メガコーポは一日にして成らず ~転生特典と未来技術で始める巨大企業創業記~   作:すすぺっと

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第8章 二人目と三人目

「それ、見せていただけます?」

 

 エレノアの声は相変わらず穏やかだった。

 

 ただ、さっきまでとは目が違う。

 

 雇用条件やら契約やらについて話していた時には、落ち着いた研究者という印象だった。それがSYSTEM由来の技術という言葉を出した途端、明らかに食いつきが変わった。声を荒らげるわけでも身を乗り出すわけでもないのに、見ているこっちには分かる。

 

 この人、研究したくて仕方ないんだな。

 

「見せられるなら、俺も見せたいんだけどな」

 

 俺はそう答えながら、意識をSYSTEMへ向けた。

 

 会社を設立してから、使える機能はいくつか増えている。人材を探せるようになったのもその1つだ。だが、今の画面を見ても、エレノアが期待しているような未知技術を取り出せそうなものは見当たらない。

 

 少なくとも、今の俺が使える範囲には。

 

「今はまだ、研究してもらう肝心のものがない」

 

「あら」

 

 エレノアは少しだけ残念そうな顔をした。

 

「てっきり、もう何かお持ちなのかと」

 

「会社を作ったばっかりだからな。研究者を雇ったら、その翌日から未知技術の研究が始まるほど都合よくはできてないらしい」

 

「それは少し残念ですね」

 

 本当に残念そうだ。

 

 横でヴェラが笑う。

 

「エレノア、まだ雇用契約にサインしてからそれほど経ってませんよ」

 

「分かっています。でも、未知の技術があると聞いてしまったので」

 

「研究者って、そういうものなのか?」

 

「少なくとも私はそうですね」

 

 にこやかに即答された。

 

 悪い人ではない。むしろ、ここまで話した限りではかなりまともだと思う。ただし研究が絡むと、この評価には注釈が必要かもしれない。

 

 とはいえ、エレノアが加わったことで見えてきたこともある。

 

 仮に明日、SYSTEMからとんでもない材料技術が手に入ったとする。

 

 エレノアなら、その材料が何なのか、どういう性質を持つのかを調べられるだろう。だが、そこから先はどうする?

 

 測るための装置がいる。動かすなら回路がいる。センサーも制御も必要になるかもしれない。最終的に商品へするなら、試作品を組み、壊し、直し、もう1度作る人間もいる。

 

 俺にはできない。

 

 調達屋だった俺が、突然回路図を引けるようになったわけじゃない。

 

 そして、足りないのは技術者だけでもない。

 

 研究を始めれば金が動く。設備を買えば契約が増える。人を増やせば給与も増える。知的財産や秘密保持だって、今よりずっと面倒になるはずだ。

 

 今はヴェラがかなりの範囲を処理してくれているが、この先も全部を1人に抱えさせるわけにはいかない。

 

「ヴェラ」

 

「はい」

 

「今のうちに、足りないところをまとめて埋めた方がいいな」

 

 ヴェラはすぐに意味を理解したらしい。

 

「技術側と管理側ですか?」

 

「ああ。エレノアの研究を実際に動くものへできる技術者。それと、会社が大きくなる前に金と契約と管理を見る人間」

 

「私もその2人は必要だと思います」

 

 エレノアが俺たちを交互に見る。

 

「一度に2人ですか?」

 

「どうせ必要になるなら、1人ずつ採ってから考える理由もないだろ」

 

「なるほど」

 

「SPは使うけどな」

 

 現在の所持SPは1,150。

 

 分野指定なら1人400SP。

 

 2人で800SPだ。

 

 残りは350になる。

 

 数字だけ見れば結構な消費だが、温存するために必要な人材を後回しにするのも違う。

 

「まず技術側からだ」

 

 俺はSYSTEMを開いた。

 

【人材ガチャ】

 

《方式》分野指定

《指定分野》電気・電子・制御・実装

《消費 SP》400

《所持 SP》1,150

 

 実行する。

 

 すぐに表示が切り替わった。

 

【人材ガチャ結果】

 

《状態》抽選完了

《レアリティ》SR

《氏名》ソフィー・グラント

《年齢》23歳

《専門》電気・電子・制御・組み込み・試作

《所持 SP》750

 

「23歳」

 

 最初にそこへ目が行った。

 

「若いですね」

 

 ヴェラも同じところを見ている。

 

 経歴を開く。

 

 電気工学とコンピューター科学。22歳頃には電気工学の修士課程を終え、学生時代からロボット、ドローン、センサー、モーター制御、組み込みシステムに手を出している。

 

 卒業後はEden向け産業機器を扱うスタートアップ勤務。

 

「若いけど、やってることはかなり実務寄りだな」

 

「私とは綺麗に分野が分かれていますね」

 

 エレノアも興味深そうに候補情報を見る。

 

「研究結果を装置に落とす側か」

 

「そう考えてよさそうです」

 

 ヴェラが答える。

 

 これなら技術側はいい。

 

「次だ」

 

 画面を戻す。

 

「続けて引くんですか?」

 

「そのつもりだっただろ」

 

「確認しただけです」

 

 今度は管理側。

 

【人材ガチャ】

 

《方式》分野指定

《指定分野》経営管理・会計・内部統制

《消費 SP》400

《所持 SP》750

 

 実行する。

 

【人材ガチャ結果】

 

《状態》抽選完了

《レアリティ》R

《氏名》マーティン・ヘイル

《年齢》39歳

《専門》財務・会計・契約・内部統制・経営管理

《所持 SP》350

 

「Rか」

 

 今度はそこに目が止まった。

 

 ソフィーはSR。

 

 エレノアもSRだった。

 

 その後にRと出れば、気にならないと言えば嘘になる。

 

「経歴を見ます?」

 

「ああ」

 

 ペンシルベニア州立大学で会計を学び、カーネギーメロン大学でMBAを取得。CPA資格あり。

 

 会計、財務、契約、コンプライアンス、内部統制を中心に約16年の実務経験。直近では企業の管理部門をまとめる立場にいた。

 

「……普通に欲しい人材だな」

 

「ですね」

 

 レアリティの表示と経歴を見比べる。

 

 少なくとも、Rだから能力が低いと考えるのは違いそうだ。

 

 エレノアやソフィーのような分かりやすい天才とは種類が違う。それでも、今のアクシオムに必要かどうかで言えば、答えは明確だった。

 

「2人とも連絡しよう」

 

「同時に進めますね」

 

「頼む」

 

 候補は揃った。

 

 23歳の技術者と、39歳の管理職。

 

 年齢も専門も性格も、おそらく何もかも違う。

 

 それでも、この2人が入れば、会社として足りていない部分はかなり埋まる。

 

 俺たち3人だったアクシオムが、ようやく次の形へ進み始めていた。

 

     ◇

 

 ヴェラは本当に2人とのやり取りを同時に進めた。

 

 俺のところに来るのは、面談日時の確認と、こちらで決めなければならない条件だけだ。その間にもエレノアとは研究職として必要になる権限や秘密保持の扱いを詰め、俺とは給与や役割について話をまとめていく。

 

 こういうところを見るたびに思う。

 

 ヴェラがいなければ、俺は会社を作る前に書類の山へ埋まっていたんじゃないだろうか。

 

 先に会ったのはソフィーだった。

 

 肩まで伸びたハニーブラウンの髪に、堅苦しさのない服装。23歳という年齢もあって、エレノアとはかなり印象が違う。

 

「初めまして。ソフィー・グラントです」

 

「エリック・ウォーカーだ。今日は来てくれてありがとう」

 

「いえ。私もかなり気になってたので」

 

 明るい。

 

 変に萎縮する様子もなく、ヴェラとエレノアにも順番に挨拶する。

 

「あ、ヴォス博士ですよね?」

 

 エレノアを見た瞬間、ソフィーの反応が少し変わった。

 

「私をご存じなんですか?」

 

「論文を何本か読みました。Aether系材料のやつも」

 

「あら」

 

「材料そのものより、測定系をどう組んだのかなって気になったんですけど」

 

 そこなのか。

 

 俺には論文の詳しい中身は分からないが、この1言だけでエレノアとの違いはかなり分かりやすい。

 

 エレノアは現象そのものを見る。

 

 ソフィーは、その現象をどうやって測るか、どう制御するかを見る。

 

「再現できるなら自動化したいですし、条件を変えるなら制御したいです。限界を見るなら壊れるところまでちゃんと測りたいですし」

 

「壊すの好きなのか?」

 

「必要なら壊しますよ?」

 

 笑顔で返された。

 

「もちろん安全な試験設備の中でですけど。そこ適当にしたら危ないじゃないですか」

 

 安全意識はまともらしい。

 

 発想の順番が少し怖いだけで。

 

「例えば未知の材料で生体反応も調べるなら――」

 

「ソフィーちゃん」

 

 エレノアが柔らかく遮った。

 

 初対面なのに、もうソフィーちゃんになっている。

 

「まず、人や動物を使わずに調べられる方法から考えましょうね」

 

「あ、はい。そっちで取れるならその方が楽ですし」

 

 あっさり引いた。

 

 悪気はなさそうだ。

 

 できるかどうかを先に考えて、やるべきかどうかが少し後から来る。

 

 そんな感じだろうか。

 

 それから仕事内容や条件について話したが、ソフィーが特に気にしたのは肩書きより研究環境だった。

 

「試験治具とか、自分で設計していいですか?」

 

「必要なら」

 

「部品の選定は?」

 

「提案は自由。ただし値段と理由は見る」

 

「測定器も?」

 

「同じだ」

 

「エレノアもな」

 

「あら。私にもですか?」

 

「研究者が2人になったら、余計に言っておかないと怖い」

 

「私、まだ何も買ってませんよ」

 

「だから今言ってる」

 

 ソフィーが笑った。

 

「いいですね、ここ」

 

「何が?」

 

「話が早いです」

 

 その答えを聞いて、俺の方もほぼ決まった。

 

 問題は次だった。

 

 マーティン・ヘイル。

 

 こちらは、席についた時点から空気が違った。

 

 ダークスーツに眼鏡。姿勢も崩さず、挨拶を終えるとすぐに会社の現状へ話を移した。

 

「事前にいただいた資料は拝見しました」

 

「どうだった?」

 

「法人設立と初期契約については、設立間もない企業としてよく整理されています」

 

 俺は隣のヴェラを見る。

 

 本人は当然という顔をしていた。

 

「そこはほとんどヴェラがやった」

 

「なるほど。納得しました」

 

「ありがとうございます」

 

 ヴェラが涼しい顔で返す。

 

「ただし」

 

 マーティンが続けた。

 

 来ると思った。

 

「現在の規模であれば、です」

 

「やっぱり続きがあるのか」

 

「あります」

 

 即答だった。

 

「現在はCEOとごく少数のメンバーが、その都度相談して決めても問題はないでしょう。しかし、研究設備を購入し、人員を増やし、外部企業との契約が増えれば同じ方法では維持できません」

 

 誰がどこまで支出を承認するのか。

 

 契約を誰が確認するのか。

 

 知的財産をどう管理するのか。

 

 研究上の機密に誰が触れられるのか。

 

 予算と実績をどう比較し、異常な支出をどこで止めるのか。

 

 説明を聞けば、どれも当たり前に必要だった。

 

 俺が今まで意識していなかっただけだ。

 

「今のやり方が間違ってる?」

 

「いいえ」

 

 マーティンは首を横に振る。

 

「今の規模に対して過剰な制度を作れば、逆に動きが遅くなります。問題は、規模が変わっても同じやり方を続けることです」

 

「なるほど」

 

 止めるための管理じゃない。

 

 大きくなっても動けるようにするための管理か。

 

「じゃあ、それを作れる?」

 

「それが私の仕事です」

 

「なら欲しい」

 

「CEO」

 

 ヴェラが横から俺を呼んだ。

 

「まだマーティンさんは入社すると言ってません」

 

「あ」

 

 マーティンが眼鏡の奥でわずかに目を細めた。

 

「ずいぶん前のめりですね」

 

「よく言われる」

 

「主に私が言ってます」

 

「なるほど」

 

 もう理解された気がする。

 

 面談の後半は、今度はマーティンから俺たちへの質問になった。

 

 何を目指す会社なのか。

 

 どこまで成長させるつもりなのか。

 

 管理部門を、後始末をするだけの部署として扱うつもりはないか。

 

 最後の質問には、少し考えてから答えた。

 

「俺がやりたいことを何でも止めてほしいわけじゃない。でも、やった後で金がなくなった、契約で揉めた、法律に引っかかったじゃ困る。そのために専門家を入れる」

 

「管理上の問題があれば?」

 

「理由を説明してくれ。納得できれば止めるし、別のやり方を探す」

 

 マーティンはしばらく俺を見たあと、小さくうなずいた。

 

「分かりました」

 

 その顔を見て、少なくとも完全に呆れられたわけではなさそうだと思った。

 

     ◇

 

 ソフィーとマーティンの条件調整も並行して進んだ。

 

 どちらもガチャで出たからという理由だけで決まったわけではない。こちらが相手を見るのと同じように、向こうもアクシオムを見る。

 

 そのうえで、2人とも俺たちと働くことを選んだ。

 

 先にソフィーとの雇用契約が成立し、その少し後にマーティンの契約もまとまった。

 

 マーティンの署名が終わったところで、俺の視界にSYSTEMの通知が現れた。

 

【SYSTEM 通知】

 

《ミッション達成》創業チーム

《達成条件》創業中核メンバー5名の確立

《報酬》350 SP

《所持 SP》700

 

「来た」

 

「何かありました?」

 

 ソフィーが俺を見る。

 

「ミッション達成。350SP入った」

 

「私たちが揃ったからですか?」

 

「そうみたいだ」

 

 SYSTEMのことを理解している4人へ画面の内容を伝える。

 

「創業チーム、ですか」

 

 エレノアが少し楽しそうに笑う。

 

 俺も5人を見回した。

 

 ヴェラ。

 

 エレノア。

 

 ソフィー。

 

 マーティン。

 

 そして俺。

 

 最初は俺とヴェラしかいなかった。

 

 会社を作っても、製品も売上もなくて、あるのはSYSTEMと大きすぎる目標だけだった。

 

 それが今は5人いる。

 

「せっかくだ。今のうちに役割を整理しておこう」

 

 最初の5人での打ち合わせは、そのまま始まった。

 

 議題は単純だった。

 

 研究開発を始めるために、何が必要か。

 

「まず分析設備ですね」

 

 エレノアがすぐに口を開いた。

 

「対象によりますが、組成、構造、熱特性、電気特性。最低限その辺りを見られる環境は欲しいです」

 

「それなら制御とデータ収集系もですね」

 

 ソフィーが続く。

 

「計測器を個別に並べるより、最初から統合できるところは統合したいです。試作設備も必要ですし、3Dプリンタと基板加工、それから――」

 

「待ってください」

 

 マーティンが止めた。

 

「現在、予算はいくらを想定していますか?」

 

 エレノアとソフィーが同時に黙った。

 

「……決めてません」

 

 エレノアが答える。

 

「ですよね」

 

 マーティンが眼鏡を押し上げた。

 

「欲しい設備を先に全部挙げるのは構いません。その後、必須、代替可能、後回しに分類しましょう」

 

「合理的ですね」

 

 エレノアは素直にうなずいた。

 

「レンタルや中古で済むものもありそうです」

 

 ソフィーもすぐ話を切り替える。

 

「それならヴェラと俺で調達条件を見る。契約と予算はマーティンだな」

 

「承知しました」

 

「研究側の優先順位はエレノアとソフィーで」

 

「はい」

 

「了解です」

 

 話が早い。

 

 俺が全部を理解して指示しているわけじゃない。

 

 それでも、それぞれが自分の得意なところを埋めれば、会社として前へ進める。

 

 これがチームというものなのかもしれない。

 

「CEO」

 

 ヴェラが急に呼んだ。

 

「何だ?」

 

「今さらですが、女性3人に囲まれてるからって浮かれないでくださいね」

 

「何で今その話になる」

 

「創業メンバーの男女比を見て思っただけです」

 

 軽い調子で笑うヴェラに、ソフィーが首を傾げた。

 

「採用基準に何かあるんですか?」

 

「ない」

 

「例えば胸のサイズとか」

 

「ない」

 

 即答した。

 

 ヴェラが吹き出す。

 

「ソフィー、それ本人に聞きます?」

 

「違うんですか?」

 

「違う」

 

「じゃあ公平性のために次回から申告欄を――」

 

「作らなくていい」

 

 俺が止める横で、マーティンが無言で眼鏡を外した。

 

 そして眉間を押さえる。

 

「マーティン?」

 

「いえ」

 

 低い声だった。

 

「私は今、入社初日の自分の判断について再評価しているところです」

 

「早くないか?」

 

「早い方が損失は小さくなりますので」

 

「管理職らしいですね」

 

 エレノアが穏やかに感心している。

 

「感心するところそこか?」

 

 ヴェラとソフィーが笑った。

 

 マーティンは眼鏡を掛け直し、大きく息を吐く。

 

「よろしいですか。会議へ戻ります」

 

「はい、マーティンさん」

 

 ソフィーだけ妙にいい返事をした。

 

 その後は本当に普通に会議へ戻った。

 

 冗談は冗談。

 

 仕事は仕事。

 

 エレノアが研究上の要求を整理し、ソフィーが設備と実装の条件へ落とす。マーティンが費用と契約の観点から確認し、ヴェラが全体をまとめる。

 

 俺は、その中から何を今やるかを決める。

 

 役割が見えてきた。

 

 同時に、次にやるべきこともはっきりしてきた。

 

「じゃあ、最低限必要な設備を絞って――」

 

 そこで言葉を切った。

 

 設備。

 

 分析装置。

 

 試作機械。

 

 測定器。

 

 必要なものを具体的に並べていけばいくほど、その前に片づけなければならない問題が大きく見えてくる。

 

「……なあ」

 

「はい?」

 

 ヴェラが俺を見る。

 

「やっぱり、先に研究所だな」

 

「そうですね」

 

 ヴェラは当然のようにうなずいた。

 

「オフィスも自前ではありませんし」

 

「工場もありませんね」

 

 マーティンも続ける。

 

「今挙げた設備、置く場所がないですもんね」

 

 ソフィーが言った。

 

「ああ。研究所がないこと自体は分かってたけど、必要な設備をここまで具体的に並べると、先に場所を確保しないと話にならないな」

 

「CEO」

 

 マーティンが口を開く。

 

「何だ?」

 

「研究所がない状態で設備の選定から始めた進行順については、後ほど改善を提案します」

 

「今言ってるじゃないか」

 

「はい。今言っています」

 

 ヴェラとソフィーが笑った。

 

 俺も苦笑しながら、SYSTEMへ意識を向ける。

 

 所持SPは700。

 

 会社を設立した時に解放された機能の中には、人材ガチャだけではなく施設ガチャもある。

 

「……あるじゃないか」

 

「何がです?」

 

「場所を用意する方法」

 

 ヴェラが俺の視線の意味に気づいた。

 

「ああ」

 

「施設ガチャ」

 

 俺が言うと、マーティンの表情が止まった。

 

「CEO」

 

「何だ?」

 

「念のため確認しますが、これから弊社の研究拠点をガチャで決めるおつもりですか?」

 

「そう言われると急に酷い会社に聞こえるな」

 

「実際にそういう話をしています」

 

「でも、施設ガチャがあるんですよね?」

 

 ソフィーが楽しそうに食いつく。

 

「ある。通常なら500SPだ」

 

「今700ありますね」

 

「あるな」

 

「引けますね」

 

「引けるな」

 

「ソフィーさん、煽らないでください」

 

 マーティンがすぐ止めた。

 

「私は研究所が出ると嬉しいです」

 

 エレノアまで穏やかに参加してくる。

 

「博士まで乗らないでください」

 

「でもマーティンさん。現実に研究施設を1から用意するより、SYSTEMを利用できるなら確認する価値はありますよ」

 

 ヴェラが真面目な顔で言った。

 

 マーティンが黙る。

 

「……合理性があるのが一番困るんですが」

 

「じゃあ決まりだな」

 

 俺はSYSTEMを見ながら笑った。

 

「次の研究所は、ガチャに賭けよう」

 

「CEO」

 

「今度は何だ?」

 

「せめて『施設を確保する』と言ってください。会社の将来を賭博のように表現しないでいただきたい」

 

「やることは同じだろ?」

 

「言い方の問題です」

 

 そう言いながら、マーティンはまた眉間を押さえていた。

 

 ヴェラは笑い、ソフィーは何が出るのか楽しみにしていて、エレノアまで研究所を期待している。

 

 人は揃った。

 

 次は場所だ。

 

 こうしてアクシオム・ダイナミクス最初の研究拠点は、ガチャに託されることになった。

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