D.Gray-man ― DEALT HAND ― 作:からし明太子
「会いたかったよ、ジーク♡」
窓の外から聞こえてきた明るい声に、俺はしばらく何も返せなかった。
返したくなかった、という方が正しい。
アレンとリナリーは交互に俺と窓の外を見ている。
ミランダだけは状況が理解できず、不安そうに三人の顔を窺っていた。
「ジークさん」
「聞くな」
「まだ何も聞いてません」
「これから聞くだろ」
「じゃあ聞きますけど……あの子、誰ですか?」
「面倒な奴」
「ジーク~! 聞こえてるよぉ!」
「聞こえるように言ってる」
窓辺へ近づく。
通りの向こうに立つ少女は、記憶にある姿と何も変わっていなかった。
制服姿に傘。
褐色の肌。
額に刻まれた聖痕。
年若い少女にしか見えない外見と、その中にあるものがまるで釣り合っていない。
ロード・キャメロット。
ノアの一族。
そして、昔から何故か俺を見ると機嫌が良くなる女。
「久しぶり」
ロードがにこにこと手を振る。
「……そうだな」
「あれ? 今日はちゃんと返事してくれるんだ」
「無視したら余計うるさいから」
「ひどいなぁ」
言葉とは裏腹に、楽しそうだった。
アレンが俺の横へ立つ。
その左眼が反応したのか、僅かに顔をしかめた。
「ジークさん」
声が低くなる。
「この人……」
「ああ」
俺はロードから目を離さないまま答えた。
「ノアの一族だ」
部屋の空気が変わった。
リナリーがすぐに構える。
アレンも左腕を前へ出した。
「ノア……?」
ミランダが青ざめる。
「ミランダ、俺たちの後ろに」
「は、はい!」
彼女が慌てて下がる。
ロードはその様子を眺めながら、わざとらしく頬を膨らませた。
「もぉ。いきなりそんな怖い顔しないでよ」
「ノアを見て笑顔になるエクソシストがいたら紹介してくれ」
「ジークは昔、私と一緒に笑ってたじゃん」
「記憶を捏造するな」
「ポーカーの時」
「笑ってない」
「伯爵からお金取った時、すっごく楽しそうだったよ?」
アレンがゆっくりこちらを向いた。
リナリーもだ。
「……ジークさん」
「今そこ拾う?」
「伯爵とポーカーしたって、本当だったんですか?」
「後にして」
「噂じゃなかったんだ……」
リナリーまで。
「今は敵が目の前にいるから!」
何故俺が注意する側になっているのだろう。
ロードは腹を抱えて笑っていた。
「やっぱりジーク面白い!」
「お前が話をややこしくしてるんだよ」
「でもホントでしょ?」
「……証拠は?」
「あははっ!」
駄目だ。
余計喜ばせた。
昔からこうだった。
ロード相手には、適当に受け流そうとしても、強く拒絶しても、どちらにせよ面白がられる。
だったら無視するのが一番なのだが、それすら追いかけてくる。
非常に面倒な相手だった。
ただ面倒だからといって、油断していい相手ではない。
「ロード」
「なぁに?」
「何しに来た」
笑顔は崩れない。
「遊びに」
「帰れ」
「またそれ?」
「遊びで町一つ巻き込む奴と遊ぶ趣味はない」
ロードの目が僅かに細くなった。
俺は壁際の置時計へ視線を移す。
「時計がイノセンスだって分かってるんだろ」
「うん」
「千年伯爵も狙ってるな?」
「さあ?」
「誤魔化す時の顔だな」
「ジーク、私のことよく見てるね♡」
「長い付き合いだと嫌でも覚えるんだよ」
言った瞬間。
隣から妙な視線を感じた。
アレンとリナリーだ。
「何?」
「いえ……」
「何でもないよ」
「絶対何かある顔だろ」
二人とも答えない。
ロードだけが嬉しそうに笑った。
失敗した。
◇
「それよりさ」
ロードが一歩進んだ。
アレンとリナリーの身体へ緊張が走る。
だが彼女が見ているのは二人ではない。
俺だった。
「今日は取らないんだ?」
指先が、自分の右目を指す。
俺の手が無意識に眼帯へ触れた。
「……何を」
「それ」
三点で留めた黒い眼帯。
アレンの表情が変わった。
リナリーも。
「ロード」
俺の声が少し低くなる。
「余計なこと喋るな」
「どうして?」
「俺の話だから」
「秘密なの?」
「お前に関係ない」
「関係あるよ」
ロードが笑う。
ただ、さっきまでとは少し違う。
「ジークがそれを使うと、すごく変な感じするもん」
胸の奥が僅かに冷えた。
ノアだからなのか。
それとも。
ロードが「夢」を司るからなのか。
以前から彼女は、俺の右眼に妙な関心を示していた。
中身までは知らないはずだ。
知られているなら、もっと直接的なことを言う。
それでも、普通のイノセンスとは違う何かを感じているのだろう。
「自分の手札を見せびらかす趣味はない」
「ふぅん」
「残念そうにするな」
「だってあれ面白いんだもん」
「俺は全然面白くない」
使えば頭痛。
出血。
最悪の場合、その場で六時間ほど意識を失う。
娯楽で見せるようなものではない。
ロードは少しだけ唇を尖らせたが、すぐに笑顔へ戻った。
「じゃあ、別の遊びにしよっか」
「断る」
「まだ何も言ってないよ?」
「お前から出てくる遊びにろくなのがないからだ」
「失礼だなぁ」
ロードが傘を持ち上げる。
その瞬間。
「ジーク!」
リナリーの声。
世界が歪んだ。
◇
床が消えた。
いや。
正確には、部屋そのものが消えた。
目の前にいたアレンも、リナリーも、ミランダもいない。
足元には白と黒の市松模様。
遠くまで続く奇妙な空間。
上を見れば天井らしきものもなく、紫とも黒ともつかない空に、巨大な蝋燭や玩具が浮かんでいる。
「……やっぱりこれか」
夢。
ロード・キャメロットの領域。
知識として知っていた。
過去にも何度か引きずり込まれた。
慣れたくなどないのに、嫌でも見覚えがある。
「ジーク!」
遠くからアレンの声がした。
振り返る。
かなり離れた場所。
アレンとリナリーがいる。
ミランダも一緒だ。
「全員いるか!」
「います!」
良かった。
少なくとも分断されてはいない。
そう思った瞬間。
俺と三人の間へ巨大な壁が落ちた。
轟音。
「……おい」
目の前を完全に塞がれた。
「二度手間だろ」
「だって」
背後。
「せっかく久しぶりに会えたんだもん」
振り返る。
ロードが浮いている。
椅子にでも座るような姿勢で、何もない空中へ腰掛けていた。
「少しくらい二人で話したいなって」
「俺は話したくない」
「嘘」
「何を根拠に」
「だって逃げないじゃん」
少しだけ、言葉に詰まった。
「逃がしてくれるのか」
「ううん」
「じゃあ選択肢ないだろ」
「あ、そっか」
「……」
わざとだ。
絶対。
俺はカードケースを開く。
五枚が手元へ滑り出る。
♠3。
♥6。
♦J。
♣4。
♣7。
「ドロー」
ロードが楽しそうに覗き込む。
「今日はどんな手?」
「教えるわけないだろ」
「昔は見せてくれたのに」
「ゲームと戦闘を一緒にするな」
「一緒じゃない?」
「全然違う」
♣4を四方へ投げる。
「《スクエア》」
白銀の線がカード同士を結び、四角い防壁を作る。
まずは足場。
ロードの空間では常識が通じない。
自分の領域を少しでも確保しておいた方がいい。
「相変わらず慎重」
「お前相手に油断するほど長生きしたくないわけじゃない」
「ふふ」
ロードが頬杖をついた。
「ねえ、ジーク」
「何」
「黒の教団、楽しい?」
唐突だった。
「何で」
「だって帰るの嫌がってるじゃん」
眉が動いた。
「……見てたな」
「さあ?」
「気持ち悪いな」
「ひどーい」
俺の言葉など気にした様子もない。
「前から思ってたんだけどさ」
ロードの視線が、俺の黒い団服へ落ちる。
「ヴァイスって、白って意味なんでしょ?」
「そうだけど」
「似合わないね」
「名前に?」
「違うよ」
ロードが笑う。
「白なのに、黒いところにいるのが似合わない」
言われて。
一瞬。
返答が遅れた。
黒の教団。
黒い団服。
ただ、それだけの意味ではないことくらい分かる。
「……お前らのところにいる方が似合わないだろ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「でもジーク、教団のこと信じてないじゃん」
白銀のカードを持つ指に、僅かに力が入った。
ロードは見逃さなかった。
「あ、当たり?」
「何の話だ」
「とぼけても分かるよ」
いつもの笑顔。
けれど声は妙に静かだった。
「ジークって、教団が正しいから戦ってるわけじゃないでしょ?」
「……」
「イノセンスが神様の力だから信じてるわけでもない」
何故。
そう思う。
クロスにも似たことを言われたことはある。
長く一緒にいた師匠だから分かるのは理解できる。
だがロードとは敵同士だ。
何度か遭遇し、戦い、時には――妙な事情で同じ卓を囲んだ程度。
「よく見てるな」
結局、誤魔化すのをやめた。
ロードが嬉しそうに目を細める。
「ジークのこと好きだから」
「軽いな」
「本当だよ?」
「はいはい」
「信じてない」
「お前の好きは、面白い玩具見つけた時の好きだからな」
「むぅ」
珍しく、本気で不満そうだった。
「違うのに」
その声は小さかった。
聞き返そうか迷った。
やめた。
今は戦場だ。
「それより」
俺はカードを構え直す。
「アレンたち返せ」
「やだ」
「即答するな」
「あの子も面白そうなんだもん」
アレン。
原作なら。
ロードがここで強い興味を持つ相手。
14番目の宿主だと、現時点でロードがどこまで知っているのか。
俺にも分からない。
「アレンに手を出すな」
「どうして?」
「弟弟子だから」
「それだけ?」
「十分だろ」
ロードが俺の顔を見る。
「大事なんだ」
「大事だよ」
そこは誤魔化さなかった。
「昔から知ってる」
「へえ」
「だから」
♠3を指へ挟む。
「遊びで壊そうとするなら、止める」
声を荒げたわけではない。
殺気を撒き散らしたわけでもない。
ただ。
ロードの笑顔が、ほんの少しだけ変わった。
「そういう顔するんだ」
「どんな」
「私に会った時よりずっと怖い顔」
「お前に会った時は疲れるんだよ」
「ひどい!」
空気が元へ戻る。
……ように見えた。
だが。
次の瞬間。
無数の蝋燭が俺を向いた。
「じゃあ」
ロードが微笑む。
「守ってみてよ」
「言うと思ったよ!」
◇
蝋燭の先端から、黒い針が放たれた。
「♣7――《セブン・ミラー》!」
七つの虚像。
俺の姿が分裂する。
針が次々に偽物を貫いた。
残った本体が横へ跳ぶ。
「♦J――《ジャック》!」
カードが変形する。
白銀の拳銃。
引き金。
三発。
ロードへ。
彼女の前に奇妙な扉が開き、銃弾が吸い込まれた。
「相変わらず器用だね」
「師匠が何でもやらせるからな」
「クロス?」
「他に誰がいる」
「元気?」
「俺が聞きたいよ!」
さらに撃つ。
ロードは笑いながら避ける。
遊んでいる。
本気で殺すつもりなら、こんなものではない。
だからこそ厄介だ。
「♣2が欲しかったな……」
手元にない。
《チェンジ》があれば壁の向こうへ強引に移動できる可能性がある。
ただしロードの夢空間で正常に働く保証はない。
今ある手札でやるしかない。
――配られた手札で。
「それ好きだね」
「……人の思考読むなよ」
「読んでないよ。顔に出てた」
「嘘だろ」
「ほんと」
ロードが指を鳴らす。
空間が上下逆転した。
「うおっ……!」
身体が落ちる。
上だった場所へ。
咄嗟に♣4の防壁を傾け、足場へする。
着地。
「危なっ」
「あはは!」
「楽しそうだな、お前!」
「楽しいよ!」
「こっちは仕事なんだよ!」
思わず声が大きくなった。
ロードの笑い声が響く。
だが。
その途中。
遠くから爆発音がした。
ロードの笑いが止まる。
俺も顔を上げる。
「……アレン?」
壁の向こう。
何かが起きた。
◇
一方。
アレンたちの側にも、異変は起きていた。
ジークと切り離された直後。
リナリーは壁へ蹴りを叩き込んだ。
「硬い……!」
罅は入る。
だが壊れない。
「僕がやります」
アレンが左腕を構える。
「待って」
リナリーが止める。
「ミランダさんを巻き込むかもしれない」
「あ……」
三人のすぐ後ろには、怯えたミランダがいる。
「すみません」
「いいの」
その時。
暗闇から笑い声。
『見ーツケタ』
アレンの左眼が反応する。
「AKUMA!」
影から現れた。
一体。
二体。
三体。
ロードの遊びに混じって、千年伯爵側のAKUMAまで入り込んでいる。
「リナリー!」
「分かってる!」
黒いブーツ。
足元に緑色の光。
リナリーが跳ぶ。
天井など存在しない空間で、彼女だけが重力を無視するように駆ける。
一体のAKUMAの顔面へ蹴り。
アレンも前へ出る。
「イノセンス発動!」
左腕。
爪。
一撃。
AKUMAが砕ける。
だが。
『アレ?』
残る一体が、アレンではなく。
ミランダを見た。
『ソレ、イノセンス』
「っ!」
ミランダ自身ではない。
抱きしめている置時計。
AKUMAが突進する。
「ミランダさん!」
アレンが割って入る。
左腕。
衝撃。
吹き飛ぶ。
「アレン君!」
身体が床へ叩きつけられた。
「大丈夫……です!」
立つ。
その時。
左眼に。
AKUMAの中の魂が映った。
『タスケテ』
泣いている。
『苦シイ』
「……」
アレンの表情が変わった。
マテールでも見た。
何度見ても慣れない。
「……救います」
左腕を構える。
「あなたも」
AKUMAが砲口を向ける。
「そこから!」
◇
再び爆発。
「……」
俺はロードを睨んだ。
「今のはお前?」
「違うよ」
ロードも少しだけ不満そうだった。
「伯爵の子」
「だったら止めろ」
「どうして?」
「お前が俺をここに閉じ込めたんだろ」
「ジークなら出られるでしょ?」
「簡単に言うなよ」
だが。
時間を掛けている場合ではない。
ロードの遊びに付き合っている間に、アレンたちへ何かあったら笑えない。
カードを見る。
♠3。
♥6。
使用済みの♦J。
使用済みの♣4。
使用済みの♣7。
ドロー。
一枚補充。
♣2。
「……来た」
ロードが気づいた。
「あ」
「悪いな」
俺は♣2を壁へ向かって投げた。
「《チェンジ》!」
空間がねじれる。
俺とカードの位置が入れ替わる。
普通なら。
だが。
「っ!」
身体が途中で引かれた。
ロードの夢が空間そのものを掴んでいる。
耳鳴り。
視界が二重になる。
「無茶するなぁ」
ロードの声。
「お前が言うな!」
カードとの位置関係を無理やり固定する。
《アルカナ・デック》とロードの夢。
二つの空間干渉が噛み合わない。
吐き気が込み上げる。
それでも。
「行け……!」
白銀の光。
一瞬。
世界が切れた。
◇
「――っ!」
次に足が床へ着いた時。
俺は壁の反対側へ出ていた。
「ジーク!」
リナリー。
良かった。
いる。
ミランダも。
アレンは――。
前方。
AKUMAと戦っている。
左腕で攻撃を受け止め。
魂を見ている。
俺はそれを見て、動きを止めた。
手を出す必要がない。
いや。
ここは。
アレンがやるべきだ。
「アレン!」
声だけ投げる。
アレンが一瞬こちらを見る。
「ジークさん!」
「後ろは俺たちが見る!」
一瞬。
アレンの表情から迷いが消えた。
「お願いします!」
それで十分。
俺はミランダの前へ立つ。
「大丈夫?」
「は、はい」
「時計離すなよ」
「でも私が持ってたら……」
「だから守りやすい」
ミランダが息を呑む。
「失くしたら困るだろ」
時計。
イノセンス。
そして。
たぶん彼女の人生を変えるもの。
「……はい!」
しっかり抱き直した。
「リナリー」
「うん!」
残った一体が横から迫る。
リナリーの蹴り。
俺の♠3。
同時。
AKUMAの姿勢が崩れる。
「今!」
アレンが飛び込んだ。
左腕。
白い光。
AKUMAの身体を貫く。
『ア――』
崩壊。
粒子。
そして。
アレンにしか見えない魂が、解放される。
「……」
俺には見えない。
昔から。
この瞬間だけは。
少し羨ましいと思う。
同時に。
見えない方がいいとも思う。
あの目で毎回魂の苦痛を見るアレンが、どれだけのものを背負っているのか。
俺には完全には分からない。
「終わりました」
アレンが振り返る。
「怪我は?」
「大丈夫です」
「本当?」
「ジークさんまでリナリーさんみたいになってますよ」
「悪い?」
「いえ」
少し笑う。
「何か安心します」
そんなこと言われたら何も言えない。
「……ならいい」
その時。
拍手が聞こえた。
ぱち。
ぱち。
ぱち。
「すごーい」
ロード。
壁の上。
いつの間にか座っていた。
アレンの顔が強張る。
「あなたが……ノア」
「そ」
ロードが足をぶらつかせる。
「ロード・キャメロット」
アレンを見る。
「あなたがアレン?」
「……そうです」
「ふぅん」
じっと見る。
そして。
「クロスの弟子?」
「はい」
「ジークの弟弟子?」
「……はい」
何故そちらを確認する。
嫌な予感。
ロードがにっこり笑った。
「じゃあ仲良くしよっか」
「何でそうなる」
思わず割って入った。
「ジークには聞いてないよ」
「アレン。こいつの仲良くしようは信用するな」
「ジークさんが言うと説得力ありますね」
「どういう意味?」
「長い付き合いみたいなので」
「そこ掘り返す?」
ロードが笑う。
「長いよねぇ」
「否定すると喜ぶからもうしない」
「じゃあ認めるんだ♡」
「……面倒くさい」
リナリーが俺とロードを交互に見ている。
何だ、その目は。
アレンも似たような顔をしている。
「お前ら何か言いたいなら言え」
「後で聞きます」
「私も」
「……帰ったら忘れててくれない?」
二人とも無言だった。
絶対忘れない顔だ。
◇
ロードの笑顔が、ふっと消えた。
次の瞬間。
空気が変わった。
俺は反射的にカードを構える。
「来るぞ」
「何が?」
アレンが聞く。
答える前に。
夢空間の奥から。
重い足音。
そして。
陽気で。
聞き覚えがありすぎる声。
「ロードォ~」
俺は目を閉じた。
「……最悪だ」
「さっきも言ってましたよ」
「今回はさっきより最悪」
闇の奥。
巨大な影。
丸い身体。
帽子。
特徴的な笑顔。
千年伯爵。
アレンとリナリーの緊張が一気に高まる。
ミランダは声すら出ない。
伯爵は俺たちを見る。
まずアレン。
次にリナリー。
ミランダ。
そして。
俺。
動きが止まった。
「…………」
嫌な沈黙。
「久しぶり」
一応、挨拶してみた。
伯爵の笑顔が引き攣った。
「オマエェェェェェェ!!」
「うるさっ」
「ワタシのお金を返しなサァァァァイ!!」
アレン。
リナリー。
ミランダ。
三人の視線が。
ゆっくり俺へ集まった。
「……」
俺は数秒考えて。
「人違いだ」
「そんなワケあるかァァァァァ!!」
ロードの笑い声が。
夢の空間いっぱいに響いた。