「あなた、運が良かったわね」
運が良かった……?幻想郷に来ている時点で不運じゃないだろうか。
「それはなんでですか?」
「ルーミアよ。あの子は人喰い妖怪。食べられなくて良かったわね」
そういえばそうだった。少し忘れていた。
「確かに、そう考えると運が良かったのもしれませんね」
「とりあえず話が聞きたいから中に入ってちょうだい。その重そうな
中で話をするらしい。それはそうと、背嚢ってなんだ。聞きなれないけど、リュックのことだろうか。
僕はお賽銭より少し手前にある2段ほどの階段を上り、しめ縄をくぐって中に入った。引き戸は先に霊夢が中に入っていったので開ける必要はなかった。
中にある部屋は和室だった。そして、まだ秋だというのにこたつがある。幻想郷はもう冬なのか?
そう考えていると霊夢はこたつの中に入った。僕は立ち尽くした。
「入りなさい」
入るしかないか。
「ありがとうございます。ちなみに、なんでもうこたつがあるんですか?」
ついでに聞いた。
「めんどくさかっただけ」
面倒なだけだった。ということは、ここの季節は少なくとも冬ではないことが分かった。気温と森の様子を見るに秋に入ったばかりってところか。僕がいたところとほぼ同じだな。
こたつに入った。熱は出ていない。ただ、机の代わりとして使っているだけのようだ。
「それで、帰りたい?」
霊夢からそう聞かれた。帰りたいかと聞かれれば帰りたい。けれど、帰れるものなのだろうか。
「帰りたいです」
素直に今の気持ちを言った。そして、霊夢は少し残念そうな顔で言った。
「そう。残念だけど、帰れないわ」
なんでだろうか。ルーミアによると外の人間のことも解決していると言っていた。今まではできていたということではないだろうか。
「ルーミアさんから聞きました。今までの外の人間のことは解決していたって。今回はなぜ帰れないのでしょうか」
「それは、まぁ色々あるのよ。ただ、帰れないというのは現時点で帰れないだけであって、そのうち帰れるかもしれないわ」
なるほど。そうなのか。そうなんだろう。
とりあえず今すぐは帰れないということだ。一応はやり残したことはあるし、あっちでやっておかなきゃいけないことはある。ただ、帰れないというのならばここで生活しなければいけないし、絶対帰れないというわけではない。長い夏休み的な感覚で幻想郷に居ればいい。
「なるほど。少なくとも今は帰れないのはわかりました。それで、将来帰れるまでの間しばらくはどこに住めばいいんでしょうか」
これは大事だ。住処がなければ生活するうえでとてもまずいからだ。
「そうね。しばらくはここに居てもらうわ。幻想郷のことを教えなきゃいけないし。ただ、少し経ったら住む場所を探してほしいわね。私もそれは手伝うけど、レミリアとかさとりあたりが拾ってくれないかしら」
レミリアとさとり。知らない名前だ。霊夢の発言から察するに、人を追加で一人住まわせることのできるところに住んでいるということだろうか。
「とりあえず、幻想郷を案内するわ。まだ体力は残ってる?人里ぐらいなら今日は案内するわ」
人里。街のことだろう。幻想郷に住む上において人とかかわるのは大事なことだ。せっかく案内してくれるなら行こう。
「体力はあります。行けます」
「わかったわ。準備するから少し待ってくれないかしら。あんたも準備することがあるなら今のうちにしときなさい」
霊夢はそう言って拝殿の奥まで歩いて行った。
準備と言われたのでリュックの中を見たけれど、めぼしいものは特になかった。