D.Gray-man ― DEALT HAND ―   作:からし明太子

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第七話 千年伯爵と白い手札

 

 

「ワタシのお金を返しなサァァァァイ!!」

 

 夢の空間に響き渡った千年伯爵の絶叫を聞きながら、俺はしばらく何も言えなかった。

 

 いや、正確には。

 

 何を言っても状況が悪化する未来しか見えなかった。

 

 俺の隣では、アレンとリナリーが完全にこちらを見ている。

 

 ミランダまでだ。

 

 ロードだけが楽しそうに笑い転げていた。

 

「あはははっ! 伯爵、まだ怒ってる!」

 

「当たり前ですヨォ! あの夜、ワタシがどれだけ――!」

 

「伯爵」

 

 俺は片手を上げる。

 

「一つ確認していい?」

 

「何ですカ!!」

 

「今、戦争中だよな?」

 

「そうですヨ!!」

 

「なら金の話は後にしない?」

 

「オマエが言うナァァァ!!」

 

「ジークさん」

 

 アレンの声が妙に冷たい。

 

 振り返る。

 

「何?」

 

「本当に何したんですか?」

 

「ポーカー」

 

「それは聞きました」

 

「勝った」

 

「どれくらい?」

 

「……」

 

 黙った。

 

 アレンの目が細くなる。

 

「ジークさん?」

 

「金額まで覚えてない」

 

「嘘ですね」

 

「何で分かる」

 

「昔からそういう時、目を逸らすので」

 

 弟弟子というものは、余計なところまでよく見ている。

 

「後で話す」

 

「絶対ですよ」

 

「生きて帰ったらな」

 

 軽く言ったつもりだった。

 

 だが。

 

 アレンの表情が一瞬だけ固くなった。

 

 俺自身も気づく。

 

 今いる場所。

 

 目の前の相手。

 

 千年伯爵。

 

 ノア。

 

 AKUMA。

 

 笑っていられる状況ではない。

 

 ロードも、さっきまでの笑みを残しているが、目だけは俺たち全員を見ていた。

 

 伯爵の方も。

 

 俺への私怨で叫んでいたのが嘘のように、少しずつ表情を変える。

 

「さて」

 

 声が落ち着いた。

 

 その瞬間。

 

 空気まで重くなったように感じた。

 

 これだ。

 

 これが千年伯爵。

 

 前世では何度も漫画で見た。

 

 クロスと行動してからは、実際に何度か遭遇した。

 

 それでも慣れない。

 

 笑っている。

 

 なのに身体のどこかが、こいつから離れろ。

 

 そう訴えている。

 

「エクソシストが三人」

 

 伯爵の視線が動く。

 

 アレン。

 

 リナリー。

 

 俺。

 

 最後にミランダ。

 

「そして、イノセンス」

 

 ミランダが抱えている置時計へ視線が向いた。

 

「ミランダ」

 

「は、はい……!」

 

「後ろへ」

 

 俺が一歩前へ出る。

 

 アレンとリナリーも並んだ。

 

 伯爵が俺を見て、笑みを深める。

 

「相変わらずですねェ、ヴァイス」

 

「何が」

 

「自分が一番前に立つ」

 

「後ろに一般人いるんだから普通だろ」

 

「昔からそうやって余計なものを拾ってばかり」

 

「師匠にも似たようなこと言われたよ」

 

「クロスですカ」

 

 僅かに。

 

 伯爵の声が変わった。

 

 その変化は小さい。

 

 けれど、長くクロスの弟子をやってきた俺には引っ掛かった。

 

「……師匠がどうかした?」

 

「さあ?」

 

 笑顔で誤魔化された。

 

 ロードと同じだ。

 

 この連中は、人を苛立たせるのが上手い。

 

「ジークさん」

 

 アレンの声。

 

「今は時計です」

 

「分かってる」

 

 そうだ。

 

 今考えることではない。

 

 俺はカードケースへ手を伸ばした。

 

「《アルカナ・デック》」

 

 銀のケースが開く。

 

 白銀の光。

 

 五枚。

 

 新しい手札が指の間へ滑り込んだ。

 

 ♠8。

 

 ♥3。

 

 ♦6。

 

 ♣5。

 

 ♣Q。

 

「……悪くない」

 

 伯爵が興味深そうにこちらを見る。

 

「その玩具も、随分使いこなすようになりましたネェ」

 

「おかげさまで」

 

「ワタシのお金で買ったものでは?」

 

「違う」

 

「そういう意味じゃナイ!!」

 

 また怒った。

 

「伯爵ぅ」

 

 ロードが呆れたように笑う。

 

「もうお金のこといいじゃん」

 

「よくありませんヨ!!」

 

「俺もそう思う」

 

「オマエは黙れェ!!」

 

 ほんの一瞬。

 

 アレンが吹き出しそうになったのが見えた。

 

 すぐ真顔へ戻ったが。

 

 こういうところはまだ子供だなと思う。

 

 十五歳なのだから当然なのだが。

 

 ――その時。

 

 伯爵の傘がこちらへ向いた。

 

「避けろ!」

 

 考えるより先に声が出た。

 

 黒い光。

 

 アレンとリナリーが左右へ跳ぶ。

 

 俺はミランダの前。

 

「♣Q――《聖幕》!」

 

 クイーンのカードを床へ突き立てる。

 

 白銀の膜が広がった。

 

 視覚。

 

 音。

 

 熱。

 

 存在感。

 

 俺とミランダの輪郭が世界から薄れていく。

 

 伯爵の一撃が僅かに方向を逸らした。

 

 後方。

 

 壁が消し飛ぶ。

 

「ひっ……!」

 

 ミランダが息を呑む。

 

「大丈夫」

 

 俺は振り返らない。

 

「俺から離れないで」

 

「は、はい!」

 

 だが、《聖幕》は万能ではない。

 

 伯爵やノアのような相手には、完全に存在を消しきれない。

 

 まして俺が高出力の攻撃を使えば、すぐ破綻する。

 

「アレン!」

 

「はい!」

 

「時計から離す!」

 

 アレンが地面を蹴る。

 

 左腕が巨大化し、伯爵へ。

 

 しかし。

 

「アレン!」

 

 ロードだ。

 

 一瞬で間へ入り込む。

 

「っ!」

 

 アレンの腕が止まった。

 

 笑顔に騙されたな。

 

 ロードはまるで遊び相手を見つけた子供のようにアレンを見る。

 

「やっぱり面白いね、君」

 

「どいてください!」

 

「嫌」

 

「なら――!」

 

 アレンが振る。

 

 ロードの身体を貫いた。

 

「――!」

 

 だが、手応えがない。

 

 ロードの身体が夢のように歪む。

 

 そして、背後から。

 

「こっち」

 

「アレン君!」

 

 リナリーの声と共に蹴りによる一蹴。

 

 ロードが跳ぶ。

 

「あはっ」

 

「笑ってる場合!?」

 

 リナリーが追う。

 

 彼女のダークブーツが床を蹴るたび、黒と緑の光が走る。

 

 その間に、俺は伯爵からミランダを引き離す。

 

「走れる?」

 

「はい!」

 

「時計を落とさないで」

 

「でも、私のせいで――」

 

「それ今考えなくていい」

 

「でも!」

 

「ミランダ」

 

 足を止めずに言う。

 

「お前が持ってるから狙われてる」

 

「……」

 

「だからこそ、俺たちが守る」

 

 ミランダが俺を見る。

 

「それが仕事」

 

「……どうして」

 

「何が?」

 

「どうして、そこまで」

 

 質問の意味は分かった。

 

 自分は失敗ばかり。

 

 仕事も続かない。

 

 町を巻き戻した。

 

 今もエクソシストを危険に巻き込んでいる。

 

 だから自分なんかのために、そういう顔だった。

 

「理由いるか?」

 

「え……」

 

「目の前にいるから」

 

 それだけだ。

 

 俺は聖人ではない。

 

 世界中の全員を救いたいなんて大それたことも思っていない。

 

 無理なものは無理だと知っている。

 

 でも、目の前で助けを求めている人間を自分に助けられる可能性があるのに。

 

「見捨てる方が、後味悪い」

 

 ミランダが目を見開いた。

 

「それだけ」

 

 綺麗な理由ではない。

 

 けれど、俺には十分だった。

 

     ◇

 

 空間が揺れた。

 

「っ……」

 

 町が。

 

 夢が。

 

 置時計の力とロードの夢が重なっている。

 

 時間感覚が壊れる。

 

 遠くから何度も同じ鐘の音。

 

 同じ人の声。

 

 同じ馬車の音。

 

 そして。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 同じ瞬間へ戻る。

 

「時間が……!」

 

 リナリーが気づく。

 

 ロードの攻撃を避けた直後。

 

 位置が戻った。

 

 数秒前。

 

 そして再び。

 

「面倒だな……!」

 

 俺は舌打ちした。

 

 ミランダのイノセンス。

 

 《タイムレコード》。

 

 対象の時間を復元する力。

 

 この町全体へ無意識に作用している。

 

「ジークさん!」

 

 アレンの声。

 

「分かってる!」

 

 伯爵の攻撃。

 

 避ける。

 

 だが次の瞬間。

 

 また同じ場所。

 

 もう一度来る。

 

 今度は分かっている。

 

「♣5――《ミスディレクション》!」

 

 空間認識をずらす。

 

 伯爵の攻撃が俺の脇を抜けた。

 

「ほう」

 

 伯爵の目が細くなる。

 

「先ほどより上手く避けましたネ」

 

「二回も同じ攻撃見ればな」

 

 正確には、巻き戻し。

 

 この現象、使いようによっては⋯⋯

 

「ミランダ!」

 

「はい!」

 

「今、何考えてた!?」

 

「え!?」

 

「時間を戻した時!」

 

「わ、分かりません!」

 

「何でもいい!」

 

 ミランダが混乱する。

 

「みんなが……」

 

 震える声。

 

「みんなが死なないでって……!」

 

 やはり、本人の意思か⋯⋯

 

 イノセンスが、それに応えている。

 

「じゃあそのまま!」

 

「え?」

 

「止めなくていい!」

 

 アレンがこちらを見る。

 

「ジークさん?」

 

「今は!」

 

 伯爵側を睨む。

 

「この力がある限り、即死さえしなければやり直せる!」

 

 酷い言い方だ。

 

 分かっている。

 

 だが戦場で綺麗事だけでは守れない。

 

「リナリー!」

 

「うん!」

 

「ロードを!」

 

「分かった!」

 

「アレン!」

 

「伯爵ですね!」

 

「いや!」

 

 アレンが止まる。

 

「AKUMA!」

 

 夢空間の奥。

 

 新たな気配。

 

 何体も。

 

「伯爵本人を今倒せるなんて思うな!」

 

 アレンの顔が悔しそうに歪む。

 

 でも、すぐに頷いた。

 

「……はい!」

 

 これでいい。

 

 強い相手へ向かうことと。

 

 勝てない相手へ無策で挑むことは違う。

 

 アレンは優しい。

 

 だからこそ。

 

 時々、自分の命を勘定から外す。

 

 それが怖い。

 

     ◇

 

 AKUMAが三体。

 

 アレンが正面。

 

 俺が横。

 

「一体任せる!」

 

「二体でもいけます!」

 

「新人が調子乗るな」

 

「クロス師匠のところで何年戦ってると思ってるんです?」

 

「それもそうか」

 

「ジークさん!」

 

「冗談!」

 

 ♠8。

 

 八枚。

 

 投擲。

 

 光の刃が一体のAKUMAを取り囲む。

 

 同時着弾。

 

『ギャアアア!』

 

「硬い」

 

 Level2。

 

 さっきより上。

 

「アレン!」

 

「はい!」

 

 アレンの左腕が伸びる。

 

 俺が作った裂け目へ。

 

 一撃による破壊。

 

 その中からは、アレンにしか見えない魂。

 

 彼の表情が一瞬だけ揺れる。

 

「……救済を」

 

 呟き、次へ向かう。

 

 それを何度も俺は見ている。

 

 毎回、あいつは敵を倒している顔ではない。

 

 誰かを助けようとしている顔をする。

 

 だから、強い。

 

 そして、危うい。

 

「左!」

 

「分かってます!」

 

 もう一体。

 

 砲弾。

 

 俺は♥3を展開。

 

「《ライフ・シールド》!」

 

 白銀の膜。

 

 直撃を逸らすが、完全には防げない。

 

 肩へ衝撃を感じる。

 

「っ!」

 

「ジークさん!」

 

「前見ろ!」

 

 アレンが振り返りかける。

 

「俺は平気!」

 

 痛い。

 

 普通に痛い。

 

 肩が痺れる。

 

 でも動く。

 

 それなら十分だ。

 

「……くそ」

 

 息を吐く。

 

 右目。

 

 眼帯の奥が僅かに疼く。

 

 一瞬、外したくなる。

 

 もっと楽に避けられるだろう。

 

 もっと早く終わらせられるだろう。

 

 でも⋯⋯

 

「……駄目だ」

 

 自分で止める。

 

 この程度で使うな。

 

 今ある手札で勝て。

 

「ジーク?」

 

 遠くからロードの声。

 

 戦いながら。

 

 彼女はこっちを見ていた。

 

 リナリーの蹴りを夢の扉で受け流しながら。

 

「取らないの?」

 

「取らない!」

 

「ふぅん」

 

 少しだけ笑う。

 

「偉いね」

 

「お前に褒められても嬉しくない!」

 

     ◇

 

 何度目か。

 

 時間が巻き戻る。

 

 砕けた床が戻る。

 

 傷が消える。

 

 ただし、記憶は残る。

 

 疲労も。

 

 精神も。

 

「はぁ……っ」

 

 ミランダの呼吸が荒い。

 

 俺は気づいた。

 

「ミランダ?」

 

「だ、大丈夫です」

 

「嘘」

 

 膝が震えている。

 

 時計の力を維持する負担。

 

 今まで無意識だった時とは違う。

 

 本人が強く望み続けている。

 

「無理するな」

 

「でも!」

 

 ミランダが俺を見る。

 

「私が止めたら……皆さんが」

 

 俺は言葉を失った。

 

 さっきまで自分なんか、と言っていた人間が。

 

 今は自分が傷つくことより俺たちを心配している。

 

 イノセンスというものは、本当に。

 

「……勝手だな」

 

「え?」

 

「何でもない」

 

 人間を選ぶ。

 

 そして、選ばれた人間は否応なく何かを背負う。

 

 俺も。

 

 アレンも。

 

 リナリーも。

 

 神田も。

 

 そして今。

 

 ミランダも。

 

「あと少し」

 

 俺は言った。

 

「無理なら止めろ」

 

「でも」

 

「死なない」

 

 自信なんてない。

 

 それでも。

 

「俺たちが何とかする」

 

 ミランダは。

 

 しばらく俺を見て。

 

 小さく。

 

「……はい」

 

 頷いた。

 

     ◇

 

 戦いは突然終わった。

 

 正確には千年伯爵が終わらせたが。

 

「ロード」

 

「なぁに?」

 

「今日はここまでにしましょう」

 

「えー?」

 

「目的は確認できました」

 

 伯爵の視線は最初時計に向かい。

 

 ミランダ。

 

 そしてアレン。

 

 俺へと移る。

 

「面白いものも見られましたしネ」

 

「人を見世物扱いするな」

 

「オマエには言ってませんヨ」

 

「じゃあ誰」

 

 伯爵は答えなかった。

 

 だが、アレンを見ている。

 

 嫌な感じだ。

 

 原作知識。

 

 14番目。

 

 ネア。

 

 この時点で、伯爵は何を知っている?

 

 俺にも分からない。

 

「帰るの?」

 

 ロードが伯爵へ聞く。

 

「ええ」

 

 ロードは少し不満そうだった。

 

 そして、俺を見る。

 

「ジーク」

 

「何」

 

「今度はもっとゆっくり遊ぼうね」

 

「嫌だ」

 

「即答」

 

「毎回言ってる」

 

 ロードが笑う。

 

 そのまま消える直前。

 

「ねえ」

 

 耳元に囁くような声だ。

 

「黒いところが嫌になったら」

 

 俺の目が細くなる。

 

「いつでもこっちに来ていいよ」

 

 アレンとリナリーも聞いている。

 

「ロード」

 

「ん?」

 

「何回言われても答え同じだ」

 

「まだ聞いてない」

 

「行かない」

 

 ロードが少しだけ目を細める。

 

「どうして?」

 

 答えは簡単だった。

 

「お前らが正しいわけでもないからな」

 

 教団を信用しきっているわけではない。

 

 イノセンスを神聖視しているわけでもない。

 

 それでも、ノアへ行く理由にはならない。

 

「そっか」

 

 ロードは、何故か少し嬉しそうに笑った。

 

「じゃあまたね、ジーク」

 

 夢のように消えるロード。

 

 伯爵も。

 

「お金は返してもらいますからネェェェ!!」

 

「最後までそれかよ!」

 

 耳障りな声だけが残る。

 

 静寂。

 

「…………」

 

 俺はしばらくその場に立っていた。

 

 そして、横を見る。

 

 アレン。

 

 リナリー。

 

 ミランダ。

 

 三人とも俺を見ている。

 

「……何」

 

 アレンが口を開く。

 

「説明してください」

 

 リナリーも。

 

「必要だよね」

 

 ミランダまで。

 

「あの……私も、ちょっと気になります」

 

「ミランダまで?」

 

 逃げ道がなくなった。

 

「……帰ってからでいい?」

 

「駄目です」

 

 アレン。

 

「今して」

 

 リナリー。

 

「……」

 

 俺は天を仰いだ。

 

「分かったよ」

 

     ◇

 

 数時間後。

 

 町の時間は初めて翌日へ進んだ。

 

 朝日に照らされる、昨日とは違う人々の行動。

 

 違う会話。

 

 違う風景。

 

 ミランダは、それを窓から見ながら泣いていた。

 

「……明日だ」

 

 小さく。

 

「明日になった……」

 

 俺たちは何も言わなかった。

 

 言う必要もなかった。

 

 やがて置時計のイノセンスが、ミランダへ完全に反応する。

 

 適合者。

 

 新しいエクソシストだ。

 

 人生に失敗したと思い続けていた女が、今度は誰かの時間を守る側になる。

 

「ミランダさん」

 

 アレンが笑う。

 

「一緒に行きませんか?」

 

 ミランダが戸惑う。

 

「私が……?」

 

 リナリーも微笑んだ。

 

「うん」

 

「でも私、何もできないし……」

 

 俺は壁へ寄りかかりながら言う。

 

「できるようになればいい」

 

 三人がこちらを見る。

 

「最初から何でもできる奴なんていない」

 

「ジークさんは?」

 

 アレンが余計なことを言う。

 

「俺?」

 

「最初からカード使えたんじゃ?」

 

「十二歳でAKUMA相手に半泣きだったよ」

 

「えっ」

 

 ミランダが驚く。

 

「その話初めて聞いた」

 

 リナリーまで。

 

「今言う必要あった?」

 

 アレンが笑っている。

 

「ジークさんにもそういう時期あったんですね」

 

「俺を何だと思ってるんだよ」

 

 思わず苦笑した。

 

「俺だって普通に怖かった」

 

 今だって、怖い。

 

 ただ怖いまま動く方法を覚えただけだ。

 

「だから」

 

 ミランダを見る。

 

「向いてるかどうかなんて、やってから決めればいいんじゃない?」

 

「……」

 

 ミランダが置時計へ触れる。

 

 そして、ゆっくり頷いた。

 

「私……行きます」

 

 声は震えていた。

 

 でも、今までより少しだけ強かった。

 

     ◇

 

 帰路。

 

 列車の中、ミランダは疲れ果てて眠っていた。

 

 リナリーも、その向かいでうとうとしている。

 

 アレンだけが起きていた。

 

「ジークさん」

 

「何」

 

「ロードって人」

 

「うん」

 

「前から知ってたんですよね」

 

「まあ」

 

「どこで会ったんです?」

 

「色々」

 

「色々?」

 

「長い話」

 

「伯爵とのポーカーも?」

 

「それも長い」

 

「全部長いですね」

 

「人生ってそういうものだよ」

 

「誤魔化さないでください」

 

 俺は窓の外へ逃げるように視線を向けた。

 

 既に夜の帳が降り始めている。

 

 遠ざかる町の灯。

 

「……そのうち話す」

 

「本当ですか?」

 

「話せる範囲なら」

 

 アレンは少し黙った。

 

「ジークさん」

 

「今度は何」

 

「ロードから誘われてましたよね」

 

 やっぱりそこか。

 

「昔からだよ」

 

「ノア側に?」

 

「そう」

 

「怖くないんですか?」

 

 少し考える。

 

「怖いよ」

 

「そう見えませんでした」

 

「慣れてるだけ」

 

 俺は右目の眼帯へ触れた。

 

「怖くなくなったわけじゃない」

 

 伯爵も。

 

 ロードも。

 

 ノアも。

 

 AKUMAも。

 

 何度会っても。

 

 怖いものは怖い。

 

 ただ。

 

「怖いからって、言うこと聞く理由にはならないだろ」

 

 それを聞いたアレンは、少しだけ笑った。

 

「ジークさんらしいです」

 

「そう?」

 

「はい」

 

 しばらく、列車の音だけが静寂を包んだ。

 

 その後、アレンが小さく言った。

 

「僕も」

 

「ん?」

 

「僕も、そうありたいです」

 

 俺は横を見る。

 

 白い髪。

 

 まだ十五歳。

 

 それでもこれから、嫌というほど選択を迫られる。

 

 原作を知っている俺には、少なくともその一部が分かっている。

 

「……無理に俺みたいになる必要ないよ」

 

「え?」

 

「お前はお前でいい」

 

「でも」

 

「俺だって正解ばっかり選んできたわけじゃない」

 

 むしろ、間違えたことの方が多い。

 

 助けられなかった人もいる。

 

 失った人もいる。

 

「その時になったら」

 

 窓の外を見る。

 

「自分で決めろ」

 

「……はい」

 

「どうしても決められなかったら」

 

 少し笑う。

 

「相談くらいなら乗る」

 

 アレンも笑った。

 

「兄弟子として?」

 

「一応な」

 

「一応なんですか?」

 

「そこは重要?」

 

「重要です」

 

「じゃあ兄弟子として」

 

「はい」

 

 納得したらしい。

 

 そのままアレンも目を閉じた。

 

 少しして、寝息が聞こえてくる。

 

 そして、俺だけが残った。

 

「……」

 

 窓へ映る自分の姿。

 

 黒髪。

 

 眼帯。

 

 黒の団服。

 

 ロードの言葉。

 

『白なのに、黒いところにいるのが似合わない』

 

 教団を信じているわけではない。

 

 ノアを信じてもいない。

 

 神様だって、正直いるのかどうかすら分からない。

 

 それでも今は。

 

 眠っているアレン。

 

 リナリー。

 

 ミランダ。

 

 黒の教団には、帰れば待っている人間がいる。

 

「……それで十分だろ」

 

 誰に言うでもなく、そう呟いた。

 

 いつか、その答えでは足りなくなる日が来ることを。

 

 俺はまだ、本当の意味では知らなかった。

 

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禪院家の二十五代目当主の三兄弟の三男として生まれたオリ主。名を"禪院龍甚"術式は禪院家相伝に非常に似通った術式【百竜夜行】▼モンスターを調伏《狩猟》する事で操り、狩猟したモンスターの装備を纏う事で力を発揮する。▼※フロンティア・ストーリーズのみの登場であるモンスターは、今作に登場しません。▼↓主人公の見た目の特徴を言ってなかったのでここに…


総合評価:438/評価:5.93/連載:36話/更新日時:2026年09月27日(日) 12:34 小説情報


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