私たち三人は、遺跡の最奥へと続く通路を慎重に進んでいた。
既に何人かの構成員を無力化していたが、こちらの存在はまだ気付かれていない。おかげで、大きな戦闘には発展せずに済んでいた。
「……思ってたよりあっさりしてるわねぇ」
ヴァネッサがそう呟きながら、足元に転がっていた構成員を魔法で拘束する。
「この調子なら本当に全員捕まえられそうだね」
フィンラルも周囲を見回しながら安堵したように息を吐く。
「油断はしないでください。人数からして残りは2、3人ではありますが、捕縛するまでが任務です」
「分かってるって」
返事をしながらも、フィンラルの表情には少しだけ余裕が戻っていた。
かなり奥に進んだ所で、恐らく最後の構成員がいると思われる最奥の扉を発見する。
これまで通りなら、一気に扉を開けて相手が反応出来ないうちに制圧する流れだが、扉の奥から感じられる僅かな魔力と殺気に、私は足を止めた。
「待ってください。どうやら向こうは私達の事に勘付いている様ですね。既に戦闘状態に入っています」
「短時間とはいえ何度も魔法を使えば、そりゃあバレるわよねぇ」
「それなら、正面から行くしかないのかな?」
フィンラルの言葉に私は資料から得た遺跡の情報を思い出し、すぐに首を横に振った。
「……いえ。正面から行く必要はありません」
「え?」
「資料によれば、この扉の先は一つの大きな空間になっていて、出入口は今いるこの扉1つだけです。向こうがこちらの存在に気付いているなら、むしろ好都合です」
私の意味不明な言葉にヴァネッサとフィンラルは首を傾げる。
「どういうこと?」
「敵は私達がこの扉から入ってくると思い、そこに意識を集中させています。ならば——入口そのものを変えてしまいましょう」
私は扉を素通りして横側の通路へと移動し、右手に剣を構えて、壁に向かって振りかぶる。
「えっと、もしかして……」
フィンラルが嫌な予感を察したような顔をすると同時に、いくつもの剣閃が壁を切り裂き、流れるように壁に蹴りを打ち込む。
ドンッ!!
轟音と共に石壁が崩れ、部屋に侵入可能な通路が出来上がった。
「なっ!?」
「侵入者だ!!」
「そこから来るのかよ!?」
部屋にいた三人の構成員が、完全に横腹からの急襲に絶句し、目を見開く。
「フンッ!」
「うぉっ!」
私は更に崩れ落ちた石壁の破片を蹴り上げ、構成員達に向かって蹴り飛ばす。
本来なら余裕を持って避けられていただろうが、予想外の侵入方法に動揺していた事で反応が遅れ、咄嗟に後ろへ飛ぶ。
「フィンラルさん、ヴァネッサさん! 今です!」
「まったくもう、無茶苦茶するんだからぁ!」
壁の崩落で生じた煙の中から何本もの赤い糸が飛び出す。咄嗟に回避した事で体勢を崩した2人の構成員に糸が寸分の狂いもなく巻き取り、一瞬で拘束した。
「うおっ!? なんだこの糸は!」
「フィンラル、次!」
「任せてください!」
ヴァネッサの合図に合わせてフィンラルが素早く空間魔法を発動。捕縛を免れ、魔導書を開こうとした1人の構成員の足元に空間の穴が出現する。
構成員は驚愕の声を上げる暇もなく、その身体は空間に飲み込まれ、気がつくと私の足元へと転がり落ちていた。
「失礼します」
落ちてきた男の首筋に、私は手刀を打ち込んで意識を刈り取る。
残る構成員は自身に絡まった糸を解こうと必死に魔力を練り上げるが、すでに戦局は決していた。
「拘束を解く事は大切ですが、目の前の敵から意識を外すのは危険ですよ」
フィンラルの空間魔法によって、既に二人目の前に居た私は両腕に持った氷剣を目にも止まらぬ速さで振り抜く。
突如として額に衝撃を受けた二人は、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。刃のない部分で打ち抜いたため、生命に別状はない。
「ふぅ……これで全員、制圧完了です」
「いきなり壁を破るなんて、……まったく相変わらず豪快なんだから」
「あはは……でも、おかげで怪我人も出ずに済んだし、結果オーライかな」
最終的にはまともに戦闘らしい戦闘になることすらなく、遺跡に潜んでいた構成員の全員を制圧する事に成功した。
魔法帝からの任務の為、何かあるのではと警戒していたが、終わってみれば呆気なかったので少し肩透かしを喰らった気分になる。
「彼らの正体については疑問が残りますが、魔法騎士団本部の尋問にかかればすぐに分かるでしょう」
「ならこれで任務完了ね。特に珍しそうなお酒は無くて残念だわ」
ヴァネッサが追撃の糸を幾重にも巻きつけ、完全に身動きを封じながら、がっかりしたように息を吐く。
「俺も女の子達と遊ぶ約束無くなっちゃたしなー」
フィンラルも意気消沈しているが、こっちは自業自得なので気にしない。
とは言え、今回の任務は2人の活躍によってスムーズに終わったのは事実なので、代理副団長としては労うのが筋だろう。
「今日はお二人とも頑張りましたので、今夜は街の美味しい料理でも食べに行きましょうか?勿論私の奢りです」
「本当かい!? やったぁ!そういう気遣いができるところ、本当に最高だよクリス君!」
フィンラルがパッと表情を明るくさせ、嬉しそうに声を弾ませる。
「あら、ごちそうになってしまっていいのかしらぁ? それなら私は……一番高いお酒があるお店をおねだりしちゃおうかしらね」
良いお酒を飲めるチャンスと踏み、一気に目を輝かせたヴァネッサが、悪戯っぽく微笑みながら私の肩をポンと叩いた。
「役職が上とはいえ、後輩にねだるのはどうかと思いますが、お二人のおかげで無傷で迅速に完了できましたから。今回ばかりは、ヴァネッサさんの呑み代も覚悟しておきます」
「やったわぁ! 言ってみるものね! 貴方、見た目や戦い方は真面目そのものなのに、たまにこういう太っ腹なところがあるから好きよ」
和やかな空気が漂う中、私たちは構成員たちを空間魔法で連れ出す準備を進めた。
これで任務は終わりだと思っていたその時——
(マスター、何か来る。戦闘態勢を取れ)
突如、シグルドから脳内に向けて警告が響いた。
サーヴァント達から任務中に話しかけられる事は稀にあるが、基本的にソッシ村の様に追い詰められている時や、個人的な話がある時のみで、これほど明確な警告を受ける事は滅多にない。
何事かと思い周囲を警戒し始め、ソレを感じ取った私は思わず声を上げてしまう。
「いやいやいやいや……」
フィンラルとヴァネッサが何事かと私が見ている方向へ振り向くと、突如として部屋の中に空間魔法が現れ、中からこれまでの構成員と同じ白いフードを被った男が姿を現した。
「あれ?いつもなら皆んないるのに今日は静か——ああそういう事か。はぁ……」
男は私達を一瞥して状況を飲み込んだのか1人頷くと、めんどくさそうにため息をついた。
その様子を見ながら私達は動かない——いや、動く事が出来なかった。
目の前にいる男から放たれている魔力は、先程までの構成員達とは明らかに別格であり、圧倒的などという言葉すら生温い。
形容する言葉があるとすれば——怪物だ。
「ヴァネッサさん、フィンラルさん。私が時間を稼ぎますので、お二人はその間に遺跡内で拘束している構成員達を連れてこの場から離脱してください」
私の指示に対し、二人は瞬時に表情を跳ね上がらせた。
「なっ……何言ってるのよ急に!? こんな化け物を前にして一人置いて行けるわけないでしょう!?」
「そうだよ! 離脱するなら三人一緒じゃなきゃダメだよ!」
いつもは飄々としているヴァネッサとフィンラルが、本気の怒りと焦燥を露わにして叫ぶ。
本来なら頼もしい言葉なのだが、私の思考は冷静に合理的な判断を下していた。
「今回の任務はここでの情報の持ち帰り、そして何より捕らえた構成員たちの身柄を本部に引き渡すことです。正直に言って彼を相手にしながら全員を守り切る余裕は、私にありません」
「だからって——!」
「ヴァネッサさん」
反論しようとしたヴァネッサの言葉を、私は静かに遮った。
「これは命令です」
その一言に、ヴァネッサの表情が強張る。
普段の私ならば、もっと柔らかな言い方を選んでいたかもしれない。しかし、今は一刻を争う。
目の前の男から感じられる魔力は、私の想定を遥かに上回っている。
まともに戦えば、ヴァネッサやフィンラルを庇いながら勝つどころか、撤退することすら難しい。
ならば、取るべき手段は一つしかない。
「……分かったわ」
ヴァネッサは悔しそうに唇を噛み締めながらも、私の命令に従ってくれた。
「フィンラル、行くわよ」
「くっ……ああ」
フィンラルも納得したわけではないのだろう。
それでも私の命令に従って感情を押し殺して逃げる準備を整える。
私はそんな2人の表情を見て、罪悪感を感じさせない様にふっと口元を緩め、小さく笑いかけた。
「安心して下さい。先程の約束を破るほど、私は不誠実ではありませんから。それと……時間を稼ぐのもいいですが、別に彼を倒してしまっても、構わないでしょう?」
「……ハッ、言ったわね。必ず生きて帰ってきなさいよ! 一番高いお酒、しっかりご馳走になるんだから!」
ヴァネッサが悔しさを滲ませながらも、覚悟を決めた笑みを浮かべる。
「……死んだら承知しないからな、クリス君!」
フィンラルが叫ぶと同時に、二人は捕らえた構成員達を担いで扉から外に出て、一瞬で部屋から姿を消した。
部屋に残されたのは、私と——白いフードの男だけだ。
「一応聞いておきますが、貴方がこの組織のリーダー……という認識で間違いありませんか?」
私は氷剣を構えたまま、目の前の男へ問いかける。
「リーダー? 違う違う。僕はそんな偉い立場じゃないよ。なんて言うか幹部みたいな感じだね」
(このレベルの魔力を持っていて幹部の1人……?)
私のサーヴァント達に負けず劣らずの膨大な魔力を持っていて幹部の1人という事実に、私は内心でこの組織の強大さに驚き警戒を一段階引き上げた。
「では、何のためにここへ?」
「ここ、静かだから昼寝するの結構好きなんだ。一応仮拠点とはなってるらしいけど」
「……昼寝、ですか?」
あまりにも場違いな言葉に、私は思わず聞き返してしまった。
「うん。人が少ないし、壁も厚いから外の音があんまり聞こえないんだよね。僕、静かな場所って好きなんだ」
つまりこの遺跡はこの男が昼寝に利用している場所で、今来たのも昼寝をする為という事らしい。
あまりにも緊張感がない。
先程まで自分達が捕らえていた構成員達のことなど、まるで興味がないようだった。
「では最後の質問です。貴方達は何者で、目的は何ですか?」
「ん〜、今から死ぬ君になら言っても良いかもだけど、もし逃げられたりしたら面倒だし、だから言わないでおくよ」
男は心底だるそうにそう呟くと、被っていた白いフードを脱いで私に素顔を見せた。
黒髪の一部に白い髪が混じっており、頬には特徴的な赤い紋様があり、気怠げな表情をしていた。
「でも名前ぐらいなら良いかな……僕の名前はライア」
「……ライア」
偽名かもしれないが、聞き覚えのない名前であり、私が知る限り、ここまでの魔力を持っていてその様な名前の人物は該当しない。
「ではこちらも名乗りましょう。黒の暴牛代理副団長のクリスです」
私の名前を聞くと、ライアは何か考える素振りをした後、何か思いついたのかこっちの姿を見つめる。
「ああ……思い出したよ。おたく、ヒース君を倒した『黒仮面の氷剣士』クリスだ」
(本当にその恥ずかしい名前で呼ばれているんですね……って今のは聞き間違いでしょうか?)
「ヒース君、生真面目すぎて扱いづらかったんだけどねぇ……一応、仲間だったからさ。君の顔と名前、覚えておいてよかったよ」
「……『ヒース』ですか」
間違いなく2回も発した人物の名前。
あのソッシ村で対峙した、冷酷な氷属性の魔法使いで、魔法騎士団の内部情報に通じていた謎の組織の男。
そしてライアの名前を知っているという事は、この男と遺跡にいた構成員たちはあの事件の裏にいた組織の人間だったのだ。
「なるほど、あの時の……。では、貴方を捕まえれば、ソッシ村で起きた事件について詳しく聞けそうですね」
「捕まえる?……無理無理。だって君、ここで死ぬんだし」
お互いに戦闘準備が整った瞬間、ライアの雰囲気が一変した。
先ほどまでの気だるげな佇まいは霧散し、ただ存在するだけで空間が軋むような圧倒的な魔力が膨れ上がる。
「水魔法"アクアジャベリン"」
ライアが右手を軽く突き出すと、周囲の水分が一気に集束し、巨大な水の槍が驚異的な速度で私へと迫ってくる。
「シュッ!」
とんでもない威力と速度の魔法だが、私は氷剣を一閃して真っ二つに切り裂き、切断された水の槍は私の左右を通り過ぎて轟音と共に石壁が大きく抉る。
(水属性……魔力量の差はありますが、相性的にこちらが有利)
こちらの得意領域である懐に入れば魔法属性で有利なこちらに分があると判断した私は即座に身を屈め、ライアに向かって一直線に走り出す。
「水魔法"カッターレイン"」
ライアは無造作に左手を掲げると、私の頭上から無数の高圧水流の刃が、雨のごとく降り注いだ。
(少しはかすりますが、問題ありません)
空からの水圧カッターを視認する事なく、正確に致命傷となり得る物だけを振り払いながら減速する事なく距離を詰めて行く。
そうして凶刃の雨をかすり傷で潜り抜けた私はさらに踏み込んで加速し、一気に剣の間合いへとライアを捉えた。
「これで終わりです!」
踏み込んだ右足が石畳を叩き割り、その反動を利用して至近距離からライアの首元と胴体へ交差させるように鋭い一閃を繰り出した。
確実に捉えた——そう確信した手応え。
だが、斬った感触がおかしい。肉を断ったというより、巨大な水の塊を切り裂いたような感触であり、実際にライアの身体は大量の水となって弾け飛ぶ。
「水による分身ですか……」
飛び散った水滴が床へ落ちるよりも早く、私の背後から声がした。
「危ない危ない。いきなり斬りつけてくるなんて、怖いなぁ。それにすごい剣速だねぇ」
私が背後を振り向くと、ライアは面倒そうに目をこすりながら右手を軽く振る。
(先の攻防で多少の傷では怯まないと印象付けました。次に使用するならば近距離で効果を発揮する質量攻撃系。ならば凍らせながら切り裂いて道をこじ開けます)
相手の魔法を誘導・予測して次の一手を決めた私は氷剣に魔力を込めて踏み込んだ。
しかし——
「炎魔法"フレイムバースト"」
ライアの言葉と共に、彼の目の前に巨大な炎の塊が出現し、爆風を伴って一気に膨れ上がった。
(なっ……炎魔法!?)
思考が一瞬、凍りつく。
先ほどまで高精度の水魔法を連発していた男が、前触れもなく真逆の属性である炎魔法を行使したのだ。
この距離では回避出来ないと悟った私は魔力を込めていた氷剣を目の前に放り投げ、氷剣は凄まじい冷気を放出しながら爆発し、私を後方へと吹き飛ばす。
「ぐうっ!」
氷剣を爆破させて威力を相殺したものの、吹き飛ばされた衝撃で全身に鋭い痛みが走っていた。しかし、それ以上に私の思考を占めていたのは、目の前の男が犯した「理の逸脱」だった。
(水魔法から炎魔法……? 属性の混合ではなく切り替え? いや、それはあり得ない。魔法は生まれ持った単一の属性しか使えないはず。この男は一体……!)
この世界における絶対的な原則が、眼前の男によってあっさりと崩壊させられている。
爆風によって舞い上がった炎と煙の合間から、ライアは何事もなかったかのようにゆっくりと歩み寄ってくる。
「よく避けたね今の。完璧に突けたと思ったんだけどなぁ……やっぱりヒース君を倒しただけのことはあるね」
炎の残光に照らされるライアの瞳には、ほんの少しだけ驚きと、それ以上に圧倒的な余裕が宿っていた。
私が息を整えながら必死に思考を巡らせていると、シグルドの声が再び脳内に響き渡る。
(狼狽えるな。あの男の魔力の波長……性質そのものが変質しているわけではない。恐らく他者の魔法を模倣して行使する類だ。属性の根幹が複数存在するわけではない)
シグルドのアドバイスにより、パニックを起こしかけていた頭が急速に冷えていく。
魔法属性の理を無視して複数の属性を扱える種明かしが「模倣」ならば、合点が行く。
だが、それは同時にライアがヒースの氷魔法や、他の構成員の魔法も覚えていて、圧倒的な手数を持つ可能性があるのだ。
「模倣魔法……それが貴方の真の属性ですか」
私が腕の痛みを無視して再び氷剣を生成し直すと、ライアは少しだけ目を見開いた。
「へぇ……一発で見破っちゃうんだ。君、頭も良いんだねぇ。面倒くさいなぁ、本当に」
ライアは溜息をつきながら、今度は魔導書をパラパラと捲る。彼の周囲に漂う魔力の質が、水から炎、そして完全に異なる物へと変質していく。
「模倣雷魔法"
ライアが呟いた直後、空間を切り裂くような甲高い鳴動とともに、極太の雷光が直線状に幾つも放たれた。
「くっ……!」
水でも炎でもない、圧倒的な速度と火力を誇る雷撃。直撃すれば防御の上からでも体を焼き尽くされる。
私は反射的に身体を極限まで捻り、限界を超えた速度で横へと跳んだ。
バチィッ!!
直前まで私が立っていた石畳は黒く焦げ付き、熱気で空気が歪んでいた。その後も走って回避を続けるが、完全に躱しきれず、掠めた左肩の服が破れて激痛が走る。
連続して放たれる圧倒的な密度の攻撃。水、炎、そして雷—— あまりにも多彩で理不尽な攻撃の手数が、休む間もなく襲いかかる。
1つの魔法への対策を立てても、次の瞬間には別の属性で覆される。これでは相手の手札を把握することすら難しい,
「本当によく避けるねぇ。でも、いつまで持つかな?模倣霧魔法"
部屋全体が一瞬で濃厚な白い霧に包まれた。視界が急速に遮られ、魔力の探知すらも霧に含まれた無数の微細な魔力によって乱される。
(視界と魔力探知を同時に遮断する霧魔法……!)
私は背中を崩れた石壁に預け、死角を減らしながら全神経を研ぎ澄ます。
視界が見えない中、ライアが何か準備しているのか地面の振動と大きな音が鳴り響いている。
私は荒い息を整え、両手の氷剣をさらに強く握り締め直す。
その時、頭上で僅かな空気の揺らぎが跳ねた。
「模倣風魔法"
霧を切り裂き、鋭利な真空の刃が頭上から斜め下へと無数に降り注ぐ。音もなく迫る不可視の断頭台。
「っ……!」
私は壁を蹴って前方に転がり、頭上を通過した真空刃が背後の石壁を豆腐のように細切れに切り刻む音を聞く。
しかし、逃げ込んだ先は分厚い岩の壁で遮られており、明らかに身動きが取れない場所へと誘導された。
「勘も良いんだ。じゃあ、これはどう?模倣岩魔法"
頭上の天井が巨大な岩塊へと変貌し、逃げ場を塞ぐように牙を剥いて崩落してくる。
周囲に逃げ道は無く、完全に追い詰められてしまった。
「上も、横も駄目……なら!」
私は両手の氷剣を頭上から落ちてくる巨大な岩塊へ力任せに突き立てた。
それと同時に氷剣に魔力を集中させると、猛烈な極冷気の波が爆発的に広がり、岩塊を空中で一瞬にして完全凍結させる。脆く結晶化した岩塊は自身の重みに耐えかね、私の直前で甲高い音を立てて粉々にはじけ飛んだ。
なんとか防いで安心するも、突風を伴って突如私の眼前にライアが現れた。
その手には、巨大な光の剣が握られている。
(光! 最速の属性まで……!?)
「終わりだよ、副団長さん」
ライアの瞳が至近距離で私を射抜き、光魔法特有の視認不可能な速度で光の剣が振り下ろされる。
先程の岩魔法は私を倒す為では無く、私が無防備なこの状況を作るための囮であり、何とかガードを入れようとするが、光魔法の圧倒的な速さには間に合わず、回避することも不可能だった。
スパンッ!
「——ぐはっ……!?」
言葉を発する暇もなく光剣は私の体を切り裂き、胸を鮮血に染めた私は糸が切れた人形のように崩れ落ちていく。
明らかな致命傷を受けて床に伏した私を見下ろしながら、ライアは光の剣を消し、面倒そうに首を鳴らした。
「ふぅ……結構しぶとかったなぁ。でも、これで終わりだね」
書いてて思いましたけど、やっぱりライアの模倣魔法チートでしょ。
模倣条件緩いし、威力はこっちの魔力参照だし、デメリット一切ないし。
で、それを圧倒したアネゴレオンはマジで何なのあの人?