銀狼を開拓したい転生者の話 作:ザンディク・ワン・クワバラ
崩壊スターレイルと言うソシャゲがある。そのゲームの舞台は無限に広がる宇宙と、そこにある数多の星々である。
主人公となる開拓者はヘルタステーションから始まり、ベロブルグや羅浮、ピノコニーからオンパロス、そして二相楽園と千星シティと様々な世界を渡る事になる。
本来であれば、閉ざされた宇宙の中にある文明圏には、その星独自の生態系や文化が築かれており、当然言語体系ですら違ってくるのだが、開拓が星々を繋ぎ知恵が意思疎通を可能とするお陰で、技術レベルは局所的に大きく発展してると言えるだろう。
もし仮に、前世に崩壊スターレイルをプレイしていた転生者が居たとしたら、果たしてどの様な行動を取るのだろうか?
星穹列車に乗り主人公達と共に開拓の旅に出る?
苦境に喘ぐベロブルグ等の星や、重い過去を持つネームドキャラ達を救うべく行動する?
或いは、滅亡が確定しているオンパロスの、その叙事詩の一員となるかもしれない。
技術レベルが極めて高いこの世界において、更には星神と言う上位存在が支配するこの宇宙において、どの分野で戦おうとしても大変なのは言うまでもないだろう。
そんな世界で、俺という転生者が選んだ道とは……?
『ざっこ、基礎コンすらマトモに出来ないじゃん。辞めたら? このゲーム』
「はぁ? このクソガキが。舐めてると潰すぞ」
『ほら、潰してみせてよ。相手してあげるから』
オンラインゲームに勤しんでいた。
どういう訳か、ネットに繋いでパソコンで起動する様な普通のゲームもこの世界にはあった。なので俺は、基本的に引き篭ってゲームをしている。
普通に考えて嫌だよね、宇宙規模の破壊とかする様な怪物相手にするの。宇宙の蝗害は虫だから見た目がキモいし、壊滅に汚染されて化け物になるのも遠慮したい。ついでに言えば普通の仕事するのも面倒だ。
と言う事で、今現在はネッ友がオススメしてくれた格ゲーをやっているのだが、コンボが出来るのは当たり前とか要求高くない? 読み合いとか差し合いとか言われても分からないんだけど。
対戦相手のハンドルネームは『lv999最強プレイヤー卍卍卍』さんである。文字数制限を何故か超過しているせいで凄い細い文字で表示されている。
『はい、ここで投げ』
「はぁ? ざっけんな、なんで投げ技で体力半分削られんだよ! おかしいだろクソが!」
『そして起き攻めでフィニッシュ』
「はー、クソゲー! クソゲーだね! 欠陥ゲームさいこー!」
こいつチーターだわ、間違いない。有り得ないよ何も出来ずに負けるとか。
『もうちょっと練習してこようね』
「おまっ、お前がさっき送り付けて来たんだろが! 一緒にやろうってさぁ! 練習する時間あったか? ねぇだろボケ!」
操作方法しか分からねぇのに基礎コンが出来る訳ねぇだろ!
よし、落ち着こう。俺は出来る転生者だ。前世ではそれなりにゲームが出来ると思ってたらネットとかで世界を知った途端底辺に居た事に気付けたタイプの転生者だ。
まぁそれはそれとして対戦ゲームってダメだわ。ざけんなや、全く勝てへん、ドブカスが。PvPなんて勝ったら気持ちいいけど負けたら暴言煽りが飛んでくるクソみたいな欠陥ゲームだろ。もっと楽しくゲームしようぜ。まぁPvEの場合味方内で暴言が飛び交うから大差無いかもしれないが。
「……やっぱ人類ってクソでは?」
『急に達観するじゃん』
「おかしいよな、俺はただ自分が気持ち良くなる為だけにゲームしてるのに、やればやる程ストレス溜めてくんだぜ?」
『じゃあ勝てば良いだけじゃない?』
「勝てないから言ってんだよなぁ」
基本的に上昇志向とか無い人間だけども、それでもハマったゲームとかは1000時間近くやり込んだりしたワケで。それでも五割から六割は負けるんだから嫌になる。ちなみにこれは前世の話。今世はどうなのかって? もう殺すしか無くなっちゃったよ……。
きっと俺みたいなプレイヤースキルも無くて心も弱い人間がチートに手を出すのだろう。問題はそこまでして勝って嬉しいか? と言う問い掛けに何も答えられない事だが。
『しょうがない。今度また見てあげるよ』
「まじ? 純粋にアドバイス貰えるのは嬉しいわ」
『私みたいな天才ゲーマーの時間取れるんだから有難く思ってよね』
「もう既に頭が上がらないし足を向けて寝られないって話する?」
『あれ? 感謝の言葉が聞こえないな』
「いつもありがとうございます」
感謝は大事。古事記にもそう書かれてるし乞食の必須技能だ。
『はい、これが十割コンボ』
「クッ……」
『クソゲーのクまで出てたね』
許されて良いワケねぇだろ十割コンボなんてよぉ!
『ちゃんとゲージ使おうね』
「エリクサー症候群って知ってる?」
『使わなきゃ負けるのに使うの躊躇うのは馬鹿じゃん』
「くそ、反論の余地がねぇ。やめろよ正論で殴るの、言い返せないだろうが」
『うーん、このゲームは合わなかった? 流石に弱過ぎる』
「ナチュラル煽りやめてね」
さっきも言った様に練習時間無いんだから何の準備も出来てるワケねぇじゃんか。俺が初見で大体のゲーム出来るタイプの天才だと勘違いしてらっしゃる?
『いや、普通に。かなり手抜きしててこれだから、素直に才能無いとしか言えないかなって』
「人の事雑魚雑魚言うけどよぉ、別に俺が弱ぇワケじゃ無くて、てめぇが強ぇだけだろうがよォ!」
良くないよ、自分がゲーム上手いからって下手な人の事雑魚とか下手とか言うの。ミジンコだって生きてるし操作方法も知らずチュートリアルも読まない様な奴だって原神やってんだから。
『とりま違うゲームやる?』
「音量上げろ! 生前葬だ!」
『音ゲーね。まぁ音ゲーなら流石にさっきみたいな惨めな事にはならないか』
「言葉を慎め! 泣いちゃい葬だ!」
『定期的に使うそのネタ、何処で拾ってきたの?』
「私は喉から」
前世のネットミームからです、とは流石に言えない。
『まぁ良いけど……でも、良いの? 音ゲーも私の得意分野だよ?』
良いも悪いも無くないか? 上手いなら凄いで済むだけの話だし……その言い方じゃまるで競い合うみたいじゃないか。
流れに取り残されたまま勝手にセットアップされていく画面には、どうみても体力ゲージのようなモノが表示されている。もしかしてテトリスとかぷよぷよみたいに妨害があるタイプ?
「えっ……音ゲーで戦うの?」
馬鹿な、そんなの僕のデータに無いぞ!?
そうして『lv999最強プレイヤー卍卍卍』さんに為す術なくギタギタにされた。おかしいなぁ……ちょっとゲームで良いとこ見せて好感度稼いで、そしていずれは開拓(意味深)したいだけなのに。ままならないね……。
『おっと、ごめん。そろそろ仕事の時間だ』
「あら残念──と言うとでも思ったか馬鹿が! こちとら年中引き籠もりの社会不適合者、時間だけは有り余ってるぜ。次にゲームやる時は吠え面かかせてやるからな」
『ぷっ、その腕で?』
「はぁ〜〜〜? あんま舐めんなよクソガキが。あのアッハですら苦笑いするレベルなんだからな俺の実力は」
『ダメじゃん』
「はいキレた。俺は今日からゲームの星神になる。ゲームには必勝法があってな、GMになって理不尽なクリア不可ゲームをプレイヤーに押し付ければ100%勝てんだよ」
そもそもそんなゲームをやる奴は居ないって話だが。誰もが強制的に盤面に乗せられたら参加せざるを得ないって寸法、俺の一人勝ちで呵呵大笑だ。
『あなたがなるとしたら、せいぜいがヒモの星神じゃない?』
「夏油くん、それはアリだ。口説き落とすならミュトゥスあたりかな〜」
『チョイスが渋い。まぁ相性は良さそうだけど……と、ほんとに不味くなってきた。今度直接会いに行くよ、バイバイ』
ポロン、と通話から抜ける音がした。トークグループに誰も居なくなったのを確認してから自分も退出する。ヘッドホンを外して椅子の背もたれに身体を預け、それから思いっきり伸びをする。
「『また勝てなかった』ってね」
前世では、決して勝てないワケでは無かった。無論やりまくり勝ちまくりの最高な人生を送っていたワケでは無いが、ノリに乗ってる時は勝率七・八割くらいはいけていたモノだ。
しかし今世では、勝率脅威の零割。それをネタにして自らのアカウント名を『常敗無勝将軍』にしているくらいだ。恐らくアッハに笑われているか、はたまた勝利の可能性が虚無に呑まれている。
「はっ、銀狼を開拓出来るのは何時になるんだろうな」
せめて彼女に釣り合うくらいのゲームの腕前は欲しいよなぁ、ネッ友という関係を続けていく為にも。
銀狼の開拓者に、俺はなる! と、そう意気込んで俺は寝た。