銀狼を開拓したい転生者の話 作:ザンディク・ワン・クワバラ
「純美の女神イドリラ様の美貌は世界に並ぶものなし!」
「えぇ……」
何故アルジェンティがここに!? 逃げたのか? 自力で脱出を?
「僕は貴方に素晴らしい「美」を見ました。その為ならば、僕はこのランスを手に取り彼等と戦う事を厭いません!」
「そうか? そうかな……? そうかなぁ……?」
俺は彼に好かれるような純美の体現者では無いだろう。どちらかと言えばクズでゴミのゲロ人間だ。尊い想いを持って行動している訳では無く、穢らわしい下心に塗れた欲望を心に銀狼と接している。
「いいえ、僕には分かります。貴方は最終的には自分を捧げてでも誰かの為になる……その手段を持っているのでしょう?」
「キッショ、なんで分かんだよ」
キッショ、なんで分かんだよ。
アルジェンティというキャラは、バージョン1.Xの時に突然実装されたキャラである。行方不明となっている純美のイドリラを信奉する純美の騎士団に所属しており、プライスレス号という宇宙船に乗って宇宙を漫遊している。行く先々で純美を褒め称え、イドリラが如何に素晴らしいのかを力説する布教ガチ勢。見た目は完全に少女漫画に出てくる様な王子様である。髪の毛に芋けんぴ付いてたぜ★
何かに困った時、命の危険に遭遇した時、繁殖のタイズルスが宇宙の蝗害の時にばら蒔いた虫共と遭遇した時、彼は唐突に現れ困っている者を救い、そして純美の布教をする。そんな唐突に現れ、また彼単独で何かとコラボをしたりする事から、彼が突然現れる事を「サプライズアルジェンティ理論」と呼ぶ。
今回俺は、羅浮での保険として待機していたけれど銀狼に「保険は要らないや」と言われた事でお役御免となり、帰宅がてら銀狼が別名義で受けた仕事として宇宙の難破船をとある星まで運ぶという仕事の最中だった。
難破船に辿り着き、後はこれを星まで運ぶだけ──という所で運悪く黒塗りのヴォイドレンジャー船体に衝突、全ての責任を負った星嘯に対しプライスレス号の主アルジェンティが言い渡した示談の条件とは……では無く、これから戦闘という時に何処からともなくアルジェンティが現れた、という流れだ。ちなみにただのヴォイドレンジャー達で星嘯は当然居ない。
うーん、流石はアルジェンティ。そして流石は純美の騎士団。そう言えばカフカもかつては純美に所属してたんだっけ? あれ本当か嘘か分からない情報だったよな……純美カフカ実装ワンチャンあるか? でもゲームシステム的な所属運命何になるんだよ。
ちなみに戦闘に関しては普通に圧勝、俺はほとんど棒立ちしてるだけでアルジェンティが全部吹き飛ばしてくれた。
そしたらアルジェンティのアニキが一人でその場所に行ってなァ……ロケットランチャーをぶっぱなしてその船体を木端微塵にしてもうたんじゃ──ってワケ。
「いやぁ流石は純美の信奉者、イドリラ様の美しさに翳り無し!」
「お世辞は結構ですよ」
「まぁ、イドリラ様を見た事無いからな……知らん奴の美しさなんて知る由もねぇ」
「お行儀の悪い口ですね」
イドリラの信奉者であるアルジェンティも、口々に褒め称えるイドリラを見た事は無い。それ自分の脳内で勝手に美化してないか?
「誠実な対応をご所望で? 俺はどっちでも良いけど」
前世において、社会不適合者のゴミ人間であったとしても一般人への擬態はしていたのだ。やる気になれば無味無臭の一般人にだってなれるとも。まぁ恋愛だけは出来なかったんだけどねー! たはー!
女のご機嫌取りして、頻繁にくるメッセージに返信とか普通にダルいんよ。本当に好きな相手なら苦労は無いんだろうな……実際今世において銀狼からのメッセージは確認したら返してるし。まぁ前世の学生みたいに秒でメッセージのやり取りする様な事は無いが。
「素のままで構いませんよ」
「お、やっさしー。クソ楽チンなんだよね何も考えずに喋んの」
しかし、仮にも自滅者である俺を前にしてアルジェンティに何の変化も見られない。この前の青雀とかも地味に驚いたが、一般人と話してると話してる途中で「え、何こいつ……誰?」って急に反応変わるからね! 後普通に顔見ただけで「うわ……」みたいな反応される事もたまにある。まぁこれは自滅者に対する普通の反応みたいなのだが。虚無への拒否反応凄くない? 普通に傷付いた時とか暫く相手の認識から消えるからね。こう「自滅者キモいんだよ、消えろ!」「ほいよ(スゥゥゥ)」みたいな。
たまたま一緒に麻雀してただけの青雀と違って、俺をしっかりと認識し会話を交わしているアルジェンティに何の変化も見られないのは、それだけ純美への信仰心が強いからなのか。お前もう純美の使令だろ。
「しかし、このような場所で何をしてらっしゃったのですか? 旅行途中での事故、でしょうか」
「いんや、誰かが乗り捨てたらしいこの難破船を運ぶ仕事だね。ゴミを放置したくないのか、普通に重要な荷物とかが残ってるのかは知らないけど」
「なるほど、貴方もまた誰かの助けとなるべく行動をしているのですね! 素晴らしい事です。では、不肖このアルジェンティ……プライスレス号にて牽引し、貴方の仕事を手伝うと致しましょう」
「はー、善人かよ。君に幸あれ。ありがとう助かるわ」
俺が一人でやれば秒で終わる仕事だが、善意の申し出を無下にするのも良くないだろう。それに突然不審者が難破船を持って現れるより、不審者二人が正規の手続きで入港する方が心象も良いだろう。まぁその入港者は悪質では無いカルトではあるけれど。
面白おかしく語られるアルジェンティではあるけれど、それら全ては実績を元に語られるモノだ。彼ならばやってもおかしくない、そう皆に思われている。オンパロスの未来はどうなるんだ……? と皆に思われていたバージョン3.6の頃に、突然現れたアルジェンティが全員をプライスレス号に乗せて群星に飛び立つ、なんて考察もあったくらいだ。
実際、彼はピノコニーの良く分からない夢境に唐突に現れアベンチュリンを救っている。まぁあれは困った者を助けるというアルジェンティと、有り得ないくらいの運の良さを持つアベンチュリンの特性の合わせ技ではあるのだろうが。もっと深い理由とかあったっけ?
「実際、美しいものは穿った見方をしようとも美しい事に変わりは無いんだよな」
宝石を見て、その価値を知らなくとも大半の人間は綺麗だと思う様に。それを汚い穢らわしいと思うのは、宝石そのものを見ずに付随してくる欲望等を見ているからだろう。それか、そもそもの認知が他と違っているかだ。
実際、やばいくらいキモい化け物を可愛い女の子と認識して恋愛するゲームはあるからな。そう言う認識をする人間だって、まぁ居る可能性はあるだろう。
「宝石の国アゲート、一回見てはみたいんだよな」
「イドリラ様が昇華なされた星ですね」
「まぁ俺は宝石よりも、宝石見て喜ぶ女の子の顔を見たいんだが」
「それが貴方にとっての美の認識ですか」
「単純に宝石に価値を見出してないからだけどな。俺は空とか海とか廃駅とか、誰も居ない夜の時間とか、そう言ったモノをええわーって思える人間だし」
美しいだとか、愛だとか、好きだとか、単純な言葉ほど自分では良く分からないモノだ。宝石み見て綺麗だなとは思うが、それを美しいと思う事は無い。綺麗と美しいは同じなのか? あかん、考えるの面倒になってきた。
「考えれば考える程に純美って何やねんってなるわ」
「純美を難しく考える必要はありません。意識と見解、価値の統合こそが純美の意義であり、頭ごなしに否定せずに自らの中で理解し答えを出そうとする姿勢こそが純美なのです」
「つまり、アルジェンティさんの言い分をしっかり聞こうとする者は、アルジェンティさんにとって褒め称えるべき存在であると言う事か」
あくまで彼の言う純美が、彼の中での価値観であった場合だが。
「この宇宙には、低俗で価値しか見ない醜悪な者が数多くいます。ですからこそ、尚も輝くモノこそが「美」なのです。そして僕はその種子を守る為に活動を続けるのです」
「おっと、その醜悪はもろで俺に当て嵌るぞ」
「僕からすれば、人間ならば誰しもが持ちうる醜悪さですけどね」
アルジェンティという男は、一言で表せば狂人だろうか。良く分からない価値観の中、キザな言い方と丁寧ながらも少し難しい言い回しをする、見た事もない神を信奉する狂信者。実際彼の一人旅の中で、そういった目で見られた経験や直接的に言葉で傷付けられた事も多くある。
だからこそ、人と人が理解し合う為の手段を正しく行う存在を、彼は評価する。相手の価値観を否定せずに、まずは理解しようとする姿勢こそを好む。
彼が見るのは「美」であり、求めるのは純美の信奉者としての「試練」である。
「本来であれば、僕は言葉で伝える事を得意としていません。その為、相手とランスを交わす事で分かり合う事が多いです」
「でも、俺と戦おうとはしないんだな」
「宇宙を長い間旅して来ましたが、貴方の様な奇跡的なバランスで成り立っている存在は見た事がありません。僕の自分本位な理由のみで戦いを求めるのは、些か信念に反します」
すげぇ、純美を極めるとそんな事まで分かるんだ!
「なんで分かんだよ……」
「先程のヴォイドレンジャーとの戦闘時、貴方は僕が優勢と見るや戦う事をやめました。であれば、あまり戦闘行為をしない方が良い理由があると……そう考えました」
やっぱコイツおかしいよ。
まぁでも、俺とアルジェンティは似た者同士かもしれない。純美の布教活動に勤しむ信徒にして口から出る言葉は純美やイドリラや美に関する事が多い彼。そして基本的に人の記憶から消えるし何なら認識されない事すらあるから思った事をそのまま口に出してしまうし、何ならこの宇宙では誰も(可能性があるアッハを含めた愉悦上位勢以外)知らないネットミームを多様する俺。第三者視点で見れば両方ともキチガイだ。流石に失礼か? 純美の騎士団の知名度次第なところはあるかも。
大多数の人が誰やねんイドリラってくらいの認識だと、まぁアルジェンティもイカれた奴判定はされるだろうか。
「おや、どうやら着いた様です」
プライスレス号での漫遊は終わりを迎え「友よ、またの機会に!」と最後まで純美たっぷりなアルジェンティと別れたのだった。
早く銀狼開拓しに行けよ、と皆様お思いかもしれませんが……ワイトもそう思います。