はソファに座って一服しているヤミ団長に質問する。
「それにしても、魔法帝はどうしてアスタさんを指名したのですかね?」
「さぁな、旦那には俺達とは違うモノが見えてるからな……あ、そう言えばダンナからもう一つ任務預かってたんだがお前行くか?」
ヤミ団長はふと思い出したかの様に懐から書類を出して私に見せつける。
そこに記載されていた内容は、かつて調査が行われていたが、老朽化や目新しい発見が無く放置された遺跡に、正体不明の魔導士たちが集まって何かしているという目撃がある為、その調査と必要であれば捕縛せよとの事であり、一見すると普通の任務内容だ。
「これってわざわざ魔法帝から依頼される様な任務ですかね?まぁ、今日は空いているので行きますよ」
「そうか、なら決まりだな。フィンラル、ヴァネッサ、お前らも今日暇なんだから行ってこい」
「えぇーっ!? 俺ですか!? 俺は危険な任務なんて絶対嫌ですよ〜! 女の子とお茶する約束があるんですから!」
情けない声を上げて頭を抱えるフィンラルに、ヴァネッサは酒瓶を片手にくすりと笑う。
「まあまあ、フィンラル。クリス副団長が一緒なら安心じゃない。それに……ふふ、遺跡の調査なら、何か面白そうな古酒でも眠ってるかもしれないわねぇ」
「それなら不審者達に飲み干される前に行かないとですね。それと、フィンラルさんに拒否権はありませんので諦めてください」
「ひ、ひどいよクリス君!!」
涙目で叫んで私にすがりつくフィンラルに、私は軽く肩をすくめて呆れていた。
「5回」
「え? 5回って何が!?」
「フィンラルさんが今月、デートやナンパで支障をきたして私が代わりに対応した任務の回数です。今回も断るようなら、これまでの分をまとめてヤミ団長に報告させていただきますが……どうしますか?」
その言葉を聞いた瞬間、フィンラルの顔から一気に血の気が引いた。ヤミ団長が静かに刀へ手を伸ばし、ギラリと眼光を光らせる。
「おいフィンラル……じっくり話を聞かせてもらおうか……?」
「行きます行きます行きます! 今すぐ空間魔法出しますから!!」
半泣きになりながら慌てて魔導書を開くフィンラルの姿に、私とヴァネッサは思わず顔を見合わせて苦笑した。
◇
フィンラルの空間魔法を抜けてしばらく歩いたあと、たどり着いたのは深い森の奥深くに佇む古い遺跡の入口だった。
苔むした石柱が乱立し、あたりには湿った不穏な空気が漂っている。
「うう……気味が悪い場所だな……絶対何か出るよここ……」
怯えるフィンラルを無視して、私は周囲の魔力の流れに集中する。
「周りのマナがかなり濃いので魔力感知が当てになりませんが、人がいた痕跡はありますね」
私は地面に残る足跡の多さと形状の違いからそのおおよその人数とパターンを把握する。
人数は少ない様だが、まとまった集団行動をしており、何らかの組織的な存在である事は間違いなさそうだ。
「10人前後……それもかなり新しいのでここに誰かいる事は確定でしょう」
「まぁ、それくらいの人数なら俺たち3人でも問題なさそうだね」
「そうねぇ。さっさと片付けてアジトに戻りましょう」
2人の言葉に私は頷き、遺跡の入り口へと視線を向けて警戒しながらも中へと足を進めた。
この遺跡については過去の調査資料が残っていて、大体の構造を把握出来ていた。基本的には一本道の通路と複数の小部屋と最奥にある大きな部屋から構成された、比較的小規模な遺跡である。
道を進んでいると、私はふと人の気配を感じた為、音を出さない様に手で2人に合図を送って進むのを止めさせ影に身を潜めた。
極力魔力を抑えながら息を殺して角の先を窺うと、松明の明かりに照らされた扉の前で、特徴的な目の模様が刻まれている白いローブを纏った男が立っており、どうやら見張りをしている様だった。
(あの雰囲気と感じられる魔力から見てかなりの手練れ……少なくとも、そこらの盗賊やならず者の類とは比べものになりませんね)
流石は見張りを任されているのかかなりの実力者であり、真正面から行くと最悪時間を稼がれて増援を呼ばれる可能性がある。
ならばまともに戦わなければ良い——
私はフィンラルとヴァネッサに目線を送ると、2人は私が何をしたいのか察したのか頷いてくれた。
2人の準備が終わった事を確認した私は指を3本立ててカウントダウンを始める。
(3……2……1)
指を一本ずつ折り、最後の一本が消えた瞬間、フィンラルが突如として男の前に姿を現す。
「何奴!」
男は咄嗟に戦闘体制に入り、魔導書を開いてフィンラルへ向けて魔法を放とうとするが、もう遅い。
フィンラルの空間魔法が男の背後に展開され、その中から現れた無数の糸魔法が男の全身に絡みつき、空間魔法の中へと瞬時に引きずり込まれる。
「なっ……むぐ!?」
男が出てきたのは通路の小さなスペースで、男を壁に叩きつけると同時に糸魔法で体を拘束し、私は男の口を手で抑えて首筋に氷の剣を当てた。
「これからする私の質問に正直に答えていただけるなら悪いようにはしません。声は出せないので返事は相槌で構いません。よろしいですか?」
男はしばらく私の目を見つめていた。
あっという間の拘束に男は動揺していたが、即座に状況を飲み込んだらしい。
口元を塞いでいるため声こそ出せないが、その目には明確な警戒と敵意が宿っている。
「ああ、嘘をついた場合は呼吸や目線やらで判別出来るのであまりオススメは出来ません」
しかし、首筋に当てられた氷の刃が僅かに冷気を放つと、男は観念したように小さく頷いた。
ちなみに、私はそんな嘘を見抜く術は持っていない為、これはただのハッタリだが、正体不明の仮面を被った人物に、命がかかった極限状態で嘘を吐く余裕などこの男には無いだろう。
「ありがとうございます。では一つ目。この遺跡には、あなた以外にも仲間がいますね?10人ぐらいでしょうか?」
男は何故人数がバレているのか驚いた様に瞳孔を広げた後に、こくりと静かに首を縦に振った。
「では二つ目の質問です。貴方達は魔法騎士団、ひいてはクローバー王国に敵対する組織ですか?」
男の瞳が、一瞬だけ鋭く揺れた。
その揺らぎには明確な拒絶と憎悪が混じっていたが、首筋の氷刃から伝わる殺気に気圧されたのか、諦めたようにゆっくりと深く首を縦に振った。
「成程、ただのならず者集団というわけではないようですね……」
反王国組織そのものは珍しくない。貴族への反感から生まれた盗賊団や、王政に不満を持つ者達の集まり、違法な魔道具を扱う犯罪組織など、クローバー王国には大小様々な反社会勢力が存在している。
だが、彼らの服装から見てこれまで判明している組織のどれにも該当する物は無いのは不自然だった。
「では最後の質問です。この遺跡は貴方達にとって重要な場所ですか?」
男は私の質問の意図がわからない様だったが、少し迷った末に首を横に振った。
「やはり、どうやらここは数ある拠点の一つでしかないようですね」
私は男の反応を確認しながら、口を押さえていた手と氷の剣を首筋から僅かに離した。
「知りたい情報は聞けたのでもう大丈夫です。ご協力ありがとうございました。次に目覚める時は牢屋の中ですので安心してください」
「え?」
男の抜けた声を無視して、私は指を鳴らす。
パキッ。
男の足元から氷の鱗が広がり、そのまま身体を包み込んであっという間に彼を氷漬けにした。
最後に何か言いたげだったが、私は解放するとは一言も言っておらず、そもそも二つ目の質問でクローバー王国に敵対する正体不明の組織だと判明した時点で、拘束したまま連行するのが当然だ。
私達は男をフィンラルの空間魔法で騎士団本部の地下牢へ転移させ、詳細な情報の尋問は本部の魔導士達に任せる事にした。
「何だか思ってたよりもとんでもない連中みたいだね」
「そうですね。あの男の情報が確かなら組織の規模はかなりの物です。この遺跡だって十分な広さや隠匿性があるのに本拠地では無いという事は、それだけ人数がいる証明ですから」
フィンラルの疑問に肯定しながら私達は男が見張っていた部屋の前に立ち、これからどうするか話しあう。
「現状の情報から察するに、この遺跡にいる敵の人数は10人程度で、先程の彼レベルが見張りなのであればそこまで脅威ではないでしょう」
「それに、向こうはまだ私達に気付いてないのだから奇襲を仕掛けるのは容易いでしょうし、今なら全員捕縛出来る良い機会だと私は思うわ」
「ん〜出来れば危険な事はしたく無いけど、クリス君を俺とヴァネッサさんの二人で援護する形なら……まあ、やるしかないか」
方針が固まり、腹を括ったフィンラルの言葉に私とヴァネッサは頷き、見張りのいた部屋を抜けて遺跡の最奥へと足を進め、私達は遺跡に残る敵の制圧へと乗り出した。
この時の私に油断や慢心は微塵も無かったが、まさかあんな怪物が現れるとは、思いもしなかったのだ。
この組織はいったい何夜の魔眼なんだ?