メガコーポは一日にして成らず ~転生特典と未来技術で始める巨大企業創業記~   作:すすぺっと

3 / 6
第3章「SYSTEM」

「……まだあるのか?」

 

思わずそう聞き返すと、ヴェラは当然のように頷いた。

 

俺は死んで、別世界へ転生した。

 

目を覚ましたら2038年の地球でアメリカ人になっていて、人類は異世界へ進出し、その向こうには架空だと思っていた魔力まで実在していた。

 

朝からこれだけ常識を壊されているというのに、まだ追加があるらしい。

 

こちとら昨日死んだばかりなんだが。変化が多すぎやしないだろうか。

 

そんな感想を抱きつつ、ヴェラの話に耳を傾ける。

 

「あなたのために用意された転生特典です」

 

「転生特典」

 

ようやく異世界転生らしい単語が出てきた。

 

「正式名称は、SYSTEM(システム)です」

 

「システム?」

 

「今のはSYSTEMです。普通のシステムとは発音が違います」

 

「……分かりづらいな」

 

「私に言われましても」

 

それはそうだ。

 

「で、そのSYSTEMってのはどうやって使う?」

 

「すでに使用できますよ」

 

「は?」

 

次の瞬間、視界に文字が浮かび上がった。

 

【SYSTEM】

 

《利用者》エリック・ウォーカー

《初期SP》100

《状態》初期化完了

 

「……おい」

 

反射的に顔を背ける。

 

表示も一緒についてきた。

 

目を閉じてみる。それでも消えない。

 

瞼の裏へ投影されているという感じでもない。ただ、見ようと思えばそこにあり、意識を外せば邪魔にならない程度まで薄くなる。

 

「これ、俺にしか見えてないのか?」

 

「基本的には」

 

「基本的には?」

 

「私はSYSTEMへのアクセス権を持っていますから、あなたが何を開いているかは分かります」

 

「そこまで分かるのか」

 

ヴェラは当然のことのように頷いた。

 

俺はもう一度、表示へ意識を戻す。

 

【SYSTEM】

 

【ステータス】

【スキル】

【適性】

【ミッション】

【ガチャ】

 

《所持SP》100

 

試しにステータスを開きたいと思う。

 

それだけで表示が切り替わった。

 

「意識するだけでいいのか」

 

「慣れれば、もっと自然に操作できますよ」

 

「十分おかしな操作方法だけどな」

 

表示された内容へ目を向ける。

 

【ステータス】

 

《名前》エリック・ウォーカー

《年齢》36歳

 

《筋力》11

《体力》12

《敏捷》10

《知力》14

《精神》13

《魅力》12

《魔力》未評価

 

《SP》100

 

「…………」

 

数字が並んでいる。

 

それは分かる。

 

問題は、その数字が高いのか低いのかまったく分からないことだった。

 

「ヴェラ」

 

「はい」

 

「これ、高いのか低いのか全然分からないんだが」

 

「一般的な成人男性なら、10前後が平均的な範囲です」

 

「じゃあ、ほとんど普通じゃないか」

 

「知力と精神は平均より高めですね」

 

「14ってどのくらいだ?」

 

「平均より明確に上です。15前後になれば、一般的にはかなり高い部類ですね」

 

なるほど。

 

少なくとも、転生した瞬間から超人になっていたわけではないらしい。

 

「で、魅力12」

 

「そこが気になります?」

 

「数字を付けられたら気になるだろ」

 

「魅力は容姿だけではありません。雰囲気、話し方、対人印象なども含めた総合評価です」

 

「それで12か」

 

「平均より上ですよ」

 

何とも微妙な気分だった。

 

最後に残った項目へ目を移す。

 

魔力。

 

未評価。

 

「これは?」

 

「現時点では測定条件を満たしていません」

 

「あるかないかも、まだ分からない?」

 

「はい」

 

何でも最初から教えてくれるわけではないらしい。

 

俺はステータスを閉じ、次にスキルを開いた。

 

【スキル】

 

《調達》Lv.4 パッシブ

《交渉》Lv.3 パッシブ

《管理》Lv.3 パッシブ

《経営》Lv.1 パッシブ

《財務》Lv.1 パッシブ

 

「調達が4で、経営は1か」

 

妙に納得できる。

 

会社員として長くやってきた分野と、自分では一度も経験したことのない会社経営。同じ数字だったら、むしろSYSTEMの方を疑っていたところだ。

 

俺は《調達》へ意識を向ける。

 

表示がさらに切り替わった。

 

【スキル詳細】

 

《名称》調達

《Lv.》4

《種別》パッシブ

《効果範囲》調達・仕入れ・供給管理

 

《効果》

物品・部材・設備などの調達において、

価格・品質・納期・供給安定性などの

情報整理と比較判断を補助する。

 

取引先や供給上のリスクを

把握しやすくなる。

 

《発動》常時

 

「ずいぶん詳しく出るんだな」

 

「スキルを選択すれば、効果や適用範囲を確認できます」

 

「パッシブってことは、使おうと思わなくても効いてる?」

 

「はい。条件を満たしている間は常時です。逆に、意識して発動するアクティブスキルもあります」

 

「今の俺には?」

 

「少なくとも、ここに表示されているものはすべてパッシブですね」

 

もう一度《調達》の説明を見る。

 

値段が勝手に下がるわけでもないし、最適な仕入先を自動で教えてくれるわけでもない。見積もりを取って比較し、相手と交渉して決めるのは俺自身だ。

 

SYSTEMがやるのは、その過程での判断を助けることらしい。

 

「レベルは上がるのか?」

 

「上がります」

 

「どうやって?」

 

「使ってください」

 

あまりにも簡潔な答えに、俺はヴェラを見る。

 

「それだけ?」

 

「勉強する。仕事をする。交渉する。失敗する。原因を考えて次へ活かす。そうした経験をSYSTEMが成長へ反映します」

 

「同じことを繰り返してれば、そのうち上がるとか?」

 

「意味のない反復では効率が落ちます。新しい経験や、より難しい課題へ取り組む方が成長につながります。それに、高いレベルほど簡単には上がりません」

 

ゲームのようでいて、そこまで都合よくはないらしい。

 

俺はスキル一覧へ戻った。

 

調達Lv.4だから何でも買えるわけではないし、交渉Lv.3だから相手が必ず条件を呑むわけでもない。

 

それでも、実際に積んだ経験が能力へ反映されていく。

 

「……これ、かなり強くないか?」

 

「そう思います?」

 

「思うだろ。やったことが無駄になりにくいってことだろ?」

 

「正確には、経験を成長へ反映しやすくする機能ですね。何もしなくても能力が上がるわけではありません」

 

「それでも十分だ」

 

勉強した時間も、経験した仕事も、失敗して覚えたことも、これまで以上に自分の力へつながっていく。

 

すぐに結果が出る能力ではないが、積み重ねるほど差が出てくる。

 

俺はメニューへ戻った。

 

次に目に入ったのは、ガチャだった。

 

「……本当にあるんだな」

 

「何がです?」

 

「ガチャ」

 

項目を開く。

 

【通常ガチャ】

 

《消費SP》100

《所持SP》100

 

ちょうど1回分だった。

 

「今、引ける?」

 

「はい」

 

さらに詳細へ意識を向ける。

 

【通常ガチャ・詳細】

 

《排出カテゴリ》

技術情報/素材・アイテム/装置・工具

スキル/SYSTEM拡張/その他

 

《レアリティ》

N/R/SR/SSR/UR

 

《消費SP》100

 

「技術も出るのか?」

 

「出る可能性はあります」

 

「どういう形で?」

 

「それは、実際に取得する内容によりますね」

 

「そこは一律じゃないのか」

 

「はい」

 

設計に関するものなのか、何かの理論なのか、それとも別の形なのか。

 

少なくとも、表示だけではそこまで分からない。

 

「素材とか装置は、そのまま物が出てくる?」

 

「実物として取得するものもあります」

 

「で、SYSTEM拡張って?」

 

「現在のSYSTEMへ機能を追加したり、既存機能を拡張したりするものです」

 

「具体的には?」

 

「何が排出されるかまでは分かりません」

 

「そこは教えてくれないのか」

 

「ガチャですから」

 

それを言われると何も返せない。

 

「他にもガチャはあるのか?」

 

「今、利用できるものはそれだけです」

 

「じゃあ、増える可能性は?」

 

「現時点では回答できません」

 

きっぱりしている。

 

使える機能については教えるが、まだ俺が使えないものまで先回りして説明してくれるわけではないらしい。

 

俺は通常ガチャへ意識を戻した。

 

「レアリティは、高ければ高いほどいいのか?」

 

「希少性や価値の目安にはなります。ただし、今のあなたに役立つかどうかとは別です」

 

「SSRを引いても持て余すことがある?」

 

「十分あり得ます」

 

「何が出るかは?」

 

「私にも分かりません」

 

なるほど。

 

俺は実行の表示へ意識を向けた。

 

今なら引ける。

 

残っているSPは100で、必要なのも100だ。

 

「SPって、金で買える?」

 

「買えません」

 

「次はいつ手に入る?」

 

「あなたの行動次第です」

 

「今の時点じゃ分からない、と」

 

「はい」

 

俺はもう一度、所持SPと必要SPを見比べた。

 

引けば全部なくなるうえに、何が出るかも分からない。

 

少し迷ったが、実行する理由もまだなかった。

 

そもそも俺は、このSYSTEMを何に使うのかすら決めていない。目的もないまま、最初に持っているものを全部使う必要はないだろう。

 

俺はガチャの画面を閉じた。

 

「今はいい」

 

「分かりました」

 

何か欲しいものができてから考えればいい。

 

今は先に、SYSTEMそのものを知る方が重要だった。

 

最後にミッションを開く。

 

【ミッション】

 

《現在の表示》なし

 

思っていたような「これをしろ」という指示は、どこにも並んでいない。

 

「ミッションって、何か命令されるのか?」

 

「いいえ」

 

ヴェラが首を振る。

 

「あなたが何かを成し遂げた際に、その成果をSYSTEMが評価するための機能です。内容によってはSPや別の報酬を得られます」

 

「達成したら報酬が出る、と」

 

「はい」

 

「やらなかったら?」

 

「特に何もありません」

 

「罰則も?」

 

「ありません」

 

思っていたより自由だ。

 

「世界を救え、とかは?」

 

「ありません」

 

「魔王を倒せ、とか」

 

「現在は確認されていませんね」

 

「現在は、か」

 

「私もSYSTEMの全機能を把握しているわけではありませんから」

 

どうやらヴェラにも知らないことはあるらしい。

 

「つまり」

 

俺はミッションの画面を閉じた。

 

「俺が何をするかは、俺が決めていい?」

 

「はい」

 

短い返事だった。

 

それで十分だった。

 

SYSTEMの表示を消す。

 

視界がいつもの部屋へ戻った。

 

テーブルの上には飲みかけのコーヒーがあり、向かいにはヴェラが座っている。数分前まで常識外れの画面を見ていたとは思えないほど、部屋の中は静かだった。

 

俺は椅子の背にもたれる。

 

SYSTEMを使えば、自分を成長させられる。

 

ガチャからは技術に関する情報や特殊な素材、装置、スキル、それ以外の機能まで得られる可能性がある。ただし、実際に何が出て、それをどう使えるのかまではまだ分からない。

 

そして、どう使うかは自由だ。

 

なら、何に使う?

 

最初に浮かんだのは金だった。

 

SYSTEMを利用して稼ぐ。

 

投資でも商売でもいい。金があれば、働かなくても暮らせる。いい家に住んで、好きなものを食って、旅行でもして。

 

それはそれで悪くない。

 

むしろ十分すぎる人生だ。

 

なのに、それだけを考えると妙にしっくりこなかった。

 

前の人生で仕事をしていた頃のことを思い出す。

 

俺の仕事は調達だった。

 

部品や設備を手配し、価格を詰め、納期を管理する。問題が起きれば取引先と社内の間を走り回った。

 

目立つ仕事じゃない。

 

でも、それをやっていると嫌でも分かる。

 

製品1つ作るだけでも、驚くほど多くの人間と会社が関わっている。

 

研究する人間がいて、設計する人間がいる。部品を作る会社があり、工場があり、品質を確認する人間がいる。それを運ぶ会社があり、売る人間がいて、金や契約を管理する人間もいる。

 

その全部がつながって、ようやく1つの製品になる。

 

そして世の中には、それを桁違いの規模でやっている企業がある。

 

巨大な研究所を持ち、いくつもの工場を動かし、世界中に拠点を置く。航空宇宙やエネルギー、重工業といった巨大な産業に関わり、何万人、何十万人という人間と、とてつもない量の技術と金を動かしている。

 

昔から、そういう会社を見るのが好きだった。

 

ただ金を持っているからじゃない。

 

個人では絶対にできないことを、巨大な組織を作ることで実現している。

 

そこに惹かれていた。

 

もちろん、前の俺がそんなものを作るなんて考えもしなかった。

 

会社を1つ立ち上げるだけでも簡単じゃない。ましてや世界規模の巨大企業なんて、現実的な選択肢に入るはずもなかった。

 

でも、今は違う。

 

俺はもう一度SYSTEMを呼び出した。

 

手元には100SPがあり、自分の能力はこれから伸ばしていける。何が出るのか分からないガチャもある。

 

そして、この世界の人類は、自分たちの科学技術で異世界への扉を開いた。

 

DBS。

 

神話でも、奇跡でもない。

 

人間が研究を積み重ね、機械を作り、ついには別世界へ到達した。

 

その先にあるのがEdenだ。

 

人類がようやく足を踏み入れたばかりの、新たなフロンティア。

 

惑星規模の未開世界には魔力があり、未知の資源があり、まだほとんど手つかずの土地と可能性が広がっている。

 

これから研究や開発だけでなく、物流、製造、エネルギーを含めたさまざまな産業が立ち上がっていく。

 

何かを成すなら、これほど可能性に満ちた時代もないのかもしれない。

 

そんな時代が、今まさに始まったばかりだった。

 

SYSTEMがあったところで、成功する保証はない。

 

会社を作れば金も人も必要になる。研究には設備が要るし、何かを作れば製造も販売も必要になる。

 

俺自身、経営はまだLv.1で、何一つ始めていない。

 

それでも、前の人生なら最初から無理だと切り捨てていたことに、今は挑戦するための手札がある。

 

「エリック」

 

考え込んでいた俺へ、ヴェラが声をかける。

 

「何に使うか、決まりましたか?」

 

俺はSYSTEMの表示を眺めた。

 

研究所も工場も欲しいし、新しい技術にも触れてみたい。航空宇宙やエネルギーにも関わりたいし、いつかはEdenでも事業をやってみたい。

 

1つを選ぶ必要なんてない。

 

全部できるような会社を作ればいい。

 

自分でも馬鹿みたいな話だと思う。

 

でも、不思議とさっきまでより気分は軽かった。

 

「……会社を作るか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。