「準備ができたわ」
霊夢はそう言いながら拝殿の奥から僕が今いる和室まで戻ってきてこたつの中に入った。見た感じ、お祓い棒が持ち物に増えたぐらいだ。巫女さんっぽい。巫女さんだった。
ここから人里までどれくらいかかるのだろうか。あの森の中から博麗神社までは一時間二十分ぐらいかかった。それぐらいかかるのだろうか。
「ここから人里まで歩いてどれぐらいかかるんですか?」
「歩いてだと三時間くらいかかるわね。でも、飛んでいくから十分ぐらいでつくはずよ」
飛んでいく?飛べるのか。いや、飛べても不思議じゃないか。
仮に霊夢が飛べたとしても僕は飛べない。やはり歩いていくことになるのではないだろうか。
「僕、飛べませんけど」
「ああ、安心して。私の背中にでも乗っていればいいわ」
霊夢はまるで当たり前かのように言った。確かにそれなら僕が飛べる必要はない。少し恥ずかしいけど。
「わかりました。お願いします」
僕がそう言うと霊夢はこたつから出て立ち上がり、外につながっている引き戸に手をかけた。僕も立ち上がってついていく。
霊夢が引き戸を開けた。その先には竹箒を持った、金髪で黒色のとんがり帽子をかぶった少女が立っていた。
「おお霊夢。私が着いて直ぐに引き戸を開けるからびっくりしたぜ」
初めて見る人だ。霊夢とは面識がありそう。
「たまたまよ魔理沙」
そう霊夢はめんどくさそうに言った。
この竹箒を持っている人は魔理沙というらしい。そして魔理沙は僕を見ると霊夢に質問した。
「で、お前の横にいるやつは誰だ」
少し怪しんでいる。霊夢と魔理沙はどういう関係か知らないが、仮に友人関係だとして、友達の隣に知らないやつが居たら多少は警戒するか。
「こいつは外の人間よ。名前は……。あんた名前何?そういえば名乗らなかったわね」
そういえば一度も名乗っていなかったことを思い出した。ルーミアにも名乗ってなかった。
「僕は
幻想郷に来て初めて自分の名前を言った。というかフルネームを言ったのは学年が変わったとき以来ではなかろうか。
「そうか。あとそれと、魔理沙でいい。敬語は外してくれた方が嬉しいな。強制はしないぞ」
「善処します……」
初対面で敬語を外すわけにはいかないと個人的に思っている。そのうち外れるかもしれない。ルーミアは例外だ。
「それはそうと魔理沙、今日は無理よ。優希を人里に連れて行かなきゃいけないんだから。というかあんた、丁度いいじゃない!ちょっとその箒で優希を人里まで連れて行ってくれない?おぶるのは疲れるのよ」
箒で連れていく……?まさか魔理沙も飛べるのか。箒で飛ぶというのはまるで魔法使いとか魔女みたいだ。
「ん、そうだな。まぁ、いいぜ。友達記念というやつだ。せっかくだし連れて行ってやるよ優希」
魔理沙はどうやら僕を友達認定したらしい。幻想郷での友達第一号である。そして霊夢の背中に乗る必要がなくなったので、恥ずかしいのもなくなった。
「それではお願いします、魔理沙」
名前だけ敬称が外れているのでなんとも微妙な日本語になっている。つたないよ。
そんなことを考えていると魔理沙は箒にまたがっていて、箒が数十センチ浮いた。
「乗れよ」
魔理沙はそう言った。